ざっと見て回っただけだが、いろいろ考えさせられた。
船村徹記念館はいらない
まずは施設の構成バランス。
正面にど~~んと船村徹記念館を置いているけれど、どれだけの人が540円を払って中に入るか、ちょっと疑問。
540円を払ってくれたとして、それで年間維持費がちゃんとペイできるのかも疑問。これを目玉にしようという意図というか、センスが分からない。
そもそも船村徹という人を知っている人と知らない人の比率で言えば、知らない人のほうが多いだろうしね。
存命の人の名を冠した記念館というものがそもそも「それってどうなの?」と思うのだが、やるとしても普通は民間企業が経営するものだろう。
例えば、北島三郎記念館は大阪に本社を置く株式会社が経営している。王貞治ベースボールミュージアムは福岡ソフトバンクホークスの子会社が経営している。
船村徹記念館は日光市が市税を使って運営に関与する方針をめぐり、市議会でも賛否が分かれた。前回の日光市長選の争点のひとつにもなっていた。
日光市の計画では年間5万6000人の入場を見込んでいるらしい。これが達成できるのかどうか、僕には見当もつかない。5万6000人を365日で割れば155人なので、普通なら軽くクリアできるような気もするが、どうなのだろう。
5万6000人×500円は2800万円。これがこの記念館の年間維持費として十分なのかもよく分からない。
ただ、今市エリアに人を呼ぶ手法としてはあまりにも時代遅れというか、ずれているんじゃないかとは思う。
日光に来る人たちがこの施設を訪問目的地のひとつにするだろうか?
3階には「歌道場」というカラオケスペース(1曲100円)と「日光連山眺望カウンター」という日光連山を生で眺められる展望スペースが同居しているが、そういうところに、コンセプトの甘さ、中途半端さがよく現れている
日光連山を眺望できるスペースというアイデアはとてもよいので、最初からそれを売りにして展望レストランとか展望台とかを造るというなら分かる。高さは抑えてもランドマークになりえるようなセンスのいい建物。上に登っていく途中にも何か楽しめる仕掛けや工夫を入れる。そうすれば、それを目的に立ち寄る人もいるはずだ。
でも、演歌の殿堂みたいな建物の上に「日光連山眺望カウンター」があっても、まず気がつかないし、それだけを目的に540円払う人がいるはずもない。
彫刻屋台展示のやる気のなさは噴飯ものだ
で、いちばんがっかりしたのは彫刻屋台展示スペースだ。
これは僕がことあるごとに言っている「彫刻屋台という素晴らしい文化財、知られざるアート作品を、年間を通して誰もが間近に見られるようにすべき」という主張を実際の形にしたものと言えるが、まず名称がひどい。
「屋台展示コーナー」というのだ。
はあ~~~?
これではほとんどの観光客は、たこ焼きや焼きそばの屋台が並んでいるのだろうと思う。彫刻屋台ファンの僕でさえ、そう思った。ああ、焼きそばとか売っているのか……と。
もちろん「
彫刻屋台展示館」としなければならない。
施設的には立派なのだが、なんとシャッターが閉まり、入れなかった。金曜日の午後2時台である。
駐車場は満車で、人はいっぱい来ている。それなのに締切。
なんとか見られないかと横に回った。横の壁はガラス張りになっていて中の屋台がガラス越しに見られるのだが、館内照明は消えていて、ガラスが外光を反射しているので見えない。
ガラスにカメラのレンズをペタッとくっつけ、さらには反射光を少しでも減らすためにレンズの上を手で被って、ようやく撮ったのが上の写真だが、外から見ている限り、何も見えないに等しい。実際、訪れた人で彫刻屋台の存在に気づいている人はほとんどいなかった。
百歩譲って、運営上面倒だから中に人を入れたくないというなら、シャッターを下ろして照明もつけないのではなく、ちゃんと正面に案内板を出すべきだ。当然、館内は屋台の保存に悪影響が出ないようにLED照明にしているはずで(ですよね?)、常時照明はつけて、ガラス越しにもちゃんと鑑賞できるようにしなければならない。
一体何をやっているのか。
腹が立つやら情けないやら。
船村徹記念館ではなく、「動く陽明門。見逃したら一生の損」というような触れ込みで彫刻屋台展示館をメインに据えてPRしたほうがはるかにうけるだろう。
おそらく、船村徹記念館にかける金額以下で、鹿沼の「屋台のまち中央公園」(あれもネーミングが失敗している。ほとんどの人は彫刻屋台を想像できず、たこ焼きや焼きそば、おでんの屋台を想像する)以上のものができたはずだ。
