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 たくき よしみつの 『ちゃんと見てるよ リターンズ』2016

 (週刊テレビライフ連載 過去のコラムデータベース)

 2016年執筆分


報道番組に未来はあるか

2016/01/04

『報道ステーション』(テレ朝)の古舘伊知郎キャスターが3月いっぱいで降板することが発表されて、その後任が誰になるのかと話題になった。
 番組の顔が誰になるのかは確かに重要だが、番組を作るスタッフチームの取材能力や構成力、分析力が最も大切。昨今は報道番組でも外部の番組制作会社に丸投げしているような体制があたりまえになっていて、あちこちで「これがプロの仕事か?」と疑問に思うようなことが多々起きている。まずはそのへんが心配になってしまう。
 報道番組で「国益を損なう」などというフレーズが飛び交い、それがあたりまえに受け止められていることも異様だ。「国益」の「国」ってなんのことなのか。「国」=現政権の意向ということになっていないか?
 漫才やコントに政治ネタが出てくることもほとんどなくなった。欧米のテレビでは、お笑いに政治ネタはあたりまえだし、それが庶民のガス抜きや批評眼の養成に一役買っている。そういう精神こそが自由かつ成熟した「文化」だと思うが、爆笑問題やナイツも、最近ではめっきり政治ネタをやらなくなった。
 こうなってくると池上彰のニュース解説番組あたりが最後の砦になるのかなあ。いっそ、堀潤(元NHKアナウンサー)を起用した新タイプの報道情報番組とか作れないものだろうか。コメンテイターにパックン、リポーターに厚切りジェイソンとか起用して、一見バラエティっぽいふりして、実はとっても真面目で硬派な内容……みたいな路線。地上波では難しいかもしれないが、その程度のものを「難しいかも」って考えてしまう時代ってところが問題だよな。

『こども経済TV』は素晴らしい

2016/01/19

『いくぞニッポン! こども経済TV3』(テレビ東京・1月17日放送)を見た。
 スタジオにこどもたちを集めて、難しい経済用語などを排除し、現代日本が直面している経済問題を考える、という趣向。
 今回は「ガッツだぜ!日本企業~急成長・大逆転した会社の秘密スペシャル~」と題して、赤字だった企業を立ち直らせたり、無理だと言われていたことを実現した人たちの話だった。
 中でも、北海道で社員十数人の工場「植松電機」を率いる植松努氏の話が素晴らしかった。
 植松電機はリサイクル工場で金属仕分けに使うマグネットの開発で成功し、今では北海道大学などと組んで、小型ロケットや人工衛星開発を手がけている。
 植松氏は子供の頃から宇宙開発に携わるのが夢だったが、学校の先生からは「そんなの無理だ」「バカみたいなこと言ってないで学校の勉強をしっかりやれ」と怒られたという。それが相当なトラウマになったようで、実際に夢を実現した今、日本中を回って若者たちに「どうせ無理」と諦めることの愚かさ、怖ろしさを説いている。
「やりたいことをやったことがない人に相談すると、できない理由を教えられるだけです。できない理由は何個聞いても何にもなりません。夢をかなえるためには、やったことがある人を探して仲よくなることです」
 彼のいいところは、単なる「夢を諦めるな」調のきれいごとではなく、何をどう考えていけばいいのかという「ものの考え方」「生きる姿勢」を実体験を踏まえて語れるところだ。
 久々にいい番組を見たなあと、気持ちがよくなった。テレ東はやっぱり頑張っているね。

「聞きにくい事」を聞いてない

2016/01/29

『聞きにくい事を聞く』(テレビ朝日)という番組がある。お笑いタレントが、与えられた命題を持って町に繰り出し、さまざまな「聞きにくい事を聞く」というものだが、その命題も内容も手法もすべてが浅く、中途半端で、いつもモヤモヤする。
 まず、半分くらいは「これ、NHKの『ドキュメント72時間』と同じだよなあ」と思う。金券ショップに来る客とかカプセルホテルに泊まる女性客とか深夜も診療している歯科医院に来る患者とか、そういうのは全部『ドキュメント72時間』でやりそうな(いくつかは実際にやっていた)ものだし、内容もお笑い芸人が出ていく分、薄まる。
 飲食店の店主に「ここより美味しい店を教えて」と聞くパターンのものなども、中途半端な「食レポ」にしかならない。
 例えば、600円(税込)ですごい定食を食わせる老夫婦がやっている店に行き「儲けがあるとは思えないが、なぜ続けるのか」と聞けば、店主の生き様や意外な経験談が引き出せるかもしれない。本当に「聞きにくいこと」とは、人が心の奥にしまい込んでいて、普通には「聞き出せないこと」であって、失礼な質問ということではない。
「ここよりうまい店を教えてください」という質問で相手の反応を見ることが面白いというのはただの悪ふざけであって、視聴者の心には何も残らない。
 その意味では、1000円カットの理容師に「自分の技術には本当はいくらの価値があると思うか」と聞くのは方向としては正しい。聞き出せたら、だが。
 収録したロケのうち1本は放送しないという演出もいらない。しっかり作り込めばいい番組になるのに、惜しいなあと思う。
 

『モニタリング』は今が正念場?

