帰る前に、大塚家の田圃をチェックした。
水を入れたままだと愛ちゃんが言っていたので、カエルの卵……モリアオはまだ早いとしても、シュレが産んでいるかもしれないと思ったのだが、卵は見つからなかった。鳴き声も聞こえず、カエルの気配もない。
それにしても主が消えた大塚家を見るのは胸が痛む。
楽人や彩來ちゃんが遊んでいた遊具が、特に寂しさ、悔しさを募らせる。
この家で楽人や彩來ちゃんが遊ぶことはもうないかもしれない。
しょうかんさんとは電話で何度か話したが、岡山で暮らすことにしたとのこと。子供がいるから仕方がない、と。
岡山で暮らすとなれば、そうそう獏には来られなくなるだろう。
大塚愛伝説の地は、家族を作り、家を建て、さあこれから歴史を刻む……というところで理不尽にぶち切られてしまった。
家が倒れたくらいのことなら、彼らはすぐに立ち上がり、笑いながら生活を続ける。でも、土や水や空気を奪われたら、どうにもならない。
マサイさんは水のことをいちばん心配していた。沢水を飲んでいるのだから当然だ。
少しでもマシなほうに……と、今は飲み水だけは大塚家の井戸から汲んでいるというが、大塚家の井戸もせいぜい数メートルだから、安全だとは言いきれないだろう。
川内村は全村井戸 or 沢水だから、水の汚染はいちばんの問題だ。
線量計で簡単に計測できないだけに、これは緊急課題だ。