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 たくき よしみつの 『デジタル鑑定所』

 (週刊テレビライフ連載 過去のコラムデータベース)

 02年4月初回~最終回まで


1994年から200回以上続いた『ちゃんと見てるよ』が一旦打ち切られ、新機軸ということで「たくき よしみつのデジタル鑑定所」という新連載が始まったのが2002年の春のこと。気乗りしなかったが、編集部の意向だったので仕方がなかった。
しかしこのシリーズは短命に終わった。つまらない改訂などしなければ、同一タイトルコラムの超長寿記録になっただろうに、残念だ。

たくきよしみつのデジタル鑑定所 第1回

大切なのは優秀なブレーンなのだね

「デジタル」をキーワードに幅広い話題を取り扱う趣向で新装開店。初回はデジタルとは少々違うが、気になるのでこの話題から。
 辻元清美氏が、政策秘書の給料を事務所運営費に流用していたことが発覚し、議員辞職に追い込まれた。
 多分、議員になりたてで右も左も分からず、お金もなかったとき、「政策秘書というのを登録すれば毎月50万円以上の給料が出る。登録しなければ出ない。これを事務所運営資金に回さない手はない」と教えた人がいるんだろう。
 問題は、彼女に優秀なブレーンがいなかったことだ。
 きちんと仕事ができる本物の「政策秘書」がいれば、なんの問題もなかった。社民党の人材では、彼女にそうした力のある秘書を紹介することも、「名義貸し」は絶対に駄目よ、とアドバイスをすることもできなかったのだろうか。
 新しい環境で仕事をするためには、その環境を熟知した優秀なブレーンが必要だ。今回のことは、ブレーンの不在や人選ミスは致命的な結果を招くという、よい教訓を与えてくれた。
 企業がITを導入するときなどもそうだ。どんなに力や経験のある社員がいても、新しい環境での仕事の仕方、システムの本質を分かっているブレーンやアドバイザーがいないと、取り返しのつかないことになる。
 で、間違いに気づいたら、すぐにすべてをゼロに戻してからやり直したほうがいい。辻元さんも、辞職の際に悪あがきの印象を残したのはさらにまずかった。一旦議員を辞め、国会の外側から活動をしたほうがずっと得だと即座に諭すブレーンがいたら、傷口を広げずに済んだだろうに。
(2002/03/26)

「女子アナ」という芸能ジャンル

 春になると女子アナウンサー総出演の特番というのが必ずある。地方の女子アナがどろんこの中に突っ込むとか、絶叫マシンに乗せられるというのも、もはや「公式行事」と化している感がある。肝心のニュースを読む場面や現場からのレポートでも、失敗したほうが「NG特番に使える」と喜ばれる。女子アナとはどういう職業なのかと、改めて考えてしまった。
 GOOGLE(インターネットの代表的検索エンジン)で「女子アナ」を検索すると、39100件ヒットした。局別女子アナデータバンクやら、女子アナ萬歳やら、女子アナ生天国やら、女子アナ画像集やら、なんでもあり。「生天国」とはまた、ピンクキャバレー並みにいかがわしいなあと思ったら、地方のテレビ局がやっている公式サイトだった(汗)。いわく「あなたの目でその実態を確かめてください。『視聴者に捧げる、女子アナのための、女子アナによる、女子アナの番組』です」だってさ。
 女子アナファン?がやっているサイトの多くには、当然女子アナの画像が満載されているが、入手先が怪しい。生写真はもちろん、番組を録画したビデオから抽出しているものもある。こうなると女子アナたちの肖像権問題も起きそうだが、微妙なバランス感覚で成り立っているのだろう。
「ファン勅語」なる心得を掲げているサイトもあった。
「アナウンサーとアイドルの違いを認識せよ」「真のファンはアナウンサー個人のプライベートな時間を尊重せよ」などなど……。
 もはや「女子アナ」は、独立した芸能ジャンルなのだなぁ。そのうち吉本に「外注」したりして?
(2002/04/10)


