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のぼみ~日記 2026

2026/10/27

福田康夫氏の死

10月22日、福田康夫氏が心不全のため東京都内の病院で死去したことが報じられた。90歳と98日の生涯だった。
90歳で死去というのは親父と同じだ。親父は1928年生まれ、福田氏は1936年生まれ。

これで思い浮かべたのが、2009年頃に書いた『人類を養殖している生物がいる』 という小説の中の一節だ。
そこに、福田内閣退陣の話が出てくる。
●悪友トミーが語る、安倍・福田・オバマと神の関係

 話は少し飛んで、2008年秋。
 ときの首相・福田康夫は、突然総理大臣を辞任すると表明し、メディアを騒然とさせた。
 ちょうど一年前には、やはり安倍晋三が同じように首相の責務を投げ出している。
 二代続けて首相が突然に職務放棄をしたことで、世間は呆れ、怒ったものの、日本人の従順な国民性ゆえか、騒乱の一つも起こることはなかった。
 政治家の責任感がどうのこうのという以前に、私はなぜ二人の人間が同じように「心変わり」をしたのかが気になった。
 共通しているのは、自衛隊によるインド洋沖の給油活動を継続するのが難しくなったときに、突然、職務を投げ出したということだ。
 日本国内の経済問題などではない。多くの国民が納め続けてきた年金の記録が失われたり改竄されたりという信じがたい事態においても、首相が辞めることはなかった。しかし、アメリカ絡みの問題となると、日本の首相は、突然、何かがはじけたように行動する。
 安倍の前の首相、絶大な人気を保っていた小泉純一郎も、ことアメリカのこととなると、感情剥き出しで叫んだものだ。
「日米同盟なくして日本の平和が守れるとでも思っているのか」と。 
 郵政民営化選挙と言われたあの騒動が、実は、アメリカが、郵貯や簡保の巨大な金を狙えるようにするためのものだったということは、多くの人が指摘していた。しかし、そのことを、なぜか日本のメディアは深く追及しなかった。
 結局、日本の総理大臣はアメリカが決めているのだなと、私はだいぶ前から思っていたが、インターナショナルスクールの同級生であるトミーに言わせると、「その程度の認識じゃあ、まだまだ甘い」のだそうだ。
 トミー・ボアナムは、私のインターナショナルスクール時代、いちばんの悪友だった。怖ろしく頭の回転が速く、要領がいい。いつも遊びや悪戯のことしか考えていないように見えて、試験の点数はしっかり取る。友達、というより、取り巻きが頭抜けて多い。
 煙草より前にマリファナを、しかも中学生のときから経験済みで、高校を卒業する頃には「飽きた」と言っていた。もちろん、ばれて捕まったりといったヘマはしない。
 中学時代には誰よりもギターがうまく、ロックバンドを組んでいる友人たちを馬鹿にしながらジャズをやっていたが、高校生になると、サックス、フルート、それに尺八もマスターしていた。
「金髪のガイジンが和楽器をやるってのがおいしいんだよ」
 と言っていたが、うぶな私は、その「おいしい」の意味が分かるまでずいぶん時間がかかった。

(略)