2016/02/13

『モニタリング』(TBS)を見たら、久々に面白かった。なぜだろうと思ったら、ベッキーの不倫騒動の影響なのか、タレントがメインの企画「木部さんシリーズ」や「もしも学校に芸能人が潜入したら」「原西ゴリラ」などが減り、純粋に人間の反応を見る、シンプルなドッキリネタが増えていたからだった。
 幽霊タクシーの変形バージョン「お節介なナビ」とか、古めかしい木製ロッカーから「未来から来た子孫」を名乗る子供が出てくるやつなど、もしかするとダサくてお蔵入りしていたのを出してきたのかもしれないが、素朴に、落ち着いて楽しめた。
 こういう原点に立ち返ったものをリファインしてやっていったほうが長寿番組として愛され続けるのではないかなあ。
 リファインというのは、例えば、ターゲットの多くをエキストラ派遣事務所などから召集していたり、だまし役の子役が下手だったり、やくざ風の男に絡まれるとかのバレバレの仕掛けだったりといったところ。そういう雑な部分を少しだけていねいに作り込むだけで、今より何倍も面白くなるはずだ。
 言い換えれば、『モニタリング』にはキャラが強すぎるタレントはいらない。笹野高史や小泉孝太郎くらいがちょうどいい。
 ただ、ベッキーがいなくて落ち着いたというのは、彼女の不倫騒動とはまったく関係がない。結婚している相手を好きになるのは自由だし、そんなこと、外からとやかく言うようなことじゃない。政治家だって、ちゃんとした仕事をしてくれるなら、家庭を壊そうが知ったことじゃない。そんなネタでワイドショーだけでなくニュース番組まで埋め尽くされてうんざりポンだ。


池上彰の本気度と支える人たち

2016/02/26

「報道機関が政治に左右されてはいけない。昔も今も、勝手な思想を他人に押しつけようとする勢力がいる。それによって戦争が起きる。あるいはそれに対して、二度と戦争を起こすまいとする努力も続けられている。
 しかし、戦争で利益を得る組織がある、ということも事実。 そこにはメディアも含まれているのではないか? メディアによって実体が歪められたり隠されたりすると、私たちは戦争について正しく認識することができない。(略)メディアは、戦争報道のあり方について自らを戒め、権力に利用されずに、きちんと事実を伝える役割を果たさなければいけない」
 ……これは2月12日に放送された『池上彰緊急スペシャル なぜ世界から戦争がなくならないのか』(フジテレビ)の最後に池上氏が発したメッセージだ。
 NHKのEテレやBS、CSではない。深夜番組でもない。民放地上波、金曜夜のゴールデンタイム、3時間特番というこれ以上望めない条件でこれを発信できたことに驚いた。
 番組の内容も、ドイツで自国の歴史を徹底的に反省する授業風景や、軍需産業が一般市民と深く関わっている図式を現地取材するなど、番組制作スタッフの気合いが伝わってきた。池上氏の「本気度」もさることながら、それに応え、現場でさまざまな圧力や困難に屈せず、粘り強くかつ柔軟に番組を作り上げ、放送までこぎ着けたスタッフがすばらしい。池上氏にどれだけ人気と実力があろうとも、ひとりでは到底ここまでできない。
 ひとりの信念と志が周囲に伝わり、複数の人たちが本気で動き始め、最後まで形にできた。その実例を見られて嬉しい。

今田・千原J・厚切りの将来

2016/03/10

 ORICON STYLE『第8回好きな司会者ランキング』なるものが発表された。1位は明石家さんま、2位タモリ、3位マツコ・デラックス、4位中居正広、5位上田晋也……。なんかつまらんな~という感想。
 ぼく的には最近とみに感心しているのが千原ジュニアの『ダラケ!~お金を払ってでも見たいクイズ~』(BSスカパー!)での名司会ぶりだ。どの番組よりも生き生きと喋っていて、ツッコミも冴えまくる。しかも相手を傷つけるようなイジリではないところが素晴らしい。
 ところが業界では「ジュニアはタレント相手だと萎縮して面白いイジリができない」といったネガティブ評もあるらしい。それはその番組がお決まりのフレームにはまっているからだよ。そういうのはもううんざりだ。ジュニアの本領は非芸能人相手に本音や人間味を引き出す自然体の話術にある。
 今田耕治は島田紳助が芸能界を辞めた後に超売れっ子になったが、まさに誰からも嫌われない万能型で、今後も長命な司会者でありつづけるだろう。
 ジュニアも今田も若い頃に紆余曲折があったことで人間的に大きく成長したのだと思う。
 インテリ系芸人で注目しているのは厚切りジェイソン。彼は司会者タイプではなく、リポーターやコメンテーターが向いている。お笑いをあと10年20年続けるのは難しいが、情報番組や討論番組などに活路が開けている。パックンもその路線を切り拓いているが、ぼくら日本人が彼らに学ぶことはとても多い。
 お笑い界は人材が豊富だが、要は適材適所。芸人の資質を生かせる起用が事務所や番組制作側にできるかが問題だ。

