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 たくき よしみつの 『ちゃんと見てるよ リターンズ』2015

 (週刊テレビライフ連載 過去のコラムデータベース)

 2015年執筆分


年末年始お笑い番組の採点表

2015/01/05

 毎年年末になると録画用ハードディスクを買い足す羽目になり、ついに4台数珠つなぎ状態。そこに録りためた年末年始のお笑い特番を今見ているところ。及第点だったのは……。
●爆笑問題の検索ちゃん芸人ちゃんネタ祭りスペシャル(テレビ朝日・12月26日)……これは毎年断トツの充実度を誇る。他のお笑い番組と違って時間制限が緩いので、出演者が本気で新ネタを書いてくる。超忙しい日本エレキテル連合でさえ、テレビではやっていないネタを持って来ていた。満足。90点。
●速報!有吉のお笑い大統領選挙2014(テレ朝・12月29日)……タイトルからはあまり期待できなそうだが、実力派と異色新人のバランスがよく、かなり楽しめた。厚切りジェイソンという芸歴2か月のIT企業エリートが大注目を集め、85点。
●笑いの王者が大集結!ドリーム東西ネタ合戦(TBS・1月1日)……以前はコンビをバラバラに組み替えたスペシャルユニットで新作ネタを披露するという趣向だったが、負担が大きすぎたのか内容が変わってしまった。「今ちょうどいい芸人」(かつて売れた芸人のネタを懐かしむコーナー)が実際「ちょうどよかった」ので、75点。
●新春!お笑い名人寄席(テレ東・1月2日)……恒例の浅草演芸ホールからの生放送特番。ゆったり感はあるのだが、持ち時間が短いのが残念。ここでもエレキテルは「細貝」が本妻と外国人愛人のバトルに巻き込まれて死ぬというネタをやらかして客席をどん引きさせていた。彼女たちの初心を忘れない闘争心?が嬉しかったので70点。
 結論・余計な演出せず、じっくりやらせればみんな面白い。

電動アシスト自転車で旅番組は?

2015/01/16

 路線バスやローカル線で旅するロケ番組などは昔からあったが、最近やたらと目立つのが、「変な乗り物」でかなり無茶なドライブをする根性もの路線。
 今まで登場した「変な乗り物」をあげると、
①トゥクトゥク(東南アジアなどで見られる三輪タクシー)……「激走!トゥクトゥクの旅」シリーズ(テレビ東京)
②軽トラック屋台……「爆走!ポンコツラーメン屋台」シリーズ(テレビ東京)
③初代ミゼット(ダイハツの軽オート三輪)……「懐かしミゼットで行く!北関東横断ドライブイン&レトロ探し旅」(テレビ東京)
④電動バイク……出川哲朗の「充電させてもらえませんか?」シリーズ
⑤廃油カー……『ポンコツ&さまぁ~ず』(テレビ東京)の「天ぷらカーで日本一周」企画
 ……とまあ、見事なまでにテレ東だらけ。どれも面白いのだが、さすがに根性と人情だけで押していく路線は飽きがくる。
 そこでたくきが考える新機軸は「異種対決」である。まずは僕も愛用している電動アシスト自転車。これはなかなか奥が深いし、日本生まれの偉大な発明。電動アシスト自転車に乗ったタレントと普通の自転車に乗ったプロレーサーが山登り対決、なんていうのはどうか。
 電動アシスト自転車とタクシードライバーが渋滞する大東京横断対決なんてのもありかな。
 単純に、今まで自転車ロケをしていた旅番組に電動アシスト自転車を持ち込むだけでも、ぐっと距離が稼げるし、非力な女性タレントでも笑顔でこなせる。商品販売も伸びるだろうし、可能性がぐんと広がるのでは?


「絵作り戦争」の時代

2015/01/29

「イスラム国」が二人の日本人を捕らえて身代金を要求したかと思ったら、一人を殺害してもう一人は人質交換だと方針転換して、テレビのニュースもそれ一色になった。その映像に対して「合成だ」と指摘する者が現れたかと思うと、映像を面白半分に再合成して遊ぶ輩が出てきて、それに対して「日本の劣化はついにここまで来たか」と嘆き、怒る者が出てきて……。
「戦争」とか「テロ」とか「平和」とか「国際社会」といった言葉がどんどん変質している。
 マネーゲームとしての戦争という一面は湾岸戦争あたりからはっきりしてきたが、もはや戦争とテロを定義で区分けしても意味がない。銃弾や爆弾で命を奪わなくても、コンピュータソフトでPR動画を作成し、YouTubeにアップすることでゲームの相手国の国民を不安にさせたり、勘違いさせたり、誘導したりすることで「戦争」を進められる。それにテレビに代表される巨大メディアも翻弄され、操られる。ぶちこむ爆弾の量よりも、情報戦や広報の力がものを言う。言い換えれば「絵作り」戦争の時代になった。
「イスラム国」、あるいは彼らを動かしている側には相当な頭脳が揃っているようだ。広告マーケティングやIT技術を習得した技術者集団がいる。その手法は本来の「イスラム教」的ではない。極めてアメリカ的だ。
「絵作り」戦争をやりやすくさせた張本人がテレビ業界を代表とするマスメディアであることも忘れてはいけない。
「絵作り」の裏側にある闇を見通そうとしないと、操られるだけの観客になり、気がつくと取り返しのつかないことになりかねない。そういう時代なのだ。