 話は福田首相がなぜ突然辞任したのかというところに戻った。
 トミーは、チリ産の赤ワイン──これはあまり高そうではなかったが、お気に入りらしい──を二つのグラスに注ぎながら言った。
「要するに、触れてしまったわけさ。彼らは。小泉、安倍、福田……。何も知らないまま首相になった彼らは、あるとき、ある者たちから頃合いを見計らって知らされる。世界がどのように進んでいるのかという真相を」
「首相になると知らされるのかい?」
「いや、そうじゃない。知らせるに値する人間かどうか、知らせたほうが動かしやすい人間かどうかによるね。
 俺が思うに、初めて知らされたのは細川護煕だったんじゃないかな。彼の辞め方も実にあっさりしていた。あっさりというのは少し違うな。そう見えただけかもしれない。
 まあ、知らされたときの反応は人それぞれだからな。
 小泉は「この世界の真相」の一端を知らされて驚いたけれど、自分がそれを知らされるだけの存在になったことに感激し、支配者グループの末席に座って生きることを選んだ。
 安倍と福田は、恐らくは世界の裏を知って空虚感に襲われた。自分たちの残りの人生を考え、与えられた役を演じるだけの舞台から降りることを決めた。残りの時間は、好きな者たちとおいしい料理を食ったり、楽しいことに興じて時間の経つのを忘れながら生きたい。そう思ったわけさ」
「ずいぶん抽象的な言い方だね。彼らは何を知らされたというんだ? そして、誰から知らされたんだ?」
 私は訊いた。
「誰から、といえば、アメリカ政府を動かしている集団の誰かだろう。日本の首相が直接コンタクトを取れる人物といったら、そのレベル止まりだろうから。何を、といえば、この文明社会がもうすぐ終わるということをさ」
「終末論か」
「そう。この世は終わる。いつ終わるか、どう終わるかが問題なのであって、終わること自体はすでに決まっていること。この世が終わることは神によって決められたことなんだから、我々人間がどうこう思い悩んだところで仕方がない。
 今、世界を動かしている、あるいは動かしていると思っている人間たちの関心事は、自分が生きているうちに終末が来るのかどうかということ。あるいは、自分が終末にどう関わるのかということであって、世界が破滅しないようにするにはどうするか、ではないんだ。
 ところが、確たる世界観を持たない日本人には、このことは想像もつかないらしい。世界の指導者と言われている人間が、世界が終わることを既定の事実として受け入れている、という大前提がね。
 世界は続くと思っている。二酸化炭素で地球温暖化が進むなんていう、子供でも見抜けるような嘘を、能天気に信じ込んで疑わない政治家がいっぱいいる。それもトップクラスにだよ。
 まさか、きみはそこまで鈍感ではないだろう? アラン」
 そう確認され、私は中途半端な笑みを返すしかなかった。
「で、終末へのカウントダウンはどのへんまで進んでいるんだ?」
 私はそう訊くことで、トミーの話を促した。
「どうなんだろうね。俺は世界を動かしている連中とのつきあいはないからね。ただ、いろいろ想像することはできる。
 例えばアメリカの大統領選。これは当初、三つくらいのシナリオが用意されていたんだろうと思う。
 一つは、ブッシュよりはまともに見える共和党の大統領を据えて、中東問題をさらに悪化させていくという荒っぽいシナリオ。
 二つめは、ヒラリーを使って、穏やかに世界を動かしていこうとするもの。
 三つめは、オバマを使って、劇的変化をしたように見せかけ、裏では一気に世界の操作性を向上させようというもの」
「誰が大統領になっても、結局はコントロールされるわけだ」
「それはそうさ。ただ、コントロールのしやすさと、世界の騙しやすさが違ってくる。
 まず、共和党政権はコントロールしやすくても、これから先、うまく機能しなくなっていく。世界の反発が強まるからね。
 それと、共和党政権のほうが、周囲に頭のいい人間が少ない。退役軍人や軍需産業コネクションは、一つの方向に動くのは早いけれど、現場でのやり方が雑なんだな。
 二期続いたブッシュ政権で、その雑さ、荒っぽさが限界まで来ていた。だから、今度は民主党政権の番だったんだが、ヒラリーよりはオバマのほうが簡単に扱える。ヒラリーには自我があるけれど、オバマは作られた人形だからね」
