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 たくき よしみつの 『ちゃんと見てるよ リターンズ』2018

 (週刊テレビライフ連載 過去のコラムデータベース)

 2019年執筆分


駅伝中継で光っていた選手たち

2019/1/18

 12月、1月の駅伝シーズンが終わった。陸上好きを自認する私から見て、特に光っていた選手を何人か列挙してみたい。
 箱根駅伝は総合優勝した東海大の西田壮志(5区で区間2位)、中島怜利(6区で区間2位)、郡司陽大(10区で区間3位)の3選手が渋く光ってた。この3選手は身長がそれぞれ、163cm、160cm、161cmで、身長165cmの私より背が低いのだよ。3人とも総合優勝にしっかり貢献。いいね!
 その少し前、12月30日の富士山女子駅伝。最終7区で驚異のぶっちぎりをみせた鈴木優花選手(大東文化大1年)がすごかった。レース後、インタビュアーのマイクにゴツンとおでこをぶつけるオチまでつける大物ぶり。ゆうかりん、超いいね!
 2区で区間記録を出した五島莉乃選手(中央大3年)も光ってた。りのりんは自分の大学チームでは出られず「選抜チーム」での出場だったが、この選抜チームがなんと3区までずっと区間賞でぶっちぎりの快走。箱根駅伝の選抜チームは「オープン参加」で順位がつかず、記録も参考扱いにしかならないが、富士山女子駅伝はちゃんと順位も記録も残るのだ。いいね!
 そのゆうかりん、りのりんをぶっちぎって1月13日の全国都道府県対抗女子駅伝1区の区間賞をとったのが廣中璃梨佳選手(長崎商高3年)。卒業後は日本郵政チームに入るらしいが、鈴木亜由子、鍋島莉奈ら、強いお姉さまたちが待ち受けている。
 五輪マラソン金メダリストの高橋尚子や野口みずきは、学生時代、目立った成績を残していなかった。ゆうかりん、りのりんらの今後が楽しみだなあ。応援しているよ~。

大坂なおみ選手への接し方が下手

2019/1/31

 私がまだ20代のときのことだが、テレビライフの仕事で、竹中直人さんにインタビューしたことがある。彼は当時「笑いながら怒る人」や「文豪顔真似」などの芸で売り出し始めていた若手お笑い芸人だった。
 インタビューは長時間の野外ステージの後にセットされた。疲れた顔で舞台を降りてきた竹中さんに、同行した編集者がいきなり「まずは例の百面相で写真撮らせてください」と言った。
 竹中さんは一瞬ムッとした表情を見せたが、すぐに編集者の注文通りの百面相でカメラに向かってくれた。その後を受けた私は「いきなり失礼なリクエストで申しわけありませんでした」と謝るところからインタビューを始めなければならなかった。
 その後なんとか彼の気持ちを和らげることができて、いい話も聞き出せた。別れ際に「お疲れのところありがとうございました」と礼を述べたところ「な~に、インタビュアーがいいからですよ」と笑顔で返してくれたことを今でも覚えている。
 今年最初のビッグニュースは、大坂なおみ選手が昨年の全米に続き全豪オープンも優勝したことだろうか。しかし、日本人インタビュアーの技術は最悪で、ぶっきらぼうに「では、ここからは日本語のインタビューです」とか「日本のみなさんに向けて日本語でお願いします」などとやっている。そういうシーンを見るたびに、疲れきっていた竹中さんに「百面相をやって」と言って延々と写真撮影を始めた編集者のことを思い出すのだ。
 視聴者が期待している「なおみ節」を引き出したいなら、まずはインタビュアーが心を磨くことだ。相手への敬意を持って、なおかつ共に楽しむ精神でね。

