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のぼみ~日記 2024

2024/06/23

馬鹿が作った明治

『馬鹿が作った日本史』の続編『馬鹿が作った明治』を、しばらく放りだしていたけれど、また書き続けようか、と考えているところ。
すでに書いた部分を読み直していた。
6回目の「廃仏毀釈という悪夢」に書いたことを半分程度にまとめてみた。

祭政一致の号令のもとに天皇親政という形を強調したのは、薩長と下級公家が幼い天皇を利用して徳川政権を武力クーデターで倒したという後ろめたさを隠すため。天皇のもとに国家を再統一したんですよ、という主張。大久保、岩倉、木戸らは、どうしてもこの論理を作り上げる必要があった。そのため、一時は力を失っていた旧水戸学派や国学系の学者・神職らが勢いづいた。
神仏分離というと、単純に神道と仏教の習合状態を解消させて切り離すことととらえられがちだが、江戸時代までの神仏にはありとあらゆる神様が含まれていて、これは神、これは仏と分けられるようなものではなかった。特に民俗信仰的なものはそう。女人講が道端に置いた素朴な如意輪観音像などはその典型で、形は仏かもしれないけれど、込められた思いは神道だの仏教だのという区別を必要としていない、根源的な祈り。そうしたものを、明治政府は「国家によって権威付けられない、認められない神」として切り離そうとした。

慶応4(1868)年3月には、全国の神社に別当、社僧と称して勤務している僧職身分の者に還俗が命じられ、従わない者は追放された。薩摩では、1066あった寺社すべてが廃寺とされ、僧侶2964人が還俗させられた。
比叡山延暦寺の鎮守神である日吉山王社の例を見てみよう。
慶応4(1868)年3月28日に神仏分離の布告が出ると、その4日後に、日吉社や京都の吉田神社、その他、全国から集まった神職や神官出身の者たちからなる「神威隊」数十名と人足50名からなる集団が日吉社に押しかけ、引き渡しを拒否する延暦寺を無視して、実力行使で仏像、仏具、経典の類をことごとく焼き払った。これを主導した一人が、当時、岩倉具視と親しく、神祇事務局権判事になっていた樹下茂国で、樹下は仏像の顔面を弓で射貫いて快哉を叫んだと伝えられている。
地域によっても破壊の程度は様々だったけれど、激しいところは激しかった。自分たちの先祖がなけなしの金を出し合って村の鎮守様に納めた仏像や宝塔などを破壊する。徳川政権が寺請制度によって領民を管理してきたために、特権階級化した仏教関係者が精神的に腐敗してやりたい放題をしてきたことへの反発が爆発した、文字通り、坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、という説明がよくされるが、はたしてそれだけなのか。尊皇攘夷を叫んで、テロリストたちが気に入らない人物を斬り殺していったような、無自覚な暴力的高揚感。幕末のそうした殺伐とした空気感が、民衆の心にも影響していったのではないか。
失われたのは仏像や仏具などの「もの」だけじゃない。人々の心の中からも大切なものが失われていった。
素朴な信仰心というものだけでなく、自由な審美眼といったものも奪われた。
芸術は国が認定したものに限る、権威ある美術家・芸術家の作品はすべて素晴らしい、民間から生まれたもの、特に素朴なものや、伝統・定型を守らない異端のものには価値がない……そうした風潮が知らず知らずのうちに定着していった。
江戸時代に花開いた庶民の自由な文化は明治前半にはすっかり追いやられて、古くて権威のある美術品のコピーみたいなものがもてはやされた。
政府は神仏分離策を進めると同時に、「神社制限図」などを定めて、神社の様式や装飾品、備品を細かく規定していった。
美術や芸術の価値をも国家が管理し、決めるのだという姿勢が強く窺える。
美術や芸術の世界に再び庶民パワーが少しずつ甦ってくるのは明治後期から大正期で、定型や形式にとらわれない自由闊達な造形物がいろいろ現れてくる。それが昭和に入ると戦争の影響で、厳めしく、威圧的なものが目立つようになる。
明治は文明開化の時代とか言われて、何年に銀座にガス灯がついただの、横浜ー品川間に鉄道が開通しただの、スキヤキが人気になっただの、そういうことばかり強調されるが、庶民の心が本当に開放されたのかというと、逆だったのではないか。政治家の退廃ぶりを見ながら、せいぜい牛肉でも食って気晴らしするか……みたいな空気だったのではないか。
ともかく、神仏分離は廃仏毀釈という負の連鎖を生んだが、人々の心にも大きな変化を与えた。国家神道のもとに「お国のために命を捨てよ」みたいな方向に持って行かれる出発点だったかもしれない。
明治以降、太平洋戦争敗戦までの間、日本は戦争を繰り返した。外からうまく操られたという面も大きいが、内なる変化というのも大きかったのではないか。それを考えるとき、廃仏毀釈という全国的な事件が持っている意味は、簡単ではない。

……このへんのことがいちばん言いたかったことかもしれないので、これを書いた後、一気に疲れが出て、厭世気分になってしまったのかなあ。

明治政府を作った連中と、その後にはびこった薩長藩閥政治家や軍人たちが次々に悪政を敷き、戦争を繰り返し、ついには日本を破壊してしまった。
それを一つ一つ検証していく作業を考えると、どうしても憂鬱になる。
さてさて、続きは書けるのだろうか。




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