「オバマはロボットだと?」
「突然現れ、涼やかな弁舌で大衆を魅了する。あまりにもできすぎていると思わないか? あれだけ巧妙に作られた道具は久しぶりに見たよ。
 普通に考えれば、黒人が大統領になるなんてことはありえないことさ。それに、オバマはアメリカ生まれでもない。ハワイの病院で生まれたというのはでっちあげだ。それがあっさり大統領候補になるというのは、よほどオバマという道具が動かしやすいということさ。
 ヒラリーはもともと支配者グループの一員だから、彼らにしてみれば身内を表に立たせることになる。いちばん楽な方法に見えるけれど、彼女のキャラクターに不安がある。彼女は自我が強い。最後の最後は、自我が残る。コントロールする側としては、そのひとかけらの自我が失敗の原因になることを恐れた。
 オバマにはそれがない。最初から純粋な道具だからね。巧みな弁舌で、人々に一時の夢を見させるためのマシーン。オバマは自分の考えで何かをすることはない。
 世界の終わりを前にして、管理者集団は精密な道具を用意し、最終的にはそれを選んだ。
 大統領選はオバマが勝つよ」
「決まっているのか?」
「決まった。本当はとっくに決まっていたんだよ。一時期、民主党候補をオバマにするかヒラリーにするかで、オバマで行きたい外交問題評議会*と、ヒラリーを推すメンバーも多かったビルダーバーグ会議*との間で最終調整が若干遅れたけれどね。民主党候補にオバマを選んだ時点で、もう決まりだった。ロックフェラーからの資金援助もある」
 トミーはまるで秘密会議のその場に居合わせた記者のような口調で言った。
「決まりだったのに、また揉めたのか?」
「いや、揉めるというほどじゃない。アメリカは今、大きな経済問題を抱えているんだ。大統領選が終わったらすぐに、相当荒っぽいことをやらなくちゃいけない。それをやるためには共和党政権のままのほうがやりやすいという意見が守旧派連中から出たんだが、そういう無茶をサクッとやるためにこそオバマを大統領にするんじゃないか、という主流派の主張に、結局は折れざるをえなかったようだよ」
「大統領選直後にやらなければいけない荒っぽいことって?」
「不動産バブル崩壊の後始末さ。
 ゴールドマン・サックス*やモルガン・スタンレー*といったアメリカ金融界のトップ企業に、巨額の公的資金投入をするはずだ。おそらく5000億ドル以上。ひょっとしたら1兆ドルに迫る金額になるかもしれない」
「1兆ドル? ざっと100兆円ってことだぜ。日本の国家予算の額だ。ちょっと信じられないな。なぜ超大手金融にそんな大金が注ぎ込まれるんだ? ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーがそんなに危機に陥っているのか?」
「これはね。サブプライムローン*という詐欺的な低金利商品を売りまくって、回収不能になったことが原因なんだが、連中はそれを危機だとは思っていない。最初から破綻は分かっていたし、それを利用して逆に焼け太りすることも計算済みだからね。
 ゴールドマン・サックスなんかは、その前にもしっかりボロ儲けしている。住宅ローン債務担保証券ってやつを1000億ドルも売っているんだ」
「債務担保ってことは、サブプライムローンの破綻で大損するんじゃないのか?」 
「表向きはね。でも、その証券を空売りして逆に儲けている。『逆張り』っていうんだが、証券価格が高騰しているときに、傘下のトレーダーを使って下落を予想した空売りをするのさ。これで、証券会社本体は数十億ドル規模の損失を出したことにしながら、裏ではそれを上回る利益を上げているんだ。
 オバマ政権ができたら、今度は会社が破綻すると言って公的融資を受け、焼け太りするだろう。だから、ちっとも危機じゃない。おいしい儲け話なのさ」
「う~ん……」
 もとより金の話にはあまり詳しくない私は、それ以上、突っ込むこともできなかった。そんな私のためにか、トミーはごていねいにこう続けた。
「な? アラン、これが現実なんだ。
 サブプライムローンという詐欺に近い金融商品を支えたのは、アメリカ国内の金だけじゃない。世界中の金融機関であり、そこに預金している人たちだ。だけど、金融機関の人間はともかく、善良なる預金者たちは、自分たちが被害者だとは思っていない。