BSスカパー!には切れ者がいる

2015/02/15

 以前、BSスカパー!の『モノクラーベ』や『ダラケ! お金を払ってでも見たいクイズ』が面白いと書いたが、これらは有料視聴で、契約しないと見られない。ところが、BSスカパー!には無料視聴番組もあり、その代表が『Newsザップ』(平日前11・55~後3・00)と『Allザップ』(平日後6・・00~8・45)だ。どちらも「チャンネル生回転テレビ」と銘打っている生放送。
 スカパー!のチャンネルを生でザッピングしながら解説・PRしていくただの「番宣」かと思いきや、進行役のキャラクターが濃くて、生放送ということもあり、爆弾発言や様々な裏情報が次々に飛び出す。特に『Newsザップ』はすごい。オリジナルのコーナーも多くて、「番宣の衣をかぶったゲリラ番組」とでも言えそうだ。
 月~金曜のMCは元NHKアナウンサーの神田愛花。バランス感覚が磨かれ、NHK時代よりずっと魅力を増している。月・金曜担当のモーリー・ロバートソンはとてつもない早口・軽口で爆弾発言連発。木曜担当のアーサー・ビナードは、言葉を選びながらも権力にきついコメントをじわじわ繰り出す。
 ゲストも田中康夫、岩上安身、常岡浩介、古賀茂明、嶌信彦、フィフィといった、生放送では何を言い出すか分からないスリリングな人たちが連日登場する。
 これらの人選をしたプロデューサーがいるはずで、その人のセンスと力量、決断力に脱帽だ。
 僕はよく録画してじっくり見ている。テレビに出てもコメンテーターが言いたいことが言えない風潮がどんどん強まる今の日本で、この番組が生き延びられるかどうか、注視したい。
 

『逆向き列車』に学ぶこと

2015/02/27

 去年、テレビ東京に登場した『逆向き列車』という番組は話題沸騰したものの、12月26日の放送を最後に今のところ復活する気配がないようだ。
 朝の通勤ラッシュ時、電車を待つ勤め人に片っ端から声をかけ「今日1日休みをとって逆向きの列車に乗り、好きなことしてみませんか?」と誘うという、すんばらしい企画だったが、さすがに成功率が低く、番組を作る手間が半端なかったようだ。
 ネットでは「ヤラセじゃないか」という声も出たが、僕は違うと思う。12月の最後の放送では、失敗例を延々出した挙げ句に、どうしてもOKしてくれる人が現れなかったので、未放送の分をお届けします、と断り、面白くない(没にするのも分かるなあという)沖縄にダイビングに行った若い社員のやつを流していたくらいだから。
 成功率を上げるために「OKしてくれれば会社のPRをテレビで流せる」とか条件を出したり、同じ番組内で別企画の「飲み会に潜入して、好きな人に告白する人がいたら飲み代を払う」とか、生活に疲れていそうな女性に一晩「シンデレラ体験」をさせるといった「代替案」も入れていたが、どちらもイマイチ。
 こういう試行錯誤ぶり、失敗してもそのまま流すというポリシーをテレ東は絶対に崩すべきじゃない。ちょっとでも「作っちゃえ」と流されたら終わりだ。
 とはいえ、別の貧乏旅行企画番組ではるばる冬の湯西川温泉(鬼怒川温泉のさらに奥)まで「かまくら祭り」を見に行ったら「今日は木曜日なのでイベントはお休みです」って言われてがっかり……ってのを放送するのはどうなの。ま、いっか。これもテレ東の魅力ってことで。


小林賢太郎・設楽統・バカリズム

2015/03/13

 ラーメンズの小林賢太郎、バナナマンの設楽統、バカリズムの升野英知(バカリズムは当初は二人組)は、かつて僕が「お笑いクリエイター」として注目していた三羽がらすだ。時が流れ、彼らは違う道を歩んでいる。
 ラーメンズはテレビのお笑い番組から足を洗った。今は小林賢太郎のソロ活動が目立ち、相方・片桐仁のユニークなキャラが生かされていないのが寂しい。
 バナナマンはラーメンズとも一緒にコントをしていたが、テレビと決別したラーメンズとは対照的に、身体を張った汚れ仕事なども受けて、テレビ中心に生きる道を選んだ。結果、設楽統は情報番組のレギュラーMCまでつとめるまでに出世した。
 升野(バカリズム)は小林賢太郎との共著もあり、お笑いのセンスでは業界でも定評があった。コンビ解散後は才能を一気に開花させた感がある。小林のようにテレビに「消費される」ことを拒否するのではなく、なおかつ消耗品のお笑い芸人にならないように、知的なお笑いというポジションを確保した上でめざす芸も磨いていったという点では、3人の中でいちばん戦略が成功したのかもしれない。
 現在、お笑いクリエイターとして評価すると、芸人ではなく「アーティスト」になろうとした小林がいちばん離れていき、テレビ業界での「政治的ポジション」を上げきった設楽もお笑いから徐々に遠ざかる中、バカリズムだけは自分流のお笑い世界を開拓し続けている。小林は『小林賢太郎テレビ』、バカリズムは『番組バカりズム』という不定期番組を共にNHK BSプレミアムで持っているが、面白さではバカリズムの圧勝だ。羨ましい(ついつい本音が)。


