2011/05/09

取水口修理


before
山葵池の取水口が不安定なので、沢水パイプの取水口に習って工夫してみた。
プラスチックの籠と網戸の網の残りを使って空間を作り、中に、100円ショップで買ってきた繊維タワシを詰め込む。繊維タワシは泥詰まりしにくい。どういう理屈でかはよく分からないのだが。

after

2011/05/10

改名していたジョン


今日は暖かい。ヒキガエルの卵がだいぶほどけてきて、先に生まれたアカガエルのオタマがチューブ部分を食べに集まってきている。

黒くて小さい棒みたいなのは孵化したばかりのヒキガエルのオタマ



クロネコさんが、たったひとりで川内村と広野町を回っていると知ったので、可哀想だからなるべく郵便を使うことにしようと、郵便局に切手をまとめて買いにいった。
郵便局は警戒区域ぎりぎりのところにあるが、我が家よりずっと線量は低かった。

で、行き帰り、役場の裏手、体育館周辺はものすごい数の車が停まっていて、役場や隣のかわうちの湯の駐車場に収まりきらない車が路上にまで溢れていた。こんなことは村始まって以来じゃなかろうか。
20km圏「警戒区域」への「一時帰宅」が、今日、ここ川内村から始まるので、メディアが集まってきているらしい。
しかし、そのことは次のページに譲り、まずは別件、ジョンのことを先に報告しておく。

ジョンがいなくなったと、消防の猪狩さんがわざわざ言いに来てくれたのは数日前のことだった。
この日の帰り、S田さんちに行って「ジョンを見ませんでしたか」と訊ねたら、ジョンは来ていないし、S田さんのところで面倒をみていたお隣や近所の犬2匹も急に姿が消えたという。
そういえば路上を歩いている犬の姿がめっきり減った。
村内のあちこちで、「飼い犬が連れ去られたようだ」という話が聞かれるようになり、仕方なく、消防の猪狩さんは自分の家の飼い犬だけはつないで出かけるようになったという。
人間同様、犬たちも「緊急時避難準備区域」に生きている以上、鎖につながれているといざというとき生死に関わるから、飼い主たちはみんな放している。
作付けを禁止され、村の農地はどこも耕作していないから、犬が走り回っていても誰も困らない。
犬たちも、普段つながれっぱなしの状態から解放されて、のんびり過ごしていたのだが、そこに降ってわいたような「犬捕獲集団」騒ぎである。
毎晩、家に帰ると犬に出迎えられ、ご飯をあげながら癒されていたのに、急に犬の姿が消えて愕然としている人。
毎日ご飯をあげていたが、自分が飼い主というわけではないので、どこかに連れ去られても、自分から積極的に名乗りを上げられず、戸惑っている人。

当初僕は、あのジョンのことだから、捕獲されたのではなく、勝手にあちこち遊び歩いているだけだろうと思っていたのだが、消防の猪狩さんの話では、毎晩、自分の家に帰ってきていたのが姿が見えなくなってもう1週間近くなると言う。S田さんが面倒をみていたお隣や近所の犬たちも消えたとなると、捕獲されてしまった可能性が高い。
猪狩さんによれば、ネット上に「川内村で保護した」という犬の写真も多数出ているというので、ずっと探していたのだが見つからない。
大きそうな団体や怪しい団体にはメールしたりしていたが、分からない。
真剣にやっている団体がほとんどで、無論、善意からの行動なのだろうが、結果的には飼い主にとっても犬にとっても不幸な結果を招いている。
中には、20km圏が立入禁止になってしまったので「仕方なく」30km圏内で放されている犬を捕獲することにして川内村に入ったら、
//川内村へ行ったら犬だらけだわさ。畑を走り回る犬達をじゃんじゃん捕獲。//
などと書いているグループもいる。
原発震災のおかげで思いがけず自由を満喫していた犬たちが、「じゃんじゃん捕獲」されていたわけだ。
その「じゃんじゃん捕獲」された中に、猪狩さんちに居候させてもらいつつ、ときどきは今まで通り僕と一緒にお散歩(リードなし)を楽しんでいたジョンも、日頃つながれっぱなしだったのが自由になって喜んでいた他の犬たちもいたのだろうか。
これを読んで、あまりの情けなさに、怒りを通り越して虚無感を覚えた。
なんなんだこの国は。