 兆の単位の金というのを、一般庶民は想像できない。どんなに巨額な金でも、それを支えているのは自分たちの稼ぎなのに。哀しいことだな。
 こんなことを個人がやったらたちまち逮捕され、処罰される。でも、国家をまたぐ規模でやれば通ってしまう。
 で、今はもう少し巧妙な詐欺も出てきている。環境ビジネスというやつだ。
 集めた資金を地球温暖化対策などの環境事業に充てるというふれこみの環境支援型外債*ってやつを知っているか? これもサブプライムローンと同じ仕組みだな。
 ビジネスとしてもともと成り立たない事業に対して、世界中の金融資本から金を集め、無理矢理事業を進めさせる。環境と言われると無条件にいいことだと思いこむ大衆につけこんだ、世紀末的な金融詐欺だな。低所得者向けのローンなんていう名目よりはずっと騙しやすい。
 環境ビジネスの多くは、エネルギー収支を無視したイメージ先行のものだから、純粋な事業としては成立しないんだが、政府からの補助金に加えて、民間からも莫大な資金が注入されることで、しばらくは突き進むことになる。不動産バブルと同じだよ。結果として、ますます地球環境は破壊される。
 今の環境ビジネスバブルが破綻するときは、環境破壊と資源枯渇がさらに進んで、地球という土台そのものが破壊されたときだ。もはや担保するものは何もない。いくら公費を注ぎ込んでも、地球の生態環境や資源の枯渇を修復することはできないからね。
 それでも、こういう手法が通じるうちは、資本を持っている者が一般大衆からとことん金を吸い上げていく。国や投資家はひたすら巨大金融資本が倒れないように支え続ける。
 ……これが現代社会の構図なんだよ」
「なるほどね。で、金の話以外ではどうなるんだ?」
「オバマ政権ができた後の世界の動向ってことか?」
「ああ。外交面というか、国家間のパワーゲームはどうなっていくんだい?」
「外交面では、そうだな、ブレジンスキー政権とでも呼ぶべきものが作られるだろうよ」
「ブレジンスキー政権?」
 意外な名前が出てきて、私は思わず問い返した。
「そう。あのブレジンスキー*。カーター政権のときの大統領補佐官。外交問題評議会のメンバーで、彼がオバマの外交補佐を務めることが決まっている。
 もういい歳だけれどね。自宅のテニスコートで溌剌とテニスをプレイしているそうだよ。体力も知力も並はずれている。表に出てくる人間──つまり、我々が名前と顔を知ることができる公人としては、最も優秀な一人だろうね。
 彼は相手によって言葉を変えることを知っている。公の場ではしごくまともなことをズバズバと言って、信頼を得る。イラク戦争はブッシュ政権最大の罪だというようなことをね。しかし、特定の人間を相手にしたときは、うまく心を掴む話し方や内容に変えてくる。戦争好きの金持ちを相手にすると、人間がみんな平等で同じ価値の命を持っているなど戯れ言だ、というようなことを平気で言う。何を考えているのか、我々凡人には見抜けない」
「我々凡人……って、僕はともかく、ここまで世界情勢に詳しいきみは、凡人には見えないけどね」
「いや、俺が言っている『凡人』というのは、能力のことじゃない。世界をコントロールするゲームに直接参加していない一般の人間、その他大勢の人間、という意味さ。その意味では、俺は純粋に凡人だよ。だからこうして与太話もしていられる」
 そう言うと、トミーはワイングラスを軽く持ち上げる仕草をして笑った。
「とにかく、オバマが大統領になった後の世界は、今までよりはずっと巧妙に、しかし加速度的に終末へと突き進んでいくんじゃないかな。
 お膳立てはブッシュ政権という大味な道具で作った。911*のような荒っぽいお芝居も、一応成功したと言っていいだろう。後はブレジンスキー政権、あるいは、彼と同等の能力を持った補佐官や政務官、アドバイザーらによって動く新政府によって、ていねいに仕上げられていく。……そんな気がするね」
 そこまで言うと、トミーは一口でワイングラスを半分ほど空にした。
「しかし、なぜそんなに世界を終わらせることに執着するんだ? その……支配者グループだかなんだかは」
 私は訊いた。
「そう決まっているからさ。いや、神がそう決めている、と言ったほうがいいのかな。