問題点ありすぎ名古屋マラソン

2016/03/25

 リオ五輪のマラソン代表選考最後のレース名古屋ウィメンズマラソンは稀に見る好レースだった。田中智美選手(第一生命)と小原怜選手(天満屋)が日本人1位を争い、1秒差で田中選手が勝って代表に選ばれたわけだが、中継が下手すぎた。
 この二人が並走し、いつどちらがスパートするかといういちばんの勝負所で、あろうことか中継担当の東海テレビは、すでに勝負からは外れた野口みずき選手を延々と映し、その間、田中・小原のデッドヒートはワイプでさえ映さなかった。最後の最後、ゴール地点のナゴヤドームに入っていくところでも、田中選手が仕掛けた一瞬がしっかり映らず、ゴール前では二人の差が分かるような横からの映像もなかった。これだけスイッチャーがひどい中継も珍しい。
 もうひとつ、1秒差で勝った田中選手は、昨年の世界陸上代表選考の際、3つの選考レースでの唯一の優勝者でありながら、他の2大会で3位、4位、3位の選手が選ばれて優勝者が選ばれないという理不尽な目にあった選手。これも含めて、マラソン代表選考はいつも不透明さが問題になり、今回も『ひるおび!』(TBS)などで時間を割いて解説していた。今回は、①今までは世界陸上で日本人選手最高順位選手が五輪代表になる場合の条件は「メダル」だったのに、世陸代表選手が決まった後に突然「8位入賞」に一気に引き下げられたこと。②名古屋のペースメーカーへの指示ペースがすでに終了している大阪に比べて極端に遅かったこと(そのペースで走っても陸連の設定記録は出ない)という2大疑惑があったのに、それを指摘する人がいなかった。あ~モヤモヤする。


海外ドラマと国産ドラマの差(未発表)

2016/04/08

 欧米の海外ドラマを見ていると、日本のテレビ界がいかに不自由かを痛感する。例えば、『ブラックリスト』(現在、スーパードラマTVでシーズン3を放送中)では、FBIやCIAの局長クラスが悪玉で、裏で戦争犯罪を操っていたりする。さらには主人公がベネズエラの外相にドル紙幣の原板を渡して「これでいくらでもドルが刷れる。その代わり協力しろ」と持ちかけたりもする。
 FBI、CIA、ベネズエラ……すべて実在の組織・国家だ。そこの局長や外相が犯罪者であるという脚本を、日本の刑事ドラマで書けるだろうか。
 警察組織や国家権力の中に凶悪犯がいるという設定は、『ブラックリスト』に限らない。同じアメリカの人気ドラマ『メンタリスト』(スーパードラマTVで5月から最終シーズン放送)などもそうだ。また、『エクスタント-インフィニティ』(現在WOWOWで放送中)では、地球人と宇宙人のハイブリッドの一人を殺害するために、一般人が大勢集まっている店に国家がミサイルを撃ち込むというシーンも出てくる。
 これらのドラマが人気を得ているということは、アメリカでは視聴者が国家権力や警察組織の闇を違和感なく見ているということだ。また、主役が犯罪に手を染めたり、薬やセックスに溺れたりもする。そういうことはいくらでもありえると感じていて、テレビ業界もタブー意識を持たずに話を作り、放送する。
 ドラマは現実をモデルにした作り物なのだから、制約があったらその分、つまらなくなる。面白くするためにはタブーを持たない。その精神が日本のドラマとの決定的な差なんだろうな。


ムヒカ前大統領特番の意義

2016/04/09

 4月8日に放送された『“世界でいちばん貧しい大統領”ムヒカ来日緊急特番~日本人は本当に幸せですか?~』はよい番組だった。4月5日に初来日したウルグアイの前大統領は、空港に着くなり「日本の若者は、お年寄りたちより幸せなのか」と、いきなりこちらがウッと言葉に詰まるような質問をしてきた。7日には東京外国語大学でスピーチ。学生が「全世界が幸せになるなんて可能だと思いますか?」と質問すると、「確かに私たちは神ではない。だからあなた自身が、自分にとっての幸せを探しなさい。世界を変えることができなくても、あなた自身は変わることができますよ」と静かな口調で答える。
 フジは『Mr.サンデー』で過去数回ムヒカ氏を取り上げていて、予想外の反響があった。テレビを見ていなかった人たちも、それがきっかけでネットを通じてこの人のことを知ることになった。ヒッチハイカーが数十台の車に通り過ぎられた後、ようやく停まってくれた古いワーゲンビートルに乗り込んだら、大統領夫妻の車だったという逸話などは特に有名になった。しかし、僕自身、彼が元ゲリラで、何度も投獄され、凄絶な拷問を受けながらも生き抜いた過去などは知らなかった。伝説となった2012年6月ブラジルで開催された国連主催の環境会議での名演説も、今回、全文を改めて読んでみた。その他、名言の数々はネット上で簡単に検索できるのでぜひ読んでほしいが、とにかく、金曜夜のゴールデンタイムに地上波で2時間特番を組んでムヒカ氏の存在を日本中に伝えたことの意義はとても大きい。今の日本に最も必要な「情報」だからだ。

(理由は覚えていないが、04/08執筆分はこれに差し替えたと思う)

