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のぼみ~日記2019

2019/08/

EWI4000Sがもう手に入らなくなる!

「幸福なお買い物」ページ(https://41.st/)をアップデートしていて気がついた。EWI4000S(SW)がついに製造終了で30万円を超えているではないか!
一時期は4万円台くらいで新品が買えた。あたしがこれを買ったのは7年前の57歳のときだったが、中古で4万円台くらいだった。新品でも6万円くらいだった。
その後、白いSWというのが出て、すぐにAKAIが倒産し、アメリカのDJミキサーみたいなのを作っている新興メーカーにブランドごと買い取られてしまった。
そのメーカーが新製品・EWI5000を出したときは、うれし涙ですぐに購入したのだが、これがひどい代物で、内蔵音源は無理矢理詰め込みすぎて不安定だし、音色はデジタルサンプリングの安っぽさ丸出しで、演奏しても表情が浅い。
ライブではとても使いものにならないと分かったので、今はもっぱらMIDI入力機として使っていて、ライブでは4000Sだけ使っている。
しかも、4000Sも、使うのは常に同じ音色(自分でカスタマイズしている)。いろいろ変えると安っぽくなるからだ。あたしのEWIはこういう音なんです、と、決め打ちすることで、少しでもちゃんとした楽器として見てもらいたい、という願望があるのだ。

4000Sがじわじわと値上がりしているのは知っていて、でもまあ、今の4000Sが壊れたら4000SWを買えばいいか……と思っていたのだが、ついにそれができなくなってしまった。
30万円なんて出せるはずがないし……。

こんなことなら、こうなるまえにバックアップとして4000SWを買っておけばよかった。カメラなんかと違って、代替が効かないのだから。……しかし、もう遅い。
しかし、そのEWIも、長いこと触れていないし、人前で吹くこともない。楽器が手に入らないとかいう前に、このままだと、EWIを吹かないまま死んじゃうかもしれない。物欲ではいけないのだよなあ。楽器なんだから。

そんなことを考えているうちに、悲しくなってきた。

EWIの魅力が伝わるかなぁ……こんな音も出せるのよ。


デジタル時代になり、伝統的な技術を継承する職人さんが消えて、文化が消える、という話はあちこちで聞かれる。
ヴァイオリンは、今でもストラディバリウスとかガルネリとか、大昔の職人が作った楽器を超えるものが作れない、なんていう伝説もある(あたしは信じてないが)。
しかし、EWIが消えるというのはその逆で、デジタル楽器を作る技術はあっても、儲からないから製品ごとやめちゃいましょう、という話だ。
ギターやヴァイオリンは、なんだかんだいっても楽器を作る職人さんはいなくならないし、いい楽器が昔より安く手に入るようになっている。でも、EWIみたいなものは、一人の職人さんが作るわけじゃないから、メーカーが開発・製造をやめたら、そこで終わりなのだ。

コンパクトデジタルカメラの良品が消えていくのと同じだ。儲からないからやめちゃえ……で、終わり。
そうなると、代替物がない。
これはきつい。悲しい。切ない。虚しい。情けない……。

中古で買ったEWI4000S。あたしの寿命(音楽人生としての寿命)より長生きするだろうか。今まで以上に丁寧に扱わないとなあ。

そんなわけで楽器リハビリ


EWIがもう手に入らないと分かって、悲しくなり、緊張感が少しだけ甦った。
楽器が消えると心配するより、自分の音楽的寿命が尽きるほうが早いのではないか。
毎日暑くて、新しいものを創り出す気力がわかないし、ここはもう、お盆休みでもあるから、リハビリ週間にして、楽器に触りましょう。

Caterina Valenteという女性シンガーに驚愕

で、リハビリするのに曲はどうしようか……と考えているとき、YouTubeでこんなのを見つけた。
Dean Martinは知っている。フランク・シナトラとかアンディ・ウィリアムズとかダニー・ケイとかも知っている。あの時代の人。
しかし、この Caterina Valente という女性は、これを見るまでまったく知らなかった。
Wikiを見ると1931年1月にフランス、パリで生まれている。現在88歳。
両親はイタリア人だが、カテリーナはフランスで生まれ、育った。で、最初の結婚相手がドイツ人で、ドイツ国籍になる。6か国語を操り、1350曲を12か国語でレコーディングしているという。
ダンサーや女優としても活躍していて、ミュージカル映画などにも出ている。
あたしが生まれる前から芸能界で大活躍していて、共演した音楽家も多数。Louis Armstrong, Chet Baker, Perry Como, Ella Fitzgerald, Benny Goodman, Woody Herman, Claus Ogerman, the Tommy Dorsey Orchestra, Sy Oliver, Buddy Rich and Edmundo Ros……。
チェット・ベイカーとの共演では、なんとフルアコジャズギターを弾いている。


