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のぼみ~日記 2021

2021/07/29

 東京五輪醜聞で甦った子どもの頃の記憶

小山田圭吾辞任・小林賢太郎解任事件を経て、目下開催されている東京五輪が可視化してくれた醜聞の数々を総括してみると、本当にやりきれなくなる。
で、歳を取ったせいか、怒りや絶望を訴えたいという気力は弱く、その代わりに、このやりきれなさと同種の過去の記憶が甦ってくる。

小山田問題の元記事に小学校5年生のときの「太鼓クラブ」のエピソードがあった。小山田少年が、踊りやダンスをさせられるのが嫌で「太鼓クラブ」に入ったという話。
私も、小学校のときの「太鼓」にまつわる苦い思い出がある。
そのことを過去の日記にも書いていたはずだと思って、「鼓笛隊」で検索したところ、こんな日記がヒットした。


以下、過去の日記から抽出して、再掲してみる。


「天皇陛下万歳!」を見上げていた子供たち

2013年4月28日、安倍首相の肝いりで「主権回復の日」の政府式典なるものが開かれた。
政府から天皇への臨席要請を宮内省が断れなかった時点で、いわゆる「左派」と呼ばれる人たちだけでなく、「右翼」を自認している人たちの一部からもずいぶん疑問の声が上がったようだ。「陛下のご意志を無視して、安倍ごときが陛下を呼びつけるとは何事か」と。

⇒このブログ を書いている人の「大変お気の毒だと思うのは、天皇陛下も参列を安倍内閣に要請されたらしく、宮内庁も断るに断れない苦渋の選択をしたようだ。最終的に、式辞は述べないという条件で容認したようだが、心からお気の毒だと考える。あきらかに自民党の天皇の政治利用である」という部分は、まったく同感。
しかも、あろうことか、両陛下が退場される際、会場から突然「天皇陛下万歳」の声が上がり、それに合わせて、「壇上にいた安倍晋三首相ら三権の長がそろって両手を上げ、声を合わせた」(沖縄タイムス)というのだから大ごとだ。
このときの様子をTBSのニュース画像で見たが、両陛下、特に皇后のこわばった表情が印象的だ。
いちばんの「被害者」はお二人だったのではないだろうか。


↑TBSのニュース映像より

さらには、沖縄タイムスの記事の最後の部分も気になった。

一方、児童合唱団が歌声を披露する場面でも不可解な空気が漂った。出席者に向かって舞台上で歌うのではなく、出席者と同じ舞台下から、天皇皇后両陛下や首相などが並ぶ舞台上に向かって「翼をください」などの歌を合唱した。

杉並児童合唱団の子供たちは、歌い終えた後、舞台の下から、「天皇陛下万歳」と叫ぶ首相ら、「えらい大人たち」を見上げていたのだろうか。

子どもが、大人の勝手な行事に否応なく利用される図は気持ちが悪い。
4月になり、今まで幼稚園で習った童謡などを大声で歌っていた子供たちが、突然、「君が代」を歌い始めたりしている。一瞬ぎょっとするのだが、考えてみると「国歌」を歌う子供たちを見てぎょっとすること自体が不幸なことではある。
僕は子供を作らなかったが、30代後半の頃だろうか、子供を作らない同年代の男3人(編集者、ライターと僕)が集まって飯を食っていたとき、話題が「子供を作らないこと」になった流れで、ライターをしている一人がこう言ったのを覚えている。
「だってさ、そもそも学校に行かせていいものかどうかってところで悩んじゃうじゃない」
「そうだよね~」と、残りの2人もすぐに同調したのだが、ほんとにそうだ。
自分が子供の頃を思い出してみても、常に学校で問題を起こす僕と学校の間に入って親はなんやかやと「折衝」していた。
獏原人村の人たちも、子供が学校に行くようになってからは、子供のことでいろいろ学校や「村」と揉めたと聞いている。中学校に上がって、「校則」で男子生徒は全員坊主頭にしなければいけないと言われ、原人村の親たち(元ヒッピー?)が猛反発して、頑として子供に髪を切らせなかったエピソードなどは、マサイさんから聞かされたときは思わず苦笑してしまった。

