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のぼみ~日記2019

2019/01/28


「六十六部供養尊像」の謎


近所の石仏といえば、先日紹介した如意輪観音像とは反対側の方に降りて行くと地蔵祠みたいなのがあって、石仏3体と、「馬頭観音」という文字だけの石碑(明治年間)がある。
これも改めて銘を読み取ってみた。

左側は袈裟姿?のように見える立像だが、文字などは刻まれていないようだ。摩耗もかなりなのでよく分からない。
真ん中は座像だが、普通に考えれば地蔵菩薩かな?
興味深かったのは右の半跏思惟像。これも如意輪観音像だろうか。
「享保十六(1731年)年辛亥。奉納六十六部供養尊像 十月十九日」とある。
六十六部とはなんぞやと調べたら、
法華経を六六部書き写し、日本全国六六か国の国々の霊場に一部ずつ奉納してまわった僧。鎌倉時代から流行。江戸時代には、諸国の寺社に参詣さんけいする巡礼または遊行の聖。白衣に手甲・脚絆・草鞋がけ、背に阿弥陀像を納めた長方形の龕がんを負い、六部笠をかぶった姿で諸国をまわった。また、巡礼姿で米銭を請い歩いた一種の乞食。六部。(大辞林)

……だそうだ。
この回国の難行を果たした者が記念して「回国供養塔」というものを建てたりもしたそうだ。
さて、この「六十六部供養尊像」はどういう意味のものだろうか。
この土地の誰かが六十六部を達成した記念に建てたのか、それともこの土地で行き倒れた六十六部途中の者を弔うために建てたのか?

さらに調べてみると、「六部殺し」という怪談話のようなものが全国に残っているという。
Wikiによれば、
ある村の貧しい百姓家に六部がやって来て一夜の宿を請う。その家の夫婦は親切に六部を迎え入れ、もてなした。その夜、六部の荷物の中に大金の路銀が入っているのを目撃した百姓は、どうしてもその金が欲しくてたまらなくなる。そして、とうとう六部を謀殺して亡骸を処分し、金を奪った。
その後、百姓は奪った金を元手に商売を始める、田畑を担保に取って高利貸しをする等、何らかの方法で急速に裕福になる。夫婦の間に子供も生まれた。ところが、生まれた子供はいくつになっても口が利けなかった。そんなある日、夜中に子供が目を覚まし、むずがっていた。小便がしたいのかと思った父親は便所へ連れて行く。きれいな月夜、もしくは月の出ない晩、あるいは雨降りの夜など、ちょうどかつて六部を殺した時と同じような天候だった。すると突然、子供が初めて口を開き、「お前に殺されたのもこんな晩だったな」と言ってあの六部の顔つきに変わっていた。(Wikiより

……というようなお話。
六部に限らず、旅の者が自分たちの村で客死するというのは、気持ちのいいものではないだろう。
この人が旅の途中で死んだのは、決して自分たちがひどいことをしたのではない。自分たちは手厚くもてなしたが、それでも死んでしまったのだ、と言いたいがために、供養塔や供養像を建てたのかもしれない。
もしかすると、左の立像はここで客死した?六部の姿なのかもしれない。
とすれば、この半跏思惟像は如意輪観音像ではなく弥勒菩薩なのかな、とも思う。

馬頭観音と書かれた石碑や、祠のすぐ横には軍馬の供養碑もある。この土地の人たちが心優しい人たちだったことの表れかもしれない。


亨保の「亨」の字が削れてしまっているが、「辛亥」なので享保16(1731年)年に間違いない。



これが六部の尊像ではないだろう。多分、関係なく地蔵菩薩像なのではないか……。



もしかするとこれが六部の像なのか?

