掘り起こして、なんとか水が流れるようにした。暑いので一苦労。帰り道に急に大粒の雨が降ってきてびしょ濡れになってしまった。
今の家に引っ越して来てすぐの頃、一体この住宅街の下水はどうなっているのだろうと、地図を片手に町内の下水U字溝をすべてたどってみた。
その結果、最後は丘の下、田んぼに沿って流れている沢筋に落ちていることが分かった。
その沢はかつては湧水を集めて流れる細い沢だったらしいが、圃場整備で切り離されてしまい、ほとんど埋もれていた。草を刈っていくと、なんとなく沢の跡が見えてくる……という状態。
水が流れない沢に住宅地からの下水がそのままつながっている。そこから先は流れていく場所がない。
あまり軒数がない住宅地で、下水溝(U字溝)はほとんど空継ぎみたいな状態で、U字溝の継ぎ目からは草が生えていたりする。だから、下水の最後から遠い家(うちなどはそう)から出た排水は、最後まで流れる前に地下に染み込んでいく。流れていく間に少しずつ地中に染み込んで消えるというのは、一種の土壌浄化トレンチだ。有害物質を流さなければこれでも問題はない。うちではもう何十年も合成洗剤は使わず無添加石鹸のみであらゆることをやっているので、下水に出ていくのは石鹸カスと少量の有機物だけだから、この方法でも問題はない。
しかし、颱風で大雨が降った後などは染み込みきらず、沢筋に一気に土砂が流れ落ちる。その土砂の圧力で、枡が壊れ、ヘドロ状のものが田んぼ側に押し出されていた。
スコップを持ってヘドロをどかして応急処置したが、この沢がつながっておらず枯れてしまっている以上、根本的な解決にはならない。
農業用水U字溝から旧沢筋に流入口が設けられているのを見つけたので、農家の水利委員に頼んで、常時少しでもいいから旧沢筋に水を入れられるようにしてくれないかと頼んだ。
これが本日記にたびたび登場する「復活の沢」だ。
いろいろあって、復活の沢は今は僕一人が管理?している。
田んぼに水を入れている時期は、U字溝からの分岐口は1cmくらいしか開けられない。そこにちょっとでもゴミが詰まると沢側に水が入らなくなるので、ほぼ毎日チェックして、ゴミ(ほとんどは葉っぱ)を取り除く。
田んぼに水を入れていない冬の間は、大元の川(武子川上流の板橋川)からの取水口を少しだけ開けておいてもらわないと水がこないから、目詰まりと同時に、沢の入り口までのU字溝を流れる水量をチェックし続ける。
これがすごく難しい。と同時に、農家の人たち、住宅地の住民との関係がとてもデリケート。
3年続けてきて、いろんなことが分かってきた。
- 沢の入り口から下水合流点までの短い区間が水棲生物たちにとってはとても重要な「生き残り」エリアになっている
- 沢の途中で下の古いU字溝側に水が浸みだしているのだが、どうもこれは沢から漏れているのではなく、山側から浸みだしている伏流水らしい(その証拠に、沢が涸れているときも、雨の後などはかなりの量の水が浸みだしている)
- ツチガエルは沢だけでなく、常時浸みだして水が溜まっている下のU字溝側で越冬しているらしい
- だからそのU字溝は適当に土に埋もれているくらいがちょうどよくて、きれいに掃除してしまうと越冬するための環境が失われる
- 周辺の田んぼの周りを何年もの間くまなく見てきているが、ツチガエル、アカガエルはこの復活の沢にしかいない
- ツチガエル、アカガエルがこの狭いエリアだけで見られるのは、冬の間も湿地部分が残っているからだろう
いわゆる「自然が残っている美しい風景」なんてのとは全然違う。見た目もきれいじゃない。だけど、一部の生物たちにとってはこの微妙な環境が残るかどうかが地域絶滅するかどうかの分かれ道なのだ。
一昨年の冬、子供が川からの取水口バルブをいたずらして全開にしたとかで、完全に閉められてしまった。仕方なく、山から浸みだしてくる別ルートから水を取るためにいろいろ苦労したが、雨が降らない冬の間にはやはり完全に涸れてしまった。
その次の夏から秋にかけては、前の年にいっぱい見られたツチガエル、アカガエルの数が激減した。たまに見ることができたサワガニもまったくいなくなった。
去年の冬はバルブがロックされなかったので、ちょろちょろと流れるように微妙に調整しながら一冬見守ってきた。
そのせいか、今年はアカガエルもツチガエルも、去年よりは少し増えた気がする。
そんな風に、カエルを巡る環境はとてもデリケートなのだ。
ちなみに、ツチガエル、アカガエルが見られる場所が復活の沢以外にもう一か所ある。それがかわず庵の庭。
復活の沢を見続けてきて、さらには小来川のモリアオ産卵地を確認して分かったのは、人が入らない森の奥みたいな場所が必ずしもカエルの生息に適しているわけではないということ。
オタマジャクシが育つためには、陽当たりがよくて水温が適度に上がる浅い止水域が必要。流水域で棲息するタゴガエルやカジカガエルは森の奥や清流がある場所で生きているが、モリアオ、サトアオ(シュレーゲルアオガエル)、ツチガエル、アカガエルは、流水域や水温が低い止水域では育たない。
冬の間まったく生き物が見られず、底まで凍りつくような池であっても、泥の中ではいろんな生き物が息を潜めて春を待っているのだ。
コンクリートのU字溝にしてしまうと、そこに落ち葉や泥が溜まっていることが許せなくなって、まめに掃除したくなるのが人間の性。でも、それは同時にカエルやドジョウ、メダカ一掃作戦にもなってしまう。
U字溝を作って農業用水管理を楽にするにしても、沢や年中水がある止水域を残したままの圃場整備をしていれば、いろんな生物種がここまで壊滅的にいなくなることはなかっただろう。
でも、そういう話をすると危険人物視されたりするので、よく環境を観察し、そこでどんなことが起きているのか理解し、ひっそり目立たないようにやるのが秘訣……ということを、ここに来てから学んだ。
今年はコッソリープの実験もできて、どんな感じになるのか分かったので、来年はコッソリープ用の水没プランターをもう1つ2つ増やしてみたい。
こっそりひっそり……と。