汚染源を隠す大人

27日から遊びに来ていた国連職員のSくんは、自分がふるさとを飛び出した理由についてひとつのエピソードを語ってくれた。
子供のときから遊んでいた川で、ある時期から突然奇形魚が異常に増え始めたことにS少年は気づいた。
上流側にできた工場廃液のせいではないかと子供心に思ったそうだ。
時期を同じくして、川で遊んではならんというおふれが出た。「大腸菌」に感染するからというような理由だった。
ところがある日、その日は学校の創立記念日か何かで、Sくんの学校だけが休みで、近隣の学校はみな通常授業だったので「外で派手に遊んだりしていないように」と言われていたが、Sくんは言いつけを守らず、遊んではいけない場所になっていた川で、いつものように魚とりをしていた。そこを見回りの大人に見つかって、後日、学校の朝礼のときに、全校生徒の前に出されて吊し上げのような形で怒られた。
「川に入るな」の理由が、実は大腸菌などではなく、上流側にできた工場の廃液など、別の人為的な要因ではないかとうすうす気づいていたSくんは、それを隠して、今まで通りに川で遊んでいたという理由で子供の側を叱る、しかも公開処刑のように晒し者にして叱るようなその地の体質にほとほと嫌気がさし、「こんな町は出ていく」と固く心に誓った。
「子供にあそこで遊ぶなと命じる前に、川を危険な場所にしてしまった大人の側の問題を解決するのが先だろう? 問題の本質に責任を持つべき大人は放置して、子供をつるし上げにする社会なんて、冗談じゃないって思ったよ」
……とまあ、そんな内容だった。

体育教官による陰湿な行為

大人は、子供は何も知らないと思い込む(思いたがる)が、実は、子供は大人の嫌らしさを大人以上に敏感に感じ取るものだ。
僕にも似たような経験はたくさんある。
中学3年のとき、体育の時間で全員が1時間中走らされたことがある。体育館の中を、全員が「いちに いちに」と号令をかけながら一糸乱れずにぐるぐると何周も走らされる。
体育の時間はいつも、教師が現れるまで、これをさせられていた。50分の授業のうち、最初の10分くらいはこれだった。
たいていは、教師は始業開始のベルが鳴っても現れず、少し遅れてやってきて、適当なところで「よし、やめ」と命じる。その時間は気分次第で、長くなったり短くなったりする。生徒たちは早く「よし、やめ」の一言が出ないかと思いながら走り続けている。走らされる時間が長い日は、あいつ今日は機嫌が悪いのか? などと思いながら走り続ける。
その日は授業が終わるまで「よし、やめ」が出なかった。
そして授業の終わりに体育教師がこう言った。
「よしみつが髪を切ってくるまでは、これからもずっと体育の時間は全員で一時間中走るだけだからそのつもりでいろ」
当然、僕はクラスのみんなから集中攻撃を受けた。「おまえが髪を切らないせいで俺たち全員が迷惑する。いいかげんにしろ」と。
ちなみに、このときたったひとりだけ僕を擁護してくれたのが工藤くんだった。
「でもよぉ、おれはよしみつが髪を切ったら、それはもうよしみつじゃないんじゃないかって思うんだ。こんなやり方はおかしいだろ」
工藤くんのその一言で僕がどれだけ救われたことか。
その工藤くんは、今、母校の校長・理事長をしている。
僕は工藤理事長を基本的に信頼している。それは同級生だったときの体験からくる信頼だ。

鼓笛隊・合唱隊事件

小学生時代には「合唱隊・鼓笛隊事件」というのがあった。
6年のある朝、学年主任のT田教諭(1組の担任。40前後?の女性)が僕がいる4組に入ってきて、いきなりこう言った。
「この前の通信簿で算数5をもらった子は誰? 手を上げて」
みんなギョッとしたが、僕を含めて3人が手を上げた。そのとき初めて、僕の他に算数5の子は、Yくんと、僕の初恋の相手M子ちゃんだと分かった。
T田教諭は「じゃあ、その3人は来週の月曜日、放課後に1組の教室に来るように」と言ってさっさと引き上げていった。
なんのために? まったく説明がない。なんだそれ……と、1組の子に訊いてみた。
すると、月曜の放課後は合唱隊の練習の日だから、きっと合唱隊に入れってことだよ、と教えられた。
後から分かったのだが、それまでT田教諭は自分が担当する1組の生徒だけで合唱隊を編成していたのだが、他の組の父母から「それはおかしい」と苦情が出たらしい。それで、他の組からも何人か集めるようにしたらしいのだが、小学校は担任が全教科を教えるので、他の組の誰が歌がうまいか分からない。それで「算数5の子」を集めることにしたようなのだ。
「音楽5の子」ではなく(それも十分に問題だが)、「算数5の子」を、本人の意志も確認せず、なんの説明もなく合唱隊に入れようとするT先生を許すことはできなかった。
冗談じゃない。算数の成績と合唱に何の関係があるのか! 露骨な差別であり、間違ったレッテル貼りではないか。
僕は月曜日の放課後、周りから促されても一人断固1組の教室に行くことを拒絶して家に帰った。
好きだったM子ちゃんと一緒の時間が持てることにものすごく魅力を感じてずいぶん迷ったのだが、最後は「算数5の子」を集めるT田教諭への嫌悪感と反発のほうが勝った。
翌日、朝礼の先導のために鼓笛隊の一員として太鼓を下げて列にいた僕のところにT田教諭がつかつかとやってきて、「はい。今までご苦労だったね。無責任な子に太鼓はいらないね」と、僕から太鼓を取り上げた。
僕は全校生徒が見ている前で泣きじゃくりながら他の児童たちの列に入っていった。