衣替え報道番組の採点と課題

2016/05/07

 4月から各局の報道番組の「顔」がすっかり入れ替わった。
 NHKの『クローズアップ現代』は1993年から続いていた国谷裕子氏、テレ朝の『報道ステーション』は12年続いた古舘伊知郎氏、TBSの『ニュース23』は膳場貴子氏と岸井成格氏……と、ごっそり降板した。
 それぞれ現政権の政策などに辛口意見も呈する人たちで、昨年は『クロ現』と『報ステ』の放送内容に対して自民党が局幹部を「事情聴取」するという事態もあった。そのためこれらの衣替えは「報道への政治介入ではないか」という批判も起きた。実際、後任のキャスターたちはみな当たり障りのないことしか口にしていない印象だ。
 そんな中、憲法記念日の5月3日、『報ステ』では、前任の古館キャスターのときも特集を組んだテーマ「憲法9条の戦争放棄はアメリカからの押しつけではなく、戦後に就任した幣原喜重郎首相がマッカーサーに直接進言して入れさせたもの」という歴史検証を「復習」した。しかもコメンテーターは憲法改正の動きを牽制し続ける憲法学者・木村草太氏。これを見て「報ステは死んでない」と思った視聴者も多かったのでは?
 報道番組はスタッフ総掛かりで作り上げるものだ。その意味では、キャスターの顔が変わっても、内容がしっかりしていればいい。ただ、今回の熊本地震の報道でも、相変わらずヘリを飛ばしてスリリングな映像を探すとか、避難所に押しかけて「現場から中継」をアピールする手法は各局相変わらずだ。今後は「視聴率が撮れる絵」ではなく、本当に必要な情報が何かを見極めて先手先手で伝えられるか、が重要な課題だろう。


女子マラソン『ちゃんと見てるよ』

2016/05/20

 5月18日放送の『石橋貴明のスポーツ伝説…光と影』(TBS)はいろんな意味で感慨深かった。「日の丸に翻弄された女性たちの壮絶人生」と題して、バルセロナ五輪(1992年)の女子マラソン代表になった小鴨由水ら3人の女子アスリートのドラマチックな人生を紹介した。中でも小鴨由水のエピソードは興味深かった。というのも、本コラムでも、女子マラソンの代表選考やレース中のドラマ、中継の不備などについてはずいぶん書いてきたからだ。
 このコラムの過去原稿はhttp://tanupack.com/chanto/ で読めるが、最も古い原稿は1994年3月となっている。22年以上前だから、今の読者の中にはまだ生まれていなかった人もいるのではないだろうか。
 僕は陸上ファンで、今まで数々のマラソンランナーの「悲劇」について書いてきた。1996年のアトランタオリンピック女子マラソン代表選考会の1つだった東京国際女子マラソンでの3選手転倒にまつわる真相などは、特に記憶に残っている(http://tanupack.com/chanto/bangai1.htmで読めます)。
 そんなわけで、今まで世間の反応が薄くてもしつこく書いてきたアスリートたちの悲劇、バッシングされたり、無視されたりした人たちのドラマを、2016年の今、テレビで掘り起こしていることが感慨深かった。
 小鴨由水は長距離ランナーとして類い希なる才能を持っていたが、精神的な強さに欠けていた。当時は僕もそれにイライラした一人だけれど、40代になった彼女のいい笑顔を見られてよかった。あと『ちゃんと見てるよ』が軽く20年以上続いていることにも改めて驚いたわ。

『ドクターG』に学んでほしい人

2016/06/03

『総合診療医ドクターG』(NHK)という番組がある。Gはgeneral(総合)の意味で、専門科の垣根を越えてあらゆる可能性を探る「総合診療診断」を得意とする医師のこと。
 内容は、ベテランの総合診療医が自分が体験した症例について若い研修医たちに問題を出題し、研修医たちが正しく診断できるように導くというもの。スタジオでのやりとりは専門用語も飛び交う。そんなものを一般視聴者が見て面白いのかと思いきや、結構面白いのだよね。
 この番組のよさは、知識を見せびらかすようなクイズ番組ではなく、最終的には「相手は生身の人間」「相手の心に寄り添うことが大切」といった「生きた教訓」を教えてくれることだ。
 専門用語が飛び交うシーンはある意味どうでもいい。ドクターGが最後にまとめる言葉の中にこそ、名言がたくさんある。
「医者も間違える。大切なのは自分が犯した失敗を未来の診療に生かすこと」「いろんな人の生活を知ることが大切。仕事は何、家族は何人、若いときの楽しかった体験は、といったことを聞いて、自分も学ぶし、相手のことも好きになる」「診断したら終わりじゃない。そこから何ができるかだ。病気そのものに対して何ができるかだけでなく、患者さんの気持ちになり、寄りそうことがいちばん大切」
 こうした姿勢を、今の政治家、官僚、大企業の経営者たちにぜひ学んでほしいと思う。失敗しても反省しないどころか認めもしない。税金を自分のために平気で浪費する。「俺は選ばれたエリートで、おまえらとは違う」という人が多すぎるのよね。そういう連中を徹底的に再教育するドクターGはいないのかな。


