『奇跡の星』は3.11の前、2010年秋にNHKホールでお披露目したのだが、レコーディングの話がまとまらないまま3.11が起きて、その混乱の中、ほとんどお蔵入りのような、塩漬けのような状態になってしまった。
苦労して書いた曲だけに、このまま塩漬けになっているのはやるせないのだが、7年も経つと吹っ切れた気持ちにもなる。
僕はオフコースと同じ横浜の聖光学院に通っていて、在学中にはまだアマチュアだった小田さんに手紙を書き、歌がうまくなるにはどんな練習をすればいいのかなどという相談もしていたのだが(小田さんからは、長い、ていねいな返事をもらった)、オフコースがようやく『さよなら』でヒットを出した直後、母校の数学教師Y先生(すでに故人)は、ヒットの要因について「小田は声が普通じゃないんだよ」とボソッと言っていた。
そのとき僕は、ああ、この人は音楽を全然分かっていないな、と思ったものだ。
声の魅力だけでヒットしたなら、もっと前にオフコースは売れているはずだ。『さよなら』がヒットしたのは、あくまでも楽曲としてよくできていたからだ。それが分かっていないんだなあ……と。
しかし、最近、Y先生が言っていたことは正しかったのかもしれないと思い直している。
例えば、NHKの『にっぽん縦断こころ旅』や『ドキュメント72時間』の挿入歌を聴いていて思うのは、どちらの曲も歌手の声、歌唱法と曲のアレンジが絶妙にうまく組み合わさった結果、聴いていて気持ちよいのだろうな、ということ。
助手さんはこの2曲(
『こころ旅』と
『川べりの家』)は同じ人が歌っているの? と言っていたが、全然違う。
『こころ旅』は池田綾子。武蔵野音楽大学の声楽科出身の正統派、優等生タイプ。
『川べりの家』は松崎ナオ。彼女はラフなステージをする女無頼シンガーという感じ。イメージはかなり違うが、歌詞やメロディの構成から、ローラ・ニーロを思い浮かべたりもした。
池田綾子と松崎ナオは正反対の個性だと思うのだが、番組の挿入歌として流れてくると、同じような、端正で透明感のある印象を受ける。
これはおそらくNHKの音楽選定スタッフのセンスによるものだろう。同じスタッフが選曲し、起用しているのかもしれない。
で、改めて感じたのは、作品の魅力を引き出せる歌手がいないと、楽曲は不幸だな、ということ。
池田綾子さんのような歌手が『奇跡の星』を端正に歌い上げるとどんなことになるのだろう。アレンジもゴテゴテせずにシンプルかつストレートな仕上げにして……。
そんな音を聴いてみたいなあ、と思う。
でも、僕が生きているうちには実現しそうにない。
そこで、またまた孤独な作業をしてみた。自分でできる範囲で録り直してみようかな……と。
コンテストのデモテープを作ったときにあっちゃんに頼んで弾いてもらったピアノのデータがMIDIでももらっていたので、自分で歌えそうな限界、Eスケールに移調してピアノとギターだけのオケを作った。
これだといちばん上の音はG#になるので、相当厳しい。でも、ステージではなく、録音ならなんとかなるんではないか、持ち上げた分、Aメロ部分は少し聴きやすくなるんじゃないか……と考えて。
結果がこれ↑
イメージとはだいぶ違う、というか、いつもと同じだなあ、という出来になってしまったけれど、「人生、死んだ後が勝負」をスローガンに今を過ごしている僕としては、少しでも分かりやすい形で残しておきたいのだわ。
数十年後、誰かが発掘して歌ってくれたらいいな、と。
あ~、もちろん僕が生きているうちなら、もっといいんだけどね。