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のぼみ~日記 2020

2020/04/02

朝ドラ『エール』のモデル・古関裕而

NHK連続テレビ小説『エール』が始まった。作曲家・古関裕而をモデルにしたお話だそうだ。
最初の回で、1964年の東京オリンピック開会式で、古関が作曲した『東京オリンピックマーチ』が演奏される直前のシーンが描かれた。あのマーチの冒頭部分は覚えている。
ドードドドードド ドシラソラシド ソソシラソラ ソラソファ# ミファ# ソー (移動ドで表すとこう。キーはAb)
個性的なメロディのマーチだな~、という印象がある。
これを作ったのが古関裕而で、私と同じ福島市生まれらしい。今までこの人の名前は知っていたが、どんな作品を書いていて、どんな人物だったかなどまったく気にしたこともなかった。今回調べてみて、初めて「同郷」だと知った次第だ。
1909(明治42)年8月11日、福島の呉服店に生まれたという。その19年前の1890年(明治23年)には私の親父の父(私から見ると祖父)の鐸木巌が生まれていて、19年後の昭和3(1928)年には親父が生まれている。太平洋戦争開戦の年昭和16(1941)年には、祖父・巌は51歳、古関裕而は32歳、親父は13歳だったわけで、同じ福島市に生まれた3人は同時代を生きていたのだなあ。
で、終戦から10年後の昭和30(1955)年には、私が福島市に生まれている。
だからどうということでもないが、父親が買った(当時では極めて珍しい)蓄音機で西洋音楽に触れ、マーチ音楽風の作品を数多く書いたというあたりには似たものを感じる。
私も母親が買った電蓄で西洋音楽(覚えているのはハイドンの『おもちゃの交響曲』)を聴き、ピアノを使った音感教育を受け、小学生のときはマーチ音楽が大好きだった。小学校を卒業するときには、将来はJ・P・スーザのようなマーチ専門の作曲家になりたいと思った。

で、この『東京オリンピックマーチ』の他にどんなものを書いていたのか調べたら、非常に興味深いことが分かってきた。
終戦の翌年、古関は盛り場の賑わいの傍で、戦争のために手足を失った傷痍軍人が、義手や義足をはめ、眼帯をしながらアコーディオンの伴奏にのせて『露営の歌』や『暁に祈る』を歌っているのを見た。
「自ら作曲した歌で祖国のために命を捧げ、たとえ生き残ったとしても五体満足な姿でなくなったことを思うと悲痛な気持ちになった。古関は戦争責任追及を覚悟したのである」
古関裕而 軍歌とオリンピック・マーチ 大野 益弘

このへんのことを朝ドラではどう描くのだろうか。『エール』のWEBサイトを見ると、
時代は戦争へと突入し、裕一は軍の要請で戦時歌謡を作曲することに。自分が作った歌を歌って戦死していく若者の姿に心を痛める裕一…。
NHKのサイトによる番組紹介 より)
……とあるので、無視はしないようだ。
となると、どんな軍歌を作っていたのか。
いきなりこんなのがある。
「アメリカ爆撃」 作詞野村俊夫 作曲古関裕而 歌唱コロムビア男声合唱団 
再生されない場合は ⇒こちら

アメリカ 本土 爆撃
この日を 待ちたる 我等
祈りを あげながら 聴け
鳴り出す 警報(サイレン)を
あれはアメリカ 弔う歌だ
わめき 立つな も早や 遅い
我等は 荒鷲!

アジヤの 敵の アメリカ
悲鳴を 吐くまで やるぞ
この日の 来る時を 待ち
鍛えた この腕だ
笑って行かうぞ 翼の戦友
叩き のめせ 叩き つけろ
我等は 荒鷲!
(作詞・野村俊夫 著作権保護期間終了)

……すごいね。昭和17(1942)年3月に発売されたそうだ。
ちなみに作詞の野村俊夫は、『エール』の中では喧嘩の強い魚屋の倅として登場する。
「みんな揃って翼賛だ」は、作詞が西條八十。

作詞 西條八十
作曲 古関祐而

進軍喇叭で一億が
揃って戦へ出た気持ち
戦死した気で大政翼賛
皆捧げろ国の為 国の為ホイ
そうだその意気 グンとやれ
グンとやれやれグンとやれ

角出せ槍出せ鋏出せ
日本人なら力出せ
今が出し時大政翼賛
先祖ゆずりの力瘤力瘤ホイ
そうだその意気グンとやれ
グンとやれやれグンとやれ

おやおや赤ちゃん手を出した
パッパと紅葉の手を出した
子供ながらも大政翼賛
赤い紅葉の手を出した手を出したホイ
そうだその意気グンとやれ
グンとやれやれグンとやれ

岩をも付き抜く桑の弓
一億一心起つところ
御稜威仰いで大政翼賛
やがて東亜の春が来る春が来るホイ
そうだその意気グンとやれ
グンとやれやれグンとやれ

これはもうやけくそというか、むしろ逆説的反戦歌なのではないかと思うほど能天気な歌詞だ。音源は探しても見つからなかった。
……なので、「逆説的」ということで高田渡のこの歌を思い出したので、代わりに貼っておこうかな。

他に古関裕而作曲の軍歌はこんなものがある。
『露営の歌』 藪内喜一郎・作詞

これは超有名。軍歌といえばこれをまっ先に思い浮かべる人もいるだろう。
1937(昭和12)年に発表され、60万枚の大ヒットとなったそうだ。当時の60万枚というのはものすごいことだ。

