カエル図鑑(7)

ムカシツチガエル/ツチガエル


蚊に刺されているムカシツチガエル



池の中から顔をだしているムカシツチガエル
分布
2022年に新種として分離発表されたムカシツチガエルの棲息域は、岩手県南部から関東地方、中部地方の一部(山梨・長野)までの太平洋側の地域とされている。
新種といっても、今まで区別していなかったツチガエルの中に実は別種がいたという発見であり、種としては他のツチガエルより古い起源をもつらしい。




福島県は上記分布図の境界線をまたいでいるので、ムカシツチガエルとツチガエル両方の棲息域を含んでいると思われる。
北海道南西部や伊豆諸島(大島,新島,三宅島)にも「ツチガエル」の生息が確認されているが、それらがムカシツチガエルかツチガエルかは2023年6月時点では不明。

棲み分けの境界線付近でも雑種は見つかっていないというが、新種発表からほどんど時間が経っていないので、まだまだ未解明な部分が多い。混在している場所もあるのではないか?
そもそも生息数が少ないので、正確な分布図を作るのは困難だと思うのだが……。



背中のイボイボが直線状のクッキリした模様が多い個体と丸くなだらかなイボ状のものが多い個体がある。棲息域が分かれているわけではなく、同じ場所に混在している。これがまた外見から見分けることを困難にさせている。

大きさ・容姿
30mm~60mmくらい。。

↑ヤマアカガエルと一緒にいるツチガエル(右上)。これだけ大きさが違う



2022年にムカシツチガエルが新種として別分類されるまでは長い間、単に「ツチガエル」として認識されていた。実際、外見からツチガエルとムカシツチガエルを識別するのはほとんど無理といえるほど似ている。
そのため、学術書や図鑑などでもまだムカシツチガエルの記述がないものが多い。
DNA解析をするまでは別種とは分からなかったくらいで、外見同様、生態に関してもツチガエルとムカシツチガエルの違いはほとんどないと思える。
以下は従来の「ツチガエル」としての認識の上での解説である。

ツチガエルは別名イボガエルと呼ばれるように、体表にいっぱいついているイボイボが最大の特徴。色は地味な黒土色で、土の上にいてもなかなか気づかない。全体が黒いので、きれいな写真を撮るのが難しいカエルのひとつ。
大きさはヤマアカガエルなどより2回りくらい小さい。
体表が乾いた感じなのも特徴。捕まえると臭い粘液を分泌するというが、それほどでもないという人もいる。
地域によっては「クソガエル」などとも呼ばれ、イボイボがちょっとグロテスクに感じられるかもしれないが、よく見るとつぶらな瞳をしており、他のカエルに比べても可愛らしい顔だ。
栃木県レッドリストでは、ニホンアカガエルと並んで絶滅危惧II類(Bランク。カエルでは最高ランク)に指定されている。
『レッドデータブックふくしまII』(福島県生活環境部環境政策室自然保護グループ:編集・発行 2003/03)でも、カエル類では唯一「準絶滅危惧種」に指定され、最も絶滅の恐れが高いとされている種。

ツチガエルは非常に特徴的な外見なのでまず見間違えることはないが、最近、関東以北にはいないはずのヌマガエルが北上してきている。栃木市内では神社の境内などで多数のヌマガエルが生息しているのを確認している。
色の黒っぽいヌマガエルはツチガエルと間違えやすい。
紛らわしい場合は腹を見ればよい。ヌマガエルは腹が真っ白だが、ツチガエルはまだら状の模様がある。

ツチガエル



↑ひっくり返して腹を見ると、真っ白ではない。腹が真っ白だったら、ヌマガエルである可能性が高い。




産卵
産卵期はかなり遅く、全国的には5月から8月くらいらしい。
卵は水草や、水中に倒れ込んだ枝などに絡めるように産むらしいが、目立たないので見つけるのはかなり難しい。


孵化~オタマジャクシ時期
オタマジャクシは80mmほどまで巨大化し、一部はそのまま越冬するという。
阿武隈での経験では、冬の間分厚い氷が張るような水たまりなどでも、泥の奥に身を潜めて生き延びていた。
2010年5月、川内村上川内で行われた「げえる探検隊」というイベントにて、同行したプロの自然観察員のかたが、田圃わきの水たまりにて2匹の巨大なオタマジャクシを捕まえた。そのかたも「なんでしょうね、こんなに大きなオタマジャクシは初めて見ました」とおっしゃっていたが、これこそツチガエルのオタマジャクシだった。
オタマジャクシのまま越冬するというのは本当だった。発見した水たまりは、耕作放棄された田圃の脇に自然湧水が溜まっている一角で、こうした環境は極めて珍しい。なるほど、こうした奇跡的な環境でしか生き延びられないのかと、はっきり理解できた貴重な体験だった。

オタマだけでなく、ツチガエルは成体も泥の中で越冬するらしい。従って、1年中水が溜まっている場所でないと繁殖できない。
これが絶滅危惧に瀕している一番の理由であろう。

他の水棲生物と一緒に捕まったツチガエルのオタマジャクシ


上は大きく育ったアカガエルのオタマ? 大きさがかなり違う


指先と比較。すでに後ろ脚が生えている


観察のため、そのままわが家に連れて行くことに……


連れてきた直後。2010年5月23日


6月7日 後ろ脚がずいぶん太くなり、時折ジャンプもする


2010年6月13日 前脚も生え、だいぶカエルらしくなり、ツチガエルの模様もはっきりしてきた


先に脚が生えてカエルになろうとしているのと、まだオタマの形に近い兄弟


池の中に放した直後


完全に尾がなくなる頃には、本当に小さいカエルになっている。巨大だったオタマとは対照的
変態
変態後は、水辺から遠くに行くことはなく、常に水のそばにいる。

2008年8月の終わりに、突然我が家の池に棲みついた2匹のツチガエル↑
ひと月経ってもまだいた↓ 2010年6月現在も、ツチガエルは池に棲みついている。




鳴き声
ギューギューという鈍い、締めつけられたような声。声量は小さく、弱々しい。

性格
いつ見てもほぼ同じ場所にじっとしている。近づいても慌てることなく、そのまま息を潜めている。そのほうが安全だと思っているのか、単に鈍感なのかは分からない。自分の数センチ隣に人間の靴がどかっと着地するなど、いよいよ危ないという段になって、ようやくピョンと水に飛び込む。
いちど気に入った水辺が見つかると、そこから離れようとしない。えらく保守的というかズボラというかおっとりしているというか、人間から見ると愛らしい性格ともいえる。しかし、地味で地面と見分けがつかなかったり、なかなか動かなかったりするので、うっかり踏みつけそうで怖い。
理科教師だった父親によれば、かつては街中でも道端などで普通に見ることができたカエルだったという。今やいつ絶滅してもおかしくないくらい棲息環境を失っている。
原因は田圃の水を抜くようになったからだといわれている。オタマジャクシのまま越冬するツチガエルには、冬でも凍りつかない池や水たまりが必要で、田圃の水が抜かれてしまうと繁殖場所が極端に少なくなる。
個人宅の池にはたいてい鯉などが飼われているので論外。大きな沼などでも、秋になってからも泳いでいるオタマジャクシは他の水棲生物やヘビなどにとっては貴重な餌となるのだろう。無事に変態を遂げるまでには相当な幸運が必要だと思われる。それだけに、他のカエルよりも大事にしたくなってしまうのである。
(2023年6月追記)
2022年にムカシツチガエルが新種として発表されたため、追記、変更などを施しました。

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