2013/04/16

川内村往復(2)


家について、まずは池のチェック。
どの池も水がほとんどない。いちばんマシだったというか、なんとかほんのちょっと残っていたのが雨池。
他はほぼ干上がっている。
ほんのわずか残った水の中には、ヤマアカガエルが産卵していて、すでに一部はオタマ孵化して、小さなオタマが蠢いていた。
すぐに水を補充せねば……というわけで、井戸のポンプの電源を入れたが、水がちょろちょろしか出ない。
それもすぐに止まってしまった。
ポンプが動かない!

大ショック。
なんと、井戸のポンプが壊れていた。見てみたら、なぜかポンプの配電盤がびっしょり水に濡れている。外から水が入ったとは思えないので、おそらく湿気が凍りついたのだろう。
まいった……。
百数十万かけて掘った井戸なのだ。ポンプの修理を依頼するにしても、どこに頼めばいいのか……。

仕方なく、ずっと使っていなかった沢水くみ上げ用ポンプに切り替えた。こういうときのために、どちらが壊れてももう一方にすぐ切り替えられるように配管してある。よかった。
しかし、壊れるなら逆がよかった……。甘かったなあ。

びしょ濡れになっていた配電盤ボックスのふたを外すと……


中にまで水が入り、基盤がやられている


沢水に切り替えて池に水を補充。
改めて池を順番に見ていく。

山葵池。土砂が流入して池の体をなしていない


皮肉にも、名前の通り、山葵だけはすくすくと生えてきている


沢の音、久しぶりだなあ……


やっぱりここはいいなあ。死ぬときはここで死にたいという思いは今も変わらない


掘り返したいところだが、今日はそこまで気力がわかない。これが定住と通い?の差なのだな


奥のさとーさんちへ様子を見に行く


「除染」で周囲の木が伐られ、家が見えるようになった。この屋根も「除染」名目で葺き替えてもらったらしい


竹藪も伐られていた


庭は土がはがされ、外から持ち込まれた砂が敷かれている


驚いたことに、隣の無人の家も完全に「除染」されていた


ここは独居老人の女性が亡くなってからはもう何年も空き家になっている
前は草が生い茂ってこの位置からは家が見えなかったのだが……

2011年の春にはここでアズマヒキガエルが大量に産卵していたが、今年はまだ……


このへんの景色も「除染」で変わってしまった


これが「除染」。
家の周囲の木を伐り、土を剥ぎ、外から持ち込んだ土砂を撒く。
うちはお断りした。「一切やってくれるな」と。
長い間空き家になっているHさんちまで「除染」しているのに驚いた。独居老人が亡くなって、もう何年も空き家なのだ。子供たちはこの家になんの執着もないらしい。ましてや3.11後は……。
この「除染」に一体いくらかかったのか。そのお金で、自主避難で家族がばらばらになっている30km圏外の人たちに援助したほうがどれだけマシか。
毎年ここで産卵していたアズマヒキガエルにとっても、「除染」は迷惑だっただろう。土が剥ぎ取られ、草が刈られ、木が伐られたことで、多くの生物が住み処を失ったことだろう。
その作業に携わった人たちも「日当をピンハネされている」とか、いろいろ不満を持ちながらやっている。
何なんだろうなあ、これは……。

しかし、村の人たちは概ね喜んでいる。
うちの前の道にしても、奥のさとーさんの息子さん(千葉県在住)は、以前から舗装したがっていた。
うちはアスファルトを敷くことはあまりしたくなかった。せっかくの風景が壊れてしまうから。
でもまあ、簡易舗装くらいなら……と了解したのだが、土建屋さんから「一部が国有地なのでできない」と断られたらしい。
それが、「除染」部隊がやってきて、たちまち簡易舗装してくれた。
傷んでいた家の屋根もただで葺き替えてもらえたようだ。
思わぬところで「道がきれいになった」「家がきれいになった」とみんな喜んでいる。

除染の前と後で、線量はそれほど変わっていない。
放っておいても、今頃は概ね0.2~0.3μSv/h前後に下がっていただろう。実際、除染していない我が家の周囲はそんなものだし、「除染」したさとーさんちの敷地内でも同じような数値だ。
確実に線量が上がった場所がある。進入路の入り口付近。そこには「除染」で出た落ち葉や表土が詰まったフレコンバッグが山積みされている。その場所は以前よりも何倍もの数値を示す。
きれいだった山の風景は、あちこち剥げ散らかされ、あちこちに青いフレコンバッグが山積みにされ、村の景色は確実に悪くなった。
でも、多くの住民は喜んでいる。
これひとつとっても、簡単に口を出せない問題だということがなんとなく分かってもらえるだろうか。
いい人たちが暮らしている小さな社会で、ものすごく無駄な金が使われている。
でも、道が歩きやすくなった、屋根がただできれいに葺き替えてもらえた。林がなくなってすっきりして日が差し込むようになった……と、喜んでいる人たちがたくさんいる。

僕がもう、ここには住んでいられないと感じた背景というか、複雑で、こみ入った事情というかが、少しでも伝わるだろうか?
要するに、ここにいたら「なんにも言えない」のだ。
「こんな馬鹿げたことをしていていいのか」などと、この場所では絶対に言えない。言えない空気になっている。
そもそも、そんなことをここの人たちに向かって言っても意味がない。
ここで暮らしている人たちはみんな「いい人」たち。
自分たちから建設的な意見を言うとか、改革をするとか、そういう方向には動かない、いい人たち。
やりそうな人たちはすでに村を出てしまった。
話をする相手もいなくなってしまった。
現場にいるほうがやれることがなくなっていく、というジレンマ。
無力感というか、やるせなさというか……。
ここにいて、僕ができることはなくなってしまった。これはものすごくショックなことだった。

今も、うちの周囲の美しい景色はほとんど変わらない。
戻れば、ああ、やっぱりここはいいなあ、すばらしい場所で暮らしていたんだなあと思う。
でも、ここにいたら、自由な生き方、自分の心に素直になれる生き方はもうできないとも思う。


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