『暁に祈る』 野村俊夫・作詞

いちばんヒットした曲だというが、初めて聴いた。いわゆる「銃後歌」の代表かな。これも古関の幼なじみ「魚屋のガキ大将」野村俊夫の作詞。

『愛国の花』 福田正夫・作詞 渡辺はま子・歌
長調のワルツだねえ。これまた初めて聞いた。
勇姿のあとを 雄々しくも
家をば 子をば 守りゆく
やさしい母や また妻は
まごころ燃ゆる 紅椿
うれしく匂う 国の花

1937年(昭和12年)にラジオの国民歌謡として作られ、1938年(昭和13年)4月20日、渡辺はま子の歌唱で日本コロムビアからレコード化されて大ヒットし、木暮実千代、佐野周二主演で映画にまでなったという。国防婦人会のテーマソングみたいなものだったのだろう。

『海の進軍』 海老沼正男・作詞

これも初めて聴いた。

若鷲の歌(予科練の歌) 西條八十・作詞

これも超有名。
命惜しまぬ予科練の
意気の翼は勝利の翼
見事轟沈した敵艦を
母へ写真で送りたい

……いっぱい出てくるなあ。
似たテイストの『同期の桜』も西條八十の作詞らしい。作曲者は大村能章とされているが、正確には西條八十が書いた『戦友の唄』という歌詞を替えたものだという。
後に回天の第1期搭乗員となる帖佐裕海軍大尉が、海軍兵学校在学中に江田島の「金本クラブ」というクラブにあったレコードを基に替え歌にしたとも、同じく潜水艦乗員であった槇(旧姓岡村)幸兵曹長とも言われていた。
1984年(昭和59年)5月5日、当時呉軍楽隊に勤務していた谷村政次郎(後に海上自衛隊東京音楽隊長)が金本クラブを訪れ、割れてはいたが「戦友の唄」のレコードが見つかり(現在は江田島市ふるさと交流館1階に展示)、帖佐の証言が正しいことが証明された。ただし、5番まである歌詞のうち、3番と4番は帖佐も作詞していないと証言しており、人の手を経るうちにさらに歌詞が追加されていき、一般に知られているもののほかにも様々なバリエーションが存在することから、真の作詞者は特定できない状態にある。(Wikiより)
……なのだとか。

古関メロディの軍歌でいちばん暗いのは↓これかもしれない。
特別攻撃隊「斬込隊」 勝承夫・作詞

終戦の1945年に放送されたとか。録音はなかったが、声楽家の藍川由美氏が「レクイエム『ああ此の涙をいかにせむ』古関裕而歌曲集2」(日本コロムビア)に収録したものらしい。
出だしのメロディは有名な『麦と兵隊』(作曲:大村能章)にもテイストが似ているかな。

……というわけで、戦前戦中を通じて、大変な数の軍歌が作られていたことが分かる。
で、これらの曲はみんなリズムは単調で行進曲風。伴奏なんてない場所で歌っていただろうから、軍歌を歌っていた世代はみんな相対的なメロディ音感とでもいうものがしっかりついていたのかもしれない。
今の若い世代は物心着いた頃からカラオケ文化があって、「与えられた音」に合わせて歌ったり、与えられた音をコピーして演奏する訓練しかしかしていないから、逆に「メロディ音感」がつかないのかな。

欧米の軍歌に短調の曲はない?

……で、ここでふと気がつく。
古関メロディだけでなく、日本の軍歌には短調のものがたくさんある。特に「ミ」で始まって「ラ」で終わるものが多い。
勇ましくなければいけない軍歌のメロディがマイナーでいいのだろうか?
そこで、欧米の軍歌に目を向けてみる。
フランスは国家『ラマルセイエーズ』が軍歌である。
フランス革命のときにストラスブールの青年将校によって作られた「ライン軍軍歌」という軍歌が元だという

日本では『アルプス一万尺』のメロディとして有名な『ヤンキードゥードゥル』は独立戦争のときの軍歌。

『リパブリック賛歌』は南北戦争のときの北軍の軍歌。
これは子供のとき「権兵衛さんの赤ちゃんが風邪ひいた~♪」って歌っていたなあ。

……いろいろ探しても、欧米では「短調の軍歌」「短調の行進曲」というのは見つからない気がする。
しかし日本では短調の軍歌になんの違和感も抱いていない。これは実に興味深いことだ。

……というわけで、朝ドラのモデルからの「メロディ考」であった。
たくさんの軍歌を生んだ日本の近現代史は悲しいが、
……そんなお話になってしまった。

戦後の古関裕而といえば、映画『モスラ』の主題歌が古関作品なんだって。
これもマイナーだ。
ちなみにこの「モスラーや モスラー」(ミファミーラ ミファミー)をメジャーに変えて「ソラソード ソラソー」とやると、あらら不思議、小学校のリコーダーで最初にやらされたあの『アマリリス』の出だしになるではないか。

マイナー←→メジャーの変換って、面白いでしょ。
短調の軍歌をことごとく長調に変換したら、結構「あれ? 有名なあの曲になっちゃったよ」ってなことになるのではないかしら。
……という検証はまた機会があれば……にしましょう。

では最後に、例の『赤とんぼ+』のメジャーバージョンとマイナーバージョンを並べて……。
↑メジャーバージョン  ↓マイナーバージョン

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