ダニー・ケイのショー番組に出ている動画もあった↓

これが1965年だそうだから、最初のディーン・マーティンとの共演も60年代だろうか。
驚いたのは、そんなに早い時期に、ボサノバギターを完全にマスターしていることだ。

ジョビンにとってのOne Note

One Note Sambaっていつ作られた曲だっけ? と思って調べたら、そもそもボサノヴァの誕生は1958年の「Chega de Saudade」がジョアン・ジルベルトの歌とギターでリリースされたとき、というのが通説になっているようだ。
その頃にこのOne Note Samba が誕生したとしても、カテリーナがそれをマスターして完璧に演奏してみせるまでにせいぜい数年しかない。
どれだけアンテナを張っていたのか、と驚く。

ボサノヴァの革命的な音楽性はアメリカでもすぐに認識され、多くのミュージシャンがカバーしたが、原詩と関係のないいい加減な英語の歌詞をつけることが多かったという。ジョアン・ジルベルトはそれを嫌い、「ボサノヴァはポルトガル語で歌わなければならない」と頑なに主張したのに対して、ジョビンは「ボサノヴァを世界に広めるには英語でも歌ったほうがいい」と、アメリカに渡り、積極的にポルトガル語の原詩を英訳することを試みたという。
One Note Samba も、ジョビンが原詩に忠実な英訳を追求して、英語ネイティブに意見を聞いて修整しながら英語詞を完成させたらしい。
⇒ここにポルトガル版と英語版が並んでいるが、多分、忠実に英語にしているのだと思う。
This is just a little samba built upon a single note
Other notes are bound to follow
But the root is still that note
Now this new one is the consequence of the one we've just been through
As I'm bound to be the unavoidable consequence of you
ポルトガル語は分からないので、ジョビンが苦労して原詩に忠実に英訳したというこの英語の歌詞を見てみる。
有名なAメロ部分は、文字通り「one note」の解説をしている。
「たった1つの音で作った曲だよ。他の音(コード音かな)は、その1つの音にくっついてきているだけで、メロディは1つの音だよ」……と。
5度上の音に変わったときは、
「この新しい音は、今、ぼくらが経てきた音の結果(consequence)として出てきたんだ」と言っている。
「ぼくが君との腐れ縁(unavoidable consequence of you)として逃れられない(be bound to)ようにね」

この曲、一般には歌詞をNewton Mendonç(ニュウトン・メンドンサ)が、曲をジョビンが作ったとされているが、実際には二人でワイワイやりながら歌詞も曲も作ったという説も有力だ。メンドンサは作詞家というわけではなく、ジョビンと同様にピアニストであり、作曲家でもあった。二人はチームを組んでいて、ボサノヴァの誕生といわれる名曲「Desafinado」を共作している。
ところが、メンドンサはすごいヘビースモーカーで、デサフィナードやワンノートサンバが発表された直後の1959年に心臓発作を起こし、翌1960年11月22日に急性心筋梗塞により急死した。まだ33歳だった。
もしメンドンサが生きていたら、ジョビン&メンドンサのコンビは、どれだけの名曲を世に送り出したことか……本当に残念だ。

ワンノートサンバのone noteとは、他の異性に目移りしながらも、最後は本当の恋人のもとに戻ってくる、というラブソングだという解釈がされるが、ジョビンにとって「As I'm bound to be the unavoidable consequence of you.」の you とはメンドンサのことかもしれない。

There's so many people who can talk and talk and talk
And just say nothing or nearly nothing
I have used up all the scale I know
And at the end I've come to nothing or nearly nothing
やたら言葉を重ねて話しまくるけど、結局何にも言ってないようなやつっているよね。
ぼくも気づいたんだ。知っている音階を全部使ってみても、ほとんど何も得られないって。
So I came back to my first note
As I must come back to you
I will pour into that one note
All the love I feel for you
だからぼくは、君という最初の音(my first note)に戻ってきた。 君というone noteにすべての愛を注ぐために。
Anyone who wants the whole show
Re mi fa sol la si do
He will find himself with no show
Better play the note you know
すべての音を欲しがっても、何にも得られないって分かった。
だから、知っている音だけをプレイすればいいんだよ。