『とと姉ちゃん』の不自然さと浅さ

2016/06/15

 NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』を我慢に我慢を重ねて見ているが、これ以上我慢するのは身体に悪いかもしれない。
 ストレスが溜まる理由は「不自然さ」と「浅さ」にある。
 祖母役の大地真央があまりにも若くてお肌ツルツル。白髪のカツラ被っただけでいいのかよ、といった声はよく聞くが、エピソードの一つ一つが不自然すぎて話にのめり込めない。
 登場人物の描き方も滅茶苦茶で極端すぎる。ここでいじめのシーン、このへんで出会いがあって別れがあって……という小手先の展開だけならまだしも、その一つ一つの描写があまりにも浅く、リアリティもない。
 祖母と母の対立が不自然なら、和解した後も一家が弁当屋に居続けるのも変。ビアホール乱闘事件や初恋の相手との毎日曜のお汁粉デートなどなど、どれも「ありえない」ことばかり。
 史実では3人姉妹を援助したのは北海道にいた母方の祖父。材木商の祖母はいない。史実と大きく変更しているのは『あさが来た』も同じだが、『あさ~』はNHK風に「家族愛」をテーマにして、嫌みのない、かつ大胆な変更をした。それを多くの視聴者が共感を持って受け入れた。そこが決定的な違いだ。
『とと姉』がここまで不自然で浅い脚本と演出になってしまった理由は何なのだろう。スタッフが若くて歴史の重みや人生の機微を知らないから? 視聴者はこんな感じのものを求めているはずだという間違った思いこみをしているトップの思考硬直とミスリード? その両方?
 この調子だと、話がどこまでほころび、とっちらかるのか、最終的にまとめられるのか…そういう興味で見るしかないかも。

『ピラミッドダービー』の原点

2016/07/04

『珍種目No.1は誰だ!ピラミッドダービー』(TBS)をこのところずっと見ている。番組のアイデアが面白いから、これからどんどん発展していけると期待していたが、ここにきてつまらない「過剰演出」が露見して、物議を醸している。
 双子を見抜くというゲームに出場した「顔相鑑定士」という肩書きの男性が、CGで画面から消されて「途中で脱落」ということにされてしまったと告発したのだ。なぜこんなつまらない小細工をして墓穴を掘るのだろう。この番組は各ゲームのアイデアがかなりしっかりしているので、小細工演出は本来の面白さを台なしにしてしまう。工夫すべきはゲームの内容そのもので、演出ではない。
 オンエアを見ると、時間を短縮させるために無理な編集をしたことが分かる。削るなら、スタジオの回答者のやりとりを削って、ゲームそのものはきちんとゆったり放送するべきだった。尺が収まらないなら次回に回してもよかった。そのほうが面白さは倍増しただろう。
 アイデアで人気を得たバラエティ番組がつまらないヤラセや演出で消えてしまった例は過去にも『ほこ×たて』(フジテレビ)など、いくつもある。
 この番組の原点は、同じTBSで1976年から1992年まで放送された人気番組『クイズダービー』だろう。司会は大橋巨泉(1990年まで734回続けた後、徳光和夫に交代)で、巨泉さんは番組の構成にも主体的に関わっていた。
 巨泉さんが『ピラミッドダービー』を仕切っていたら、こういうことは許さなかったのではないかな。ここはしっかり気を引き締めての続行を望みたい。


「Show-1グランプリ」の健常さ

2016/07/29

 お笑いコンテスト「Show-1グランプリ」を知っているだろうか。『バリバラ~障害者情報バラエティー~』(Eテレ)で毎年やっていて今年で第6回。障害者のお笑いパフォーマーが日本一を競うというイベントだが、レベルの高さに驚かされる。
 例えば、自称「寝たきりお笑い芸人」あそどっぐ。脊髄性筋萎縮症という難病のため現在では顔(表情)と左手親指しか動かせないそうだ。寝返りどころか首を回すのも人に手伝ってもらう。そんな彼が繰り出すネタはブラックコメント満載だ。
「え? 娘さんとの結婚は許可できない? ぼくのどこに問題があるんですか? ぼくの顔が不細工だからですか? もしかして寝たきりだから夜の営みができないと心配しているんですか? 大丈夫です。ぼくは寝たきりですが”ピー”は寝たきりじゃないですから」
「特技は客の同情を買うことです。チョロいもんです」
 吉本興業所属の鈴本ちえもすばらしい。脳性麻痺でうまく歩けないというハンディをネタにしているだけでなく、随所に考えさせられる一言が入る。
「これだから勘違いしてる健常者は困ります」
「え? (私って)文句ばかりで健常者差別がひどい?」
 障碍者という枠組みでの企画だから面白いのではない。本来のお笑い精神がしっかりここにあるからこそ面白い。
 今のお笑い界は昔に比べてレベルは上がっていると思うが、自己規制がひどくて息苦しい。
 お笑いに障害のハンディはない。彼らが普通にM-1やR-1に出て、純粋にネタの面白さで勝負できるテレビ界こそ「健常」なテレビ界だろう。