「おとうさん」という呼びかけ問題

2019/2/15

 テレビのロケ番組などで、出逢う人に誰彼かまわず「おとうさん」「おかあさん」と呼びかけるのが気になって仕方ない。
 特に目立つのが『所&林修のポツンと一軒家』(テレビ朝日)。
 この番組は目的の一軒家に行く前に、最寄りの集落で見かけた人に声をかけて道を尋ねるのだが、呼びかけは100%「おとうさん」「おかあさん」だ。
 しかも、呼びかける前から「あ、あそこにおとうさんがいる。あのおとうさんに聞いてみましょう」なんてやっている。世の中の中高年は全員おまえの両親なんかい。
 しかし、考えてみると、こういうときに使える適当な二人称が現代の日本語にはないのだね。
 英語なら相手が誰でもYOUで済むが、たまたま見かけた人に向かって「あなたは」とか「きみは」では違和感がある。日本語はいっぱい人称代名詞があるのに、こういうときに使える二人称がない。だから「この一軒家はおとうさんの親戚なんですか?」なんて変な会話をしているわけだ。
 ではどうすればいいのか?
 この際、万能な二人称をみんなで決めればいいんじゃないか。
 千鳥・大悟がCMで「きさーまは?」ってやっているけど、「貴様」は字が表すようにもともと目上の人に対しての二人称だった。これなんかどうかしら。
「今年から、きさーまを誰にでも使っていい二人称に決めます」とか閣議決定したらいいのに。新しい元号を決めるよりずっといいかもしれないよ。
 かつて「トルコ風呂」という名称をやめてくれというトルコ人青年の訴えを聞いて、ソープランドに一斉に改称したときのことを思えば、できるかも?

過酷なロケは「面白い」のか?

2019/3/1

 旅ロケバラエティ番組のパターンとして、タクシーを乗り継ぐ、路線バスを乗り継ぐ、軽トラで旅する、トラックを乗り継ぐ、線路沿いをひたすら歩く、秘境駅で利用客を待つ……といったものがある。ほとんどが(というか全部?)がテレ東なのだが、ロケの過酷さを面白さと勘違いしてエスカレートするあまり、素直に楽しめないものが増えてきた。
 例えば『千原ジュニアのタクシー乗り継ぎ旅』では、雪の山形で、タクシーを呼んでもらえそうな場所を探して延々歩き続けるシーンが続き、見ているほうが疲れてしまった。千原ジュニアの絶妙なトーク術が生かされておらず、実にもったいない。
 タクシーにしてもトラックにしても「乗り継ぎ旅」のアイデア自体は悪くないし、ヤラセがない(のであろう)ことも評価できる。でもね、ジュニアのような一般人とのトークがうまいタレントを、「辛い旅」の絵作りだけで使うというのは、番組作りのセンスがなさすぎるよ。
 安田大サーカス団長が秘境駅を訪れ、地元利用者が現れるまで何日でも泊まり込んで待つというのもある。団長が無人駅のそばにテントを張って「寒い」「きつい」と言いながら待ち続ける姿を見ても、サド嗜好の人でない限り、面白くはない。団長は自転車マニアなのだから、秘境駅の周辺を自転車で探索させて、次の列車が来るまでに何人の村人と話ができるか、面白い体験ができるかに挑戦させるとかしたほうがずっと「撮れ高」は上がるだろうに。
 低予算で面白い番組を作るには「過酷ロケ」手法が手っ取り早いという考えが蔓延すると、テレ東の魅力も落ちるなあ。
 

びわ湖毎日マラソン中継の唖然

2019/3/14

 3月10日に行われたびわ湖毎日マラソンは、40km地点で海外招待5選手が一団となって優勝争いをしていた。41kmでテフェラ選手(エチオピア)とブナスル選手(モロッコ)がスパートをかけて抜け出したが、ゴールの競技場トラックに入ったときはこの2人に続いてモコカ選手(南アフリカ)も猛追。3選手のトラック勝負になった。
 競技場内で一旦トップに立ったのはテフェラ選手。しかし、ゴール直前200メートルでブナスル選手が猛スパートしてテフェラ選手を抜き、逆転優勝。3位のモコカ選手も踏ん張って、2位とは2秒差だった。
 …というデッドヒート場面を、中継したNHKは画面に映し出さず、延々と11位(日本人選手位)の河合代二選手を映していた。大小2画面になっても、大画面は河合選手、小画面は7位(日本選手1位)の山本憲二選手。ようやくトラックのトップ3選手を映したと思ったら、すでにゴール直前。しかも各選手が豆粒のようにしか映らない小画面。ゴールの瞬間だけが大画面になった。……何だこれ?
 7位の河合選手を延々と映し続けたのは、河合選手が9月に行われるMGC(来年の東京五輪代表選考レース)出場権の条件である2時間11分を切れるかどうかに注目していたからだ。しかし、劇的な優勝争いを映さずに7位の選手を映し続けるようでは、すでに日本のマラソン界は世界から取り残されていると宣言しているようなものだ。
 1位2位はともに自己記録を更新する7分台の大健闘。その死闘を映さないという失礼さ、非常識ぶりは、五輪中継をする資格すらないのではないか。唖然とさせられた中継だった。

