たくき よしみつ シドニー五輪テレビ観戦記2
「ちゃんと見てるよ」(「TVライフ」連載)では書ききれない、シドニー五輪テレビ中継批評をリアルタイムで掲載。
柔道・篠原選手の決勝。う~ん、これはとても語り尽くせない問題が露呈してしまったようで……
「国際柔道」の崩壊か? 100kg超級決勝の不正審判
NHKの有働アナウンサーが、声を詰まらせ、下を向いて報告していたのが印象的でした。まるで身内が不慮の事故に遭遇して死んでしまったような……。
篠原信一選手とドゥイエ選手の「疑惑の決勝」については、すでにいろいろな情報が飛び交っているんですが、少し整理してみます。
まず、審判3人の情報。
主審:MONAGHAN Craig(クレイグ・モナガン)
現国籍はニュージーランドだが、フランス系。
副審1:KOUAKOU Koffi Lucien
フランス領だったコートジボアールの出身。
副審2:ATTYE Fares
フランス領だったセネガルの出身。
3人ともフランス語で喋っていたらしいんですね。なぜこんな人選をしているんだろう?
そもそも、柔道の審判というのが、基本的には本人の自薦というか、申告制で、大した資格も経験もいらないらしいというのも不可解。
柔道という競技が、国際的に普及してからは、こうしたトラブルは頻発しているみたいですね。
例えば、98年のバンコク・アジア大会、4日目、柔道女子63Kg級決勝(王顕波・中国 対 木本奈美・住友海上火災)では、審判が1度下した判定を直後に覆すという不手際。
今回の篠原選手への不公正審判事件では、「ひとたび審判員が試合場から下りたら判定を覆せない」というルールが何度も説明されていましたが、このアジア大会ではそれさえも覆ってしまったわけですね。
このときは、王が「技あり」を先取し、試合終了のブザーとほぼ同時に木本が「一本」。昨日の女子3位決定戦での山下まゆみ選手とフランスのシコ選手との試合に似ています。
木本選手に1度は勝利が告げられたものの、その直後、大会組織委柔道競技技術責任者を務める金氏(韓国)、竹内善徳JUA審判委員長らが協議した結果、木本の技はブザーの後と判断され「王の優勢勝ち」に訂正。ウラジミール・キム主審(カザフスタン)と副審2人が再度試合場に上がり、判定を覆した……というもの。
その前年の世界選手権でも、明かな誤審があったとされ、6人の審判員が国際柔道連盟から2年間の出場停止処分を受けたとか。
今回のオリンピックでも、「え? 今のが一本?」「あれ、これは一本じゃなくて有効なの?」というようなシーンが多々ありました。技の決まり手というのも、素人にはなかなか分かりづらい。(それでも、昨日の決勝は素人目にも篠原に分があることは明白。ドゥイエはひっくり返ってるんだもんねえ。ひっくり返っているほうが「有効」じゃあ、たまらん)
これはやはり、早急に柔道という競技そのものを「整備」し直さないといけないんじゃないでしょうか?
武士道とか、柔よく剛を制すというイメージとはまったく正反対の、姑息な手段や裏での駆け引きが勝敗を分ける、不透明なセレモニーというものになっている気がするなあ。
(2000/09/23)
次のページへ
「ちゃんと見てるよ」目次に戻る