……よくできた歌詞だわ。
one note は最愛の人。恋人であっても、無二のパートナーであってもいい。ジョビンにとっての one note は、メンドンサだったんだと思う。

私にとっての One Note

そんな深いことは考えもつかずに、ただただこの曲の凄さに挑戦していたギターの生徒時代。
↑吉原センセのギターは、あたしが37歳でセンセにジャズギターを習い始めたときのレッスンでのサポート演奏。教室にMDレコーダーを持ち込んで、センセのギターのライン出力を録音し、それをカラオケ代わりに練習していた。四半世紀経って、そのカラオケの助けを借りて、還暦を超えた生徒がまた練習してみた図。

↑その吉原センセと、あたしが一緒にやった中で断トツ最高のキーボーディスト・あっちゃんと一緒に演奏したOne Note Samba。2011年上智大学講堂にて。客席には伊藤アキラさんや樋口康雄師匠もいた。人生最高のステージだったかもしれない。


あ~、ちなみに、移動ド相対音感のあたしには、このone noteは「ソ」に聞こえる。たった一つの音でスケール感もないのに、なんで「ソ」なの? と言う人が多いだろうけれど、移動ド相対音感って、そういうものなんだよ。
固定ド固定音感(勘違いする人が多いので「絶対」音感という言葉は極力使わないことにした)の人は、「はぁ? 何言ってんの? D(レ)じゃん。レレレレレ……じゃん」とツッコミを入れてくるはず。
でも、移動ド相対音感のあたしには、絶対に「レ」ではないのよ。
で、ソソソソソソ……と始まって、次は5度上だからドドドド……と聞こえるのだけど、このへんで、「ん? もはやこれは『ド』でもなんでもなくて、ただのone noteだな」と分かってくる。
そんでもって、ソソソソッソドと終わった後、そのド(Gスケールの「ド」だからGの音。固定ドの人にはこれが「ソ」と聞こえる)と同じ音が今度は転調して「ラ」になって、「ラシドレドシラソファミレドシドレミ……」と聞こえる。演奏しているときも、頭の中では「ラシドレドシラソ……」と音が鳴っている。
つまりこれはGmスケール(ト短調)のルートから上がって下がってくるだけのメロディ。
移動ド相対音感って、そういうもんなのよ。常に長音階、短音階のスケールの中にメロディをあてはめて、瞬時に移動ドで頭の中にメロディを描いている。
共感してくれる人が極めて少ないことは、この歳になってよ~~く分かったけれどね。
それに、転調やテンションが多いボサノヴァやジャズでは、移動ド相対音感はすぐに破綻してアッパトッパすることになる。万能な音感ではない、ということも、十二分に承知している。
あたしにとっての One Note Samba は、そういうこと(おまえさんの音楽世界は他の多くの人たちが感じている音楽世界とは別の世界かもしれないよ、ということ)を教えてくれた教科書みたいなものかな。

Two Note Waltz


さて、One Note はもう録音したのがあるし、何をリハビリにやるかなあ……。とりあえずコンデ・エルマノスを出してきて、One Note Sambaに触発されて書いた名曲!「Two Note Waltz」を弾き語りで……と思ったが、あまりに長い間、弾いていなかったので、指が動かず、泣く……。しゃあない。松子でいこう……その松子でさえ、きつい。トホホ


鬼の熱対策


コンピュータの発熱対策でヒートシンクを購入。とりあえずメインマシンのSSDに貼り付けた。

Macにも……と思ったが、こんなんじゃ文字通り焼け石に水……以下だなあ。

結局、もう少しごついのを追加発注してベタベタと貼り付け。さらには網の上に置いて、裏蓋は外した。これでかなり違うだろう。Logicを操作しているときのMacの発熱はハンパないからねえ。このくらいしないと、不安。
というわけで、久々にMacを立ち上げて、リハビリを兼ねた「Two Note Waltz」の録音作業を始めた。結果は次の日記にて。

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