CSという砂漠から宝を探し出す


 CSって、チャンネルが多いだけでゴミみたいな番組ばかりじゃん、という人はたくさんいる。確かにそうだが、中には、地上波ではまず見られない宝物も眠っている。
 吉本ファンダンゴで、地上波には出てこない芸人(カリカとかほっしゃんとか)をチェック。シアターチャンネルも、ラーメンズやバナナマン、おぎやはぎ、春風亭昇太などのライブをたまにやるので外せない。
 ドラマは、ミステリーチャンネルのイギリス制作ものがお勧め。『フロスト警部』は欠かさずチェックしている。大袈裟に言えば、ヨーロッパのドラマや映画を見ると、映像文化の質の違いを痛感させられる。
 あとは『JNNニュースバード』は貴重なニュースソースだし、ときどき『スターディジオ』で音楽チェックもしている。
 しかし、確かに、あれだけチャンネルがあっても、見るべきものはほんとに少ないなあ。でも、最近は割り切っている。数か月に1回しか「当たり」がない漁場でも、その場所を知っておかなければ、運よく巡り会うことも、自分で選び取ることもできないのだから、仕方がないと。この膨大な無駄もまた、現時点では許容するしかない。
 あとはいかに効率よくゴミと宝を選別していくか。とりあえず気がついたものはどんどんエアチェックして、寝る前にまとめて見る。見きれなかったものは後日見る……というスタイル。
 で、今までは二台のビデオデッキを使っていたけれど、先日ハードディスクレコーダーを買ってからは、録画ライフが劇的に改善された。これについてはまた今度詳しく報告しましょう。
(2002/04/16)

110度CSに振り回される視聴者

 バナナマンのライブをCSでやるというので、忘れないうちに予約を……と思ったら、見つからない。
 なんと、スカパーではなく、110度CS「プラットワン」というまったく新しい衛星放送なのだった。
 視聴するには、BSデジタルと共通の専用チューナーとアンテナが必要となる。アンテナブースターや分配機を使っている場合は、それらも新対応のものに交換する必要があるという。
 なんたることか。BSデジタルチューナー&アンテナは、この春、2台も買ってしまった(離れた場所2箇所で使うため)。そのどちらも110度CSには対応していない。110度CS放送を見るためには、買って半年も経っていないBSデジタルチューナーを破棄して、また新たに買わなければならないわけだ。
 プラットワンのサイトには「BSデジタル放送だけでなく、110度CSデジタル放送も視聴できる環境が、これからの標準となります」なんて書いてあるが、高価な受信機が1年も経たないうちにゴミになるようなことがあっていいのか。
 NHKのアナログハイビジョンも、さんざんあおっておいて、いつのまにかデジタルハイビジョンにすり替わっていた。
 ディレクTVがサービス中止になったときもそうだった。我が家には今もディレクTVのチューナーとアンテナが粗大ゴミとして眠っている。そこにきて今度は110度CSで、買ったばかりの機材がゴミになる。
 これでは視聴者がますます衛星放送から遠ざかってしまうだろう。ソフト面での充実も切実な問題だが、それ以前に、ハード環境面でついていけないよねえ。
(2002/08/27)

最近の番組はCMカット対応なの?


 たいていのビデオデッキには「CMオートスキップ機能」というものがついている。CMのほとんどはステレオ放送であることを利用して、2か国語放送やモノラル放送の合間にステレオ放送が入ると、その部分を自動的にスキップしてしまうという仕組みだ。
 この機能搭載を巡っては、放送局とビデオ機器メーカーが対立したと記憶している。放送局にとって、勝手にCMを外されてしまったのでは、広告主に対して申し訳が立たないからだ。
 我が家で使っているハードディスクレコーダーは、「CMスキップ」というボタンを押すと、瞬時に30秒先までジャンプする。テープと違ってハードディスクへのアクセスだから、まさに瞬時で、下手するとスキップしたのが分からないくらい素早い。
 CMは15秒単位で構成されるから、何回か連続して押すとすぐにCM明けの部分にジャンプするのだが、CMが始まってからボタンを何回か押していくわけで、最後は必ず数秒ずれる。4回押せば、2分プラス数秒くらい後にジャンプする。
 ところが、ほとんどの番組では、この数秒のズレが問題にならない。なぜなら、番組そのものが、CM明けに、CM前の部分をかなり重複して放送するからだ。
「果たして、そこにあったものはなんなのかぁ!?」と引っ張った後で、CM入り。CM明けは、この「果たして……」の台詞の少し前まで戻っているから、CMを飛ばしても行きすぎず、ちょうどいいのだ。
 視聴者を小馬鹿にしたような番組作りが、結果として「CMスキップ対応」になってしまっている。なんだか皮肉だなあ。
(2002/09/09)