『まんぷく』と「ひよっこ』の差

2019/3/29

『ひよっこ2』(NHK)全4回を見終わった。サービス精神によるオマケなのに、やっぱり楽しい、切ない、ジンとくる。録画は全部「保護」にした。
 同じNHK朝ドラの『まんぷく』がちょうど最終回を迎えようとしていたのでどうしても比較してしまうが、『まんぷく』の浅薄さが際立ってしまう。
『まんぷく』はあまりにも滅茶苦茶な脚本に呆れた。特定の(しかも現行の)商品とそのメーカー創始者をモデルにしているので、視聴者の多くはインスタントラーメン開発史について間違った歴史観を刷り込まれたことだろう。それも大問題だが、なにより「サイドストーリー」の浅さ、つまらなさがひどい。
 人間、生まれ持った才能というものはある。しかし、それが、生まれた境遇(家や地域や時代)によって埋もれてしまったり、たまたま(特に思春期に)好きになってしまったもの(ロックとか落語とかアイドル歌謡とか恐竜とか物理学とか……)とずれてしまうことのほうがはるかに多い。結果、大成せず、歴史には残らない。しかし、人生とはそういうものなのだ。どんな人生でも、人には与えられた条件の中で幸せに生き抜く権利があるし、「幸せの形」もいろいろあるはずだ……というのが、朝ドラのテーマだと思う。
『まんぷく』にはそうしたものがまったく感じられなかった。子供が生まれたのにお父さんが早く帰宅してくれないから辛いとか、画家の夫が美人をモデルに絵を描いていて嫉妬するとか……なんだそれ。あまりにも浅く、リアリティもないから、登場人物を愛せない。
 さて、今度は東京制作の『なつぞら』。期待できるのかな?

「巨大数」を伝えるときの一工夫を

2019/4/11

 4月9日、政府は2024年度から使用される新紙幣のデザインを発表した。翌日のニュースやワイドショーではこの話題に大きな時間を割いていたが、「お金の話題」ということであれば、紙幣の顔が変わることよりも、税金がどう使われているかということのほうが重大だ。
 同じ9日夜、自衛隊の最新型戦闘機F35Aが墜落した。翌日、これを報じるテレビでは「行方不明のパイロットの捜索が第一です」というような安全牌のコメントが並んだが、視聴者の多くは「バラバラになった飛行機はおいくらだったの?」ということも気になっただろう。
 F35A戦闘機のお値段は1機116億円だと、今年1月に防衛省から発表されている。これを米国のトランプ大統領肝煎りのセールスで、日本政府が追加105機(合計147機)買うことを決めたばかり。このうち42機は短距離離陸・垂直着陸ができるF35Bというさらに3割増しくらいお高いモデル。購入費だけで軽く「兆」の単位だ。しかもこれは機体の購入価格で、維持費や周辺環境の整備にはその何倍もの金がかかる。
 こういう「○兆円」の単位の金の話をテレビではサラッと言うが、実感できるように最低限の説明が必要ではないか。
 日本の労働可能人口(金を稼げる人の数)はざっと7000万人。この全員が10万円出すと7兆円。膨れあがりすぎて批判が集中している2020年東京五輪にかかる総費用の試算が1兆3500億円。そういう巨額を、「ミサイル打ち込まれたらおわりでしょ?」という現代の戦争において「高額すぎる戦闘機」に注ぎ込む意味があるのかは論じられないのだよね。