 出来でいえば、ブッシュとブレジンスキーでは公衆便所の落書きとピカソの作品くらい違うだろうが、共通しているのは神との契約を信じているということさ。
 この世界はいずれ終わる。そのときに自分は、神によって選ばれた人間になる。たとえ肉体が死んでいたとしても、神の手によって精神が復活する。……そう思っているのさ」
「肉体が死んでいても精神が復活する? どうやって?」
「そんなことは分からないさ。我々凡人にはね。いや、多分、連中だって正確には分かっていないと思うよ。想像はできるだろうがね。
 俺は、今までいろんなやつと、世の終わりの後に来る『千年王国*』と呼ばれる新世界のイメージについて話してきた。
 ある者は、石油エネルギーに代わる新エネルギーがもたらされると言った。
 ある者は、遺伝子工学の進歩によって、肉体が滅んでも精神の入れ物をいくらでも更新できる不老不死の世界が来るのだと言っていたな。
 そうした、今の人類にはない技術と知識を、神は選ばれた人間たちだけに与えてくれるのだ、というイメージらしい」
「とても分かりやすいね。しかし、いずれにしても、その前に多くの人間が死ぬわけだろう? 神によって選ばれなかった人間は一掃される、と」
「そういうことだな。地球が舞台である以上、ここで幸福に暮らせる人間の数には限りがある。一説には、適正数はせいぜい五億人程度ではないかということだね」
「五億? 生き残るのは一割もいないのか?」
「そうだな。でも、五億というのは、産業革命の前の世界人口だよ。ほんの三百年かそこいらの短期間に、人間は異常繁殖した。今の人口は明らかに過剰なんだ。
 世の終わりが神によってプログラムされていてもいなくても、これ以上人類が増え続けることはできない。石油文明を発展させるために、ある程度の世界人口は必要だった。でも、残された資源の量を考えれば、これ以上、石油やレアメタルを使う人間が増えていくのは困る。選ばれた少数の人間が、残った資源ときれいな環境を使って楽な生活を続ける。そのためには、増えすぎた余剰人口はバッサリと切り捨てる必要がある。
 その計画をスムーズに進めるためには、大衆には現実を知らせないようにしなくてはいけない。常温核融合*で究極のエネルギーが得られるだの、二酸化炭素が増えて地球が温暖化しているだのといったデマをメディアを使って流してきたのも、最終的には、大衆に現実を悟らせず、技術の進歩で未来が開けると思わせるための策さ」
「策って、誰が考え出した策なんだ?」
「誰って言われてもねえ。俺は何度も言うように、凡人、一般大衆の側だからね。神に選ばれた人間じゃない。
 神や、神に選ばれた人間について、俺には今ひとつ具体的なイメージが掴めていないんだ。計画を進めている連中にしても、彼らが神に選ばれているのか、つまり、千年王国に生き残れる人間なのかどうかは怪しいと思っているよ。神はそんなにお人好しじゃないかもしれない。生き残る人間は確実にいるだろうけれど、それがどういう基準で選ばれるのか、俺には分からないな」
「じゃあ、それは漠然としたイメージということでいいよ。例えば、僕もきみも、生き残るほうには入っていないってことだろう?」
「多分……ね」
「ましてや、人間の活動によって排出される二酸化炭素の量を減らせば地球環境を延命できるなどと思いこまされている大衆は、最初から死ぬほうに算入されている。そういうことか?」
「まあ、そういうことなのかなあ。ひとつ確実に言えるのは、能天気な理想論も、大衆向けの宗教も、すべては死んでいく者たちへのモルヒネだってことさ。大衆の善意に訴える巧妙な麻酔薬だな。
 さらに細かいことに目を向ければ、この国、日本では、これから先、理不尽な暴力犯罪や、有名人がつまらぬ罪で断罪されるといった事件が増えていくはずだ。一般大衆の思考力を鈍らせ、視点を逸らせ、感覚を麻痺させるためにね。
 創造性を堕落させるような社会、投機的な生き方と、それの惨めな最後。そういうものを目の当たりにするうちに、人間はどんどん生きる意欲が失せていく。しかし、追いつめられ、苛立ってきても、どこかで、自分たちはまだ幸せなんだと言い聞かせたい。
 この状態が進むと、社会にまとまったエネルギーや方向性が生まれてこない。個人はますますバラバラに生きていき、共通認識というものが芽生えない。暴動を起こすほどのエネルギーが蓄積されない。