きみたちは何をやりたいの?
何をしているの?
いろいろなことをぐっと堪えながら、「現場」で工夫して生活を続けている住民のことを、何か一つでも知っているの?
犬をつないでいないことが法令的に問題があることくらい誰もが知っている。そんなことは分かった上で、今は非常時だから、飼い主にとっても、犬を飼っていない近所の人たちにとっても、そしてなによりも当の犬たちにとってもいちばんいい方法、現実的にみんなが困らずに幸せに生きていける方法をとっているのだ。
20km圏内につながれたまま置き去りにされて飢えて死んでいく犬たちと、20km圏外でいつも以上に幸せなひとときを満喫していた犬たちの区別くらいつかないのかね。
つかないんだろうな……まあ、仕方がないことかもしれない。それにしても「畑を走り回る犬たちをじゃんじゃん捕獲」することがおかしいと思わなかったのか?
田舎の犬には田舎の犬の幸せってものがあるのだ。
ニシマキ師匠が住んでいる一区(通称高田島)には、「生まれてこの方、人間に触られないで生きている飼い犬」がいるという。それって、普通は「野犬」と呼ぶのだろうが、そんな犬にも「飼い主」を自認している人がいるらしい。ご飯をあげているけれど、つながれたことがないどころか、人間が触れたことさえない。勝手に山の中で「繁殖」して、しぶとく生き延びている。
そんな犬もいれば、いつもつながれっぱなしの犬もいる。それが田舎なのだ。都会の犬とはまったく違う世界がここにはあるのだ。
つながれっぱなしの犬にとっては、畑を走り回るなんて、一生の間にめったにない幸せだったのだよ。
遊び疲れて家に戻り(まあ、それが本来の飼い主の家じゃなくて、村に残っているご近所さんの家だったりするわけだが)、ご飯をもらって、ああ、今日も楽しかったぁ……と思いつつ寝る。そんな犬たちを「じゃんじゃん捕獲」していったのだよ、きみたちは。

ネットには他にもいろんな話が出ている。

「東京のスーパーから米が消えて困ったと言ったら、被災地の親戚から米が送られてきた」

……とか、

こないだ何年も音沙汰のなかったやつから突然電話があった。
「福島県産の米がどっかで手に入らないかな」
「はあ?」
なんでも「福島県応援フェア」で売り出す米が足らなくて困ってるとのこと。
ウチが農家から直買いしてるのを思い出して、だめもとで電話してきたんだと。

……とか。
おかしいと思わないの? みなさん。


S田さんが世話していた近所の2匹。捕獲されてしまったらしくて行方不明


最後に見たときのジョン。4月末


さて、ジョンである。
最初に問い合わせたのは、いちばん大きそうな保護団体で、メールを出したところすぐに返事が来た。
そのグループでは川内村では保護していないが、大変ご迷惑をおかけしていて申しわけありませんと、非常にていねいに返事をいただいた。他の団体と横のつながりがあるようなら、川内村の事情をよく理解して行動してほしいとお願いしたところ、快く「できうる限り情報を伝え、注意して行動するように呼びかけます」と約束してくれた。
こういうしっかりしたグループが、たまたま間違って捕獲していればいいのだが、「じゃんじゃん捕獲」してくれたグループが相手だと面倒なことになりそうだ。案の定、そこにも問い合わせたが返事はなかった。

mixiでも、ジョンのことを知っている人、僕がジョンを捜していることを知った人たちからたくさんメッセージをいただいた。
その中のひとり、お会いしたこともない女性から、「ここにいっぱい写真が出ています」という情報をいただき、さっそくチェックしたところ……ん?
……ん? ん?