リオ五輪開会式中継に感心した

2016/08/12

 リオデジャネイロオリンピック開会式は、予想外にすごい式典だった。奴隷制などブラジルの歴史の暗部まで表現したことにまず驚いた。ブラジルが奴隷制を廃止したのは1888年。その後、農園労働者が不足してきたことが日系移民受け入れを進めた要因になっている。
 演出を担当したのは映画監督フェルナンド・メイレレス氏。同氏は当初、広島への原爆投下時刻にあたる現地の午前8時15分に1分間の黙祷を組み込むことを主張したという。IOCが「開会式で特定の国を特別扱いする演出があってはならない」と反対して実現せず、代わりに同時刻に日系ブラジル移民が登場して群舞するという演出に。
 そうした歴史を振り返るきっかけを作ったり、選手たちに200種類以上の樹木の種を持たせてポットに植えさせ、閉会後に競技会場の一部に「選手の森」を作るという趣向など、感心させられることばかりだった。
 聖火リレー最終ランナーは、2004年のアテネ五輪男子マラソンで、トップを独走していながら36km地点で暴漢に道路の外まで押し出されて金メダルを逃したバンデルレイ・デ・リマ選手。これも粋な計らいだった。
 多民族国家ブラジルから発する「他者を認め、争いをやめよう」「自然環境を守ろう」というメッセージ。同じ金をかけるなら、世界に向けて大切なことを伝えたいという強い意志が感じられた。
 さて、4年後の東京五輪でこれだけ内容の濃い、真に感動的な開会式ができるだろうか。
「コンパクトにやるには金がかかる」などと本末転倒なことを言う輩の顔を思い浮かべながら、ため息が出るのであった。

リオ五輪中継「ここがひどい」集

2016/08/26

 リオデジャネイロオリンピックは想像していたよりもドラマが多い、記憶に残る大会になったと思うが、一方でテレビ中継のひどさが目立った。
●陸上男子4×100mリレー予選の中継がない!
 ……リレーは何が起こるか分からないのにハナから中継する気がないとはどういうつもりなの。アジア新記録を連発して銀メダルを取った後になってようやく「人見絹枝以来88年ぶりの快挙」と騒ぎ始めるお粗末。
●気象情報画面出しっ放し
 ……女子卓球団体の3位決定戦など、みんなが固唾をのんで応援している画面にデカデカとL字型に「台風7号接近」などと気象情報を出しっぱなし。何のためにdボタンがあるのか。気象情報にアクセスしたい人にはdボタンの情報で知らせればいいだけ。無神経すぎる。
●メダルの数はどうでもいい
 ……日本の獲得メダル総数41個は過去最高、などと騒いでいたが、オリンピック憲章には「国家間の競争ではない」と明記されている。これはヒトラーがオリンピックを国家発揚に利用した歴史への反省を踏まえて定められたものだ。メダルの数ではなく、個々の競技の質や背景にあるドラマを見せてほしい。また、普段は知ることが難しい世界各地で起きている出来事や風俗を知る機会を与えてほしい。
●レベルの低いインタビュー
 ……日本の放送局が選手に行うインタビューがつまらないことは、海外メディアの間でも話題になったそうだ。その競技の醍醐味や選手の気持ちを知ろうとしないから、つまらない質問しか出てこないのだよ。
 こんなことでは、4年後が今から思いやられる。


『とと姉ちゃん』のここが残念

2016/09/08

 NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』が終わる。脚本と演出の不自然さと浅さ」については以前にも書いたが、最後まで「浅い」ままでドラマは終わろうとしている。
 花森安治という超魅力的な人物をモデルにした編集長・花山伊佐治(唐沢寿明)が登場した後は多少面白くなるのかと思っていたが、花森の人物像を全然描けていない。おかっぱ頭にスカート姿で、初対面の人は女性だと思い込んだという奇人に二枚目の唐沢を起用した時点で失敗だろう。花森は全然あんなイメージではない。無理を承知でたとえるなら、尾木ママを硬派にしたような感じだろうか。
 唐沢演じる花山からは、花森の思想や行動の面白さ、複雑さが全然伝わってこない。ドラマ中盤から後半にかけての最大のモヤモヤはそこにある。
 史実では、決して「男前」ではない花森は、島根県松江市の呉服問屋の美人末娘と恋愛結婚している。化粧品会社のコピーライターや戦時中は体制翼賛会で国民の戦意高揚を仕掛ける仕事に没頭するなど、波瀾万丈の人生を送った花森安治。戦後は強烈な反戦、生活派としての主張を貫いた花森だが、『とと姉ちゃん』の花山伊佐治からは反戦や反体制の色が意識的に抜かれているかのようだ。
 また、花森は画家としての才能もすばらしく、『暮しの手帖』の表紙絵だけを並べても、美術家としてもっと評価されていいと分かる。そのへんを紹介していた『日曜美術館』(NHK Eテレ)も興味深かった。
 花森安治を描いたドラマをぜひ見てみたいが、連続テレビ小説では無理だろうから、別の機会に期待しようか。

ロンブー淳の「文化人」指数は?

