次世代スーパーコンピューターとして理研に設置された「京(けい)」が計算速度世界一を達成したのは2011年のこと。民主党の事業仕分けで、「2位じゃだめですか」と指摘されたが、理研理事長の野依良治ら科学者が反発し、「いったん凍結すれば、他国に追い抜かれる」として予算を復活させた。結局、1111億円を投じて、2012年に完成し、民間利用も始まっている。
だが、京はその後、計算速度を上げる開発が止まってしまった。そして、世界4位に落ちている。それでも、専用の6階建ての巨大ビルには今も210人が勤務し、毎年100億円を超える維持運営費がかかっている。電気代だけで20億~30億円を費消する。
(略)1000億円を超える投資に見合う具体的な成功事例は見当たらない。クルマの流体力学のシミュレーションにも使われているが、「スパコンでF1カーを製作したら、ぶっちぎりでビリになった」と理研計算科学研究機構の職員は苦笑する。
ところが、そのスパコン開発は今年4月に予算が復活した。2020年ごろまでに「京」の100倍の計算速度を目指して、理研に1400億円が投じられる。
「計算速度世界一」や「STAP細胞論文」など、華々しい瞬間は報道陣にアピールする。その裏で理研が手がける無数のプロジェクトに多額の国費が流れ、巨大な組織体の中に消えていく。実態は複雑怪奇で、収入1つとっても、運営費交付金から施設整備補助金、科研費、補正予算などが年度の途中にも積み重なっていく。組織も化学、物理、生物、工学などの研究分野をカバーしているが、近年は生命科学(ライフサイエンス)の研究分野が急拡大して、施設が全国に拡散している。全国7カ所に分かれて生命科学の研究が行われているが、その役割分担は見えない。
科学技術という名目ならば、予算が通りやすい時代が到来した。次の科学技術基本計画は、予算が24兆円に拡大。「科技族」と呼ばれる族議員が生まれていった。
この予算が、基礎研究の中心である理研に流れていく。(略)「日本唯一の総合科学研究所」は、格好のカネの流し場所となった。
巨大なカネの流れが、理研に次々と新施設を産み落としていった。「公共事業への支出が厳しくなる中で、政治家が科学技術の予算に目をつけるようになっていった」(元経産省幹部)
元衆院議員の福島伸享は経産官僚として、科学技術予算にむらがる人々を目の当たりにしてきた。森喜朗政権時代、生物科学産業課(通称バイオ課)に在籍していると、理研の研究者が次々と福島の元を訪れた。ライバルの研究者が文部科学省の予算を獲得したことが気に入らず、経産省所管の産業技術総合研究所(産総研)のカネを目当てにすり寄ってきた。そして、相手の悪口を、カネの不正から女性問題までぶちまける。
「理研のトイレットペーパーは一万円札をつなげて作られている、と揶揄(やゆ)されていた。政治家よりも汚い世界ではないかと思った」。その福島は、書類を作成するとき、「理研」と書くところをわざと変換ミスして「利権」と打ち込んだという。
独法になっても、理研には巨額のカネが注ぎ込まれている。中期計画で、運営費交付金は減額されているが、一方で科研費が急拡大しているからだ。「政治家も官僚も、増え続ける科学技術予算の突っ込み先に迷った時は、とりあえず理研を使う」。科技族だった元議員は、そう打ち明ける。
(略)
予算を獲得した研究リーダーは、そのプロジェクトを動かすために研究員や技術員を採用しなければならない。そのマネジメントも負担となってリーダーの肩にのしかかってくる。
それでも研究成果を生まなければならない。勢い、部下の論文に責任者として名前を掲載することになる。「カネは潤沢にあるから、実験やデータ作りは、部下や外部業者に丸投げする。そして論文という実績をピンハネする。要するにゼネコンと同じ」。理研の元研究者は、そう構図を解説する。
論文も、影響力の高い雑誌に掲載されるほど、実績として評価される。そのため、雑誌の引用頻度を基に計算される「インパクト・ファクター」を重視する。(略)「ネイチャーとサイエンスには、捏造(ねつぞう)や改ざんではないかと疑いたくなるような論文が見られる。そのリスクを冒す価値があるということ」。理研の研究グループリーダーは、そう研究者心理を解説する。
そうした「賭け」に踏み出す危険性を、理研は構造的に抱え込んでいる。工学系主体の研究所は産業との結びつきが強く、成果がモノとして見えやすい。だが、物理や化学、生命科学の基礎研究は、「産業化」までの距離が遠い。そのため、論文が評価を決する場となる。それも、与えられた期限の中で成果を見せなければならない。だから、部下に都合のいいデータを作らせて、論文に組み上げようとする研究者がいたとしても不思議ではない。
STAP細胞論文は、そうした理研をとりまく環境と歴史が作り出した構図の中で生まれた。
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