あああ~れ~?!


おいおいおいおい。耳を伏せてしまっていて情けない顔しているから見逃すところだったけど、ジョンじゃないか。

拡大してみた。やっぱりジョンだよなあ


2年前の4月23日に撮影したジョン。模様の位置が同じだから間違いない

さっそく電話。
当初、電話に出た男性は眠そうな声でむにゃむにゃと要領を得ない応答で、後ろでは女性の声で「保健所に問い合わせてもらって」などと言っている。
保健所?!
保健所に持ち込んだのか?
これで一気にぶち切れそうになったが、かろうじて気持ちを抑えて、後から確認して電話をもらう約束をとる。
その後の1時間ほどはもう、どっと疲れてしまい、あらゆることが嫌になった。
手遅れになっていたらどうしよう。今頃、二酸化炭素充満のコンクリートの部屋で悶えながら窒息死させられた後だろうか……。最悪の事態を想像すると、もう、怒りとかではなく、ただただ「こんな世の中は嫌だ」という厭世観に包まれていく。
日頃、おばかだおばかだと言っていたが、結局、ジョンには精神的にいっぱい助けられていたんだなあと、改めて思う。う~~。

どよ~んとした気分でいたところに、電話が鳴った。
今度ははっきりした口調の女性で、ジョンが捕獲されたときの様子や、今どうしているかなど、一気に分かった。

このグループは3人で構成されていて、日頃は野良猫の救済活動を主にやっているのだという。
今回は「非常時」ということで福島に遠征したが、犬用のケージも足りず、リードを車のヘッドレストにつないで、車内に直接乗せて運んだりしていたらしい。
この日、南相馬市方面での保護活動を終えて帰ろうとしていたとき、川内村で犬が一匹けたたましく吠えながら車を追ってきた。「ぼくも連れて行って」と訴えられていると思い、車に乗せて連れ帰った……のだそうだ。
まったく、ジョンは……。
「それは連れて行ってほしいということじゃなくて、単に遊びで追いかけているんですよ。そういう犬なんです。おばかなので」
と説明したら、「そうなんですかぁ?」とがっかりしたようだった。
話を聞くと、どうも4月30日に一緒に散歩していて、ふと姿が見えなくなったな、猪狩さんちに戻ったのかなと思った、まさにそのときに連れ去られていたらしいと分かった。
で、ジョンはその後すぐに里親を名乗り出た人がいて、今、所沢にいるのだという。
Nさんというその家に電話すると、ジョンはすでに「ふくちゃん」という名前になっていて、可愛がられていた。
健康診断や予防注射も済んで、ダニやノミも取ってもらい、普段はその家の庭で放し飼い。近所の公園に散歩にも連れて行ってもらっているらしい。
「このまま飼い主さんが現れないといいねえ、なんて家族で話していたんですよ」
……あらららら。
ほんとにあのジョンなのだろうか?
「黒い首輪ですよね?」
「はい」
「耳が折れていて、足の先が白くて、尻尾はほとんど垂れていて、意気軒昂なときだけちょっと上がって巻き気味になって……」
「そうですそうです」
「リード、ぐいぐい引っ張って、落ち着きがないでしょ」
「ええ……まあ……(苦笑しているようだ)。あと、雨が降っていても小屋に入らないで濡れているので心配したりしているんですが……」
「そういう犬なんです。雪の上で寝ていますから。零下10度とかのふきっさらしのところで生きてきた犬です」
「そうなんですかあ?」
「犬小屋に蒲団みたいなものを入れても、すぐに引っぱり出すし……」
「そうなんですよ。タオルケットを入れたんですが、すぐに引っぱり出してしまって……」
「猟犬の血が濃いのか、キジやヤマドリを猛烈に追いかけたりする犬でして、でも、人には噛みつきません」
「ああ、それでですか。公園で鳩を追いかけようとして大変でした」