「情報バラエティ」の過激取材

2015/03/28

 ワイドショーや情報バラエティ番組のなりふり構わぬ取材方法がよく問題になる。先日も、『Mr・サンデー』(フジテレビ)が「号泣議員」として去年世間を騒がせた野々村竜太郎・元兵庫県議が母親と住む集合住宅の通路に貼り込み、逃げる元県議を執拗に追いかけ回す映像を繰り返し流して「やりすぎだろ」という声が上がった。
 昨年はSTAP細胞の小保方晴子氏、ゴーストライター騒ぎの佐村河内守氏とこの野々村氏が「お騒がせ3人衆」としてテレビに何度も登場したが、小保方氏もNHK取材班のバイクに追いかけられ、ホテルに逃げ込んだ末に怪我をして、NHKが謝罪するという一件があった。
 現場で取材をするのは番組制作会社の人たちで、彼らは雇い主であるテレビ局が欲しがる映像やコメントとはどんなものかを知っているから、無理をしたり、過度な演出をしたりする。現場の責任というよりは暗に無理を要求しているテレビ局側の責任が重いだろう。
 そもそも「情報バラエティ」とはなんだろうか。一般のニュース番組は事実を伝えるだけで個人的な意見を極力避けることが「正確・中立」を守ることだとすれば、「情報バラエティ」はさらに問題の本質に切り込んでこそ存在価値があるはずだ。
 野々村元県議の件でいえば、彼の特異なキャラクターを面白がるのではなく、政務活動費が不正に使われている実態、ひいては税金がまともに使われていないこの国のシステムや体質、それを許している国民性や民度の低さという問題が根底にある。それに気づかず、ただ「ワロタ」「WWW」と消費している視聴者にも責任はあるのだろうね。


『爆笑ドラゴン』と『ネタの保笑人』

2015/04/10

 NHKの『オンバト+』の終了後、『爆笑シャットアウト!』という後継番組をやっていたが、2回で立ち消えている。代わりに突然登場したのが『バナナマンの爆笑ドラゴン』。司会が『シャットアウト』と同じバナナマンなので、多分、これが新後継番組候補なのだろう。
 漫才チームとコントチームに分かれて、チームリーダーがいる、という構成は『シャットアウト』と同じだが、客席の判断で強制終了させるという陳腐な演出が消えてずっとよくなった。
 演者もシソンヌやユンボダンプ、バンビーノなど、注目の新人中心だし、バンビーノが流行の「ダンソン」以外のネタをやるなど、通も納得する内容。
 一方、先輩の売れっ子芸人が若手芸人を紹介するという同じ形式で始まった『ネタの保笑人』(日本テレビ)はがっかりだ。
 推薦した先輩芸人は最初から十字架に縛り付けられていて、自分が推薦した若手がウケなければ泥バズーカを浴びるという演出がひどすぎる。これが「保証」だとでも言うのか。その分、多くの若手芸人のネタを隙間なく流してくれるなら、ハズレが多くても毎回録画予約するところだが、残念~。
 前から何度も書いているけれど、なぜ「素直なお笑いネタ番組」をやらないのか。日本エレキテル連合、シソンヌ、ジグザグジギー、巨匠、うしろシティなどなど、面白いネタをたくさん持っている芸人たちの芸をなぜテレビで見られないのか? 
 思えば、コント師としてはAクラスのバナナマンでさえ、もう何年もネタを見ていない。あと、鳥居みゆきの時事風刺ネタ、今こそ見たいよなあ。あれこそ「健全な」お笑いというものだ。


錦織が杉村太蔵に負ける面白さ

2015/04/23

『炎の体育会TV』(TBS)4月の3時間特番は、なんといってもその時点であのナダルを抜いて世界4位にいた錦織圭との対決がすんばらしかった。
 今までは1対5でのおふざけ対決など完全なお遊びゲームだったが、なんと今回は松岡修造の提案で1対1対決。対戦するのはTBSアナウンサー石井大裕、タレントの杉村太蔵、俳優の工藤阿須加。全員テニス経験があるとはいえ素人。錦織のレシーブで0―30から始めるというハンディ戦だが、錦織は世界のトップ選手相手にも自分のレシーブゲームでそうした状況から逆転して相手のサーブをブレークする場面が普通にある。どう考えても勝てるはずがない。
 ところが、結果は錦織の1勝2敗。おふざけで負けたようには見えない。工藤相手の初戦を落とした後は表情も変わり、真剣そのもの。石井アナは自滅したが、3人目の杉村太蔵はサービスエースを取るなど終始攻める。最後は錦織がミスで負けた。
 終わった後の錦織の顔は素直に笑ってはいなかった。負けるはずがないのに負けたのだから。
 コーチ役の松岡は「今の錦織選手にバラエティはいらない」と言ってこの無茶な企画を押し通した。彼には今の錦織の課題が重要なポイントで力み、つまらぬミスをすることだということがよく分かっていたのだろう。マイケル・チャンコーチの鬼軍曹しごきとは別の手法、しかも限られた時間で、愛しい錦織に何かを教えようとしたかのようだ。修造、ほんとすごいな。
 それにしても「一流選手をおもてなし」とか、最近は軟弱な内容でつまらなくなっている『体育会TV』。やはり真剣勝負に勝る面白さはないよ。

