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 たくき よしみつの 『ちゃんと見てるよ』 1997 後半

 (週刊テレビライフ連載 過去のコラムデータベース)

 

1997年7月~年末まで

 

ティラノザウルスとアロサウルスの違い?


 多くの人は、「テレビでやっていたから」「テレビが言っていたから」という理由で、つまらない情報をありがたがり、いい加減な知識を鵜呑みにするが、実は、テレビがオリジナルな情報、正確な情報を流すことというのは意外と少ない。かつてフジテレビのニュースで「可愛いタヌキ」と言ってアライグマの映像を流しているのを見たときには情けなかった。ニュース報道に携わる者が誰もアライグマとタヌキを識別できないのか?
『クイズ赤恥青恥』(テレビ東京系)で、恐竜の模型(それも学術的なものではなく、玩具的なもの)を見せて、「これの名前は?」と問う問題があった。一人が「アロサウルス」と答えたが、問答無用で不正解にされた。正解は「ティラノザウルス」だという。ティラノザウルスとアロサウルスは共に大型肉食恐竜で、外見はとてもよく似ている。問題に出すなら、ステゴザウルスやトリセラトップスなどの特徴的な草食竜のほうがずっといいのに、そもそも構成・出題のセンスが悪い。
 ロケでアロサウルスという答えが出たときから、この問題の本質的な欠陥が分かったはずだ。せめてスタジオ収録の際に、両者の識別法(例えはティラノザウルスは前足が2本指でアロサウルスは3本指というような)を解説すべきなのに、構成作家は多分、映画『ジュラシックパーク』『ロストワールド』に出ていたティラノザウルスのことしか頭にないのだ。その偏狭さ、浅薄さこそ赤恥である。誰かちゃんとチェックしなさいよ。
■近況■
読者の方から「過去のコラムもぜひ読みたいのですが」という電子メールをいただいた。そこで、当コラムの過去の原稿をインターネットホームページ(http://takuki.com)でも見られるようにした。最近は狛犬関係も充実。
(1997/07/29)



世界陸上TBS独占中継の功罪


 今まで、オリンピックの中継は必ずNHKと民放の両方でやっていた。だから、例えば前回のアトランタオリンピックの女子マラソンなどは、馬鹿騒ぎの民放中継を拒否して、NHKのBSでじっくり見るという選択もできた。
 ところが今回の世界陸上はTBSの独占中継。NHKのBSではJリーグ中継。なーんか逆のような気がするネ。
 やはりまだまだ世間では陸上競技はプロ野球などに比べて不人気なのか、民放の発想としては、まず陸上競技そのもののイメージをドラマチックに変貌させようとする。
 ハンマー投げの室伏に「鉄人の遺伝子を持つ男」、企業を退職してまで四〇〇メートル障害にこだわり続ける斉藤に「さすらいの貧乏ハードラー」などとキャッチコピーまで与え、エンターテインメントとして演出しようとしている。それはいい。実況中継の絶叫もよしとしよう。冠陽子の機械のように冷酷なインタビューも、それはそれで味かもしれない。終わってからの「珍プレー・好プレー」的なハイライトも歓迎しよう。
 NHKではできない楽しみ方を民放は知っている。
 でも、女子一万メートル決勝中継でのCMの多さはなんだ。駆け引きの最中にじゃんじゃんCMが入り、まったくレース観戦に集中できない。やはり「独占」の無理がたたって、スポンサーを集めすぎたのか? 真夜中にあれだけのCMを流すというのは尋常じゃない。やっぱり地味でもNHKにやってほしかったなあ、世界陸上……ううう。
■近況■
越後に滞在中、左手薬指の腱を切ってしまった。新潟中央病院の、日本でも有数という手専門の整形外科医を訪ねるが、完治は難しいとのこと。ギタリスト生命危うし! 暗い夏休みになってしまった。http://takuki.com


