2011/05/10の2
川内村 一時帰宅第一陣「ショー」中継の憂鬱(2)

しょーもない中継騒動に辟易して、帰ろうとしていたら、役場の前に村長がいた。
声をかけたら、取材陣のひとりだと思ったようで「はい!」と緊張した声で返事をして振り返った。
僕だと分かると、すぐに笑顔になり、立ち話モードに突入。

僕の線量計を地面の上に置いて「コンクリートの上は高いんですよね~」と数値を覗き込んだ

外にはこんなに人が多いのに、役場は閉ざされたまま

村民のひとりと話をする村長

疲れますよね~ そうですよね~

役場前にずらっと並んだ中継車

体育館の中に入ってみる

警戒区域から住民が戻ってくるまではみんな一休み
「飯食いに行きませんか?」
と誘われ、村長が運転する車に乗ってしばし中継現場を抜け出す。

「飯食いに行きましょう」と誘われた

抜け出してきた先はここ。分かる人にはすぐ分かる場所

「ほら、地震であそこにひびが入ったんだよ」
……と指を差して説明するしげるさん
「あれ? 前からあったひびじゃなくて、地震で?」
と僕が言ったら怒っていた

午前中撮影した映像がテレビで流れているのを見ながら雑談の続き

いろいろ話しながら飯も食い終わったところで線量を測ると……。
0.16μSv/h これなら、川崎の仕事場と変わらない。ほんとに低い。
川内村の中でも役場の周辺は特に線量が低い。まるで放射能雲が川内村だけを避けて通過したかのようだ。
ここで村長と二人だけになり、何を話したか……は、秘密。
まあ、この阿武隈日記に書いてきたようなことを、できるだけ伝える努力をした。
このままでは川内村は都合のいいゴミ捨て場にされてしまいますよ、ということは、特に強調した。
二人でいろいろ話したが、最後に言った村長のこの言葉が印象的だった。
「郡山ビッグパレット(避難所になっている施設)から、大滝根の横を通って村に戻って来ると、牧歌的な風景に迎えられて本当にほっとするんですよ。ああ、やっぱり川内村のよさはこういう自然豊かな風景にあるんだなあと思います。これからどういう村にしていくのか、ぼくなりにすでに図面を描き始めていますよ。でも、近代化しようとかは全然考えていません。この村のよさをなくしたら、元も子もありませんから」
この言葉を信じたい。
「村長がその決意で頑張る限り、僕もできる限りのことをしていきます」と、応じた。
思いがけずお昼を「外食」してしまった。村長の車でまた役場に戻ると、もう駐車する場所が残されていなかった。

駐車スペースを探して車を動かす村長と別れて、また役場前に

今度は体育館の二階に上がってみた。左側はお偉いさんたちの会議の場

奥に見える自衛隊のテントは除染用のシャワー室だろうが、使うことはないに決まっている

二階から俯瞰の絵を狙うカメラマン

東京ナンバーの黒塗り高級車に乗っていた人たちだろう
とにかく、なんでこんな騒ぎになっているのか……不条理極まりない。
いちばん危険だったときには、国も県も各自治体になんの指示も出さずに放置、見殺し。
津波で生き残っていたかもしれない浜沿いに取り残された人たちも見殺し。
国が県に出していた、飯舘や津島が非常に危険な汚染地域になっていることを示したSPEEDIデータを県は隠蔽。
放射線量が下がってきた今頃になって、警戒区域や「計画的避難区域」を設定して住民を苦しめる。
川内村の20km圏内エリアの線量なんてたかが知れているのに、タイベックスーツを身につけさせて「危険を承知で自己責任のもと立ち入ります」という「同意書」に署名させるという猿芝居やら心得違いやら……。
やるせない。許せない。切ない。情けない。
どういう言葉で言い表せるのだろう、この気持ちを。
火曜日は閉まっているはずだが、「今日は一時帰宅で人が集まるので特別に開けました」という佐和屋でガソリンを入れる。
いつもはカードなのだが、震災後はなるべく現金で支払うようにしている。少しでも応援したいので。
家に戻る途中、気分を変えるために、久々に天山文庫を覗いてみた。
ヒキガエルが卵を産んでいるはずだと思ったのだが、池にはカエルも卵も見あたらなかった。

佐和屋スタンドの中。食料品などは消えたまま

天山文庫の池は、卵もカエルも見あたらなかった
さらに、ジョンの姿を見なかったかと確かめるために、S田さんちに寄った。
ジョンどころか、S田さんがご飯をあげていたお隣と近所の2匹も姿を消したまま見つからないという。
やはり、川内村の犬はごっそり捕獲され、連れ出されてしまったらしい。
本当にひどい話だ。
セシウムを横に流してしまうために、田圃に水だけでも入れてみませんか、という話をしたら、すでに「たくきさんがそう言っていたと、しんたろうさんから聞いた」とのこと。
しんたろうさんには話していないのだが、話が伝わるの、早いなあ。村の中は。
「たくきさんに田圃のこと教わるとは思わなかった」と苦笑された。
そんな話をしていたら、テレビにまた村長が生中継で映った。
「おかしいよ……こんなの……」と絶句して涙。
村長の「悔しい」の意味は、すごく深い。
本当のことを伝えられなくて悔しい。ひどい目にあわされた上に今度は利用されるなんて悔しい。村民を守れなくて悔しい……いっぱいいっぱい悔しい思いがあるはず。
でも、テレビでは、きっと伝わっていない。
この日記を読んだかたには、村長や僕ら住民の悔しさ、やるせなさの中身は、テレビが演出していた画面から発せられていたものとはずいぶん違うのだということを、少しでも知ってほしい。
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