『まれ』に振り回される視聴者

2015/05/08

 NHK連続テレビ小説『まれ』が始まってもうすぐ2か月だが、このドラマの評価に戸惑っている人が多いのではなかろうか。
 第一回では、いきなりテーマソングの歌詞が聴き取れず、歌っているのが誰なのか作詞作曲が誰なのかがタイトルバックに出てこないのに面食らった。
「夢を追うのが大嫌いな少女」という一種のアンチテーゼ的主人公設定はただの言葉のあやという感じで、まれはやたらとお節介で突っ走る。テレビ小説の定番キャラじゃないの。
 地方と都会のギャップや地方移住者の話になるのかと思いきや、それも中途半端。田舎暮らし問題の本質を全然分かっていない都会人が頭で考えて書いているなあという内容。例えば、都会から移住してきたシタール奏者の女性、あんなミュージシャンは都会にもいないし、いても田舎には来ない。市役所の上司や同僚にしても、田舎の役所にはおよそいないだろうタイプ。
 登場人物がやたらと多いのだが、キャラクター設定が漫画的すぎて馴染めない。塚地武雅みたいに太った郵便配達員はいないし、漁村に暮らす人たちがみんな東京人にしか見えない。
 本当のプロとは? ひとつの道を究めることと家族保守主義は両立しないのか? 田舎暮らしと都会人気質の共存は? 地方の文化と暮らしの未来はどう切り拓けばいいのか、などなど、興味深いテーマが目白押しで出てくるのだが、今のところどれも上滑りしている印象が強い。
 しかし、これだけタネをまき散らされたら、最後まで見てしまうことになるんだろうな。後半になるに従って面白くなるという噂だし、今は我慢我慢。おいしい味に仕上げてくださいな。
 

「散歩番組」全盛の背景とは?

2015/05/22

『ぶらり途中下車の旅』(日本テレビ)、『鶴瓶の家族に乾杯』『ブラタモリ』(NHK)、『有吉くんの正直さんぽ』(フジテレビ)などのいわゆる「散歩番組」は、事前のアポや台本があるかないか、台本があるとしてもその縛りはどの程度かによって大きく性格が異なる。
 台本通り派の最右翼は『若大将のゆうゆう散歩』(テレビ朝日)かな。タイトルに「散歩」とついているが、事前に決めておいた訪問場所を加山雄三が訪問してサクッと紹介するだけで「散歩」の空気がほとんどない。
 新百合ヶ丘や逗子など、土地勘のある街の回を見ていると、そのコースはありえない、とか、こんな場所をいきなり見つけられるはずがない、という不自然さが目立つ。故・地井武男さんの『ちい散歩』の後継番組なので「散歩」とつけているが、『若大将とこの街の素敵さん』とか、タイトルを変えたほうが余計なことを思わずに見られる。
 台本なし派の代表はなんと言っても『モヤモヤさまぁ~ず2』(テレビ東京)だろう。初期の頃に比べると、「あれ? これってやっぱりロケハンしているんじゃないの?」と思わせる場面が増えたが、それでもアドリブと偶然だけで押し切る姿勢は変わらない。行き当たりばったりで撮っても面白い番組は作れるということを実証してみせた先駆者的番組だ。
 それにしても、地上波でこれだけ散歩番組が増えていることには疑問も感じる。こういうのって、地方局やCS、BSだけでもいいんじゃないのか、と。
 金をかけて作り込んだ番組がマンネリ化してつまらなくなっているからこういう現象が起きているんじゃないのかなあ。

『ボクの妻と結婚してください。』

2015/06/05

 国内ドラマをテレビで見ることはほとんどなくなったが、例外はNHKの「プレミアムドラマ」。NHK BSプレミアムで2012年から続いている。力作、佳作がちょこちょこ登場するので要チェックだ。
 今やっているのは『ボクの妻と結婚してください。』。放送作家が書いた小説が原作で、昨年舞台上演されたときの主役二人(内村光良と木村多江)をそのまま起用してのドラマ化。
 余命半年を宣告された男が、愛する妻と子のために、余命期間を妻の再婚相手探しのために奔走するというお話。
「余命宣告ドラマ」というのはよくあるが、悲しいだけの話にしないための工夫が勝負どころになる。妻に内緒で妻の再婚を画策するというアイデアは面白いし、脚本もそれなりに仕上がっているのだが、気になるのは主人公の家の場面で唐突に笑い声を入れるという演出。それいる? どういう意図? Yahoo!テレビでこの番組への感想が17件上がっていたが、そのうち14件が笑い声挿入演出に苦言を呈していた。だよね~。
 内村光良=コント師というイメージが強すぎて、普通のドラマとしては見づらいだろうという配慮からの演出だろうか。それにしても中途半端すぎる。
 普通のドラマ仕立てでも自然に笑わせ、泣かせることができてこそ役者と言えるわけで、それができないならドラマや映画に出ていくべきじゃない。うっちゃんにはそれができる力量があると思うだけに、ほんとにあの笑い声演出は余計だなあ。
 ともあれ数少ない良質国内ドラマ枠。今後の作品にも期待したいし、過去の作品の再放送も増やしてほしい。

