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のぼみ~日記 2022

2022/09/30


↑東照宮一の鳥居脇の大木

大学院生との長話

(承前) 天気がよくて、暑くも寒くもなかったので、そのまま東照宮大鳥居のそばの石垣に背を持たれながら27歳の大学院生としばらく立ち話をしていた。
彼の父親は東大で医学博士となり、製薬会社で癌の遺伝子治療を研究していたが、思うところあって早期退職して北海道で農業研修をし、現在はワイン造りのぶどう農園を経営しているという人。(10/07追記:製薬会社に勤めていたわけではなく、大学にいて製薬会社との共同研究だったとのこと)
母親も同じく医学博士らしい(彼に「お母さんも医学博士なの?」と訊いたら「あれ? そうなのかなあ。博士号は持っているのかどうか……どっちだろう」などと言っていた。「医師免許は持ってるわけでしょ?」「それはもちろん!」ということで、彼にとっては親が博士かどうかはあまり意味のないことなのかもしれない)。(10/07追記:母親も医学博士だそうである)
会う前は、単刀直入なメールの文面といい、迷わずスパッと決断して「ではこうしましょう」と決定していく鋭さから、積極的でガンガンくるタイプなのかと思っていたのだが、実際にはとても控えめというか、「真面目」を絵に描いたような青年だった。
それでも、打ち解けるにつれ、面白い話もいっぱい聞けた。
今の日本の大学というか、学術界がいかにおかしなことになっているか、静かな口調ながら憤っているのが分かった。
グローバリズムとか、そんなことばかり言って、人々の生活、国民のためになる研究、仕事という意識がまったくない。ズレている。そういう人がテレビなどに出て分かったようなことを言って人々をおかしな方向に引っ張っていっている……というようなこと。
それはもう、まったく同感、太田どうかん。
若い人と話をすること自体ものすごく久しぶりなので、とても勉強、というか刺激になった。
同時に、こういう真面目な青年がこれからこの世界で生き抜いていくのは大変だなあ……それに比べ、自分も含めて今の高齢者世代は本当に恵まれた時代を生きさせてもらったのだなあ、と。
自分が20代の頃のことを思い返すと、自己中心で、人のために働くなんてまったく考えてもいなかった。でも、今、話をする機会を得る極めて少数の若い子たちはみんな真面目で、こんな時代にもめげずに努力している。すごく不思議な気がする。
もちろんそうじゃない子もいっぱいいるんだろうけれど、総じてみんなちゃんとしているというか、若いときの自分よりずっとまともなのだよね。

東照宮の参道に、ゴミ拾いボランティアのような若い人たちが来ていた。その中の一人に自分たちの集合写真を撮ってくれと頼まれた。
参道を行き来する人たちの中で、私と隣の大学院生だけがノーマスクで、他は年代に関係なくほとんどの人がマスクをしている。そのボランティア集団も全員マスクをしていたが、写真を頼んできた一人はまったくそんなことを気にしている様子はない。
スマホを受け取り、横一列に並んだボランティア青年たちを撮る。
「ありがとうございます~」と、明るい声が返ってくる。
小学校1、2年生くらいの集団とすれ違うと、マスクをした子供たちが我々に「こんにちは~」と挨拶をする。
彼らの目にはマスクをしていない二人はどう映るのだろうか。挨拶してくるくらいだから、なんの偏見も先入観も持っていないらしいことは分かる。自分が小学生のとき、東京オリンピック(1964年)の選手村前で長い時間、いろんな肌の色、体型の外国選手たちを見ていたときのような感じかな。そこまではいかないだろうけれど……。

日本は平和な国で、みんな穏やかに暮らしている。
それだけに、今のこの異様な社会を一気に作り上げた政治やメディアのデタラメぶり、上に立っている自分の世代の連中の無責任ぶり、とんでもなさがやりきれない。

さて、いつまでも立ち話をしていると腰が痛くなるので、移動することにした。
しかし、今は喫茶店などもマスク着用だのなんだのと面倒で気を使うし、つくづく嫌な時代になったなぁ。
そこでひとつ思い浮かんだのが、前から一度行ってみたいと思っていた大沢(住所は板橋)のウッドJAZZカフェなる店。
先日、久しぶりに家の前で不動産屋のMさんに会ったら、今はそこに入り浸っているという。ワクチンなんて毒物を打つわけない、こないだはセブンイレブンでマスクをしないことで一悶着起こしたと言っていたから、そういう人が入り浸っているくらいだから気を使わなくてもいい店なのだろうと思ったのだ。

入口のドアを開けて入るといきなり目の前で高齢の男性がギターを抱え、カラオケをバックに昔の流行歌を歌っていた。思っていたのとはだいぶ違ったが、店内にはピアノやウッドベースが置いてあり、店内の雰囲気も、マスターと女性スタッフの柔らかい人柄もとてもいい。


