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のぼみ~日記2019

2019/09/15

MGC観戦で1日が終わった

1987年……昭和62年か。30代以下の人たちは知らないんだなあ、これを。ふうう……

今日は瀬古「リーダー」が頑張って策定したMGC。じっくり見たいので、TBS(男子レース中継)とNHK(女子レース中継)をそれぞれ録画して、追っかけ再生しながら観戦したら、見終わったらもう夕方になっていた。
いや~、なかなか面白かったね。
レース前の国歌斉唱の「コウメ太夫か?」事件と、男子レースの号砲が鳴らずに2分間待ちぼうけ事件。この2つだけでも、スタートする前から2度もずっこける。
「スタートまで5秒。4,3、2……し~~~ん」というあの場面で、まずはみんなずっこけなくちゃねえ。芸人失格よ。……あ、芸人じゃないか。
しかし、苦笑する選手すらいなくて、こりゃあみんな相当緊張しているなあと思った。


ようやく予備のスターターピストルが持ち込まれてスタート。
直後から設楽悠太が宣言通り飛び出して、ソウル五輪代表選考会となった昭和62(1987)年の福岡国際を彷彿とさせた。あのときは寒い中、「ボクなら這ってでも出ますけどね」の怒りの中山がいきなり飛び出して、途中まで世界新記録ペースでいったんだよなあ。
あのときの「這ってでも出てこい」の相手・瀬古が、自分が原因でグダグダになった一発選考を今になって復活させたというのは、なんとも歴史の皮肉というかなんというか……だわね。

今回の悠太選手は、飛び出したといっても、5kmを15分ペースだから、とんでもなく速いわけじゃない。他の選手が抑えすぎただけ。
で、32年前の中山は、最後、氷まじりの雨になって冷え切った中、ペースダウンしても完走したのに対して、悠太は実質30度超えの猛暑の中、ガタガタッとペースを落として抜かれた。暑さを舐めちゃったんだねえ。帽子も被らず、用意されていた氷袋も使わず……自然児スタイルは中山を思わせるけど、中山は怪我をしたときは高価な馬肉を取り寄せてそれで患部を冷やしたり、ありとあらゆることをやっていた。やっぱり、帽子くらいは被ったほうがいいよね。髪型乱れるとか思わずに。

最後の3人の争いはすごかったね。結果、途中マーライオンしちゃった中村匠吾選手が1位。新潟の星・服部雄馬選手が大迫傑選手をゴール直前で逆転して2位。この2選手が東京五輪代表確定となった。

あたしは、実はレースが始まる前から、大迫の1位はないのではないかと思っていた。途中の様子を見て、ますますそう思っていたので、3人の争いになって大迫が追い上げたときはむしろ驚いた。だから、大迫が服部に抜かれたのは、それほど意外ではなかった。
大迫は最後の最後、「3位でも決まりでしょ」って思ったんじゃないだろうか。なにがなんでも2位までに、という気迫が感じられなかった。
一方、中村はレース前から1位で決めるという覚悟と自信を持っていたような気がする。

設楽悠太は第二の中山になれるか?

レース前、あたしはフェイスブックにこう書いていた。
MGCは「一発勝負」といわれているけれど、なんか、また最後まで揉めそうな気がするなあ。MGCで本命がこぼれて、ダークホースが入り、その後、本命が来年2時間5分55秒とかで走ったらどうなるんだろう。
大迫も設楽も3位までに入れなくて、井上+ダークホース2選手が1~3位になって、そのタイムが芳しくなくて、来年、大迫か設楽が2時間5分55秒とかを出したとしたら、陸連はまたゴニョゴニョ言い出したりして……。

女子についてはこう書いていた。
女子は鈴木が本命とかいわれているけれど、どうなんだろう。かなり緊張しているような感じ。
松田は仕上がっていないような気がする。
小原怜とか一山麻緒あたりが3位以内に入る可能性もありそう。

どちらの予想も外れたが、本命が1位にならないことは当たっていたね。
女子の結果は、
  1. 前田穂南  2.15.15
  2. 鈴木亜由子 2.29.02
  3. 小原 怜  2.29.06
1位前田と2位の差は、なんと14分近くある。これはビックリ。