2016/09/23

 極めて数は少ないものの、芸人から「文化人」的な役回りに切り替えが成功した例として、バナナマン設楽統やホンジャマカ恵俊彰などがある。どちらもスタジオでの「取り回し」はうまいが、知識や判断力の浅さが露呈してしまうことがあり、ワイドショーの司会以上となると厳しいだろう。
 で、僕が最近「どこまで行けるか」と注目しているのがロンブーの田村淳だ。
 代表的な冠番組『ロンドンハーツ』(現『金曜☆ロンドンハーツ・テレビ朝日)は日本PTA全国協議会から「子供に見せたくない番組」に選出されるなど、およそ「文化人」枠からは遠い存在のように思われるが、敦には意外なほど硬派の一面がある。それがよく分かるのが『田村淳の地上波ではダメ!絶対!』(BSスカパー!)だ。
 この番組で敦は、自らの覚醒剤使用疑惑を晴らすために、自分自身に抜き打ちテストを課し、カメラの前で何度もパンツをおろして尿検査をさせて見せた。
 今旬の社会問題についてツイッターでアンケートをした後、町に出てインタビューするというコーナーでは「街角インタビューというのはバイアスがかかってよそ行きの答えしか返ってこない。こんなのはまさに地上波でやっていることで、この番組でやる意味がない。やめよう」と収録中に宣言し、実際にやめてしまった。
 こうした実行力と総合的な判断力には、「テレビ的な優等生」になって自分のタレント生命をを伸ばそうとする芸人とは根本的に違う資質を感じる。
 そのうち、古舘伊知郎が投げ出した「あのポジション」に到達する日が来るかもしれない。

『べっぴんさん』と時代の空気

2016/10/06

 NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』は、最終週でようやく『暮しの手帖』編集長・花森安治をモデルにした花山伊佐治の反戦主張が描かれて、ちょっとだけ不満が解消された。
 で、続いて始まったばかりの『べっぴんさん』だが、モデルはレナウン創業者の娘で、戦後、高級子供服メーカーを立ち上げた女性。『あさが来た』『とと姉ちゃん』と、戦前から戦後にかけての女性の「起業物語」で高視聴率をとれたことで、この図式を踏襲しようという制作側の意図がありありだ。
 加えて、母親なら子供にきれいな上質の洋服を着せたいのは当然で、女性層にも受けるだろうと思ったとしたら、あまりにも現代社会の「空気」を読めていないのではないだろうか?
 神戸の大金持ちの家に生まれ、超格差社会の頂点で育ち、立ち上げた会社はイギリス製の生地やフランス製の刺繍糸を使った「高級子供服」の製造販売。当然、そういうものを買える客は限られていて、当初は進駐軍と一緒に来日したアメリカ人家族などに人気だったという。
 これって……。待機児童問題、介護施設に入れない「待機老人」問題、老老介護、医療や年金制度の破綻といった深刻な問題を抱えて、将来に不安を感じたまま、それでも賢明に今を生きている多くの人たちに、どれだけ共感を得られるだろうか。脚本家は相当苦労すると思う。
『あさが来た』も『とと姉ちゃん』も、戦前戦中戦後を庶民がどう生き抜いたかを、多少なりとも描いていて、「では、現代を生きる我々は?」と問いかけていたように思う。さて『べっぴんさん』ではそうした問いかけができるだろうか?

『あたりまえ検定』の行き先は?

2016/10/20

 TBSが『必勝!あたりまえ検定 コレできる?できない?』という「お試し番組」を9月末から3週連続で放送したが、お試しだからか、3回の内容はずいぶん違っていた。
 初回は「おばか」「天然」の噂のある芸能人を集め、日本の白地図を与えて「東京はどこ?」とか、「平成の前の年号は?」「アルファベットを順番に大文字で書いて」など、アホみたいなクイズをやらせるという趣向。
 福島県や佐渡島を「ここが東京」と示したり、「平成の前って江戸? 『いい国作ろう』だっけ」などと衝撃的な発言をするタレントがいてすごかった。
 2回目は松本伊代、熊切あさ美、橋本マナミらに、餃子を作る、リンゴをウサギ形に切る、上司へのお礼状を書く、といった実技テストに挑戦させる趣向。
 3回目は老舗の海苔問屋の息子である出川哲朗に実家で売っている海苔を見分けさせたり、栃木県観光大使(実際には「とちぎ未来大使」という名称でなんと362人もいる)であるU字工事やダイアモンド☆ユカイらに栃木の観光名所クイズ30問を出題して答えさせるなど、結構真面目な内容。ここでは出川哲朗が見事に「実家の海苔」を見分けて、その解説も完璧だったことに驚いた。
 3回の中では、2回目がつまらなかった。この手のは他によくあるし、意外性もない。1回目の「超おばかの衝撃」は、毎回やったら飽きるだろうし、タレントを出演させる事務所側も「こういう売り方でほんとにいいのか?」と悩むだろう。
 というわけで、超おばかを混ぜつつ、3回目の路線中心がいいんじゃないかな。そういう方向なら、毎週見るけどな。