顔と名前を出す出さないの境界


 神戸の「A」少年による小学生連続殺傷事件は、当初、「○君殺害時件」などと名前入りで報道された。被害者の顔・名前・親の職業などが知れ渡った一方で、逮捕された容疑者の少年のそれは徹底的に保護された。
 後になってから、被害者の少年の名を事件名として出すことを控え、「神戸の小学生連続殺傷事件」という呼び方に変わったが、被害者の少年少女の顔や名前は今もメディアに露出され続けている。
 先日、熊本で起きた女子大生誘拐事件でも、マスコミは連れ去られた女子大生や親の顔を出した。遠慮がちに斜め方向や横方向から写し(映し)たりする感じのところが多かったが、顔が出たことには変わりない。実名も報じた。年頃の女の子が拉致されたという事件だけに、顔や名前が全国に知られたことで、ある意味では「無事」保護されてから後のほうが彼女や彼女の家族は傷ついたかもしれない。
 バラエティ番組などで何度も取り上げられたので有名になった「クヒオ結婚詐欺事件」というのがある。白い派手な軍服を着た50代の日本人男性が、英国王室の親戚「クヒオ」と名乗り、日本人女性を次々に騙して金を巻き上げたという事件。何度もテレビで見たので、僕はこの男の顔を覚えてしまったのだが、先日の『女神の天秤』(TBS系)で取り上げたときは顔をぼかしていた。「クヒオ」が服役して出所しているからか?
 被害者こそ守られるべきなのに、テレビの人権配慮って加害者にだけ優しいのかな。
■近況■
聖マリアンナ医科大学病院の整形外科外来で待っていたら、隣の耳鼻科で「○○様、おりましたら……」と言っている看護婦さんがいた。そう若くもないのに、今まで誰にも注意されなかったのだろうか? 


音声情報と画像情報の差異


 同じ番組を見ていても、視聴者が受け取る情報が違ってくることがある。端的な例としては二カ国語放送。どちらの言語で聞いているかにより、情報が微妙に食い違うことがある。声優の広川太一郎などは、台本にない台詞、駄洒落、「なんちゃったりして~♪」などという合いの手(?)をアドリブで入れて吹き替えている。まあ、これは芸の内だから全然構わないというか、歓迎なんだけれど。
 目の不自由な人がニュース番組を音声で聞いている隣で、耳の不自由な人が、映像と文字放送で同じ番組を見ているとしよう。二人は同時刻に同じ番組を並んで見ている(聞いている)にも関わらず、得られる情報がかなり違うことがある。
 例えば前回でも取り上げた実名報道の問題。テロップや文字放送では「~の少年」としていながら、音声では「○○君」と、名前をしっかり言っていることがある。
 逆に、NHKの番組などでは、映像にはしっかりトヨタという看板やテロップが出ていながら、ナレーションでは固有名詞を伏せて「この自動車工場では…」と言っている。
 同じ番組の中で、こんなふうに文字情報(画像情報)と音声情報の内容が一致していない(同定のレベルが違う)のはどうにも気持ちが悪い。考えようによっては、これは視聴覚障害者への情報提供差別にならないだろうか?
 画面に「トヨタ自動車○○工場」と出すなら、ナレーションでも「トヨタ自動車○○工場では…」とすべきでは?
■近況■
ホームページにCGIプログラムを導入。これでKAMUNAのCDの注文もインターネット上でスムーズにできるようになった。次は書き込みのできる掲示板かな。でも、落書きや暴言が怖いんだよなあ。http://takuki.com


ロンブーの「触媒」芸は大阪でも受けるか?


 関西では放送されていなかったし、もう終わってしまったのだが『あなあきロンドンブーツ』(テレビ朝日系)という番組に「ガサ入れ」という人気コーナーがあった。
 恋人が自分以外の男とつき合っているらしいという疑惑を持った男の子が、ロンドンブーツ1号2号(通称・ロンブー)に「強制捜査」を依頼する。ロンブーは彼女の部屋に強引に押し入り、電話のリダイヤルテストやら手帳のメモ、依頼人以外の男の持ち物などを捜査し、真相を暴く。
 二股の疑いをかけられた女の子たちがもの凄い。
 二股どころか四つ股をかけていたり、依頼人の男の子に、「え? 別れちゃうの? もうホテル行ってHしたくないの?」などと逆に問い詰めたり、4対4の乱交パーティーをしたことを認めた上で「やりコン(SEXありのコンパ)は普通だよー」などと開き直ったり……んがごーーん。
 ロンブーは自分たち独自の芸があるわけではない。にたっとした無表情。モノトーンな喋り口。大人から見ればただの「だらしない」素人。一般人を相手にして初めて絵になるというタイプだが、いわゆる「客いじり」とも違う。客を玩具にするのではなく、客の中に一風景として溶け込む、あるいは触媒になることで、そこに世紀末臭と親近感が入り混じったミニドキュメンタリー空間を形成する。
 この秋からレギュラーも増え、関西エリアでも見られるようになるそうだが、ロンブーが関西でどう受け止められるのか、ちょっと興味がある。
■近況■
腱が切れた指の固定が、あと2週間ほどで取れる予定。新しいギターを作ったのだが、弾けなくて、禁欲生活というか拷問というか……。早くリハビリを始めたい。http://takuki.com