北朝鮮問題報道についての雑感など
あるいは
死亡が「確認されました」という報道

 金正日が、一転して拉致や工作船活動を認めたことは、世界中に衝撃を与えた。
 報道もずいぶん慌てたのだろう、テレビでも「死亡が確認された方々は次の8人です」などとやっていた。普通、「確認」というのは、遺体の鑑識や親族による確認が済んだという意味だが、あの場合、誰も「確認」などしていない。
 その後の展開で興味深いのは、小泉内閣の支持率が急上昇したことだ。
 メディアの論調が概ね「小泉首相は拙速だった」「これでは盗人に追い銭ではないか」と日本政府に批判的だった一方で、世論は、「拉致被害者には気の毒だが、これであの危ない国が少しはおとなしくなるなら、一歩前進だ」という暗黙の了解を示したようにも見える。戦争を始めると一気に大統領の支持率が上がる某国とは、国民性がかなり違うのだなと、改めて感じる。
 それにしても、事実はどうなっているのだろうか。今後、きちんと解明されるのだろうか。うやむやにされる可能性も高いだろう。だったら最初から「確認されました」などと言わず、ある情報はすべて「未確認情報ですが」とした上で公開すればいいのではないか。
 今までのことも、きちんとおさらいしておきたい。朝鮮半島が二つに寸断されてしまった原因はそもそもどこにあるのか、ということも、日本人としては最低限度知っておかなければならない。
 いちばん大切なのは、憎むべきは、平気で人間の命や心を玩ぶ権力者の精神であり、特定の国や国民ではないという認識だ。自分がもし北朝鮮に生まれていたら……と想像してみることも必要かもしれない。
(2002/09/25)

『週刊こどもニュース』に大人も学ぼう


 大学の1年先輩である翻訳家が、「経済や政治のことは『週刊子供ニュース』で勉強している」と言っていた。彼女のように、この番組を真剣に見ている大人たちは数多い。実際、分かりやすいし、刺激的なのだ。
 公定歩合って何? 朝鮮半島はなんで南北に国が分断されているの? イスラム教ってどういう宗教?
 改めて訊かれると、きちんと答えられる大人は少ない。現代日本人が、いかに世の中のことを知らないか、この番組を見ていると改めて気づかされる。
 メインキャスターのお父さん役・池上彰さんは、NHKの首都圏ニュースを担当していたこともある報道人で、『そうだったのか!現代史』『なるほど!日本経済早わかり』など、若者向けの教科書的な著作も数多く出している。文部省検定教科書の何百倍も分かりやすく、僕も参考書代わりによく利用している。
 テレビと携帯電話だけが情報源という生活をしていると、重要なことをいつまでたっても知らないままになる。かといって、改めて現代史や経済の基礎知識を学ぼうなどと思っても、きっかけが掴めないまま毎日が慌ただしく過ぎていく。
 デジタルは手段としては重要だけれど、手段を生かすための知識や思想がなければ、ゴミをやりとりするだけになってしまう。北朝鮮で携帯電話が普及したらどうなるかと想像してみればいい。案外、何も変わらないのではないか?
 飛び交う情報が固定されたものなら、集団洗脳もたやすい。知的好奇心や探求心を忘れた生活は怖ろしい。
 騙されたと思って、池上パパが書いた本を1冊読んでみることをお勧めする。
(2002/10/09)

テレビ東京新たな挑戦と伝統の喪失

 テレ東のサイトには、10月20日現在も「シカゴマラソンで渋井が記録に挑戦」なんてバナーが出ている。レースが終わって1週間も経っているのにだ。
 このシカゴマラソン、皮肉にも記録を塗り替えたのは渋井陽子ではなく男子の高岡寿成だった。日本最高の2時間6分16秒の3位(2位とは同タイム)。
 ところが、あろうことか中継していたテレビ東京は、30キロ過ぎまで高岡のたの字も言わず、女子の渋井陽子ばかり映していた。30キロ過ぎで、高岡は世界最高を上回るペースで先頭に立っていたのに、画面は相変わらず渋井中心。日本人が世界最高をたたき出そうとしているそのときに、だ。
 中継終了直後の『激生!スポーツTODAY』冒頭でも、キャスターの定岡正二は、ことの重大さも分からずもごもごするばかり。まったく情けなかった。
 テレ東といえば、他局がそっぽを向いていたときにも、ロッテルダム、ロンドン、ボストンなどの海外マラソンを完全中継する気骨を見せていた。それが今や、他局と同様、事前に無理矢理スター誕生の筋書きを用意したり、高岡のような有名選手のこともコメントできない素人集団で番組を進めたりしている。雑草テレ東魂はどこへ行ったのか。
 一方では『ジカダンパン!責任者でてこい!』みたいな、これからが楽しみな新番組も出てきた。これが成功すれば、他局もいっせいに真似するだろう。大食いスターを発掘し、鑑定団ブームを作り出したように、「テレビで世直し」という路線が切り開けそうな予感がする。テレ東は民放の星と信じてる。初心を忘れず、愚直にぶつかってほしい。

註:(編集部から「新シリーズは『デジタル』を謳っているので、地上波ネタはNG」とのことでボツになった原稿)
(2002/10/23)


地上波デジタルは本当にGOなの?