 一方で、イスラム圏の一部のように、宗教がまだまだマインドコントロールの道具となりうる世界では、怒りのエネルギーを一つの方向に集中させることで自爆的な世界を加速させることができる。その方法が有効なうちは、まだまだ地域的戦闘による破壊は続くだろうね」
 そこまで言うと、トミーはほとんど空になったワイングラスをちょっと傾けて、乾杯の仕草をした。
 私は黙って、自分のグラスに初めて口をつけた。
「ただねえ……」
 トミーはそう言うと、数秒唇を歪めたまま黙り込んだ。話題を変えようとする、あるいは、自分で自分のお喋りを仕切り直そうとするときの彼の癖だった。
「今こんなことを話している自分が、何者かにうまくコントロールされているんじゃないかと思ったりもするのさ」
 どこまでひねているのだろう、と、私は苦笑した。
 トミーは少し背伸びするようにして椅子から立ち上がると、壁のスイッチに触れた。
 部屋の奥でブラインドが電動で開き、かすかにライトアップされた庭が目の前に広がった。
 その動作があまりにも自然だったので、どんなもんだと見せびらかすような仕草には見えなかったが、都心の一等地にある庭付き一戸建てに一人で住んでいるということに、私は素直に圧倒された。
 庭を誉めるのもちょっと癪だったので、こう言ってみた。
「きみが金持ちだということは聞いていたけど、なんとなく、六本木ヒルズみたいな、見晴らしのよい高層マンションの部屋に住んでいるんだと想像していたんだ。こんな風に、地面の上に住んでいるとは意外だったよ」
 それを聞いて、トミーは笑って答えた。
「俺は高所恐怖症なんだ。高い金を出してわざわざ危険な高層ビルに住むような真似はしないさ。地震でエレベーターが止まった高層ビルに取り残される恐怖を味わいたくないし」
「911みたいにテロリストが運転した飛行機が突っ込んでくるかもしれないし?」
「日本では、それはないだろう。WTCビルのように、こっそり爆薬を仕掛けるのは難しいからな。テロへの恐怖を植えつける芝居として、爆弾テロのようなものはあるかもしれないが、それをやるとしても、ターゲットはデパートとかのほうがやりやすいだろう」
「爆薬を仕掛けるって……?」
 私はトミーの言葉が理解できずに訊き返した。
「WTCのことさ。……え? おまえ、まさか知らないわけじゃないんだろう? 911がアルカイダとかいうテロリスト集団による犯行だと信じているわけじゃないよな?」
「いや、いろんな陰謀説があることは知っているけれど……」
 相手がトミーでなければ、もっと普通に答えるのだが、トミーに言われると途端に自信がなくなる。咄嗟に曖昧な答えをしたが、トミーにはすぐに見抜かれてしまった。
「呆れたなあ。今までの俺の話をちゃんと聞いていたのか? がっくりくるぜ。
 航空機が突っ込んで外壁に穴が空いたところで、高層ビルがきれいに崩れ落ちるなんてことはありえない。しかも、飛行機がかすってもいない、いちばん離れていた第7ビルが一瞬で崩れ落ちた件に至っては、冗談にもならないだろう?
 ペンタゴンに突っ込んだのは旅客機ではなく、米軍のミサイルだということも、まともな人間ならみんな知っている。それを、陰謀説だのなんだのといって、常識のない人間の戯言のように片づけようとする連中こそ、思考停止している。
 ああ、くだらん。まさかおまえさんがそのレベルの人間だとは思ってもいなかった。どっと疲れたよ。
 悪いな。うちには予備の寝具がないんだ」
 突然そう宣告され、私も気持ちが折れてしまった。
 スペース的には何人でも泊まれそうだが、トミーの性格からすると、ゲストルームなどというものは考えないに違いない。余分な寝具はないというのは嘘ではないだろう。
「ああ……長居してしまったね。帰るよ」
 私はグラスに残ったワインを飲むと、椅子から立ち上がった。
 表通りに出ればいくらでもタクシーが拾えると言うトミーに軽く手を上げ、私はトミーの家を出た。
 門を出て振り返ると、一人で暮らすには大きすぎる一戸建てが、シルエットとして、何か非現実的な映像のように浮かび上がった。
 私は少しだけ嫉妬と空虚感を抱きながら、空車表示のタクシーが横を何台も走り抜けていく表通りを歩き、地下鉄の駅へと降りていった。