「客が来ない店」レギュラー化を

2015/06/22

 テレビ東京の『日曜ビッグバラエティ』には好企画が多いが、6月14日に放送された「開店休業!?お客がいない…気になる店を覗いてみた」は特によかった。
 世の中には「この店、やっていけてるのかしら?」と思うような店が結構ある。そんな店を集めて、アポなし取材をしかけるという企画。
 登場したのは「寿司屋の看板があるのになぜか自転車のパンク修理だけしている店」「大小さまざまな埴輪だけが所狭しと並んでいる店」「蕎麦屋のはずだが24時間暖簾が出ていないで、客が裏口から出入りする店」「ハーモニカ専門店」「ジグソーパズル専門店」「高級ペルシャ絨毯専門店」……などなど。
 まず、取材の仕方がいい。何も告げずに店の外に定点カメラを置いて、24時間人の出入りを見る。本当に客が入らないことを確認した上で店に入り、店主と交渉して店内にも定点カメラを設置させてもらう。なぜこんな店をやっているのか、なぜつぶれないのか、じわじわと話を聞き出す。その間、やってきたお客さんにも話を聞く。
 一つの店舗の取材に何日もかけているわけで、テレ東の根性取材路線健在。変な演出もない。
 店主たちの話からは「好きだからやる」「人として働くのがあたりまえ」といった人生哲学だけでなく、この生きにくい時代にやりたい商売を続けるためのノウハウも詰まっている。商品やサービス内容を絞る。分かる人にだけ売る。売るだけでなく「教える」。人件費や固定費を抑えて背伸びや無理をしない。
 これはもう、ぜひシリーズ化、レギュラー化してほしい。テレ東の新しい長寿番組になりそうな予感がする。

「仮説検証番組」民放が圧勝説

2015/07/02

 最近バラエティ番組に「仮説検証番組」という新たなジャンルが「発明」された感がある。
 代表は『水曜日のダウンタウン』(TBS)。「バレーボールマシン、バラエティでしか使っていない」「子役の泣きスイッチたいてい母親を殺している」「床屋にはほぼゴルゴ置いてある」「アパートに住んでるフェラーリオーナーは0人」「ヨネスケでもカメラなしでは晩ごはん食べさせてもらえない」などなど、いろんな珍説を実際に検証してみるという趣向だ。
 これの後追いと思われても仕方がないタイミングで、『仮説コレクターZ』(NHK BSプレミアム)というのがある。
 こちらは「利き手と反対の手を使うと怒らなくなる」「昔の環境に戻ると肌が若返る」「ジャズを聴きながらゴルフをするとスコアが良くなる」……といった内容で、並べてみるとお題(仮説)の面白さがまるで違う。
 NHKは科学番組のノリから抜けきれず、番組の進め方も冗長。検証の仕方もおかしい。
 例えば「犬と飼い主は、顔が似ている」説では、人の顔と犬の顔の似ている度合を、機械で目鼻の位置などを測定して判定していたが、それはダメでしょ。あまりに違うものの比較なのだから、人間の目と脳で判定するべきで、普通に数十人の一般人を集めて「この犬といちばん似ている人は誰ですか」でいい。
 結局のところ、NHKではもっと専門的、科学的番組に特化させたほうがまだ面白いだろう。
 一方『水曜日の~』のほうは、今以上にタレントに頼りすぎるとつまらなくなるだろう。「天龍源一郎以上のハスキーいない」説がシリーズ化しているが、これなどは危険信号だ。


「人間ドラマ」こそが娯楽の真髄

2015/07/17

 世の中にはこんなお店があるよ、ビックリだね、という企画はよくある。最近では『ニッポン入りにくい店』(テレビ朝日)や、前々回のこのコラムでも取り上げた「開店休業!?お客がいない…気になる店を覗いてみた」(テレビ東京・『日曜ビッグバラエティ』枠)などはとても面白かった。それらに比べて肩すかしを食うのが『真実解明バラエティー!トリックハンター』(日本テレビ)の「突撃リサーチ最安値ハンター」だ。
 200gのサーロインステーキが100円の店というのは、月に1回2時間だけのイベント的な価格だった。それは「最安値の店」とは言えない。それでも取り上げるなら、せめて原価はいくらなのかといった裏事情を明かしてくれなければね。
 一流ホテルの元シェフが自宅の駐車場を店に改造して100円の持ち帰りカレーを提供しているというのは興味深いネタだが、「家賃がかからないから安値を実現できました」でおしまいではまったく納得できない。家賃がかからなくても材料費・光熱費はかかるわけで、100円でおいしいカレーは作れない。元プロがなぜそんなことをするのかという心の問題に迫らなければ「謎解き」にはならない。
 言い換えればこういうネタは店や価格がどうのではなく、店主にどんなドラマがあったのか、どんな人生哲学を持っているのかが最大の謎であり視聴者の興味だ。「客が来ない店」や「入りにくい店」ではそうした背景がちゃんと見えてきたが「最安値ハンター」にはそれがない。
「人間」こそが最大の謎であり娯楽ということが分かっていないと面白い番組にはならない…これが虚しさの種明かしかな。

スカパー!がテレ東に追いつく日

2015/07/31

 先日『ダラケ!お金を払ってでも見たいクイズ』でやった「刑務所帰り!元覚醒剤中毒者」はすごかった。覚醒剤でムショ暮らし経験者3人(うち2人は女性)が登場。よくあるモザイクや声を変調させたりではない。全員があっけらかんと顔出し。
 前科6犯、刑務所暮らし歴7年39歳女性。前科9犯、刑務所暮らし歴5年、32歳男性。前科15犯、刑務所暮らし歴12年、42歳女性……という面々。男性は現在は配管工で子供もいる。
 42歳女性は、最後の服役のとき、面会に来た彼氏に「今度は長いから簡単には出られへん。別れるか結婚するかどっちかに決めて」と言ったら、翌日彼は婚姻届の用紙を持ってやってきて、それが今の旦那だという。
 39歳女性は、執行猶予中に彼氏と一緒に逮捕され、初犯だった彼氏は執行猶予、執行猶予中の再犯になった彼女は実刑で服役。クリスマスの前に面会に来た彼が「明日はケーキを持って面会に来るからな」と言って帰った直後にトラック事故で死亡。服役中だったので葬式にも出られず独居房の中で泣くだけだったという話をして、それまで明るくMCをしていた千原ジュニアもさすがに表情が変わった。
 演出を超えて伝わってくるリアルな衝撃や感動こそが本来「テレビの力」「テレビでしか伝えられないもの」だったはず。
 その初心を地上波が忘れていく中、テレ東は数々の名企画珍企画を実際に低予算番組として実現させていき、のし上がってきたが、同じようにBSスカパー!がじわじわと発展することを期待している。先日、社長宛に5分番組の企画を一本送ったのだが、届いたのかなあ。まあ、どっちみち応援するけどね。

