東荒川ダムを見下ろせる展望台のすぐ先に、尚仁沢湧水への登山道入り口を兼ねたPがある。
車がいっぱい停まっていた。みんなここから徒歩で尚仁沢湧水をめざして山登りをしているのだ。
1.5kmとある。どうしようかなと思ったが、人がいっぱいなのと雨が強くなりそうなのでスルーした。
そのすぐ先に「尚仁沢はーとらんど」というのがある。「東荒川ダム親水公園」ともいうらしい。どちらが正式名称なのかよく分からない。
ここには人がいっぱい集まっていた。
宇都宮ナンバーのクルマばかりなので、県外から「観光」でここまで来る人はほとんどいないようだ。
見ていると、多くのクルマは駐車場の入り口に停められ、そこからキャスター付き台車などにポリタンクや大きなペットボトルを積んで、水を汲んでいる。
この公園駐車場入り口に、尚仁沢湧水が引かれていて、誰もが無料で汲んでいけるようになっているのだ。訪れている人の多くはこの水が目的のようだ。
Wikiで「尚仁沢湧水」を見ると、
尚仁沢湧水(しょうじんざわゆうすい)は、環境省選定名水百選に選ばれた栃木県塩谷町と矢板市の境界付近の高原山(釈迦ケ岳)山麓標高590mの場所にある湧水である。日量65,000tにもなる豊富な湧水量を有し、水温も年間通じて11℃前後とほぼ一定している。
周辺は広葉樹の原生林となっており水源林により伏流し冬季でも渇水や凍結することがない。
水質は天然アルカリイオン水で、冷たく軟らかいのが特徴とされる。平成9年には全国37都道府県から集められたおいしい水の中で全国第一位の認定を受け、その後も常に上位に顔を出す常連である。
渓谷は東荒川ダム下流に流入し那珂川水系荒川に合流する。塩谷町では町おこし事業として給水スタンドを設置し業者向けに販売を実施していほか、一般の訪問客の方がより親水のために、尚仁沢の清水を導水し近くの東荒川ダム湖畔に「東荒川ダム親水公園」を設置している。
……となっている。
環境省が選定した日本の名水の場所に、放射線量が高すぎて普通には処分できない「指定廃棄物」を集めて溜め込むというごり押しを環境省が先頭に立ってやっているのだから、もう、無茶苦茶だ。
合理的に考えても、そんな施策はありえない。
な~~んにも考えていない。「国有地でどっかないか?」「ここなんかどうっすかね」という地図と土地のリストを見て適当に決めただけ。
目的がおかしい。
放射性物質まみれのゴミがいっぱい出て、ゴミ焼却場では処分できずに溜まり続けてます。困りました。じゃあ、どうやったらその「普通には焼却処分してはいけないと法律で決められているゴミ」を隔離保管できるのか? ……という命題でしょ? 違いますか?
自然環境や人間の社会生活に最も影響が出にくい場所で、極力、汚染を広げない方法で……と考えるのが国の役目なのに、その「いかに影響を広げないか」という目的がまったく忘れられ、どこかに持っていって、チャカチャカっと埋めちゃえばいいんじゃね? という投げやりな「目標」に向かって暴走した結果、こういうふざけた話が出てきたわけだ。
馬鹿も休み休みにしろ! ほんと、正気を保つのが大変だわ。
もしこの計画が通ってしまったら、処分場候補地へのルートは県道63号線しかないから、ここを放射性物質まみれのゴミを積んだトラックがバンバン走ることになる。近隣の人たちがここに気軽に湧水を汲みに来るのも容易ではなくなる。
その前に、処分場周辺の自然林は伐採され、大型トラックを通すために道路は拡幅される。年中、工事中になり、粉塵が巻き上がる。
処分場建設地には大量のコンクリートが流し込まれるので、そのための工事車両もすごい数行き来することになる。
住民はそのことをまずイメージしなければいけない。そんな環境になっても、湧水を汲みにここまで来る人がどれだけいるだろうか。
「放射性物質は漏れ出しません」とか言う以前に、工事が始まったらもう「湧水文化」「湧水と共に生きる生活」はアウトである。精神的にもたない。
国は町に対して「これだけお金が入りますよ」「雇用支援にもなりますよ」「道が広くなって暮らしも便利になりますよ」と言いくるめてくる。それを断固拒否できるかどうか。町長の手腕と町民の意志の強さが試されている。
さて、目的地をめざそう。
県道63号に戻り、さらに西へ進むと、突然雨が激しさを増してきた。
クルマもぐっと少なくなる。
「風だより この先○km」という看板がポツポツ立っている。カフェだろうか。
雨宿りを兼ねて立ち寄ってみた。
山の中に入っていく細い道の先。意外なことにクルマがいっぱい停まっていて、店内は満員。
入り口には「30分待ち」という表示が出ている。
テラス席なら空いているというのでそこで珈琲とチーズケーキを注文して待つ。
「バリアフリー鉄道農園」ってどういう意味だろうと思ったが、ログハウスの周囲をミニ鉄道が一周している。木工と子供が乗れる鉄道模型……川内村・毛戸の遊木館・佐藤こーちょーを思い出す。
佐藤こーちょーは最近、避難先(と言っても定住を決めた)三島市の新居庭に、子供たちが遊べるこんなミニ鉄道を作ったばかり。
今、
「風だより」のWEBサイトを見ているのだが、オーナーの水野 雅章さんは50歳で脱サラし、ここにやってきたらしい。
いくつかのWEBページを見て得た情報をまとめると、
50歳まで大手食品メーカーに勤務(管理職)し、2006年、長年の夢を叶えるため塩谷町に移住し、この店をオープンさせた。
その「夢」の内容というのは、
- 鉄道が好き。山が好き。
- 子供たちが家族と一緒に喜ぶ顔を間近で見たい。
- 世代を越えて楽しめる場を提供したい。
- お年寄りや体の不自由な方、子供も大人も関係なく共に喜び感動したい。
- 美しい景色、良い水、豊かな自然の中で暮らしたい。
……というもの。
その5年後に福島第一原発が爆発し、放射性物質がこんな山奥にまで飛んでくるなんて、もちろん想像もできなかったことだろう。
そして、その後もこの店を続けているのに、今度はあちこちに溜まっている放射性物質まみれのゴミをこの地に運び入れて「永久保管」するという。今の胸中やいかに……。
店内がごった返すほど来客がいなければ、ゆっくり話を聞いてみたいところだった。
珈琲を待つ間、テラスから向かい側の山なみを見ていた。
どこかでこんな感じの景色を見たなあと思ったら、そう、川内村の一区・高田島に建てた小塚さんの家のテラスから見た風景に似ている。
小塚さんの家も、前がこんな風に開けていて、彼方に山が連なっていた。小塚さんもやはり早期退職してスローライフを始めるべく、川内村に何年もかけて通って土地探しから始め、退職金をはたいて念願の家を建てた。
その家は今、主なき家になっている。
小塚さんは、佐渡に避難した出戸さん夫妻に誘われる形で佐渡に渡り、今は佐渡に骨を埋める覚悟で新たな暮らしを始めている。
もし、国がごり押しし、塩谷町の奥に指定廃棄物処分場を建設し始めたら、この隠れ家的なレストランに通じる唯一の道は、毎日、建設資材やコンクリートを積んだ大型トラックやトレーラーが行き来するようになる。その後はいよいよゴミの搬入だ。
そうなったら、この「夢のレストラン」はどうなるのだろうか。
国にこれ以上の暴挙を許してはいけない。
絶対に。