(『人類を養殖している生物がいる』より)

2008年の退陣記者会見での発言「私は自分自身を客観的に見ることはできるんです。あなたと違うんです。そういうことも併せ考えていただきたい」がメディアで取りあげられ、「あなたとは違うんです(実際には「あなたと違うんです」)」が流行語大賞にノミネートされたりした。
小馬鹿にされたメディア側の仕返しのようなものだったのだろうが、メディアが何も分かってないのは今も同じだ。同じどころか、どんどん馬鹿になっている。

とにかく、真面目な人だったことは間違いないだろう。

福田康夫の前が、森喜朗~小泉純一郎~安倍晋三。
福田康夫の後が麻生太郎。
その後が鳩山由紀夫、菅直人と民主党政権になったのを、野田佳彦がぶち壊し、第二次安倍晋三からの長期政権へ。

振り返れば、福田康夫は、自民党が完全に壊れる時期に首相としてポンと投入されて、前後から腐ったパンに挟まれたサンドイッチ状態だった。腐ったパンに挟まれたら具も腐ってしまう。
じゃあ、具を入れ替えましょう、とやってみたものの、その具は防腐剤入りではなかったから、腐ったパンには勝てなかった。(しかも、具の中に腐敗菌誘導体が潜んでいた)
腐ったパンが挟んだ具を完全に腐らせた後の自民党政権は、もはや政治というものを放棄しているとしか思えない。

そんな救いようのないサンドイッチを横目で見ながら、距離を置いて添えられたパセリのように静かに生きていくしかない。でも、いつ捨てられるか分からないパセリだ。

ちなみに、小説『人類を養殖している生物がいる』には巻末に註が付いていた。引用部分に出てくる言葉だけ拾うと、

*6 ビルダーバーグ会議
 1954年から毎年1回開かれている、欧米の名士(王族、貴族、政財界有力者ら)が集まり、政治・経済・環境問題などを論じる完全非公開の会合。「陰のサミット」とも呼ばれる。実質上の主催者はロックフェラー財団とも言われ、2008年6月開催(バージニア州チャンティリー)の会議には、大統領予備選挙中のオバマが招待された。
 
*7 ゴールドマン・サックス
 アメリカ金融界を代表する世界最大級の投資銀行。ドイツ系ユダヤ人マーカス・ゴールドマンによって1869年に設立された。破綻した日本長期信用銀行(現新生銀行)をリップルウッド・ホールディングスが買収するときには、資金援助をして支えた。アメリカの歴代財務長官を多く輩出している。

*8 モルガン・スタンレー
 アメリカ有数の金融持株会社。いわゆる「リーマン・ショック」(世界的金融危機におけるリーマンブラザーズ倒産)直後には株価の大幅下落を起こしたが、2008年9月21日に連邦準備制度理事会の承認を受けて金融持株会社へ移行。翌週には三菱UFJフィナンシャル・グループと資本提携し、90億ドルの出資を受けた。
 
*9 サブプライムローン
 サブプライムとは、プライム(裕福)層以下、という意味。通常の住宅ローン審査には通らないレベルの人たちに向けたローン。もともと信用度の低いローンであり、実際に破綻した。

*10 環境支援型外債
 「地球温暖化対策」などを名目としたエコビジネスを支援する資金集めをする外国債。欧米の国際金融機関が、日本の個人資産、家計資産に狙いを定め、次々に商品を売り込んでいる。一例として、欧州投資銀行(EIB)は、2010年3月、レアル(ブラジル通貨)やランド(南アフリカ通貨)建てなど4種類の外債を200億~250億円規模で販売。調達した資金は風力発電や太陽光発電などのビジネス支援に使うとしている。

