サトアオ(今後はこう書くことにした。シュレーゲルアオガエルのことなのでよろしくね)の流出卵塊を拾い上げるようになって何年も経つが、いまだに謎が多い。
最近になって分かってきたことをまとめると、
- 流出の原因第一位はトラクターでの代掻き、畦塗り。そのときに穴から出てしまい、その後、水が入ってプカプカ流出する
- 運よく形が崩れずに流出した卵塊は、早い時点で水から拾い上げ、ていねいに保護すると数日から1週間くらいで孵化するが、トラクターなどに巻き込まれて崩れてしまったものはたとえ中に卵が残っていても、水分が保持できずに腐っていく
- 乾燥にも水浸しにも弱いが、どっちが怖いかといえば水浸しになるほうで、その状態だと卵塊の泡状部分を保持できずに溶けてしまい、オタマになる前に死んでしまう
- ずっと雨に当たらないまま卵塊の中でオタマになり、水の中に流れ出せず、土の中や石の下で閉じ込められた状態で1CM以上の黒々としたオタマになっていることがある。完全に乾燥しきらない場合は水浸しになるよりは生存日数が長くなるようだ
- 以上のことを踏まえると、卵塊の形が壊されないことと、早い時点で水中に流れ出さないことが非常に重要。しかし、雨による増水などで水が土の中の卵塊に達しない限りオタマが水中に流れ出すことは不可能なので、いずれにせよ大変リスキーな産卵方法
……とまあ、こんなところ。
ところで、代掻き後の田んぼには白い小さな粒々がいっぱい浮かんでいるのをよく見る。これがなんなのか、ずっと疑問に思っていた。肥料の一種なのか、それとも薬剤なのか。
「農家の人が『肥料』と呼んでいる除草剤」という表現をしている人もいた。
調べてみると、どうもどちらの可能性もあるようなのだ。
普通の人は田植え後、除草剤を撒きます。田植の前と後、2回まく人もいます。田んぼの土表面に白い粒剤がおちているのがそれです。残留しないとはいわれていますが、きもちのいいものではありませんし、近年言われているミツバチ大量死の原因が除草剤や神経系の殺虫剤に含まれるネオニコチノイドという成分では?とささやかれており、フランスで禁止になっている薬剤もある中、日本はそんな動きすらありません。
ちなみに、全世界の中で、農薬使用率のトップは、残念なことに日本なんです。
(自然栽培天神自然農園のサイトより)
夕方、除草剤を撒いた。
除草剤は、我が家の稲作で使う唯一の農薬である。除草剤は代掻き時と田植えあとの二回使う人もあるが、私は田植えあとの一回に限っている。除草剤以外の農薬としては、たいていの人は田植え直前に育苗箱に振りかける殺虫剤を使う。
田の表面の白い粒が除草剤である。次第に溶けて田の水に混ざり、雑草を枯らす。だから、除草剤を「草枯らし」と呼ぶ人もいる。
(ブログ「てつ人 の 雑記帳」 より)
この除草剤は
「アピロスター」という商品名のものが代表的らしい。
販売元が、
田植えと同時に散布する方法を解説しているWEB記事も読んだ。
田植え機は、デジコラアクタラを散布した苗を次々と植えていくと同時に、アピロスター、一発肥料を散布しながら田んぼを進みます。
デジコラアクタラは苗の根とともに土中にもぐってしまうので、 目視できませんが、アピロスターの白い粒が確認できます。
準備作業開始からわずか45分で、田植え、側条施肥、箱処理剤・除草剤の散布がすべて終了しました。
もう省力散布以外は考えられません。
では、白い粒々はすべて除草剤なのだろうか?
さらに調べていくと、
無農薬栽培をしている田んぼは、田植え後、白い粒でいっぱいになります。これは米ぬかのペレットで、肥料としてよりも抑草効果を期待して散布しています。
(農業組合法人 高山農園 のサイト)
という写真キャプションを見つけた。
米ぬかペレット?
どうやら
これのことらしい。
「当社の米ぬかペレットは肥料用として販売しております。目的外使用については、一切責任はおいかねます」という注意書きがある。
どういう意味なのだろう?