人や人生を描けなくなったドラマ

2015/08/14

 連続テレビ小説『まれ』の脚本がとっちらかりすぎてイライラするという話は前にも書いたが、後半になってさらにひどい。
 徹(大泉洋)の会社がつぶれるくだりなどは不自然の極み。ネットビジネスが順調にいっているなら、融資の担保は「業績」のはずで、銀行は焦げ付きを出すより会社を続けさせる。そもそも元いた会社との関係はどうなっていたのか。
 元社員たちが再就職できずに恨みを晴らすという展開も現実味がない。2007年当時も今もネットビジネスの世界では優秀なプログラマーやデザイナーは引く手あまただ。
 高志(渡辺大知)の歌は下手すぎるし、当初から高志の両親だけ登場しない(息子がテレビ初出演する日にも)のも不自然。
 突然、圭太(山﨑賢人)の母親が登場して朝ドラ定番の嫁いじめキャラを演じたかと思ったらすぐに引っ込めたり、オープニングやエンディングにあった「魔女姫ナレーション」(戸田恵子)がパタッとなくなって、忘れた頃にちょろっと復活したり、一徹(葉山奨之)が塩田を継ぐと言い出したり、その修業の姿に初心者マークをつけてみせたり、まれと圭太の夫婦の寝室になんのリアリティもなかったり、すべてがあまりにご都合主義。その場その場の思いつき、小手先で書いている。
 パティシエにせよネットビジネスにせよ音楽業界にせよ田舎暮らしにせよ伝統工芸にせよ、その世界の現実がきちんと描けていないだけでなく、そこで生きることのテーマが見えない。
テーマを持たずに話の流れだけ考えても「ドラマ」にはならない。最近、こういうのが増えたなあ…とじじいは嘆くのだった。

中国チームの快挙をなぜ無視?

2015/08/30

 2年に1度の世界陸上。日本人選手がパッとしない中、男子100mでは中国の蘇炳添(スー・ビンチャン、そへいてん)選手が9秒台で決勝進出、4×100mリレーでは中国チームが銀メダルという快挙を成し遂げた。特に蘇選手は今年5月に9秒99を記録して、アジア人*で史上初めて10秒の壁を突破した選手となったが、再び9秒台を出した。(*アジア記録として他に2人9秒台がいるが、いずれもナイジェリアからカタールに国籍を移した黒人選手)
 蘇選手は身長173cmで、日本人初の9秒台を期待されている桐生祥秀選手(175cm)や目下大注目の16歳高校生選手サニブラウン・ハキーム選手(187cm)より小柄な体格。
 中国の陸上選手がこれだけ活躍したのに、独占中継しているTBSはほとんどそのことに触れない。解説の朝原宣治氏が何度も「アジアの代表として…」「日本も負けずに…」などと話題を振っているのに、なぜか実況アナウンサーは無視してボルトやガトリンの話ばかりする。上から何か指示でもあるのか?
 中国人選手たちの快挙はテレビだけでなく、新聞でもほとんど取り上げられない。「アジア初の9秒台」「短距離種目アジア初の銀」を中国人選手が成し遂げたことが気に入らないのだろうか。最近ではワイドショーなどでも日本国内のお粗末な出来事は知らん顔してお隣韓国や中国のゴシップ記事的ニュースを率先して伝える。そんな狭い了見のまま「平和の祭典オリンピック」を開催するのだろうか。開催する前から新国立競技場問題や五輪公式ロゴ問題でさんざん幻滅させられているが、根本的な部分で考えさせられる。


『メンタリスト』は絶対見るべき

2015/09/09

 ここ数年、海外ドラマばかり見ている。中でも群を抜いて面白いのが『メンタリスト』。
 状況観察力や人の心理を読み取る天才的な能力を持つ主人公ジェーンが妻子を殺した異常殺人者を追うという話。なんだ、よくあるパターンじゃん、と思うだろうが、いやいやいやいや、脚本が実に練られていて秀逸。
 主人公が追い続ける殺人鬼「レッドジョン」の正体がなかなか明かされないのだが、シーズン5の最後に「ついに容疑者は7人に絞られた」とされる7人にはシーズン1当初から登場した人物も含まれている。誰だっけこれ? と、録画してあった何年も前の回を見直しながら新シーズンを見ると、張られた伏線を見落としていたのに気づいたりして、何度でも楽しめる。
 基本的には一話ずつ事件が解決していくのだが、レッドジョンを追うというテーマは延々と続く。こうしたストーリーの二重構造も連続ドラマでは珍しくないが、幾重にも重なった謎解きが複雑で、脚本家は相当苦労しているはずだ。どこまで話を引っ張れるかは視聴率次第だから、視聴者の反応を見ながら謎解きの構造を随時考え直さないといけない。日本語吹き替えもよくできていて、違和感がないどころか、原語版よりいいかも。
 現在はCSのスーパー!ドラマTVでシーズン6を放送しているが、過去のシーズンの作品も随時並行して放送されているので、今からでも遅くない。
 アメリカの犯罪ドラマでは『24 -TWENTY FOUR-』が日本でも人気が出たことがあったが、『メンタリスト』のような傑作をなぜ地上波局が買わないのか不思議でしょうがない。これを見ずして死ぬなかれ、だ。