『ポツン』vs『イッテQ』の行方

2019/4/18

 日曜夜では一人勝ちだった『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)の枠に、突然『ポツンと一軒家』(テレビ朝日系)が割り込み、初回から互角の戦いを繰り広げていることが話題になっている。
『イッテQ』は1回の製作費がおよそ3000万円といわれるが、『ポツン』は超低予算。
 タレントは出てこないで制作会社のディレクターがカメラマンと2、3人で小型レンタカーで突撃取材。それでほぼ同じ視聴率なのだから、コスパでいえば『ポツン』の圧勝といえる。
『ポツン』は『イッテQ』に比べたら圧倒的に中高年層の視聴者が多いだろう。でも、僕は若い人や子どもにこそ『ポツン』を見てほしいと思う。なぜなら『ポツン』は「生きた日本近現代史」そのものだからだ。若い人たちが知らない戦争や戦後の暮らしぶりを、実際に生き抜いた人たちが淡々と話す。素晴らしい「歴史教材」だ。
 無理に感動物語に仕立てていないのもいい。中には金持ちの別荘や大学の研究所だった、なんてのもあるが、それもまた嘘のない「日本の姿」である。
 タレントなし、超低予算でも面白い番組が作れるというのはテレ東のお家芸だったが、これは朝日放送テレビの制作。
 一方でテレ東はこの番組を真似て『空から発見!秘境ハウス 夢を叶える0円ヘリコプター』なんていう「上から目線」の番組を作ったりしている。東京に出たことがない田舎のおばあちゃんをヘリコプターに乗せて東京見物をさせるなんて、嫌らしさ満載だ。テレ東は初心を忘れているんじゃないか……なんて、いろんなことを考えさせられる『ポツン』である。
 

「世界リレー」を台なしにしたTBS

2019/5/13

「世界リレー大会」が日本で開催された。全9種目のうち、日本は5種目で決勝レースを走り、2つの混合競技でメダルを取った。シャトルハードルリレー(男女2人ずつが110mの距離をハードルで往復)で銀。2×2×400m(男女1人ずつが交互に400mを2回走る)で銅だ。どちらも世界大会では初めて実施された競技で、初日に一発決勝だったが、そのどちらも、独占生中継したTBSは結果さえ伝えなかった。
 2×2×400は「とてつもなく過酷な競技で、予想がつかない」と言われていた注目のレース。日本は塩見綾乃(立命館大)とクレイアーロン竜波(相洋高)の学生2人が出た。男子を最初に走らせて逃げ切りを図ったケニアを、最後に竜波が抜いて3位に入るという大興奮のレース。競技場も沸いた。
 しかしこのレースで竜波がこれから抜くぞというところで、生中継をしていたBS TBSは「レースの途中ですが、番組を終了させていただきます」というテロップを出してCMに。
 怒りを抑えながら地上波に切り替えたが「男子4×100はどうなるんでしょう」なんてやっていて、2×2×400は結果すら伝えない。結局、結果を知ったのは後日、You Tubeに陸上専門誌がUPした動画を見てのことだった。コメント欄にはTBSへの恨み言が大量に綴られていた。テレビが生中継していながら、興奮に水をかけられた挙げ句、ネットで検索して結果を知るしかないという悲劇──テレビの自殺だね。
 競技者への敬意もなければ「世界の運動会」の面白さ、意義をまったく理解していない。怒りを通り越して、悲しいよ。
 

「東大王」たちを見る庶民の目

2019/5/24

『東大王』(TBS系)というクイズ番組は、当初はクイズに強い東大生の凄さを見せて驚かすという趣向だったが、最近では芸能人が「東大王」を打ち負かす面白さも演出されている。
 東大王側も変わった。水上颯くんなどは、当初は笑わず、この子は人生楽しいのだろうかと心配したものだが、今では芸能事務所に所属し、毎回ニコニコ問題の解説をしている。
 で、こういう脳みその持ち主たちを、庶民はただ「すげ~な~」と見ているわけではなく、「バラバラの細かな知識や計算力や記憶力ばかり誇示されても虚しいよなあ」「この子たちはこの国を豊かで幸福な国にしてくれるのだろうか」といったことを考えてしまうだろう。
 そこで、例えばこんな趣向のクイズ番組はどうだろう。
「ゴルバチョフ、織田信長、チャーチル。この3人のうち誰かに今の日本が統治されるとしたら、誰が一番マシですか? 必ず1人選びなさい。まったく知らない名前が入っている場合だけ『分からない』も可」
 こんな質問に、東大生や大学、高校のクイズ研究会メンバーの集団Aと、それ以外の10代20代の集団Bに答えてもらっておく。
 そこでクイズ。集団Aでいちばん多かった答えは? 集団Bでいちばん多かった答えは? 最後にあなた自身の答えは?
 他にも、原子力エネルギーをどう思うかとか、「三平方の定理、アルキメデスの原理、熱力学第2法則のうち、どれがいちばん人生に重要だと思うか」なんて問題も同様に可能かな。
 解答者の知識ではなく「価値観」が覗けたり、現代の世相が見えてくるクイズ番組。東大王たちの答えにとても興味がわく。
 

