神宮寺の住職は、法事があって飲んでしまったそうで、昔の教員仲間(神宮寺の住職は元教員)のかたが立派な車で迎えに来てくださっていた。
このかたがなんと、浪江町からの避難者で、車中、原発爆発直後からのことを克明に教えてくださった。
家は津波で流され、すんでのところでご自身も海に呑み込まれるところだったそうだ。
いちばん汚染がひどかった津島地区に避難させられたことや、奥さんとバラバラになってしまって数日、会えなかったことなど、リアルな証言を聞けた。
今は矢吹に避難しているらしい。
国や県がやっていることは最初から最後まで滅茶苦茶で、『裸のフクシマ』に書いた内容の後にも、まだでたらめが続いている。
最近では、12月6日に文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会(能見善久会長)が求めた「警戒区域、計画的避難区域などを除く福島県の23市町村を対象に全住民に1人あたり8万円、妊婦と18歳以下の子どもに1人あたり40万円」という賠償金問題。
福島県に暮らす人々が大変な被害を被ったのだから、とりあえず一律で補償金を支払うのはいいのだが、この23市町村の選定根拠がまったく理解できない。
該当する23市町村とは、
福島市、二本松市、本宮市、桑折町、国見町、大玉村、郡山市、須賀川市、鏡石町、天栄村、石川町、玉川村、平田村、浅川町、古殿町、三春町、小野町、相馬市、新地町の19市町村と、いわき市、田村市、伊達市、川俣町の4市町(すでに補償金が支払い開始されている緊急時避難準備区域など以外)。
白河市などは、かなり汚染されているにも関わらず外されていて、汚染の度合いが低い石川町や玉川村、平田村、浅川町、古殿町、小野町などは入っている。
汚染の度合が根拠だというなら、実態に合っていない。
また、会津などは汚染が低かったが、「福島」というレッテルを貼られて農産物などが売れなかったり、浜側からの被災者を受け入れて苦労したことに対する思いやりがまったく見られない。とんでもない選定だ。
もとより、被害の度合は人によって大きく違い、補償の不公平は避けられないのだから、補償するなら福島県内全域というようなくくりでやるしかないのは分かりきったことなのに、この無神経さ、間抜けぶりはなんなのだろう。
もう、話題にするのも嫌になる。
18歳以下の子供は40万円だから、例えば子供が3人いる5人家族では136万円になる。136万円がもらえるもらえないの差はとんでもなく大きい。

もらえる・もらえないを分けた、理解しがたい線引き
今回、狛犬ツアーを企画した野出島地域活性化プロジェクトは、白河市なので、夕食のときなどにこの話も出た。隣の、汚染が低い石川町や浅川町はもらえて、汚染が結構高かった白河市がもらえないというのはどういうことか、と。
それでも、白河の人たちは、「そんな口止め料みたいな金のことで騒ぐより、これから先もずっときちんとものを言えるようにすることが大切」と、毅然とした態度の人が多く、感心させられた。
毎日、いくらもらった、何をやるなという話ばかりしている川内村の中にいるのとは大違いで、早朝からバス2台連ねて狛犬を見て回る企画を立てるのである。
人生を楽しむ、好きなことをやる……この精神がいちばん大切だ。
「死んだふり作戦」に徹する30km圏の自治体には、この姿勢をぜひ見習ってほしい。
間違えないでほしいのは、今回の狛犬ツアーは原発震災とは関係なく、もともと企画されていたものであって、それが震災によって消滅することなく、平然と、あたりまえのように行われているだけだということだ。
狛犬で復興を、とか、そんな肩肘張ったものではない。俺たちはこういうことが好きだから、やりたいからやる。地元の文化をしっかり守っていき、楽しみたいからやる。それだけのことだよ、という自然体。
この自然な姿に、本当に救われた。