なぜかコーヒーカップには「COFFEE HOUSE Rabbit」とある

マスターがラッパの人だということはMさんから聞いていた。客のカラオケに合わせて、間奏でソロを吹いていた

お店のチラシ

メニュー。安いね

Mさんからどういう店なのか大体のことは聞いていたのだが、店を手伝っている「せっちゃん」という女性が明るい話し好きなキャラで楽しめた。
なんと、若いときは日本フォノグラムに勤めていたというので、「じゃあ、本城(正治)さん知ってる?」と訊いたら、なんとなんと、上司だったそうだ。
本城さんはフォノグラムの有名ディレクターで、多くのミュージシャンを育てている。
私はてっちゃんと二人になった後、師匠と仰いでいる樋口康雄さんの事務所に押しかけていろいろ教えていただいた時期があるが、そのとき、フィリップスのスタジオで、樋口さん(ピアノとコーラス)、てっちゃん(ベース、ギター、コーラス)と私(作詞作曲、歌、ギター)という3人編成でデモテープを録ってもらったことがある。そのときのディレクターが本城さんだった。
同じ時期、樋口さんは本城さんと一緒に上田知華をデビューさせるべく育てていて、その後、上田知華は「上田知華+KARYOBIN」という形でデビューした。
上田知華がヴォーカルとピアノ、それにKARYOBINという弦楽四重奏がついて、クラシック風のアレンジでポップスをやるという革新的な試みだった。
樋口さんはKARYOBINの弦アレンジをすべてやっていた。

結局、私とてっちゃんはフォノグラムからのデビューには至らず、上田知華は樋口さん、本城さんのお眼鏡にかなった形。
そんなこともあって、上田知華にはずっと軽い嫉妬のような気持ちを抱いていたのだが、先日、樋口さんからのメールで、上田知華さんが去年の9月に亡くなっていたことを知った。
私より2歳年下の彼女のほうが先に人生を終えてしまったのだと知って、複雑な気持ちになった。

……と、初対面のせっちゃんとそんな話までしていて、「音楽はまったくダメです」という大学院生は蚊帳の外になってしまったのだが、彼は彼で、そういう雰囲気の店は初めてだったそうで、刺激を得られて楽しかったようだ。

店にはせっちゃん所有のクラシックギター(YAMAHAの7万円のやつ)が置いてあったので、ポロポロと弾いてみたりもしたのだが、腕がなまりまくっていてまともに音が出ない。情けなかった。

Daddy's Cafeでのジャムセッションも、もう何年も遠ざかっている。最後に行ったのはいつだったかなあ。5年以上前かもしれない。
コンサートも、2015年が最後になったままだ↓。
↑2015年のこれを最後に人前で演奏していない

KAMUNAの上智大学コンサート2011は聴衆はまばらで、大学内でのコンサートだというのに学生はほぼゼロだった。そんなまばらな聴衆の中に樋口さんや、樋口さんと組んで上田知華にも曲を提供していた作詞家の伊藤アキラさんがいた。
伊藤さんには本当にお世話になったのだが、伊藤さんも昨年、亡くなってしまった。

……と、いろんなことを思い出しながら店を出た。

大学院生に、両親共に医学者だけど、一人息子が文系(しかも日本では滅茶苦茶地味なロシア文学という領域)に進むことをどう考えたのかと訊いたら、「二人とも文学は大好きなので大賛成でした」とのこと。
来年から4か月×3回くらいでキルギスに留学する計画を立てているという。ロシアは今は行けなくなってしまったので、ロシア語が公用語の一つになっている他の国を捜してキルギスがいいと決めたんだとか。「生活費もモスクワの半額くらいだし、穏やかで暮らしやすいみたいです」だって。ほんまかいかな。
その留学と並行して、親がやっているぶどう農場を継ぐことは決めているので、夏は北海道で農作業もするそうだ。
そんな彼は25歳くらいまで異性のことはほとんど考えたこともなかったという晩稲で、今になってちょっと真剣に生涯つきあえる女性を捜したいという思いが強くなっているらしい。
いい人いませんか、というが、こんな田舎で滅多に家から出ない爺さんに相談するようなことじゃないだろが。(10/07追記 一応、テレビライフの編集者に「こういう青年がいるけどどう?」と探りを入れてみたけど「私、がっつり30代です。今年34歳になりました(笑)」だそうで、彼が希望する「±4歳くらい」からはちょっと外れるみたい。ざんね~ん)

助手さんは「キルギスで出会いがあるような気がするのよね」と言っている。
にゃ~るほど。そうだといいにゃあ

ホテルに向かう車の中で、彼は「日光はいいところですね」と言っていた。本当にそう感じたみたいでよかった。
そう、いいところなのよ。
いいところすぎて、今の自分はだらけているのかな。
大学院生をホテルまで送り届け、家に戻る。
テレビをつけると、89歳になったナベサダが行ったリサイタルの様子をNHKの栃木放送局ローカルでやっていた。


89歳でもいい音を出しているナベサダに比べて、自分はなんと根性なしのくだらない人間なのか。
このところ曲も書けてないしなあ。

まあしかし、久しぶりに若い人といろんな話ができて、少しだけ気持ちに張りが戻った感じがしないでもない。

大学院生は翌日は三依の七田さんち(エコビレッジみより)を訪ね、翌々日は足尾までバスで向かい、さんしょう家で照り焼き定食を食べた後、最後はわたらせ渓谷鉄道でのんびり東京に戻るという旅行を楽しんだようだ。

こんな後継者に恵まれたご両親を羨ましく思う。
タヌパックは後継者がいないので、私が死んだら消滅。
まあ、その前に、今の世の中がどこまで踏ん張って平穏な生活や文化を維持できるかが気になるところだけどね。
もう少し見守りたいとは思っている。




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