多チャンネル化時代に期待するもの


 北野武監督の映画『HANABI』がベネチア映画祭金の獅子賞を受賞した途端、日本のメディアは急に彼を「世界的アーティスト」扱いし始めた。こういうときこそ、「ベネチアのイモ評論家がどう見たか知らないが、北野映画は大したことない」と言い放つ映画評論家はいないのか?
 北野映画が今まで国内で評価されなかったのは、興行成績が芳しくなかったからだと言われている。でも、興行成績が作品の質に反映されるなら、そもそも評論家など必要ない。興行的に失敗しても、いいものはいい(逆に駄目なものはダメ)と言い切らなければ評論活動とは言えない。
 所詮テレビはスポンサーの意向を汲んだ宣伝媒体にすぎず、純粋な文化評論など望めないのだろうか?
 日本ではテレビこそメディアの代表で、テレビに露出していないものは二流だと思い込む傾向がある。若い女性が「あ、それ、テレビで見たことある」というのは「私は分からないけれど、きっと一流なのね」というのとほぼ同義だ。この場合「テレビ」イコール民放キー局である。
 近い将来、通信衛星放送が一般化し、他チャンネル時代が訪れるという。増えたチャンネル分だけ情報が増え、多様な価値観に基づく番組が流れる可能性もある。でも、逆に従来のキー局や一部の大メディアが元締めになり、どのチャンネルも金太郎飴のように同じ使い捨て素材や売り逃げ三流作品の再放送で埋まり、ゴミの再生産にしかならないとしたら……うーむー。
■近況■
これから遠野にでかけるところ。河童狛犬をはじめ、ユニークな狛犬に出逢えることを期待しつつ、フィルムもふんだんに持った。成果があれば、そのうちホームページで「遠野狛犬特集」を組むつもり。http://takuki.com


ワイドテレビがタレントを殺す?


 最近、家電売場に行くと、並んでいるテレビの大半がワイドテレビになっている。(大騒ぎしながら暗礁に乗り上げている感がある)ハイビジョン時代を先取りする……というような触れ込みで出回り始めたワイドテレビだが、その正体はDPEのパノラマサイズ規格と同じで、非常に馬鹿げている。
 現在、地上波の番組でワイドビジョンの番組ってどれだけあるだろうか? ほとんどないと言ってもいい。従来の画面規格(横と縦が4対3で走査線が525本)の番組を、ワイドテレビの「フル」モード(強引に横に引き延ばす)で見ている人というのは、そもそもハイビジョンの高画質など不要の、鈍感な人なんじゃないだろうか。
 普通の番組をワイドテレビのフルモードで見ると、人間はみんなデブに見える。
 テレビというのはただでさえ実物よりデブに見えてしまうのである。テレビで見慣れたタレントに実際会うと、思っていたよりずっと(不健康に)痩せていてびっくりする。松村邦宏だって、ほんとはあんなに太ってはいないのだ(ほんとか?)。
 つまり、テレビで「普通に」見えるためには、実際にはかなり痩せていなければならない。ああ、それなのにそれなのに、このワイドテレビというバカな商品が売れてしまったために、タレントは従来にも増して異様なダイエットを強いられてしまった。、
 大丈夫か? ほんじゃまかの恵、伊集院光……。死んだらワイドテレビのせいだな。
■近況■
遠野は狛犬不作地帯だったが、ある山の中の寂れた神社でのこと。いそうもないから参道を登らず帰ろうとしたところ「行っちゃうの?」と呼び止めた狛犬がいた。最近は狛犬と心で話ができるようになった。http://takuki.com


ハイビジョンより多チャンネル化を


 ちょっと専門的な話になるが、NHKが多額の費用をかけて精力的に進めてきたハイビジョン放送って、もはや意地と面子だけになっていないだろうか? 世界的に完全デジタル放送の流れになっている中で、NHK方式は、番組制作と受像器の処理はデジタルだが、電波はアナログという中途半端な規格。明るい未来があるとはあまり思えない。
 第一、今だって多くの家では電波障害があり、従来方式の放送でさえ、ばっちり映る環境というのは少ない。画質や音質を追求するより、番組の中身に金をかけてほしい。
 NHKがやらなければいけないのは、高画質化ではなく、多チャンネル化だ。とりあえず現在使っているBS9のハイビジョン試験放送の分を普通のBSに回し3チャンネル体勢にしたら、全米プロフットボール中継の後にお絵描き教室、その後に渋い字幕の洋画……という滅茶苦茶な番組構成を大分整理できるはず。
 もしNHKが10チャンネル以上を常時放送してくれたら、視聴者の環境は劇的に豊かになる。内容はほとんどが再放送でよい。最近、過去の冬季五輪の映像を連夜にわたって放送する企画があったが、とてもよかった。そうした過去の遺産がNHKには山のようにあるはずだ。この遺産は、これから作るハイビジョンの番組よりはるかに価値がある。
 過去の番組をテーマ別に24時間流し続けてくれたら、受信料も高いとは思わない。そのためにも、やっぱり勇気ある撤退・デジタル方式への方向転換が必要では? 
■近況■
切れた指の腱はつながったが、今度は曲がらなくなってしまった。指って、伸びないより曲がらないほうがずっと困るのね。少しずつリハビリ中。ギターの演奏以外ではほとんど不自由ないのだけれど……。
http://takuki.com


真のヒーローは中田じゃないの?