『なつぞら』の中の大塚康生さん

2019/6/6

 NHK連続テレビ小説『なつぞら』は、アニメーター・版画作家の奥山玲子(昭和11~平成19)がモデルになっているという。前作『まんぷく』がひどい出来だっただけに「またか」と心配していたが、今のところ思っていたよりちゃんと制作されている感がある。
 ところで、ドラマの中で麒麟・川島明が演じる下山克己のモデルは、宮崎駿の師匠として知られるアニメ界の重鎮・大塚康生さんだという。大塚さんと私は「狛犬仲間」で、私が全国に紹介した『神の鑿』(江戸末期に福島に流れ着いた高遠石工・小松利平から始まる石工3代記)の狛犬作品群を私の車でご案内したこともある。当初は「お茶目なおじいちゃんだなあ」と思っていた。後から人づてに有名なアニメーターだと聞かされ、ビックリしたものだ。
 大塚さんは拙著に推薦の言葉と狛犬の子獅子を想像している自画像イラストまで寄せてくださった。ご高齢で、ずっと音信不通になっているのが心配だ。
 さて『なつぞら』だが、戦争で疲弊した時代にも、創作の世界で情熱を燃やし続けた人たちの生き様を少しでも伝えてくれたら、朝ドラとしては成功だと思って見守っている。
「アニメーターは絵に命を吹き込む仕事だ。ただ単に絵が動けばいいのではない」という志がドラマの中で語られているが、こうした部分をていねいに織り込んでいってほしいと思う。
 人気のイケメン俳優を使わないといけないとか、あまりにドロドロした人間模様はふさわしくないとか、いろいろ「朝ドラ的制約」があり、脚本も演出も大変だろうが、しばらくはドラマの「質」を注視していたい。

「老後資金2000万円不足」報道

2019/6/21

 テレビで連日取り上げられた「高齢社会における資産形成・管理」という報告書の問題。「老後資金が2000万円足りない」という試算例の部分だけが一人歩きして騒ぎを起こしたが、そもそもこの報告書は「年金だけで老後を安穏と過ごせるわけはないので、資産を増やす努力をしてね」という、金融業界側のPR的なものだった。
 年金だけじゃ足りないことくらい常識なのに「年金は100年安心じゃなかったのか?」なんてアッパラパーな突き上げをくらって、出したほうも驚いた。
 さらには報告書を依頼した金融庁の親分である麻生太郎氏が「そんな報告書は受け取らない」「私が年金を受け取っているのかどうかは知らない」などとトンデモ発言を連発するという、近代国家とは思えない事態に。
 PGF生命が行った調査では、還暦を迎える4人に1人は貯蓄額が100万円以下である一方、1億円以上と答えた人も8%を超えた。格差社会が加速する日本では「平均」を計算してもあまり意味がない。年間200万円で暮らしたとしても、30年なら6000万円必要なわけで、実際には「2000万円不足」どころではない人が多いのだ。
 また、日本の年金制度は「賦課方式」といって、現役世代が隠居世代の生活を支える仕組み。「自分の老後を支えるために積み立てている」わけではない。
 こうした根本を説明せずに、「2000万円も貯金持ってる?」「年金は大丈夫なのか?」なんて煽っているだけのテレビは、視聴者を馬鹿にして弄んでいるのか? それとも番組制作側も一緒にアホなのか? いやもう、国全体が「つんでいる」のかもね。ほんと、どうする?
   

