阿武隈日記 06/08/14

亜鉛閣


建築家の山下和正さんから電話があり、ご自慢の「亜鉛閣」に招待された。
前から話には聞いていて興味があったので、さっそくお邪魔することに。
亜鉛閣は、山下さんが川内村に作った別荘(隠居後は定住予定)。OMソーラーを改良した省エネ構造が特徴で、建築関連の賞も受賞している
(社)建築設備総合協会の第3回環境・設備デザイン賞/環境デザイン部門最優秀賞(およびBE賞)、(財)建築環境・省エネルギー機構のサスティナブル建築・住宅賞 住宅部門 理事長賞
約8000坪の敷地に延べ床面積208平方mの建物。もともとは開拓農地だったものがいつしか荒廃していた土地。そこを購入するために地目変更(農地から山林に)するのに5年かかったとか。もともと水が流れているところに、農業用水路が作られ、それが放棄されたところをさらに手を入れて思うように地形を変え……と、単に住宅設計という話を超えた規模でのプロジェクト。
なんというか、今まで見てきた村内の「自分で建てた家」や、我がタヌパック阿武隈の6坪のスタジオ建設などとは「まったく次元が違う話」なので、気軽なコメントは控えることにしたい。
ただただ、へえ~、ほお~、ふう~んとびっくりしながら眺めるだけだった。
まず、思っていたよりずっと明るく開けた地形だった
放棄された農地を元に、水路などもコースを変え、池を作り……と、大規模な土地改造から始めている。 これは山側(水脈の上流側)を眺めたところ。
下流側を臨む。ちょうどこの写真の真ん中当たりから、左右で山の植生ががらっと変わっている。左側は植林されているが、右側は皆伐された後、自然に生えてきた雑木林だろうか。

これが亜鉛閣。外壁、屋根共にアメリカから輸入した亜鉛板が使われている。それで「亜鉛閣」。亜鉛板といっても、普通に安上がりの屋根材に使う亜鉛合板などとはわけが違う。壁は14mm厚、屋根は24mm厚らしい。
家に入る前に、外を案内しましょう、と、山下さんに先導され、山に入っていく。
敷地は8000坪だが、この水源の影響下にある土地全体を見ると、広大な土地の地主みたいなものだとのこと。



チチタケというらしい。傷を付けるとそこから白いミルクのような液が出てくる。

これはいかにも毒っぽいなあ。
果樹などもあちこちに植えられている。菜園や回遊庭園などもあちこちに作られ、ここは○○、ここは××を植えてみた、などなど、詳しく説明していただいた。
この土地の自然植生をきちんと理解されていて、松林を間引いて別の樹種を植えたりといったこともされている。
おかげで、放り出された松林&放棄され荒れ果てた水田跡といった風景が、美しく変貌を遂げつつある。
山側から見た亜鉛閣。
一体いくらかかっているのだろう? というのが一般庶民の押さえがたい興味だが、(財)建築環境・省エネルギー機構のサスティナブル建築・住宅賞 受賞解説ページを見ると、気になる建築費は、建築が坪あたり約48万5千円、設備費が坪あたり約24万8千円らしい。合計4600万円強、坪単価73万円強というところか。
もちろんこれは建物だけの話で、土地の造成費用などは別。
お金の話は、自分の生活の中の単位から1桁違うと羨望のまなざしで見るが、2桁違うと、自分とは無関係の世界の話という感覚になってくる。多分、僕だけではなく、多くの人がそうだろう。
その意味では、この世界を最初に見たときから、あ、これは「違う世界」のことなのだと思った。あるいは、「住宅」とか「家」とか「住処」といった概念以外のこと。人生とは、とか、世界とは、とかをどうしても考えてしまうのだった。
象を見て大きいなあと思っているところに、いきなりブロントザウルスが現れたような感じ……いや、そうではないな。うまく言えないのだが、とにかく、家がどうのということ以外の、いろんなことを考えてしまうのだ。人間にとって、「家」というものは、自分の人生の中でひとつの大きなテーマだからだろう。
逆説的に、家に縛られない放浪の人生を選ぶという人もいる。僕はどうやらそうではないらしいのだが、50を過ぎても、自分の人生にとって「家」とは何か、まだ分からないでいる。
ひとつはっきりしていることは、山下さんは建築家であり、家づくりや住環境整備はライフワークであるということだ。そこが僕とは全然違う。
僕自身の人生観、価値観に置き換えてみれば、一生のうちに、世界最高のオーケストラに自分の音楽を演奏してもらいたい……といったような次元の話が、山下さんにとっては、この亜鉛閣なのかもしれない。
それを実践できてしまうのだから、これはもう、とってもすごいことなのだ。

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