よく読むと、あくまでも「肥料」として販売しているので、除草効果については責任を負わない、という意味らしい。
「水稲除草目的の使用時期」という説明があって、そこには、
「一種の肥料障害を利用した除草方式ですので育苗は根張り中心のガッチリした育苗方法を取ることが絶対に必要です」とある。
肥料障害というのは、肥料焼けともいい、肥料過多によって植物の根の機能を狂わせ、生育障害を起こしたり枯れてしまうこと、らしい。
つまり、稲が育つ前に肥料を与えることで、稲より生育が早い雑草の生育を止める効果を期待する、ということなのだろう。時間をかければ肥料になるが、その前に稲以外の草の除草にも効く……ということか。
これは天候などに大きく左右される現象なので、管理がとても難しいようだ。
しかし、こうなると「白い粒々」が除草剤なのか米ぬかペレットなどの肥料なのかは、素人には分からない。う~~ん。
「肥料障害」を調べていてもうひとつ目についたのが、
ここ数年、日本では登録のない除草剤(成分名:クロピラリド)が残留した輸入飼料(乾草等)を給与された、家畜のふん尿堆肥の施用による農作物の生育障害の事例が全国各地で報告されています。
(千葉県のWEBサイトより)
という記事だ。
クロピラリドは、分解が非常に遅いという特徴があり、堆肥に残留することになります。そして、クロピラリドが残留した堆肥を過剰に畑にまくと、植物の異常生育(生育障害)が起きることがあります。
とある。
牛や豚の糞に残留した農薬が野菜の生育を阻害するほどの力を持っているというのだから、ぎょっとするではないか。
「人間の健康に影響する危険性はほとんどありません」というが、有機農業、有機肥料というのも、とてつもなく難しいのだなあ、ということが分かる。
さて、なんでこんなに「白い粒々」のことを調べたかというと、サトアオの流出卵塊の多くは、表面に白い粒々のついた泥がくっついていて、なかなか取れない。
卵塊からオタマが出てきてもこなくても(卵塊の壊れかたがひどくて、どう頑張っても腐る一方の場合)、もしかしたら孵化が遅れたオタマがまだ卵塊の中に残っているかもしれないし、卵塊の白い泡は孵化した後のオタマの食べ物にもなるので、今までは池にそっくり入れていた。しかし、そこには白い粒々がくっついていることが多い。
これがもし除草剤だったら? 池の水が汚染され、すでに孵化して泳いでいるひ弱なオタマに影響を及ぼすのではないか……?
これはずっと前から気になっていた。
今回いろいろ調べた上で、米ぬかペレットである場合が多いかなと思っている。
というのは、シュレの流出卵塊どころか、カエルの姿、トウキョウダルマガエルの卵塊もまったく見あたらない田植え前の水田がかなりあるからだ。きれいに畦塗りされ、満々と水が張ってあり、土塊も見えない。そういう田んぼは「静か」で、生き物の気配を感じない。
一方、水の表面が汚れていて稲藁や白い粒々がいっぱい浮かんでいる一見小汚い田んぼにはシュレの卵塊もカエルもシマヘビもいる。多分、「きれいな田んぼ」は機械で農薬を一律に散布している田んぼなのだろう。だからカエルも寄りつかない。当然、卵も産まない。
しかし、今後は極力、粒々のついた卵塊残骸は池に入れないことにした。壊れた卵塊は残念だがダメそうだと分かった段階できれいに見捨てる。そうしないと、運よく壊れないまま救出された卵塊の中で生きのびたオタマに悪影響を与えるかもしれないからだ。
……って、なんだかまるで、カエルの養殖農家をやっているみたいなことになってきたかなあ。
いやいや、そういう目的ではなく、あくまでもカエルを通して身近な問題を学ぶことが目的なのだよ。ほんとよ。信じないかもしれないが、特にカエルが好きというわけでもないのよ。
農業と一口に言っても、とてつもなく複雑でデリケートな問題がたくさん存在している。
復活の沢の周囲の田んぼは数軒の農家のものだが、農家の人と話をしていると、「うちは農薬を使うが、お隣は無農薬で除草もしない主義らしい。取れ高が低くなってもいいんだとさ」みたいなことを聞かされる。隣り合った田んぼの持主が正反対のポリシーを持っているわけで、きっと、部外者の僕には言わないいろんな軋轢もあるんだろうなあ。
福島や栃木で、30代くらいの若い農業後継者とも何人か接してきたが、みんな違う。
「自然農法の人たちとはあまりつきあいがないので」と冷ややかに言う人もいれば、親が自然農法に理解を示さないので苦労しているとこぼす人もいる。
70代、80代の人たちの話を聞いても、もはや農家を存続させるためには企業化して小規模な農地は集約していかないとダメだと訴える農家もあれば、生き様としての農業を貫こうとする人もいる。
いろんな人のいろんな話を聞くことが大切だなあとつくづく思う。
「フクシマ」後は、特にそう思うようになった。
田舎の人たちの脇の甘さや寄らば大樹の陰精神にがっかりすることもあれば、都会人が机上の論理を振りかざして地方創生論をぶつのも鼻白む。
ビジネスとして成立しなくても生きていける(年金や退職金がある)移住者が自分の生き様としてやる農業と、代々農家だった家(退職金なし、年金も国民年金しかないまま、親と子の両方を扶養しなければならない兼業農家)が生計を立てるためにやる農業も立場が違う。
……サトアオの卵から話が飛躍しすぎかな? でも、本当に、毎日そういうことを考えながら田んぼを見て回っている。