『考えるカラス』が日本を救う

2019/7/4

 だいぶ前から、NHKの優秀な人材はみんなBSとEテレに配属されてしまっていると思っているが、『考えるカラス』(Eテレ毎週火曜9・50)を見てその思いをさらに強くした。
 番組のコンセプトは「知識ではなく『考え方』を学ぶ」だ。
 不思議な現象を示して、なぜそうなるのかを考えさせる「考える観察」、謎を解明するために仮説を立てる練習をさせる「デデニオン」、日常生活の中で誰もが経験している何気ないことを改めて「なぜだろう?」と考えさせる(なぜ? と思う習慣をつけさせる)「今日の発見」、そしてハイライトともいうべき「蒼井優の考える練習」という不思議な実験コーナーで構成されている10分の番組。
 例えば、「長短2本の火のついたろうそくにコップを被せるとどちらの火が先に消えるか」とか「ヘリウム入りの風船をお盆の上に置いて落とすとどうなるか」といった実験の結果を予測させ、実際にやってみせ、答えを出す。しかし、なぜそうなるかは最後までは教えてくれない。「ここから先は自分で考えよう」と突き放すのだ。
 この実験が毎回ものすごく面白く、大人でも簡単には説明ができない。答えを与えられず、モヤモヤしたまま番組が終わるのだからたまらない。
 クイズ名人が膨大な知識を披露するクイズ番組などとは対極にある番組といえる。で、大切なのは、今の日本の教育現場や仕事の現場で欠けているのは、この「考える力」だということ。技術大国日本を復活させるのに必要なのは、まさにこの「自分で考える力」なのだ。この力を科学だけでなく、経済や歴史分野でも身につけたいものだわね。
 

『いだてん』は大河を変えられるか

2019/7/18

 NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』が記録的な低視聴率だそうだ。しかし、このコラムでも何度も書いてきたように、じっくり見たい番組ほど録画して見るわけで、「高視聴率=人気がある」わけではない。若い人やネット世代は日曜の夜にリアルタイムでテレビなんか見ていない。
 内容や作品の出来についてもいろいろ言われているが、忘れてはいけないことが一つある。「主人公や主要登場人物が人を殺さない」ということだ。
 戦国時代や江戸末期~明治にかけてのドラマでは、主人公は生涯何人もの人を殺し、だましたり裏切ったり寝返ったりする。それを「偉人」として美化するドラマを長年日曜の夜に見てきた人たちが「今年の大河はついていけんわ」と離れただけだ。
 金栗四三、人見絹枝、嘉納治五郎といった人々を「歴史的に無名」と評する記事も散見されるが、彼らを知らない日本人が多いという現状こそが問題だ。
 権力者同士の武力闘争や政治クーデター事件を「天下統一」とか「維新」などと美化するのではなく、悲惨な時代、理不尽な経験の中でもつぶされることなく、自分の信念を貫いた人たちの物語を発掘し、広く伝えることこそがNHKが作るドラマの使命ではないだろうか。その意味で『いだてん』は大河ドラマに革命を仕掛けているのだ。
 今後注目したいのは、1936年ベルリン五輪マラソンで、当時日本が統治していたため「日本選手」としてマラソンに出場して優勝した孫基禎(ソン・キジョン)と同3位の南昇竜両選手どう描くのかだ。まさか無視はないよね。頑張れクドカン&大根仁!

「吉本問題」は「お家騒動」ではない

2019/8/8

 宮迫博之&田村亮の「涙の訴え」と、それに続く岡本社長の「ヘロヘロ会見」で国民的大関心事へと発展した「吉本騒動」。テレビは連日時間を割いて報道していたが、あるタイミングで一気に萎んだ感がある。
 その転換点は、カンニング竹山(サンミュージック所属)が『ビビット』(TBS)や『直撃LIVE グッディ!』(フジテレビ)で、吉本興業が「国レベルの行政にガッツリ入ったビジネスをやっている」ことに触れたあたりだったと思う。
 特に7月24日の『グッディ!』では「クールジャパン機構の問題ですよね。それで最大100億ですよね、22億の金が動いてますよね。もう1個は、辺野古の移籍問題の跡地の問題ね。それも政権と一緒に入ってますよね。大阪万博の問題も入ってますよね」などと発言。司会役の安藤優子は青ざめたような顔で完全にスルー。スタジオ内に張り詰めた異様な緊張感は視聴者にも伝わってきた。
 ここにきて、勘のいい視聴者はすべてを察したはずだ。そうか、これは吉本という「お笑い企業」のお家騒動などでは留まらない問題だったのか、と。
 本来ならこういう問題にこそメディアが切り込んでいかなければならないはずだ。クールジャパン機構のデタラメな運営ぶりは去年あたりから一部のメディアが報じているが、マスメディアは触れようともしない。そこに「一芸人」が切り込んだ。
 それにしても、宮迫&亮といい、竹山といい、芸能界で生き残る芸人たちの胆力はすごいなと、改めて思う。その「力の使い方」で人間性が分かるんだね。竹山は芸能界で干されても、政界進出の道がある……かな?
 