 私、陸上はフリークでもサッカーは苦手でして、ワールドカップ予選勝ち抜きを決めたあの日も、狛犬研究会なんぞに出席していたのでした。
 でも、世の中には私以上に泰然自若としている人もいる。
「ワールドカップというのは次のオリンピックのサッカー部門のことだと思っていたんですが、どうも違うみたいですね。それで、結局日本は今回のワールドカップでは何位だったのでしょうか。だいぶ騒ぎになっているようなので、かなりの好成績だったんじゃないかということは想像できますが……」(京都で「電撃地下通信」なる怪しい雑誌を発行している高橋克也氏談)
 なんか、ほっとしますねえ。
 でね、おかしいなーと思うのは、岡野が一躍ヒーローに祭り上げられた点ね。あの試合、まず、逆転負けを救った城のヘディングは、中田が正確無比なボールを上げたからこそ。最後の決勝ゴールも、中田が「あほか。ボールはこうやって蹴るんじゃい」とばかりにシュートしたのを相手キーパーがはじき、岡野はこぼれ球を押し込んだだけ。
 真のヒーローは中田なのだ。
 でもこの青年、日頃からマスコミのインタビューにはつっけんどんで「勝とうなんて思ってません」とか、「これでようやく練習しなくてよくなった」とか、憎まれ口ばかり叩いている。こういうひねた性格だからマスコミがヒーロー扱いしないのか、マスコミがちゃんと見てくれていないからひねくれるのか……。
 でも中田くん、僕は「ちゃんと見てるよ」。

追記・2000年6月


 これを書いた97年当時、まだ中田は日本のサッカー界の中でも「中堅」選手の一人で、世間の注目はもっぱらカズなどのFW陣だった。その後の活躍は言うまでもない。
■近況■
ずっとベンチを温めていて最後に……というドラマが欲しいんだな、要するに。私も来年は厄年を抜けることだし、一気にヒーローに躍り出ようではないの。名前も能光から能活にでも変えるか……?


1997年最後を飾る? せこいネタ特集


 一本にするにはせこすぎるネタを一挙大公開!
●スタッフの無知加速
11月20日の『愛のヒナ壇』(TBS)でのこと。司会役のほんじゃまか恵がスタジオの若い女性たちに「フレンチキスとディープキスとどっちが好き?」と訊いていた。番組スタッフが用意した質問で、ちゃんとボードも作ってある。
 フレンチキスはSoul Kissともいい、濃厚なキス(=ディープキス)のこと。会場の一人が「差が分からない」と言ったのを、恵が馬鹿にしていたが、無知なのは君のほうだよ。あれだけの人間がいて、誰も間違いに気づかないとは。
●どこまで迷走するMXTV
 最近MXテレビがますますおかしなことになっている。ちょっと見には『ギルガメ』かと思うような絵が映っていることがある。大丈夫か?
●BSは相変わらず凄い
 NHKBS11で、深夜によく劇場中継や芝居特集をやっているが、前衛舞踏のときは凄かった。全裸の男が登場。どう見てもフル○○なのだが、さすがにNHKのカメラさんはうまい。絶妙のカメラワークでフレーム処理。さすが。
●97年ベストドレッサー賞
『開運!なんでも鑑定団』(テレビ東京系)のレギュラー鑑定士・安岡路洋氏にあげたい。この人、御年70歳なのだが、風貌もしゃべり方も若い。毎回、高そうなシャツとか上着をさりげなく着ている。バカボンパパ似の岩崎紘昌氏(51)に比べれば、オヤジ度は低く、お洒落度は高い。誰も誉めないけど、私はちゃんと見てるよ。安岡さん。
■近況■
今年の年賀状はフォトショップで作成した。初体験。図柄は狛犬写真のコラージュ。見たい人は私宛に年賀状出してね。名刺にも「狛犬研究家」と入れてしまった。98年は狛犬がブレイクか?(しないしない)





デビュー以前に書いた「小説新潮新人賞最終候補作」↓

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