夜、外は零下。スタジオの中も5度とかなので、ストーブを入れて、相当時間が経たないと仕事が始められない。
女性演歌歌手用に新曲を書いていて、今夜はデモを録音。女性用の曲はキーの設定が難しい。男用がEmだとすると、女性用はAmくらい。今回書いた曲はえらく音域が広くて、上をCに設定すると、下はEになってしまう。さすがにEは厳しいかもしれないと思いつつ、Emのキーで歌う(Emだと上はG、下はBになる)。
僕の場合、地声で歌える限界はA-Gの約2オクターブ。でも、下のAとかBはかなり厳しい。一瞬ならいいが、ロングトーンでしっかり音量も確保して歌わなければいけないとなると、ほとんど無理。
上は、Gならなんとかなる。瞬間的にならAくらいまではいけるときもあるが、それ以上だとファルセット(裏声)に切り替え。
女性演歌歌手の場合、うまい人は地声とファルセットの境目が分からないように歌える。男声の場合はファルセットになった途端に声量ががくんと落ちたりするので厳しい。
かつてCMソングを歌っていた頃、低すぎて厳しいのも高すぎて厳しいのも経験した。
低すぎて厳しかったのは、丸井の20周年だか30周年だかの記念曲『丸井からありがとう』というやつ。作曲は大野雄二さん。
すでにできあがっていたオケが低すぎて、とても苦労した。あと3音くらい上げてくれればいいのに、と、心の中でぶつぶついいながら歌った。女性コーラスとの兼ね合いであんなに低いキーだったのか。
逆に高くてまいったのは『ロッテパイの実 ブルーベリーヨーグルト味』。作曲は渡辺俊幸さん。これはファルセットでハモることを想定して書かれていたらしいのだが、スタジオで多重録音で入れていたら「上のハモ、ファルセットじゃなくて地声で頑張れませんか」と言われた。
このときのいちばん上がA。
「ロッテパイの実〜♪」の最後の「実」がA。
喉から血が出そうだったのを覚えている。
今ならデジタル録音だから、多少ひどくても波形を直接修正したりしてきれいに仕上げられるのだが、あの頃は完全アナログ時代だからごまかしがきかない。残念。
水入れに氷が張り始める頃、1番の歌を入れたところで、「シロが来たよ」と助手さんから内線電話。
玄関でダッフルコートを着込んでベランダに回ったら、いない……?
あれ? うちの中にいるじゃん。なにそれ。
まあ、シロも寒いところで晩飯食うよりは、ぬくい家の中で食べたいだろうけどねえ。
困ったなあ。このまま家ネコになってしまうと、いろいろと問題が……。