令和になり終戦特集番組に変化?

2019/8/22

 8月6日・9日は、米軍による広島、長崎への原爆投下の日。15日は昭和天皇がラジオで敗戦を宣言した日。毎年この時期はテレビが終戦記念特番を組むが、年を経るごとに内容がおざなりになっていた感がある。
 しかし今年は少し変わった印象がある。NHKは9日の長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典の中継で、長崎市長が「日本政府に訴えます。(略)日本は唯一の被爆国の責任として、一刻も早く核兵器禁止条約に批准、署名してください」と訴えた部分を「要点」の1つとして伝えた。
 また、初代宮内庁長官が昭和天皇との対話を詳細に書き残した「拝謁記」の発見・入手を、『NHKスペシャル』だけでなく、定時の通常ニュース番組中でもかなりの時間を割いて紹介した。天皇の戦争責任や、天皇制そのものの議論は長いことタブー視されてきたが、一歩踏み出しせのだろうか。
 Nスペでは「全貌 二・二六事件~最高機密文書で迫る」も、軍事クーデターというものが簡単に起こりうるという怖さを教える、見応えある内容だった。 さらに『NHKニュースウォッチ9』では、戦前戦中の「国防婦人会」の実際を貴重な実体験者の証言などを交えて紹介。戦争という狂気に邁進していく最大のエネルギーは、一部の政治家や軍人だけでなく、それによって動かされる大衆にこそ内在していることを教えていた。
 他にもいろいろあったが、何か天皇が代替わりしたことで、テレビの世界でもタブー意識が少し薄れ、戦争にまつわる正確な歴史を伝えようという気持ちが少しずつでも形になってきたのかなと感じる。本当にそうならばいいのだが……。

岡田惠和の凄さを見たこの夏

2019/9/5

 NHK連続テレビ小説『ひよっこ』以来、脚本が岡田惠和のドラマは必ず見ることにしている。この夏は『セミオトコ』(テレビ朝日)と『そして、生きる』(WOWOW)という2つの新作が放送された。内容もテイストも正反対と言えるドラマを同時期に仕上げる岡田の凄さに改めて感心させられた。
『セミオトコ』は民放地上波のドラマで、ジャニーズのアイドル・山田涼介が主役。山田のファンである女性たちを満足させるお洒落な話題性を要求される。難しい条件をクリアしながら、大人が見ても楽しめるテイストを入れた「技あり」作品だった。
 一方、WOWOWのドラマは地上波ではやりづらいシリアスな内容も許容される。有村架純と坂口健太郎が主演で、3・11の被災地ボランティアで知り合うという設定を知った段階では、きれいなラブストーリー仕立てかと思ってあまり期待していなかったのだが、その予想はそれこそ「きれいに」裏切られた。
 主人公・瞳子(有村)にストーカーばりにへばり付いて、ついには結婚する高校の後輩の設定が特に興味深かった。ソーラーパネルを売りつける怪しい会社の社長に心酔しているという伏線がちゃんと回収されたときは「さすが!」と拍手を送った。こういう「いいやつなんだけど、世の中の真相・深層を見抜けない人間」のダメさ、弱さ、ずるさをしっかり描くドラマ脚本は少ない。見ていて辛くなるからだ。それを「WOWOWならやれる」とやった岡田は凄い。
 ただ、「あれで数年懲役の実刑はありえんだろ」とか、あまりにも都合のいい偶然が続くのは雑だったけどね。これからも岡田脚本はマークしたい。


台風被害よりタマネギ男が重要?