ああ、もう完全に間違いない。ジョンだわ。

なにはともあれ無事でよかった。

で、問題はこれからどうするか、だ。
話を聞けば聞くほど、そのまま「ふくちゃん」としてその家に飼われているほうがずっと幸せなんじゃないかと思えてくる。
飼い主の猪狩さん(今、面倒をみている猪狩さんとは別の猪狩さん。このへんは猪狩さんだらけ。愛ちゃんの親方も猪狩さん。そういえばこの前すれ違った。村の中で仕事を再開しているようだった)に電話して、状況を説明した。
「う~ん、それは……少し検討させてください」
との返事。
ジョンのご飯係だったふさこさんは、身体が動かない旦那さんと一緒に東京の親戚の家に避難しているし、けんちゃんはビッグパレットの避難所に詰めていて帰って来られない。今、ご飯をあげている猪狩さんの親切にいつまでも甘えていても、また捕獲されてしまうかもしれない。
うちはこれから先、留守にすることがまた多くなると思うので、やっぱり無理。
……となれば、多分、このままジョンは埼玉の犬として余生を過ごすことになるような気がする。
う~ん、強運だなあ。

しかし、本当にこれでいいのか?
言ってみれば、拉致されて、知らないうちにひとんちの犬になっているのだ。「結果よし」と言いきれるのか?
ジョンは喋れないから、どうしたいのか意志表示できない。

とりあえず、しばらくはNさんちのふくちゃんでいることになるので、近々、時間が取れたら埼玉まで様子を見に行こうと思っている。


(追記)
ちなみに、阪神大震災以降、被災地で捕獲された犬猫は保健所も処分せず、飼い主が見つかるまで、あるいは里親捜しをする努力をしているという。
しかし、それを知ってか知らずか、被災地の飼い主が自分で保健所にペットを持ち込むケースがたくさんあり、その場合は普通に殺処分されてしまうのだそうだ。
今ちょうど、テレビでは、20km圏内に生き残っている家畜はすべて殺処分することを国が命じたというニュースが流れている。

今回、「東北地震犬猫レスキュー.com」というサイトを見ていて気づいたのだが、日本から消えてしまったのではないかと思っていた雑種の犬・ネコが、やはり田舎にはいっぱいいる。この雑種の犬猫が都会に流入して、都会の人たちが雑種の犬猫のよさに気づくという効果もあるかもしれない。そうした犬猫が子孫を残せば、血もうまく混じって、昔のように雑種があたりまえで純血種は特別だという日本に戻るかもしれないし。

田舎の犬猫は総じて可愛がられていないところがある。飼い猫が子供を産むとすぐに川に流してしまうなどということが、田舎ではあたりまえのように行われてきた。今もそうなのだ。
ちなみに川内村には獣医さんもいない。犬猫の避妊手術なんて、ほとんどの家で考えもしないようだ。
都会の人たちのペットへの溺愛ぶりと田舎の人たちの淡泊さ、怖いほどの割り切りが混じり合うとちょうどいいのだが、世の中、なかなかうまくいかない。
ジョンの父親は真っ白な雑種で飼われていた犬。母親は耳が折れた洋犬の血が濃そうな小柄の雑種(薄茶色)で野良犬。野良犬の母親が山の中で子供を産んだ中の1匹がジョンだった。
ジョンだけが甲斐犬のような模様で産まれてきて、父親犬を飼っていた家が一生懸命に飼ってくれる家を探したのだが、誰にももらってもらえず、最後に残ったのがジョンだった。
そのジョンをけんちゃんが押しつけられて、猪狩家で飼われるようになったのだが、つながれっぱなしで散歩させてもらっていないことに僕が気がついたのが3年近く経ってからのこと。
一緒に散歩するようになって2年半。
ジョンの兄弟たちはみんな死んだり行方不明になったりで、今はジョンしか生きていない。
そのジョンが、今は埼玉で上げ膳据え膳の待遇?で可愛がられている。
人生何があるか分からない。
……あ、また余震だ。

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