石仏や石碑、石塔には、死者を弔う、供養する意味合いのものも多い。
常に飢餓と隣り合わせで、生き延びることが大変だった時代、赤ん坊の間引きや強盗殺人などは頻繁に行われていたと想像できる。
「六部殺し」に類した話には、殺した相手が大人ではなく自分の子どもだというパターンもあるという。
ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の作品集の中に、『持田の百姓(こんな晩)』という話があるそうだ。
出雲の持田浦という村に貧乏な百姓がいた。子供が次々と生まれたが、育てる余裕がないので、夜に、こっそりと川に流して殺した。その数、6人。
やがて百姓は少し暮らしが楽になり、土地を買い、金を貯めることもできた。そこで、7人目に生まれた男の子は育てることにした。
ある夏の夜、百姓は5か月になる息子を腕に抱いて庭へ散歩に出た。大きな月が出て、美しい夜だった。
百姓は「ああ、今夜はめずらしい、ええ夜だ」と言った。
すると腕の中の子どもが父親の顔を見上げて、急に大人の口調で言った。
「おとっつぁん。わしを仕舞いに捨てさした夜も、ちょうど今夜の様な月夜だったね」
その後、子供はまた同い年のほかの子たちと同じようになり、もう何も言わなかった。
百姓は僧になった。

子殺し、間引き、堕胎……これはなにも江戸時代の飢饉のときだけのことではない。
戦後の1947年から49年にかけて、日本では爆発的ベビーブームが起きた。このとき生まれた子たちが「団塊の世代」だ。
しかし、このベビーブームはわずか3年で終わった。
1949年の優生保護法改正で、経済的理由による堕胎が認められるようになったのが大きな要因だと言われている。
「産児制限」「家族計画」といった言葉を今の若い人たちは聞いたことがないかもしれないが、僕らの世代はよく知っている。



私が生まれた昭和30(1955)年の中絶件数はおよそ117万件。政令指定都市の人口くらいある。闇で下ろされた数も入れたらもっと多いだろう。
1955年の出生数は約173万人だから、懐妊した10人のうち4人が中絶されている計算だ。
私が生まれた年には、この世に3人の赤ん坊が生まれてくると同時に、2人の胎児が親によって殺されていたのだ。

実は私にも本当は弟(妹かもしれないが、勝手に弟だったような気がしている)がいたのだが、中絶され、生まれてくることはなかった。そのことをお袋がポロッと口にしたときはさすがにショックだった。
お袋が離婚を考えていた時期のことだから、理由は想像がつく。
このことは実父も知らなかったのではないだろうか。親父(養父)はもちろん知らなかった。

以後、私は自分の生活の中でもそのことをときどき思い出し、自分の人生に運がないのは、弟?があの世で嫉妬しているからではないか? なんて考えるようにもなった。

昔の人たちが間引きや堕胎をした水子供養にエネルギーを使う気持ちはよく分かる。後からじわじわと後悔や罪の意識が襲ってくるのだろう。
私の場合、自分で手を下したわけではないし、何の責任もないはずだが、母親から堕胎のことを聞いたときからずっと、生まれてこられなかった弟(?)に対しての後ろめたさみたいなものがずっとつきまとっている。水子地蔵的なものを自分の手で作ろうかなどと考えたりもする。(作るなら、弟?が寂しくないように、遊び相手としての狛犬みたいなものを)

日本国内での中絶数は、今では年間18万件台まで下がってきている。現在の出生数が97万人くらいだから、ざっと計算して、懐妊した20人のうち3人が中絶されている計算。
これは全世界規模で見ると多いのか少ないのか?

↑これを見ると、特に多いとも少ないとも言えないようだ。
ただ、このデータは「合法の件数」ということなので、数字に表れていない中絶を加えるとまったく違う結果になるかもしれない。

また、過去100年で世界100カ国・地域で中絶された胎児の数は計10億以上、というデータも目を引いた。

米民間団体「グローバル・ライフ・キャンペーン(GLC)」が発表した「中絶世界報告書」「世界日報」より

もちろんこういう大きな問題になると、個人ではどうにも対応できない。今自分の肉体が存在している現世というのは、こういう世界なのだな、という認識をするだけだ。
自分としては、家族だの先祖だの家だの血縁だの地元だの国家だのという枠組みには関係なく、自分の人生で「関わってしまった」すべての命に、一生懸命向き合う、ということしかないなあ、と思っている。





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