WTC、ペンタゴン同時テロと報道



「ちゃんと見てるよ」(「TVライフ」連載)の原稿を出したら、2日後にとんでもない事件が起きた。次回のコラムでも、あの小さなスペースでは到底書ききれないし、掲示板に書き散らかすのもどうかと思うので、ここにメモ代わりにちょっとだけ、気になったことを書き留めておきたい。  

ナイフ一本でニューヨークを破壊できる


 「アメリカ経済」の象徴とも言うべき世界貿易センタービル(WTC)に、2機の旅客機が次々に突っ込むという衝撃的なニュース第一報が入ったのは、2001年9月10日の夜(日本時間)だった。直後には、なんと3機目がペンタゴンに突っ込み、ペンタゴンが炎上しているという映像も流れた。そして4機目がピッツバーグに墜落。
 当初は、ハイジャックされた旅客機が11機と伝えられ、フジテレビでは木村太郎が「残りの7機は?」と何度も現地のリポーターに訊いていた。
 旅客機が突っ込んだ世界貿易センタービルは、北タワー、南タワーともに、その後根こそぎ崩壊し、直接は衝突していない隣のビルまで崩壊した。
 次々に起こる未曾有の事件とリアルタイムの映像に、世界中が驚愕した。

 1日経って、事態が少しずつ見えてきたところで、みんなが感じたのは以下のようなことだろう。

 
 1985年夏、日航機が群馬県御巣鷹山山中に墜落したとき、自衛隊は一晩かかっても墜落位置を特定できず、救助活動が始まったのは夜が明けてからだった。あのときも、そんな馬鹿なこと(最新装備を誇る自衛隊が、日本の真ん中に墜落したジャンボジェット機を見つけられないということ)があるのだろうかと驚いたが、今度の事件でも、「大国アメリカ」のあまりの脆さに、世界中の人たちが驚いたに違いない。
 まず、ビルの崩壊。
 映画『タワーリングインフェルノ』では、ビルの上のほうで火災が発生し、大惨事になるという設定だったが、鎮火した後も、ビルはしっかり建っていた。しかし、今回、世界一のビルは、上で火災が起きたことにより、鉄骨が溶けて上からの重みに耐えられず、次々に「ドミノ崩壊」したということらしい。
 当初、あまりに見事に崩れ落ちる映像を見て、私は、飛行機が突っ込んだのは一種の「セレモニー」で、実際には最初からビルの中に高性能爆弾を仕掛けてあったのではないかと思った。ビル破壊の映像そっくりだったからだ。
 しかし、どうもそういうことではないらしい。あのビルは、「鳥かご構造」で設計されていて、ビルの中央部分にはほとんど芯となる鉄柱がなく、地震などの横揺れには強いが、縦方向の力には極めて弱いらしいのだ。ということは、飛行機が突っ込まなくても、ビルの上層部で大量の燃料などが燃える大規模火災が起きたり、ある階を爆弾で破壊した場合は、同じように根こそぎ崩壊するということではないのか?
 しかも、隣接しているビルまでが崩れ落ちたというのはどういうことなのか。高層ビルとはそれほどまでに脆いものだったのか?
 テロが原因であるため、ビルの構造にまで言及する報道がまったくと言っていいほどないが、設計者の話などもぜひ聞いてみたいものだ。

 次に、4機の旅客機が同時にハイジャックされるというのも驚きだった。その4機のうち3機は、確実に「目標」に突っ込んでいる。あの技術と精神力をもってして、例えば目標物が原子力発電所や核燃料貯蔵庫などだったらどういうことになっていたのだろうか。被害はその地域に留まらず、極めて広範囲、長期間に及んでいたかもしれない。
 金をかけてミサイルや核兵器などを配備するよりも、こうしたテロで核施設を狙ったほうがずっと効率的に相手国にダメージを与えられる。今回の事件は、そうしたことの証明にもなってしまった。
 次期戦車の選定で揉めている(今時、「せんしゃ」・・・ああ!)日本の自衛隊に、こうしたテロを防ぐ手段があるとも思えない。

いきなり飛び出した「怪しい報道・映像」


 さて、次に、今回のテロを巡る報道の問題について、現時点(9月13日夕方)で感じていることを少し書いておきたい。
 事件発生後半日以上経っても、「乗っ取られた旅客機は11機」という間違った報道が訂正されず、情報は錯綜し続けていた。そんなお粗末な状況でありながら、なぜか「ハイジャック犯のうち数人は特定できた」「その中には、イスラム原理主義の黒幕ウサマ・ビン・ラディンの関係者がいる」「犯人が空港に乗り捨てたレンタカーの中から、アラビア語で書かれた飛行機の操縦マニュアルとコーランが見つかった」という報道が、かなり早い時点で世界中に発せられた。
 本当だろうか?
 とりあえず、ウサマ・ビン・ラディン氏の関与云々は別にして(ある意味であらゆるアラブ系テロリストは、突き詰めれば彼とは何らかの「関係」はあるはず)、私が最も違和感を抱くのは、「空港に乗り捨てたレンタカーの中からアラビア語で書かれた飛行機操縦マニュアルとコーランが見つかった」という話だ。
 あれだけのことをしでかす冷徹な連中が、そんな間抜けな証拠を残すだろうか? まるで、神経質な受験生が、試験会場に行く寸前まで豆単を見ている図だ。しかも、テロ犯人は当然英語などペラペラのエリートだったはずで、「アラビア語の」操縦マニュアルである必要がない。
 パイロット経験のある人たちも、異口同音に「あれだけのことをやってのけるには、にわか仕込みの操縦技術では不可能」と証言している。
 もうひとつ、テロを知って驚喜するイスラムの人たちという映像も流れた。子供たちも一緒に浮かれ騒いでいる映像だが、これも、本当に「テロを喜ぶ」図だったのか? 一説には、お祭りか何かの映像を流しただけで、テロ事件とはなんの関係もないという話がある。現時点では真相は分からないが、大いにありえることだと思ってしまう。時間的にも、ああした映像が全世界に流れるというのは、あまりにタイミングがよすぎるし……。

 今回の事件の影響で、ビル爆破シーンなどがあるハリウッド映画の放送を自粛しているらしいが、いっそ、映画『ワグ・ザ・ドッグ~ウワサの真相』を放送してほしい。大統領が自分のスキャンダルをもみ消し、世間の目を別の方向に向けさせるために、戦争をでっちあげてしまうという内容の映画だ。
 こういうときだからこそ、情報を吟味する目と判断力が、視聴者に問われている。

 それにしても、どの局も特番を組んでいる12日夜、堂々とプロ野球「横浜=読売」戦を、延長までして中継しきったTBSの姿勢にもびっくりさせられた。
 筑紫哲也はどうコメントするのかと、11時前にTBSにチャンネルを合わせた人たちは、のんびりとドラマが(野球中継延長でずれて)放送されているのを見て、どう思っただろうか。「報道のTBS」と自負していた時代もあったのが、はるか昔のことのようだ。

(2001.9.13)


 
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