*11 ブレジンスキー
 ズビグネフ・ブレジンスキー(Zbigniew Kazimierz Brzezin'ski、1928年3月28日 -)。ポーランド出身。1958年にアメリカ市民権を取得し、アメリカ在住。カーター政権時の国家安全保障問題担当大統領補佐官。オバマ政権でも外政顧問を務めている。外交官だった父親の赴任地ベルリンでヒトラーの台頭を、その後の赴任地モスクワではスターリンによる大粛清を目の当たりにしている。
 
*12 911
 2001年9月11日にアメリカ合衆国で起きた旅客機4機を使ったテロとされる事件の通称。ブッシュ政権が行き詰まりを打開し、アフガニスタンとイラクに軍事行使するための理由を作る自作自演であったとする説があり、この陰謀説にまつわる書物の刊行も後を絶たない。一例としては、映画プロデューサーのアーロン・ルッソが、死の半年前、親交のあったニコラス・ロックフェラー(ロックフェラー一族の弁護士。中国を舞台にしたアジア経済界の再編などにも関係)との会話についてインタビューに答えた記録(聞き手はアメリカのジャーナリスト、アレックス・ジョーンズ)が公開されている。その中でルッソは、ニコラス・ロックフェラーが911事件の11か月前に、「これからアメリカである事件が起き、それをきっかけとして、我々はアフガニスタンに侵攻して石油利権を奪う。カスピ海からパイプラインを敷設するためだ。イラクにも侵攻して油田を確保し、中近東にアメリカの土台を築く。その次はチャべスのベネズエラに行く」と語ったと証言している。

*13 千年王国
 英語ではミレネリアリズム(Millenarianism)。聖書に預言された世界の終末の後、神が直接地上を支配する至福の時代が千年続くとする思想・概念。ヨハネの黙示録20章4節から7節が根拠とされる。

*14 常温核融合
 一般的な室温で、水素原子の核融合反応が起きるとされる現象。1989年に米英の大学教授がこの現象を発見したと発表して一大ブームを巻き起こしたが、その後、他の多くの科学者が追試しても実現せず、物理学の理論上もありえないと考えられることから、現在ではデマに近い騒ぎだったという見方が一般的。

……こんな感じの註だった。


人類を養殖している生物がいる

本書はルポルタージュではなく、「小説」として出版されることになるだろう。フィクションの形を借りなければ出版できない内容だからだ。
……と始まる、ジャンル分け不能のニュータイプ小説。
精神療法士を副業とする翻訳家アラン・イシコフが、インターナショナルスクール時代の学友たちとの再会や、異端の学者、怪しげなUFO研究家などとの接触を重ねながら現代人類社会の真相に迫っていく……。
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ぷちぷちサミット -コロナ禍という異常な時代に行われた異端者3人の秘密会議-

2020年から始まった、いわゆる「コロナ禍」という異常な社会の現出に呆れ果て、異を唱えていた3人の男たちがいた。 3人は、喧噪渦巻くSNSを避け、2022年4月から2023年9月までおよそ1年半、閉鎖系のネット談義を続けた。名づけて「ぷちぷちサミット」。
話題はコロナ禍の正体、それを仕掛けたと思われるグローバリストエリートたちの思考回路、AIを使った統一世界政府計画、果ては多次元世界観という哲学的な議論まで飛び出した。当時は「陰謀論」「トンデモ」と呼ばれて大っぴらに発言することが憚られるようなことが、今となってはより現実味を増し、心配された人類社会の危機がさらに迫ってきたと思える。特に、「世界をゲームと見なす支配層」や「脳のデータ化(メタバース)」といった内容はほぼ現実になっている。



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B6判・172ページ
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『真・日本史』第1巻~第5巻発売中


◆『真・日本史(1) -縄文時代~黒船来航まで-
1万年の平和を壊し続けた者たち』


◆『真・日本史(2) -幕末史「戊辰クーデター」の実相-
テロリストと欧米エリートが壊した「維新」』


◆『真・日本史(3) -馬鹿が作った明治-』

◆『真・日本史(4) 大正時代~二・二六事件 日本が壊れるまでの道』

◆『真・日本史(5)-「先の大戦」を知る-』

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★Kindle版もあります(0円~680円)。
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