10/07/07

「自然のままに」の難しさ


ところで、モリアオガエルの卵を救出するというと、「そういう人為的な行為はよろしくない。自然のままに、そっと距離を置いて見守るのが正しい」「カエルは考えがあってそこに産んだのだから、人間が手を伸ばしてはいけない」といったことをよく言われる。

当初、それも一理あるかと思ったのだが、ここ何年か、いろいろな場所で、いろいろな状況の卵を見続けているうちに、そうではないだろうという気持ちにかたまってきた。

まず、最近分かったのは、一見、いい感じに産みつけられ、無事に溶けたように見える卵の中にも、多くの「失敗卵」があるということだ。
例えばこの卵。↑
遠目にはいい感じに産みつけられているし、下はしっかり水だし、なんの問題もないように見えるが、実際には無事にオタマになった数は非常に少ないと思われる。
拡大すると↓こんな感じなのだが、
表面が茶色くなっているところを見ると、すでに産みつけられてそうとう日数が経っており、中の卵は完全にオタマになっているはず。しかし、卵塊の下部が溶けておらず、逆に上に大きな穴が空いている。
左側の矢印のところは大きな穴が空いていて、天井が抜けた感じになっているのだが、この状態で卵塊の下部が溶けないままになっていると、オタマは卵塊の中から出られずに腐ってしまうのだ。
この形でものすごい悪臭を放っている卵塊を見つけたことがある。手にとってみると、すでに卵塊の中では完全に成長したオタマが大量に腐っていた。
卵塊の下が溶ける前に上に穴が空くと、木の枝や葉っぱを伝ってどんどん水が入り込み、それが日に当たるとたこつぼの天日干しのようになってしまうのだろう。
上の写真の卵塊は、多分、何匹かはすでに生きて下に落ちたと思うのだが、多くはこの卵塊の中で死んでしまったようにも見える。

こんな風に、一見するとなんの問題もなくぶら下がっているような卵塊でも、生死を分けるドラマが進行しているのだ。
もちろん、それこそが自然の摂理であり、「普通のこと」なので、人間がいちいち関与することは間違っていると考えることもできる。
しかし、モリアオガエルが追い詰められているのは、もともと人間が道路工事、造成工事を重ねて、散在していた水たまりをどんどんつぶしてしまったからなのだ。今年も、僕の見ている前で、2つの水たまりが道路の拡張・舗装工事で消滅した。
人間の作為ということでいえば、カエルたちの生息環境を奪う方向に圧倒的な力を行使しているわけで、その方向と逆に、少しだけ手を貸して、生存確率を上げてやる作為を「やってはいけないこと」と単純に断じるのはどうなのだろう。「自然のままに」というのは、人間の破壊行為はそのままに、カエルの生息環境が追いやられていくのもそのままにしておく、ということになってしまう。

これは想像だが、多分、モリアオガエルが移動できるのはせいぜい数キロで、その範囲内に中継点となる池や沼がなければ、生息場所を広げていくことはできない。一旦地域絶滅すれば、その場所ではどれだけ雑木林が残っていても、「モリアオがいない森」になる。砂漠の中のオアシス、中継点のように、小さくても池や沼が点在していれば、地域絶滅のスピードを落とせる。
モリアオガエルは、木がなければ水辺の草に絡みつけて卵を産む。その程度には柔軟性がある。
国道脇のU字溝(雨の日以外はカラカラの)の上に突き出た枝に産卵するカエルは「考えがあってそこに産んだ」わけではない。どうしようもなく追い詰められた結果、100%死んでしまう場所に産まざるをえなかっただけだ。
その卵を「自然のままに」放っておくのが正しい自然との接し方だ、というのは、欺瞞ではないだろうか。

カエル神社プロジェクトについては、少し軌道修正を考えている。
土地には地主がいるので、場所を見つけるよりも、人(地主)を動かすほうが手っ取り早いと思うようになった。
つまり、池が作れる土地を持っている人たちに、カエルのために魚を入れない池を造ったり、自然に水が溜まりやすい場所は、少し手を入れて水の涸れない沼に整備したりして、カエルの棲みやすい環境作りをしてみませんか? 楽しいですよ。と、呼びかけるのだ。
そうすれば、こちらでムキになって適地を探すよりも早く、「カエル神社」の精神が広がり、結果的には、より多くの池や沼ができるのではないか、と思う。

熊池は、地主が違うことが分かったので、名前を「サル池」に変更しようと思う。
「猿」池ではなく、「サルビア」のサルである。

↑これはほぼ正常に溶けた卵塊。オタマとして5割くらい生き延びたかもしれない


↑これは今ひとつうまく溶けていない卵塊。下が抜けていないので、表皮のようになった卵塊の中で、外に出られないまま死んでしまったオタマがかなりいたのではないだろうか。


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