ところで、先日訪ねたイタリア大使館別荘を設計したのはチェコ(当時はオーストリア=ハンガリー帝国)生まれで、後にアメリカ市民権を取った
アントニン・レーモンド(1888-1976)で、彼にはさらに興味深い逸話があるのでここにまとめておこう。
レーモンドはフランク・ロイド・ライトの弟子で、1919年、帝国ホテル設計施工の助手としてライトと共に来日してから日本との関係ができる。
1922年に独立し、レーモンド事務所を開設。以後、日本に数多くの建築を残している。我が母校・上智大学の旧6号館、7号館も作品リストに入っていてちょっと驚いた。
レーモンドの生涯で最も興味深いのは、第2次大戦中アメリカに戻っていたとき、ユタ州の砂漠に東京下町の木造家屋の続く街並みを再現し、焼夷弾による東京大空襲の実験に協力したという件だ。
2005年のしんぶん赤旗にまとめた
記事が載っている。
この話は知っていたのだが、その設計者とこのイタリア大使館別荘の設計者が同一人物だということは知らなかった、というか、見過ごしていた。
赤旗の記事は「東京大空襲・戦災資料センター」(早乙女勝元館長)に提供された英文資料が元になっている。
この資料は米国・アイオワ大学の日本研究者、デービッド・タッカー氏が米国国立公文書館などにあった資料を複写して、2003年に同センターに提供し、同センター顧問で建築家の三沢浩氏が翻訳、研究にあたった。
その三沢氏は、奇しくも戦後、レーモンド事務所に入所したレーモンドの弟子。
これについてさらに突っ込んだ考察をしている
設計士・佐々木繁氏のブログも実に興味深い。
内容をまとめてみると……、
- 焼夷弾は日本の本土爆撃向けに開発された新型爆弾で、開発したのはロックフェラー財閥傘下のスタンダード・オイル社
- 焼夷弾の開発は「東京空襲で関東大震災(の大火災)を再現する」という戦略に基づいていた
- レーモンドは帝国ホテルの内装設計担当としてライトの助手として日本に来ており、その帝国ホテルの落成記念披露宴が行われるはずだった1923年9月1日が関東大震災。その後、東京を襲った大火災被害を目の当たりにしている
- 焼夷弾は1941年に開発着手され、1943年にユタ州の砂漠に日本とドイツの街並みを模した実験場を作り、繰り返し投下実験が行われた
- この実験で、爆弾の落下軌道、発火の範囲、燃え広がり方、消火に要する時間などなど、詳細なデータが集められた
- この実験場に作られた「日本の町並み」は木造二階建て長屋の2戸3棟を4列、計12棟24戸。いわゆる「棟割長屋」タイプだった
- 使用された材木は日本のヒノキ材に近いものということでスプルース材を。漆喰壁はインディアン住居の「アドビ」で代用。畳はハワイの日系米人から輸入。屋根はトタン葺と瓦葺の2種。雨戸や物干し台も設置し、屋内には畳、ちゃぶ台、座布団などの家具・備品も置くほど徹底していた
- その設計を担当したのがアントニン・レーモンド。焼夷弾を開発したスタンダードオイル社が資金を提供
- レーモンドが東京空襲のための焼夷弾開発に協力した背景には、家族がナチス・ドイツに殺害された恨みも関係しているのではないかという説がある
- レーモンドは太平洋戦争勃発前に離日し、アメリカに戻ったが、その直後の1939年にナチス・ドイツはレーモンドの母国チェコに侵攻し併合
- チェコにいたレーモンドの家族は戦死したり、ユダヤ人をかくまったとして逮捕・殺害されるなど、全員が死んでしまった
- レーモンドは『自伝』(1970年出版)の中で、「戦争を最も早く終結させる方法は、日本を可能な限り早く、しかも効果的に敗北させることだと考えた」と述べている
前述のブログの主である設計士・佐々木繁氏は、
アントニン・レーモンドは、完成した自身の作品の図面と写真をたまに発表するだけで、解説文や講演などを通じて自身の建築思考を語るようなこともほとんどなかった。日本人との接触は、限られた必要最小限の範囲だけにしていた、といった印象。
日本社会に深く関わる者も多かった明治時代の『お雇い外国人』とは随分違っている。
一夜にして10万人余が殺された東京大空襲のことは、ずっとレーモンドの胸にあったのだと、私は思う。
……と結んでいる。
東京大空襲を指揮した
カーチス・ルメイのことなども前に読んで知っていたが、今回、ひょんなことから思い出すことになった。
歴史的建造物というのは、まさに歴史を振り返るためのものなのだなあと実感できた。

あのとき、さまざまな偶然が重ならなかったら今頃日本は本当に「終わっていた」ということを、的確に分かりやすく解説。
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