常総市浸水災害報道の問題点

2015/09/24

 9月10日前後の大雨で日本各地が被害を受けたが、特に茨城県常総市の鬼怒川氾濫はひどかった。テレビはどの局も、浸水家屋に取り残された人たちの救助シーンを流し続けた。犬と一緒にヘリに引き上げられた夫婦や電柱にしがみついてハラハラさせたタクシー運転手のおじさんなどは一躍有名になった。
 しかし、こうした映像は「ピンポイントに切り取られた」ものであり、事態は視聴者が気づかない形で進んでいた。
 まず、あの救出映像は堤防決壊場所付近のもので、決壊したのは10日の昼1時前だが、鬼怒川からの最初の越水はその北5kmほどの若宮戸地区で早朝6時過ぎに起きている。そこはソーラーパネル建設のために自然堤防になっていた丘陵部分を高さ2m長さ150mに渡って削り取っていた場所だった。
 大型スーパー「アピタ」が浸水して多くの人が取り残された映像も何度も流れたが、あの場所は堤防決壊場所より北で、堤防が決壊する前の午前中にはすでに「越水」で浸水し、孤立していた。翌日には常総市役所が水浸しになった映像も流れたが、市役所が浸水したのは10日午後10時過ぎからのことで、最初の越水(早朝6時過ぎ)からは17時間もかかっている。
 つまり水はゆっくりと時速1kmくらいの速度で南下していた。テレビが地域全体を俯瞰する広域映像を随時流し、浸水か所の最前線がどこか、何時にはどのへんに到達するかという情報を与えていれば、住民は大切な家財を二階に引き上げたりする対応もできたはずだ。災害報道でいちばん大切なのはそうした情報であり、視聴者をひきつけるドラマチックな映像ではない。


『ドキュメント72時間』の精神

2015/10/09

 低予算のテレビ東京やローカル局、BS、CSの番組のほうがタレントをズラズラ出すだけの民放キー局番組より面白いのは、「あるがままを映し出す」からだと、たびたび書いてきた。
 そのお手本的番組がNHKの『ドキュメント72時間』だ。
 ある場所にカメラを持ったスタッフが3日間詰めて、そこにたまたま来た人たちの人間模様をそのまま映し出す。選ぶ場所は、サービスエリア、献血ルーム、墓地、コンビニ店、フェリー乗り場、カプセルホテル、ひとりカラオケ専門店、競馬場、富士山登山口、郵便局、花屋、おでん屋、串カツ屋、自動車教習所などなど、実にさまざま。
 観光スポットとか珍しいものがある場所ではなく、日常の中に普通にある場所に張り込んでカメラを回して何が面白いのだ、と普通は思う。しかし、この「普通の」場所で偶然出会う人間ドラマが実に味わい深いのだ。
 タレントを使わないのも成功の一因だ。街中に人気タレントを素顔のまま繰り出させ、人びとのリアクションを映して面白がるという趣向の民放番組は数多いが、それとは対極の姿勢。主役はあくまでもそこに偶然居合わせた普通の人である、という認識、ポリシーがいい。
 場所の選び方も絶妙で、最近では「田んぼの中のオアシスホテル」(新潟県、国道116号線沿いにある一見廃墟のようなホテル)がとてもよかった。
 でも、最近はときどき何か意図的な構成を感じるときがある。「夏の終わり 国会前の路上で」のエンディングあたりとかね。
 この素晴らしい番組が、いつまでも当初のポリシーを失わず、地味ながらもしっかり続いていくことを心から願っている。

『あさが来た』をさらに楽しむ

2015/10/22

 今放送中の『あさが来た』は史実ベースの作品ということもあって、今のところ十分面白い。
 主人公「あさ」のモデルは広岡浅子(1849-1919)。
 京都の豪商に生まれ大阪の豪商に嫁いだが、お嬢様に終わらず、動乱の時代、経営や教育に辣腕をふるった女性実業家だ。
 時代は3作前の『花子とアン』の少し前。浅子は死ぬ数年前、翻訳家になる前の村岡花子(1893-1968)を、自身が主催する勉強会に招いている。
『花子とアン』では、花子よりも友人の柳原白蓮(1885-1967)に人気が集まったが、白蓮の夫・伊藤伝右衛門(1861-1947)は九州の炭鉱王で福岡県飯塚市に家があった。この飯塚市の潤野炭鉱を買収し、自ら炭鉱に乗り込んで炭坑夫たちを指揮したのが広岡浅子。いろんなところに接点がある。
 ドラマと史実の違いを見つけていくのも楽しい。例えば、ドラマではあさの父はまだ生きているが、史実では浅子の父・三井高益は浅子が9歳のときに死んでいて、嫁ぐときの父代わりは義兄の三井高喜(35歳で養子に入り、家督を継ぐ)だった。
 姉のはつは史実では春といい、浅子とは異母兄弟で、どちらの母親も正室ではない。姉は史実では嫁ぎ先の両替商が倒産後、苦労の末、25歳で死んでいる。
 浅子の夫・広岡信五郎(ドラマでは白岡新次郎)は、後に浅子のお付き女中・ムメ(通称「小藤」。浅子より5歳年下)を側室にして1男3女をもうけるが、ドラマではあさのお付き女中は友近が演じていてずっと年上の設定。ということはドラマの中でこの後、新次郎の側室になるのは……? などなど、たくさん楽しめそうだ。

博多大吉・劇団ひとりの心の闇?