それが実現できていれば、このニコニコ本陣の魅力は今の何倍にもなっただろう。
とにかく、今あるこの施設だけでもいいから、この彫刻屋台展示スペースをしっかり活用せよ、と言いたい。
中途半端な「商業施設」
多目的広場を挟み、右手には「商業施設」という名称の店舗エリアがある。
まずこの「商業施設」っていう名称をなんとかしなさいよ。今からでもいいから。
ここに来るまでに誰も何も言わなかったのだろうか? それって役所目線の名称でしょ。企画書に説明のために載せる名称でしょ。それでそのまま最後まで行くなんて、ありえないでしょうが。
入っているのは蕎麦処「蕎粋庵(きょうすいあん)」、宇都宮のたこ焼き・鯛焼き屋「富次郎」、丸彦製菓の直営店「名水の郷 日光おかき工房」、和菓子の「日昇堂」、金谷ホテルベーカリー、惣菜 の「美彩たむら」、洋菓子の「すいーつふぁくとりーTENTEN」、甘味と食事の「にっこう茶屋 かなめや」、そして農産物直売コーナー(多分JA)など。
食事や蕎麦は、所場代が高いここで営業している店より、付近にいっぱいいい店があるから、地元民にはあまり利用の機会はないだろう。観光客相手という視点からすると、「かなめや」のメニューはそれなりに特色を出そうとしていて理解できる。
おかき工房は要するに丸彦製菓のおせんべいで、おいしいのは分かっているからこれはこれでいい。目の前で揚げたての揚げ餅を試食させて熱々を売るというコーナーもあり、これもこれでいい。
地元民としていちばん好感が持てたのはお総菜屋さん。東武日光駅弁を手掛ける「日光鱒鮨本舗」がやっているそうだ。
胸肉の鶏唐揚げ、パックに詰め放題で300円と500円。「ひみつのコロッケ」という名称の俵むすび型コロッケとメンチカツもGOOD。このコロッケはこの場で揚げたてを手渡しできるようにするなどしてうまく売り出せば名物にできる可能性がありそう。そのためには場所がいちばん奥なので難しいのだが……(多分、所場代はここがいちばん安いのだろう)。人件費もかかるしね。値段が上がってしまってはきついので、当面はディスプレイの方法を工夫しましょうか。
コロッケとメンチ、唐揚げを買ってきたが、どれもおいしかった。
「かなめや」では日光天然氷のかき氷が食えるのだが、かき氷は削り方が命。電動式の削り機で素人が削ると、同じ氷を使っていても味がガクンと落ちる。そのへんがどう管理・運営されているのかがちょっと分からなかった。
土産物としては、けっこう漬け本舗の「生七味」や、サクサクといくらでも食べられる牛乳かりんとうなどは置いてなかった。福田征子さんの饅頭と大福があったが、これはJAを通してだろう。JA直売所では午前中のうちに売り切れてしまうのだが、ここでは午後2時台でも売れ残っていた。観光客には分からないからね。これがおいしいということが。
そういうところで、やはり
日光どっと倶楽部などの日光裏情報は必要だな、と思った。
所場代が高いと、やはり小規模店舗や個人は出店、出品できない。
船村徹記念館をやめて、そのスペースと費用を個人商店の商品販売や地元のアーティストの作品紹介などに使えば、どれだけ魅力的な「道の駅」になっていただろう。
漬物だけでワンフロア、蕎麦だけでワンフロア、地元のアーティストたちのコーナーでワンフロア、シンボルは彫刻屋台……そんな風に組み立てていたら……。
他と同じことをやっていてはダメなのだ。
観光客は、日本中の道の駅、高速道のSAなどを見て、利用している。「ああ、この手のものね」と見切られるような施設では勝負できない。
日光山や奥日光方面への行き帰りに、観光客が確実に立ち寄ろうと思うような工夫が船村徹記念館というのではなあ……。
今市は単に通り過ぎるだけの町だった。そこにわざわざ観光客が立ち寄るための基点となるべき施設なのだから、もっと他にはない魅力を打ち出さないとね。
店舗スペースと彫刻屋台展示スペースだけでも、しっかりプロデュースし直していけば、魅力が増す余地はいっぱい残されている。今からでも十分できる。そこに期待したい。
……と思いつつ、じゃあ帰ろうか……と駐車場に戻ろうとしたら……ん?
嬉しいオマケがあった。
ニコニコ本陣裏手にある秘密のスペース。
そのリポートは
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