 いよいよ年が押し迫ってきたが、来年末から開始すると言っていた地上波デジタル放送が、どうやらずるずると延期されるらしい。
 当初は2003年末に放送開始、2011年には現行のアナログ放送を廃止すると総務省(旧郵政省)がぶち上げていたのだが、学者、メディア関係者などが猛反対をしている。平井卓也衆院議員(自民)などは、自身のサイト(http://hirataku.com)の中で、地上波デジタル放送計画の凍結を鮮明に打ち出している。
 与党議員にまで反対される「地上波デジタル化」という国策は、どこに問題があるのだろう。いや、それ以前に、一体どれだけの国民が「8年後には今のテレビ受像器がただのゴミになる」というこの計画の内容を知っているのだろうか。
 計画の問題点はあまりに多く、ここでは書ききれない(平井議員のサイトなどに詳しく書かれているので読んでほしい)が、ひとつ呆れたのは、この計画を告知している総務省のサイト(http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/whatsnew/digital-broad/)のお粗末さだ。背景色を指定していないため、見る人の環境によっては非常に汚く表示される。内容は、印刷物をスキャンしただけのような画像が1枚ずつ貼り付けてあるだけ。テキストで入れなければ利用しづらい、問い合わせ先の住所やURL、電話番号一覧までが画像だ。
 恐らく、素人に作らせたのだろうが、1億台のテレビの運命を決める重大な政策告知をするページとしては、あまりにも恥ずかしい。
 これを見ただけでも、多くの国民は「総務省がこれじゃあ、日本のITはまだまだだなぁ」と思うだろう。
(2002/11/05)

株式市況番組を自虐的に楽しむ

 今年はなんだかどんよりと暗雲が立ちこめたままの年だった。なにせ景気が悪い。円はどんどん下がるし、株価は目も当てられない。
 しかし、今までの数十年間が特異だったと考えたほうがいい。戦後の経済成長やバブル経済期のときのようなことが続いたら、とてもじゃないが環境がもたない。新しい価値観、システムを見つけていく時代に入ったと思わなくては。
 NHKのBS7やCSの各チャンネル(ブルームバーグや日経などの情報チャンネル)では、株式市況を流している。今まではまったく興味がなかったが、最近、あの画面を番組終了までぼーっと眺めていることがよくある。
 へえ、○○なんて会社があるんだ。あれ? この××って、うちの近所にあるスーパーのことかな。東証二部上場なんだ。それにしてもこの△△、株価が25円かよ。よくつぶれないな……などなど、野次馬的興味を抱きながら見る。
 チャンネルを変えないもうひとつの理由は、BGMがかっこいいということ。特にNHKBSでの株式市況は、他のどの番組よりもセンスのいいフュージョン音楽を流している。アーティストのクレジットが入らないのが残念だが。
 しかし、これを「環境映像」と呼ぶには、内容が暗すぎるかなあ。この数字に青ざめている人たちはたくさんいる。もちろん僕は株なんて持ってないから、直接には関係ない。でも、これから先、日本の経済力が盛り返すのは相当難しいし、俺だって無関係ではいられないんだよなあ、などと考えてしまうもんね。来年が、さらに暗くなりませぬようにと祈りつつ、最終回。
(2002/12)

というわけで、新シリーズ『たくき よしみつのデジタル鑑定所』は、短命なままここで最終回になった。
『ちゃんと見てるよ』があまりに長寿コラムとなったことで、編集部からは「新機軸で模様替えしたい」という申し出があり、このシリーズが始まったのだが、10/23執筆の原稿が「地上波ネタなのでこのコラムの趣向には沿わない」という理由でボツにされたことでも分かるように、そもそもこの新シリーズでは何をやりたいのかがよく分からないまま、一時はテレビライフでのコラムの完全打ち切りを予感した。
その後、編集部と話し合い、「分かりました。元に戻しましょう」ということになり、『ちゃんと見てるよ リターンズ!』として出直すことが決まったのだった。




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