さて、MGCでは2位までが代表内定とされているが、実は、国際陸連はオリンピック代表選手資格として、マラソンには2時間11分30秒という参加標準記録を設定している。これを2019年1月1日から2020年5月31日までに突破することが条件とされていた。
MGC当日時点で、大迫も服部もこれを突破していないので、もしこれを厳格に守らなければならないということになると、勇馬の今回の記録2時間11分36秒や大迫の2時間11分41秒はクリアしていないことになる。
しかし、事前にこの問題がネットニュースなどで流れたため、日本陸連は国際陸連に直談判して、7月3日に、国際陸連がその要求に折れて「MGCで5位までに入った選手は参加標準記録の条件をクリアしていなくても、代表として認める」という例外規定を発表した。なんか、そうなると参加標準記録とか世界ランキングポイントとかの、国際陸連が決めたルールがどんどん形骸化していくようにも思うけど、大丈夫なのかしら。まあ、マラソンは他の競技と違って、気象条件やコース環境が大きく影響する競技だから、特殊だけどね。

さて、あたしが呟いた「その後、本命が来年2時間5分55秒とかで走ったら」というのは、3人目の条件が、「MGCシリーズに出場して完走した選手 or MGCの有資格者である選手が、男子は、
・福岡国際マラソン(2019年12月1日)
・東京マラソン(2020年3月1日)
・びわ湖毎日マラソン(2020年3月8日)

女子は、
・さいたま国際マラソン(2019年12月8日)
・大阪国際女子マラソン(2020年1月26日)
・名古屋ウィメンズマラソン(2020年3月8日)

において、男子は2時間05分49秒、女子は2時間22分22秒の設定記録を上回った最も速いタイムをマークした選手男女1名、それをクリアする選手がいなかった場合はMGCの3位の選手

……と決められているからだ。

この「男子は2時間05分49秒、女子は2時間22分22秒」というのは、MGC出場資格を得るためのシーズン(2017年~2019年)に、MGC出場有資格者(男子34名、女子15名)が出した最高記録──男子は大迫傑選手(ナイキ)の2時間05分50秒(2018年シカゴマラソン)、女子は松田瑞生選手(ダイハツ)の2時間22分23秒(2018年ベルリンマラソン)──を1秒でも上回る記録、ということで決まった。
この設定記録を決める際の会議では、「男子は日本記録だが、女子は日本記録(野口みずきが2005年に出した2時間19分12秒)よりも3分以上遅いではないか」という疑問が呈されたという。
しかし、「男女マラソン世界リストの過去4年間の平均タイムと摺り合わせると、男子の7位の平均が2時間05分51秒、8位の平均が2時間06分35秒となる。同様に女子を見ると、7位の平均が2時間21分56秒、8位の平均が2時間22分12秒、9位の平均が2時間22分33秒」なので、そうそうおかしな設定ではないということで、こう決まったそうだ。

大迫選手はおそらく、自分が出した日本最高記録である2時間5分台で走れる選手などいないと踏んで、MGCで3位ならほぼ確定だと思っているだろう。
「2時間5分49秒を切ればOK」の対象はMGCレース出場資格者のみだから、具体的には設楽悠太と井上大仁(MGCでは優勝候補の一人と目されていながら、体調不良でまさかの完走者最下位)しかいないだろう。二人が再チャレンジするとしたら、対象レースは今年12月1日の福岡、来年3月1日の東京、3月8日のびわ湖と決められているから、おそらくいちばん条件がよさそうな3月1日の東京だろう。
このレースにはペースメーカーもつくから、当然、ペースメーカーのうち二人以上は2時間5分台のペース(5kmを14分50秒前後)を作るはずだ。それでも、さすがに最後まで5kmを14分50秒ペースで走りきるというのは難しい。
悠太が第二の中山になれるかどうか……今から楽しみだ。

で、ここでもし、設楽悠太、井上大仁以外の、MGC出場資格のなかったような「第三の選手」が突然現れて2時間5分台前半くらいで走ったりしたらどうなるんだろう。例えば、悠太の双子の兄・啓太が、悠太の練習相手をしているうちに力をつけて、悠太のペースメーカー役をやるつもりで出た東京で2時間5分40秒で日本人1位(優勝はケニアの招待選手で4分台)、悠太は必死に引っ張った兄に遅れること10秒で2時間5分50秒。
小説としては、そんなことになったらいちばん面白いけどね。陸連はアッパトッパするだろうなあ。
規定通りなら、啓太は5分49秒を切っているが、MGC出場資格がなかった選手なので対象外。悠太は大迫と同タイムで日本最高記録保持者に返り咲いたが、1秒足りないから対象外……。それでも国中で大騒ぎになる。

