10/09/26

 田舎暮らしの憂鬱

朝早く、近所の人から国政調査の調査票が届けられた。
5年前の10月1日にどこに住んでいましたか、というのだが、5年前はまだ二地域居住だった。阿武隈日記を遡ってみると、どうも5年前の10月1日には、ここ、阿武隈にいたようだ。まだブロードバンドが来ていなかったので、頻繁に首都圏に戻って仕事をしていた時期だが……。
ここでの暮らしも5年以上になるわけだ。
当初は分からなかったが、田舎暮らしでいちばん辛いのは、自然が破壊されていくのを目の前で見守らなければいけないこと。改変された環境で、野生生物が生存の危機を迎えているのを目の当たりにすることだった。
山の稜線に無駄な建造物が建ち、保安林が簡単に解除されて伐採される。
より便利に、地域住民の快適な暮らしのために……という名目で、やりすぎではないかと思う公共工事が次々に展開される。
この土地を買うために初めて通った川内村への進入路が、今、大幅な工事で変貌している。
くねくねと曲がる狭い道を、ひやひやしながら運転しつつも、隣を流れる美しい沢の流れや、雑木林の豊かさに感嘆し、「ここはいいかもね」と思いながらこの村に入っていったものだ。
僕らを阿武隈暮らしへ誘ってくれた思い入れのある道が、今、こんな風に大幅な工事で姿を変えている。

山がなくなってしまった


ここは、ついこの前まで、奥入瀬渓流ばりの美しい渓谷だった


渓流は今、こんな風に裸にされてしまっている


この沢の周囲に生きていた生物は今どうしているのだろうか


この道(舗装されている側)のままで、少なくとも僕は何も困っていないのだが……


この橋梁の先の山も、これから崩されていくのか……


ほぼ自然のままだった沢の両側が、すでにこれだけ改変されてしまっている


ここから先はまだ手がついていない


元はずっとこんな景色が道の脇にひっそりと続いていたのだが……

こうした憂鬱は、日本中どこに行っても避けられないことで、考えても悩んでも逃れられない。

しつこくコメントはしない。あとは、この光景を見た人たちがどう感じるか、お任せするだけだ。
この道は、あまり車が通るわけでもなく、すれ違えないほど狭いわけでもない。見通しが悪いので、注意して走る必要があるが、なにもここまでして拡幅したからどうのという道ではない。
得られるものと失うもの。そのバランスが重要なのだが、「失うもの」に対する感覚は、人によって相当違うのだろう。
工事現場で働いていた初老の男性がこう言っていた。
「木戸ダム工事の現場で働いていたけれど、素晴らしいブナ林をどんどん崩していって、これでいいのかなあと、疑問に思った」
働いている人たちはみな素朴でいい人たちだ。生きるために仕事をしている。
どんな仕事を与えられても、真面目にやりとげるだろう。
それだけに、上に立つ人たちの知性、理性、品位が問われている。





たくき よしみつの「本」 電子配信開始
新版神の鑿第一巻 新版神の鑿 第二巻 新版神の鑿 第三巻
膨大な写真を収録し、寅吉和平作品を完全網羅
『新版 神の鑿』(第1巻〜第3巻)電子書籍で登場
好評だった『神の鑿』をゼロから書き直した完全新版。豊富な写真を高解像度でふんだんに使用。旧版に未収録だった作品も多数追加収録。
ePub版をお勧めしますこちらからどうぞ


日本のルールは間違いだらけ 実は世の中こんなにいい加減だった! 

日本のルールは間違いだらけ』(講談社現代新書 10月15日発売)

第一章 日本語のルールはこんなにおかしい 第二章 交通ルールのバグで殺される 第三章 性風俗は曖昧ルールの九龍城 第四章 法律はお上のご都合次第 第五章 公職選挙法という不条理

JIS漢字の1%は「存在しない」文字、福知山線事故は大隈重信の責任?、ソープランド誕生秘話、PSE法という大量破壊兵器、自公政権は本当なら2003年に終わっていた、裁判員精度は無理である……などなど、AIC(Asahi Internet Caster)で5年あまり連載された「デジタルストレス王」の中でも、反響の大きかったコラムを全面改定&大幅加筆、改訂。「愚ルール五悪の法則」というセオリーの下にまとめあげた読み物。

★立ち読み版はこちら


今すぐご注文できます 
アマゾンコムで注文で買う    bk1で買うbk1で買う    

一つ前の日記へ一つ前へ    目次へ          次の日記へ次へ





その他、たくき よしみつの本の紹介はこちら

日本に巨大風車はいらない 風力発電事業という詐欺と暴力