2014/09/07

『日本の原発、どこで間違えたのか』(内橋克人・著)を読む

トイレの神様……じゃなくて、トイレに置いてあったひろさちやの本、2冊読了したので、今はこの本を置いてある。
『日本の原発、どこで間違えたのか』(内橋克人・著)
原発ものはもう飽きたと言われそうだが、この本はかなり独特な視点、内容を持っている。

福島第一原発が爆発した直後、次から次へと出てきた情報に触れていたときは、あまりのひどさに驚いたものだが、その後、もっときつかったのは、これだけのことをしておきながら、日本政府だけでなく、日本に住む人間の大半がなんの反省もなく、今まで以上に無責任で投げやりで無関心を決め込む生き方を続けていることだ。
そういう国だったんだなあ、そういう国民性だったんだなあと、よく分かった今、この本を読むと、原発問題の複雑さ、難しさがさらに深く、広く見えてくる。

例えば、福島の1号機はアメリカのGE(ゼネラル・エレクトリック)社からの「フルターンキー」契約(施設や運用方法など、すべてセットで売り、最後に運転開始するためのキーを渡すだけという意味)で購入したが、パイプのひび割れなどで使いものにならず、現場での設置を請け負った日立、東芝、石川島播磨などの日本のメーカーは独自の研究や試行錯誤によって、パイプの材料改良から、パイプを交換するための新技術開発までやらなければならなかったという話。
そういう背景を知ると、当時の現場にはかなりまともな感覚と技術を持った人たちが揃っていて、彼らは「俺たちが原発の技術を支えているんだ」という自負を持っていたことだろうと想像できる。
現場では「こんなに苦労して国産の技術も築いてきた。今やこの技術をアメリカに逆輸出する立場にまでなった。今さら原発全廃なんてありえない」「反対反対と言っている連中はなんにも知りはしない。ムードに酔っているだけなんだ」という気持ちが芽生えるのは自然なことだろう。

しかし、技術者、会社の社員という人たちは、自分たちの仕事を支えている金がどこから出ているかなんてことは考えない。国が推進した……つまり、莫大な税金を注ぎ込んだから、そして、総括原価方式によって、かかっただけ電気料金を値上げできるというシステムに支えられて、将来にわたってとんでもなく金がかかる原子力発電がここまで続けられたということに思いをはせていない。
これはエリート意識の強い人たちの精神構造にはよく見られる落とし穴だ。
非合理なことなのだから最初からやるべきではなかった、という大局的な判断ができない。
やれと命じられればやらなければならない。その中で精一杯の仕事をして、そこに誇りを持つ……。よく言えば「真面目」で実直なのだろうが、その真面目さ、従順さが、取り返しのつかないシステムを作り上げ、頭の悪い人たちの支配構造を強化してしまう。

学者もそうだ。
自分たちは専門書を読み、先輩学者たちから薫陶を受けてきた専門家だ、というエリート意識が、「廃物処理ができない技術を使ってはいけない」というあたりまえのことを無視して、自分の「専門分野」に閉じこもる。気がつけば、地位も名誉も高額な給料や研究費をも手にしている。もう後戻りはできないと感じ、黒を白と言いくるめ、虚勢を張り、ますます「専門家病」を悪化させる。

そういう構造がよく分かる資料として読んだ。

ただ、これだけ深い洞察と細かな取材をしている人が、冒頭から「自然エネルギー」に期待を寄せていることにはかなり白けてしまった。同じ構造で、今の日本はダブルの危機を抱えているというのに。敦賀市長と同じ精神構造で、自然エネルギー利権、税金吸い取りビジネスに群がる人たちが増えていることに目を向けなければダメでしょ。
最初にそんな記述があったので、長い間、しっかり読む気がしなかったのかもしれない。購入してずいぶん経つのだが、ずっと枕元のキャビネットに突っ込んだまま忘れていた。


最後に出てくる「敦賀市長・問わず語りのタカリの構造」は、一時期ネットでもずいぶん広まった。たしか、それをちゃんと読むためにこの本を買ったような気もする。
昭和58(1983)年1月26日、石川県羽咋郡志賀町で開かれた「原発講演会」(地元の広域商工会主催)に呼ばれた敦賀市長の「講演」の内容を録音したテープをそのまま起こした文章が並んでいる。
少しだけ紹介する。
「(原発ができると電源三法交付金がもらえるが)そのほかにもらうおカネはおたがいに詮索をせずにおこう。キミんとこはいくらもらったんだ、ボクんとこはこれだけもらったよ……裏金ですね、裏金!
まあ原子力発電所がくる、それなら三法のカネは、三法のカネとしてもらうけれども、そのほかにやはり地域の振興に対しての裏金をよこせ、というのが、それぞれの地域であるわけでございます。それをどれだけもらっているか、を言い出すと、これはもう、あそこはこれだけもらった、ここはこれだけだ、ということでエキサイトする。そうなると原子力発電所にしろ、電力会社にしろ、対応しきれんだろうから、これはおたがいにもう口外せず、自分は自分なりに、ひとつやっていこうじゃないか、と、こういうふうなことでございまして……。
たとえば敦賀の場合、敦賀二号機のカネが7年間で42億入ってくる。三法のカネが7年間で、それだけ入ってくる。それに『もんじゅ』でございますよと、出力は低いですが、その危険性……うん……いやまあ、"建設費"はかかりますので、建設費と比較検討しますと(入ってくるカネが)60数億円になろうか、と思っておるわけでございますが……」
「……まあ、そんなわけで、短大は建つわ、高校はできるわ、50億円で運動公園はできるわ、ねえ。火葬場はボツボツ私も歳になってきたから、これも今、あのカネで計画いたしておる、といったようなことで、そりゃまあもう、まったく棚ぼた式の町作りができるんじゃなかろうか、と、そういうことで私はみなさんに(原発を)お勧めしたい。これは(私は)信念をもっとる。信念!」

……と続いた最後の部分だけがネットで話題になったのだが、こんな終わり方だった↓
「え~、その代わりに百年経ってカタワが生まれてくるやら、50年後に生まれた子供が全部、カタワになるやら、それは分かりませんよ。分かりませんけど、今の段階ではおやりになったほうがよいのではなかろうか……。こういうふうに思っております。どうもありがとうございました」(会場大拍手)

実際のテープから起こしているだけにリアルだ。
この演説、都市で生活している人たちには信じがたいかもしれないが、7年間、福島原発の隣で暮らして、いろんなことを経験した今の僕は、ああ、日本中同じなんだな、と思うだけだ。

恐ろしいのは、この本に出てくる技術者にしろ、現場で経験を積んできた作業員にしろ、もう「いない」ということだ。
1Fの後始末は、まあ、できないと思ったほうがいい。
最善を尽くして後始末しなければいけないのに、命令する人たちが投げやりになっている。実際に動ける経験者もいない。
日本中の人たちがそのことをうすうす分かっているから、ますます投げやりになり、無関心になろうとする。
で、敦賀市長のような人たちは、今もいっぱいいる。しっかり権力を握り、反省もせずに、今まで通りのタカリ政治を続けている。

……と、いつもは「オマケ」として書くところだが、今回はこれを先に持ってきてみた次第。

2014/09/08(未明)

秋の夜


朝晩は冷えるようになった。暑いときはあまり寄りつかなかったネコどもも、こんな感じ


子猫のときはみ~のほうが甘ったれで、のぼるの後をみ~み~鳴きながらついていたのに


久しぶりに月を見た気がする



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