渡辺建築工房さんの日記に、沢再復活の報告がある。
先日、町内会でこの下水問題について話し合いがあったのだが、誰一人として積極的に沢を復活させたいという人はいなかった。
農家側からクレームがきたから対応せざるをえないというならともかく、なぜこっちからわざわざ問題を提起しなければいけないのか……という論調が大多数。
せっかく農家のとりまとめ役的な人からは「水の融通ができるように話してみる」という反応があった後だけに、非常に残念。
しかし、その後、どうも農家の人が沢の流入口に土嚢を置いて、沢側にある程度の水が流れ込むようにしてくれたらしい。沢がじょじょに復活していると渡辺さんからも報告があった。
確認しに行ったところ、最後まできれいに流れていた。とりあえず再復活だ。
とりあえず、この状態が保てるように、今後も住宅地側の住民、農家の人たちとのデリケートな関係をうまくやりくりしていかねばならない。
農家の人たちのほうが理解力があるので、あまり表だって騒がないようにしつつ、阿吽の呼吸で沢の状態を保てるといいなと思っている。
宮台真司氏の発言を思い出す。
〈引き受けて考える社会〉〈合理を尊重する社会〉は〈任せて文句埀れる社会〉〈空気に縛られる社会〉より面倒です。人任せ&空気任せは「便利で快適」。そんな「便利で快適」な日本が幸福度調査で75位以上に来ず、英国の4倍の自殺率。不透明な巨大システムに過剰依存する結果、自分が何をしているのか、自分が何者なのかも分からない。「便利と快適」より「幸福と尊厳」が大切です。それには自分たちで自分たちを操縦する自治が不可欠です。全てに共通します。(自治創造学会シンポジウム 2012年5月11日での宮台真司氏の発言より)
……本当にそうなのだよなあ。
去年からの一連のことにしても、すべてこういう問題に帰結する。
今、福島の30km圏は、概ねこの〈任せて文句埀れる社会〉〈空気に縛られる社会〉になってしまっている。
例の、「避難中の人は精神的損害賠償として一人あたり10万円/月を支払う。ただし、家に戻った時点で打ち切る」という東電のベース賠償。これでは家に戻る人などいない。戻って頑張っている人、避難さえできない独居老人たちには支払わないというのはおかしい、と、僕もことあるごとに言ってきたが、ようやく見直しが決まり、家に戻った人、逃げなかった人にも一律で10万円/月が支払われるようになったらしい。
これはそれまでの補償の仕方よりはずっとまともだが、一方では、30km圏外の人たちとの「支援格差」「賠償不公平」問題は依然として残っている。
今、除染事業のリーダーとして動いている田中俊一氏は、原子力規制委員会(仮称?)のトップに推挙されているという。彼は自主避難者に賠償する必要は一切ないという主張だという。
それを始めるととりとめなく金が出ていくから、ということだろうが、要するに賠償というのは原子力ムラにとっては出費であって、儲からないという理由も大きいだろう。除染事業は儲かるが、賠償は金が出ていくだけだから儲からない。
実際には旧「緊急時避難準備区域」の一部よりはるかに汚染された福島市や郡山市など都市部の人たち、ヨウ素による初期被曝を相当被ったであろういわき市の人たちへの賠償はほとんどされていない。
この格差、不公平、不公正、情報コントロールについて報道するメディアは極めて少ない。
帰り道、不在地主の林に除草剤が撒かれて草が一面枯れている場所を通る。
除草剤も嫌だね。「除草剤は農薬じゃない」「無害だ」などと言っている人が多い。ホームセンターで「従来の除草剤より強力な商品です」などという宣伝文句で普通に売られている。
まあ、頭痛の種はいろいろありますわな。
もう一度見ちゃおうかな。再復活した沢でツッチーが泳ぐ姿を。
ツチガエルは栃木県では絶滅危惧II類(Bランク)に指定されている。
両生類で絶滅危惧I類(Aランク)はないので、最も絶滅が危ぶまれている種ということになる。
しかも、栃木県レッドデータブックでは、繁殖地として日光市は入っていない。日光市ではほとんど見つかっていないという意味だ。
ちなみに上記のリストのうち、トウキョウサンショウウオ以外はすべてこの場所で確認済みだ。
シュレは卵塊をこの田んぼで見ていたが、成体もうちの敷地内で昨日見たしね。
僕自身、今のところこの場所以外ではツチガエルやアカハライモリを見ていない。
ツチガエルはオタマのまま越冬するため、冬場に水がなくなってしまう場所では繁殖できない。おそらく、この場所は、田んぼとの間のわずかな湿地部分でオタマが生き延びていたのだろう。
人間にとっては、水が漏れている、水が溜まっている、嫌だな……と思うかもしれないが、カエルにとってはそれが文字通り生命線になる。
圃場整備で水路がどんどんU字溝化されたことで、水たまりや小さな湿地が喪失。カエルは大打撃を受けるが、中でも、オタマのまま越冬するツチガエルは生きられなくなった。
以前は結構な街中でも道路脇などに普通にいたカエルなのに。
ちなみにこの沢と沢沿いでは、ニホンアカガエル、アカハライモリも見ている。栃木県レッドリストの絶滅危惧II類が3種も棲息している貴重な場所なのだ。
しかし、同じご町内の住民に「生態系が……」などと言おうものなら、たちまち猛反発をくらってしまう。
人間は自然を壊して生きていくんだから、そんなことを言っても始まらない、と、頭から話を聞こうとしない。
せめてどうしたらよりマシになるかという話をしようとしているときに、頭ごなしに攻撃されるのだから、文字通り「話にならない」。
こういう「その問題は考えたくない」という拒絶反応は、むしろ農家の人たちより顕著かもしれない。
もっとも、川内村では、黙ってこちらの話を聞いていて、「それはいい話を聞いた」とニコニコしながら、その後で正反対のことをしたりする人もいたので、もっと侮れなかったりもするのだが……。
ここ数年で学んだことは、それこそ「地元学」の一節ではないが、
「他人を説得するのは無理。自分が変わる。自分でやる。祈る。許す」……まさにこの心境。
その中で、本当に理解を深めていく意志を持った仲間がじわじわっと増えていけばいい。
じゃあ、最後にもう一度、再復活した沢で泳ぐツチガエルを見ておきますか。