昼のワイドショーレースの行方

2016/11/03

 夕方のニュースバラエティ番組が軒並みグルメ情報などに頼っているのに比べると、昼間のワイドショー番組のほうが一つのテーマを掘り下げて解説していて、面白いことが多い。従来は専業主婦が主なターゲットだったが、昨今は、時間が不規則な自由業、自営業、フリーターなどの比率が高くなったからか。
 時事ネタを比較的真面目に取り上げるのは『ワイド!スクランブル』(テレ朝)と『ひるおび!』(TBS)。この2つは録画しておき、後からCMを飛ばしながら見ることもある。
 対照的にグルメネタや芸能ネタで埋めるのが『ヒルナンデス!』(日テレ)。その両路線の間で悩み、芸能人を大量にひな壇に並べながら揺れ続けるのが『バイキング』(フジテレビ)。レギュラーの坂上忍の辛口ツッコミや、都知事選で知られた弁護士・宇都宮健児氏を引っぱり出したりして、一時期「ん?硬派転向か?」と思わせたが、今はまた混沌としてきた感じ。
 ある日(11月3日)の番組表、内容説明の冒頭を並べてみると、「青瓦台顔パスに謎の体操も!?朴大統領の親友に次々新疑惑」(ワイドスクランブル第二部)、「大統領府に疑惑の人脈・朴氏を操る“親友”の豪遊生活と影響力は」(ひるおび!)、「寺田心くんと炊きこみごはん作り」(ヒルナンデス!)、「小池塾参加のエド・はるみに開塾式&出馬問題を直撃」(バイキング)と、違いがよく分かる。
 しかし、各番組なぜか共通しているのは、お隣の韓国、中国、北朝鮮のネガティブネタには必ず食いつき、しつこく引っ張ること。自分の国でもっと緊急かつ恐ろしい問題が山積しているのになあ……と思う。


『内村てらす』のよい方向転換?

2016/11/19

「博多天神落語祭り」での柳家 さん喬演じる『芝浜』をWOWOWででろ~んと流しながら、たまにしか笑いが起きない古典落語をのんびり聞いているのもいいものだな、と思った。
 漫才やコントでも長尺のネタをフルバージョンで放送してくれる番組はすぐに消えてしまう。
『ENGEIグランドスラム』(フジテレビ)や年末以外にも今年は春にもやった『爆笑問題の検索ちゃん芸人ちゃんネタ祭り』(テレビ朝日)あたりは貴重な存在。それと、いちばんのんびり見ていられるのは『お笑い演芸館』(BS朝日)かな。
 そんな中で、最近毎週見るようになったのは『内村てらす』(日本テレビ)だ。「もっと評価されてもいい実力派芸人たちにスポットをあてる」というコンセプトだが、当初は千鳥、スピードワゴン、NON STYLE、ロバート、ロッチ…と、そこそこテレビにも出ている芸人ばかり続いた。だから披露するネタも見たものばかり。
 それがここにきて、尼神インター、エル・カブキ、大自然、タイムマシーン3号、磁石、ななまがり、コマンダンテ、バッドナイス常田、スーパーニュウニュウ、だーりんず、すゑひろがりず……と、突然「方向転換」したかのような人選になって、俄然面白くなった。芸は荒削りだったり瞬発力が足りなかったり、欠点もいっぱいだが、芸人の裏側までじっくり見えてくることで、ネタ以外の面白さもじわじわ滲み出てくる。
 どうかこの路線で行ってほしいと願う。磁石やタイムマシーン3号のような中堅組を呼ぶときは「新ネタ用意」を条件にするとかがいいね。あと、「DJてらす斎藤司」はいらない。

ノンスタ井上事件とテレビの力

2016/12/20

 芸能界事件ネタは好きではないし、話題もちょっと古くなるが、昨年末にノンスタイル井上が交差点でタクシーの前に強引な割り込みをしそこねて当て逃げしたという事件は、いろいろ考えさせられてしまった。
 年末年始のバラエティ番組収録まっただ中だっただけに、すでに撮り終えている番組は井上が出ているシーンをどう処理するかで大変だったようだ。
『金曜ロンドンハーツ』(テレビ朝日)では毎年恒例の「奇跡の1枚カレンダー」に井上を呼んでいたが、12月11日に井上が当て逃げ事故を起こし、放送が16日だったため、井上を画面から完全に消す編集は無理だった。
 全員がひな壇に揃った画面では最初に「12月7日に収録されました」と断りテロップを入れて井上が映ったままで、井上は「いない」体(てい)で番組が進むというシュールさ。改めて「編集の怖さ」を感じた。
 また、この事故の直前10日のラジオ番組で、相方の石田が「井上はテレビ以外の舞台の仕事などはダラダラとこなしている」と苦言を呈したという内容のネットニュースが流れたり、11日の事故直前に井上がツイッターに書き込んだのが自分のキャラクター商品(ラーメンとか日めくりカレンダー)の宣伝だったためコメントが炎上した。
 逆に、「普段の人間性ドッキリ」ではメイプル超合金カズレーザーやDJ KOOなどは「見た目とは違ってメチャいいやつ」「デタラメなようでいて見えないところで真面目に努力しているんだなあ」という好評価が定着しつつある。
 人気や高感度をテレビやネットが一瞬で書き換えることの怖さを改めて感じるね。



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