2015/11/06

 競争の激しいお笑い界で長くテレビに出続けている人というのは、①本当に実力がある②業界内で世渡りがうまい③捨て身・自然体の結果、運よく……の3タイプあるように思う。この3番目の代表例を2人上げると、博多大吉と劇団ひとり。
 大吉は貧乏な家庭に育ち、級友から給食のパンを分けてもらって食事の足しにするなど、かなり辛い子供時代だったらしい。
 吉本の中では概ね後輩芸人たちからも慕われ、信頼も厚いが、独特のローテンションツッコミ芸風の裏には常に「抑制された毒」「かすかな心の闇」がある。
「それ、このタイミングで言いますか?」といった絶妙のツッコミの裏に見え隠れする「闇」が彼の芸のスパイスとなり、テレビ業界での寿命を支えている。
 一方、劇団ひとりは大吉と違って万人向けのキャラではない。デビュー当時から「本当に危ないやつ」と見られていた。最近では特番『BSスカパー!って知ってますか!?』の第2回を任され「地上波では絶対にできない」シモネタ、というよりはド変態ネタ(女性警官から顔面放尿される、中年男が女になって尻に茄子を突っ込むなど)満載のコントを披露して久々に視聴者を大いに引かせた。
 このコントの冒頭で、地上波番組のつまらなさを目一杯皮肉るシーンがあったが、そうした毒を地上波業界も許すまでに彼は生き延びてきたし、のし上がってきた。そのエネルギーは彼の心の闇が生んでいるわけだが、最終的には「引かれる」芸であり、その宿命を背負い続けることがまた彼の心の闇になる。
 しかしこうした特異な才能がテレビで見られるうちは、世の中、まだほっとできるかな。

『起承転結』と「すごい論」

2015/11/19

『4コマコント起笑転結』(日本テレビ)は久々に面白いと思えるお笑い番組だ。事前に映像制作した短めのコントを3人のゲストが審査するというもの。
 まず出演者の人選がよい。バラエティのひな壇やリポーター役などで時間を奪われ、本来のお笑いネタ作りに集中できない売れっ子は外して、実力があるのにテレビにはあまり出てこない芸人や才能はあるけれど芸が未熟な新人などを揃えている。
 うしろシティ、シソンヌ、チョコレートプラネット、ニューヨーク、巨匠、ジグザグジギー……と並べれば、お笑いファンなら「なるほど」と思うはず。
 司会の博多大吉と看板娘の田中みな実という起用もいい。田中が毎回出演者1組を相手に「振られる」役の絡みコントをやらされるコーナーがあるのだが、これが手抜きなしで秀逸。
 新人の中では「すごい論」という女性コンビにちょっと注目している。芸(技術)はまだまだだが、作風がとても好き。
 本ネタに入る前の「マクラ」的やりとりをいくつか紹介。
●「最近すごく面白いゲーム見つけてはまってるんだ」「何?」「人生、っていうの」
●「好きな右脚はキリンのやつで~す」「ふ~ん、結構一緒にいるけど知らなかったな~。2本あるしな~」
●「私は将来カフェを開きたいです」「そこで働きたいです」
 ……大吉からは「この番組に文学的要素を持ち込まないでください」なんて突っ込まれていたが、あたしゃ大好きだね。
 最後にテレビじゃないし、4コマ漫画そのものだが、かもめんたるの岩崎う大がツイッターでほぼ毎日更新している4コマ漫画も面白いよ。

『あさが来た』の楽しみ方・2

2015/12/18

 NHK連続テレビ小説『あさが来た』の人気がすごい。泣く人も続出だ。前々々回のこのコラムでは「ドラマと史実の違いを見つけながら楽しむ」ということを書いたが、その後の展開でも「史実より面白く」しつつ「NHK的に明るく柔らかく」することに成功している。
 史実ではあさのモデルである広岡浅子と姉の三井春(ドラマでは「はつ」・宮崎あおい)は別々の側室の子で、春は嫁ぎ先の両替商没落後、貧乏生活の中25歳の若さで死んでいる。
 加野屋の大旦那・正吉(近藤正臣)はあさの子供や炭鉱の落盤事件の解決を見届けてから死んでいるが、実際には明治2年、浅子が嫁いできた2年後に死んでいるので、孫を見ていない。
 炭鉱の話にしても、加島屋(加野屋のモデル)が炭鉱を買ったのは明治19年、浅子が37歳の頃。長女が生まれたのは明治9年だから、炭鉱を買ったときすでに長女は10歳だった。
 ……こんな風に、史実との食い違いはすでに山のようにあるのだが、どれもドラマとして「そのほうが面白い」「より感動的」という計算で変えられているところがうまいなあと思う。
 NHK的に最も重視したのは「家族愛」ということだろう。
 はつは悲劇のお嬢様で終わらずに夫と新たな人生を歩み始めるし、登場する親たちもみんな善人。史実では浅子の夫・広岡信五郎は浅子のお付き女中だった小藤を側室にして3女1男をもうけるが、ドラマでは、ふゆが新次郎の側室になって子供を生むということにはならない。
 どんどん史実とは離れて展開するけれど、それを予想したりするのもドラマ終盤にかけてのお楽しみになりそうだね~。



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