小原怜は「不幸運」をひっくり返せるか

一方女子も2位と3位はきわどかった。3位となった小原怜選手が、2位の鈴木亜由子選手に4秒差まで迫りながらの3位で代表内定が決められなかった。
小原怜には、リオ五輪の代表選考レースだった2016年3月の名古屋で日本人1位の田中智美選手に1秒差で競り負けて代表になれなかったときからずっと注目していた。
2016年の名古屋で小原に「1秒差」で競り勝ってリオ五輪代表を決めた田中智美選手は、2014年11月の横浜国際女子マラソンで優勝しながら、北京世界陸上代表に選出されなかったという、これまた世間をざわつかせる悲劇を背負ってのレースだった。
だからあのときは、「今回は田中でいいけど、次は頑張れよ、小原」と、心の中でエールを送ったものだ。

しかし、所属の天満屋は、才能ある選手を五輪代表として毎回送り込むも、その才能をつぶしているような印象を受ける。山口衛里、坂本直子、中村友梨香、重友梨佐……スピードを誇る選手たちが、みんなオリンピック本番では失速しているが、原因は精神面のような気がしてならない。
素直な性格、練習熱心、指導に従順、我慢強い(我慢強すぎる)……人間的にみんな愛しい選手ばかりで、「いい人」なんだろうなと思う。実際あたしは彼女たちのファンだった。それだけに、つぶれてしまうのが心配なのだ。
今回のMGCでぶっちぎり優勝した前田穂南も、山口や坂本のようなすごい才能を感じさせるが、このまま壊れずに伸びていけるのか、とても不安だ。

で、小原もその系譜にいるのでは……という気がしてしまうのだ。しかも、小原は、山口や坂本、前田のような素直で穏やかな性格とは違って、本来なら有森裕子のような我の強いタイプなのではないだろうか。そういう性格を抑えて抑えて頑張っている気がする。それがさらに「不幸感」?を漂わせている。小原には、ワコールとか第一生命グループのほうが合っていたんじゃないかと(勝手ながら)感じてしまうんだよなあ……。

……で、女子の場合はMGCファイナルチャレンジの合格設定タイムが2時間22分22秒なので、これを破ることは男子ほど難しくはない。
ただし、有資格者が13人と少ない。2.22.22を切れそうな選手というと、小原の他に、松田瑞生(自己最高記録2.22.23)、安藤友香(2.21.36)、関根花観(2.23.07)、福士加代子(2.22.17)、一山麻緒(2.24.33)、前田彩里(2.22.48)あたりがいる。一山あたりは、コンディションさえよければ簡単に突破しそうな気がする。さらには、MGC有資格者以外の新人が現れてすごいタイムを叩き出す可能性も(低いとはいえ)男子よりは高い。
彼女たちが記録を狙って再挑戦するとすれば、大阪国際女子マラソン(2020年1月26日)だろう。
となると、小原は大阪を見守り、その結果次第で名古屋に自ら出て勝負をつける、という作戦になると思われる。これまた興味深い。
大阪で一山が2.22.20くらいで快走し、それを見て小原が名古屋に出て2.22.21でゴールしたものの、また1秒差に泣く、なんてことにならないといいのだが……。

なんか、選手たちには人生をかけた大変な闘いなのに、お気楽に勝手な妄想をして楽しんでてすみませんね。ごめんね、ごめんね~。
でも、スポーツは勝敗が分かりやすいからいい。だからこそドラマチックなんだよね。
来年の東京オリンピックは、そもそも日本での開催そのものに反対だし、とんでもない季節に強行するという蛮行に呆れている。だから、大好きなマラソンレース観戦は、代表選考会で燃え尽きるだろうな。だれが代表になったとしても、オリンピックでは「死なないでね」と見守るしかない。
気温30度超えのマラソンレースなんか、人道的見地からして、やっちゃいけないんじゃないかなあ、根本的に。

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