これに関しては母親が学校に文句を言って、T田教諭はすぐに「変声期で悩んでいたんだってね。太鼓が待ってるよ」と言い寄ってきたが、僕は二度と鼓笛隊には戻らなかった。
変声期で高い声が出なくなっていたというのはついでの理由であって、あくまでもT田教諭のやり方が許せなかったのだ。でも、子供の口ではそのことをうまく伝えることができなかった。
母親には「算数5の子を選んで合唱隊に入らせることはおかしい」と何度も訴えたが、母親はそれについては「オマケ」だと思ったフシがある。なぜなら、母親の思考には、T田教諭のやり方に近いものがあったからだ。母親はその頃は教師を辞めていたが、母親の教育論にはしばしば差別的な思考が垣間見えた。
他のクラスの子全員(150人くらいいた)の歌を聴いて選抜するのは大変だから、算数5の子を選んでしまおうという発想は、母親には「理解できた」のだと思う。
この事件はとても後味の悪いものとして僕の記憶に長く残った。(60代になった今もこうして書いているくらいだから……ね)
もう一度太鼓を叩きたくてしょうがなかったし、僕が担当していた中太鼓のメンバーの中では僕がいちばんうまくて、他の子にも教えていたから、本当は鼓笛隊にとっても僕が抜けたことは損失だった。でも、T田教諭の下でまた鼓笛隊をやることは絶対に拒絶しようと心に誓っていた。

児童合唱団が歌声を披露する場面でも不可解な空気が漂った。出席者に向かって舞台上で歌うのではなく、出席者と同じ舞台下から、天皇皇后両陛下や首相などが並ぶ舞台上に向かって「翼をください」などの歌を合唱した。

↑この記事を読んで、遠い記憶が甦った。
子供は大人の道具じゃない。
自分の意志に反して「道具」として利用されていい人間はいない。
現憲法のいちばんの精神もそこにあるはずだ。
「天皇陛下万歳」と叫んだ首相や議員たちは、自分たちが天皇を道具として利用したことを心から恥じ入れ。
自分たちがどれだけ非礼なことをしたか分かっていないのだとしたら、政治家以前に人間失格だろう。


……と、そんなことを2013年の日記に書いていたのだった。

この中の、国連職員になったSくんの子供時代の話はまったく記憶から消えている。こうして日記にとどめていたから出てきたわけで、やはり書き残しておくことは重要だな、と改めて思ったりする。

で、この、安倍首相の肝いりで開かれた「主権回復の日」の政府式典の様子や、合唱団の子供たちが大人の都合で利用される図式というのは、今回の五輪開会式までの醜聞とそっくりではないか。

開会式セレモニーのMIKIKO氏排除は森喜朗案件、木遣り歌のシーンは小池百合子案件、ミュンヘン五輪時のテロ犠牲者追悼はバッハ案件ではないか……などという記事を読むにつけ、本当に暗澹たる気持ちになる。

Sくんや私は、大人のずるさを許せず、拒絶した。
でも、それで問題が解決したわけではない。
T田教諭はおそらくその後も「算数5の子」を集めて合唱団を編成していたのだろうし、鼓笛隊を自分の私有物のように扱っただろう。
川の上流の工場廃液問題は解決したのかどうか分からないが、先日起きた、熱海の土石流事件などは、同じような構図で引き起こされている。
オリンピックを汚しに汚した大人たちは、それでも現場に踏みとどまって仕事をした者たちを平気で切り捨てた。

救いは、「よしみつが髪を切ったら、それはもうよしみつじゃないんじゃないかって思う」と、みんなの前で主張してくれた工藤くんが、その後、母校に教師として赴任し、学校を変革していってくれたことだ。

東京五輪が閉幕した後、「こんなやり方はおかしいだろ。根本的に考え直して、建て直そうぜ」と言って動き始める人たちが、いろいろな現場で出てくるはずだ(そう願う)。
そうした人材に優れた仕事をさせられる社会に変えていけるか……。社会の空気は、声を上げる少数の人だけで変えられるわけではない。無関心を決め込むサイレントマジョリティの存在こそが、最大の障壁なのだ。

なにも、すべての人に蓆旗を立てて立ちあがれなどと言っているわけではない。自分の立場で「できること」をするだけでいいのだ。
選挙に行く、とか、そういうことからだ。
それができず、「ああ、オリンピック終わったね」で済ませてしまったら、とことん惨めで辛い社会になってしまう。

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