2019/9/19

 9月9日未明に神奈川県三浦半島~東京湾~千葉県というルートで関東地方を襲った台風15号の被害は甚大だった。
 9日午前、台風が通り抜けた直後の東京都内では、菅官房長官が「政府一丸となって被害状況の把握に努めるとともに、災害応急対策などに全力で取り組んでいる。国や自治体からの最新の情報に注意し、冷静に対応していただきたい」と記者会見で語ったが、なんと政府はこの時点で災害対策会議を開くこともせず、2日後の内閣改造の準備を進めていた(最初の災害対策会議は翌10日午後2時半)。
「首相動静」を見ると、9日も10日も台風被害に対しての対応をしている様子はなく、もっぱら11日の内閣改造の準備。11日は終日新内閣発表にかかりきり。
 政府の対応もひどいが、もっとひどいのはテレビの報道だ。10日午後の番組欄を見ると「韓国疑惑のチョ・グク氏を法相に」などという見出しが並び、その後は「小泉進次郎初入閣」祭りと化したような報道ぶり。
 この台風がほんの少し北を通っていたら、都心部で同様の被害が起きていただろう。そうなっても、政府は内閣改造をしていたのか? テレビは進次郎だの韓国のタマネギ男だのを報じていたのか? 東京以外は「日本」ではないのかといいたい。
 週末になってようやくワイドショーなどでも被害状況を報道し始めたが、「大変です」というばかりで、なぜ対応が遅れているのか、被害を最小限にするにはどうすればいいのかという「社会システムの問題」を論じない。こうした「報道の劣化」そしてそれに鈍感・寛容な国民性こそが、日本の安全保障上、大きな問題なのではないか。

世界陸上の中継はかなり改善?

2019/10/7

 世界陸上ドーハ大会が終了した。毎回TBSが独占中継で、その関係でか、他局ではニュースのスポーツコーナーでさえほとんど扱われない。地上波でTBS系列が放送されていない秋田、福井、徳島、佐賀の各県の人たちがいと不憫なり。
 毎回、極端な中継内容や織田裕二の騒ぎっぷりに辟易しながら我慢して見ていたのだが、今年はずいぶん「改善」されたようだ。地味な種目や日本選手が出ていない種目もちゃんとフォローしていたし、見どころ解説もかなりまともになっていた。
 男子競歩が有望なのは大会前から分かっていたが、しっかり二種目で金。完全中継が光る。
 選手のインタビューに石井大裕アナ、リポーターに高橋尚子を起用したのもよかった。日本選手だけでなく、外国選手も捕まえてレース後のインタビューをしていたのはぐっじょぶ。彼の英語聞き取り能力には驚いた。
 欲を言えば、屋外競技場なのに巨大な冷房を装備したり、競技場全体をプロジェクションマッピングするといった「超金持ち国ならではの特殊性」について、裏側をリポートしてほしかった。中東の産油国はどれだけ金持ちか。国民の暮らしぶりはどうなのか。さらには、世界を揺るがせている中東問題の中で、カタールはどういう位置にあるのか。今年のNHK大河ドラマは、戦争とスポーツというテーマに取り組んでいるし、現代における巨大スポーツ大会が抱える問題を考えさせるような工夫があれば興味深く見られたかな。
 最後に、男子4×100mリレー後にサニブラウンがインタビューで発した「やっぱあいつら速いっすね~」は、今年の流行語大賞候補かな~。

台風19号テレビ報道の反省会

2019/10/17

 台風19号の被害は凄まじいものになった。あまりにも広範囲にわたり、テレビの報道が追いつかなかった感がある。それでも、避難の呼びかけなどをもっと早くからするべきだった。
 各地で豪雨や河川氾濫の被害が出始めている10月12日土曜日午前、特別番組を組んでいたのはNHKだけで、首都圏広域の民放各局は、タレントがものを食べたり、のんびり山を散策したり、アイドルが漢字を読めるかのクイズなどを流していた。
 午後になっても、箱根町が観測史上ぶっちぎりの降雨量を記録し、大雨特別警報下にある中で「箱根厳選お持ち帰りグルメ50選、全部食べきれる時間はどんだけ~」などとやっている局があった。豪雨で報道陣が箱根町に近づけない時間帯にだ。
 民放各局は、災害報道で現場に派遣できる人員がせいぜい十数名だという。それなら、普段バラエティなどを作らせている社外制作会社を使った緊急態勢を日頃から準備するとか、ネットを駆使した情報分析・発信センター的なチームを組んでおくなどの対応を考えるべきだろう。
 流言飛語を防止するためには、地方局の社員だけでなく家族も含めて、非常時のボランティア的報告員制度のようなものを作るのも有効かもしれない。
 被害が起きてから現場に行って「こんなに悲惨な状況です」と刺激的な絵を出すのがテレビ災害報道の第一使命ではない。被害者を1人でも少なくするために、被害が起きない段階で、正確な予測をし、避難準備などを呼びかけることのほうがはるかに重要な使命だ。工夫・努力を重ねて「報道の○○」と呼ばれるテレビ局をめざす局が1つくらいあってもいい。



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