10/08/24
暑く、やるせない日々
このところずっと、やりきれないことが続いている。
ここで説明すればするほど自分の首を絞めることになるという、実に巧妙で、強大な力、あるいは惰性で動いていく社会を前にして、「死にたいというのではなく、生きていたくない」と書き残して死んだ加藤和彦の心境に思いをはせる日々。しかも耐えがたい暑さ。
というわけで、どーでもいいことを書いて少し時間をつぶすことにした。
iPaDとiBOOKは本当にこのまま出版業界を変革するほどの力を持つのか……という件。
現状では、とてもとても、というところ。
コンテンツが入手できないというのは論外だが、技術面でのお粗末さも、ちょっと信じられない。
これだけデジタル技術が発達した現代で、テキストをきれいに読みやすく表示する程度のことがなぜできないのか?
おそらく、現状でも、欧文文化圏ではなんの問題もない。ワードラップや行末揃え、均等割り付けといった基本的な欧文印刷技術は、あたりまえのこととしてディスプレイ上で再現されている。
ところが、日本語の表示となると、縦書きはおろか、ルビ振り、禁則処理といった基本的な処理ができていない。
日本のソフト開発能力のなさには、危機的なものを感じる。
技術立国といいながら、コンピュータの世界では、Tronをアメリカに封じ込められ、ITインフラでは韓国に大きく遅れを取ってしまった。
日本語文書の作成や印刷においてさえ、MicrosoftやAdobeといった海外企業に独占を許し、ジャストシステムは社長がゴルフ大会の主催などにうつつを抜かしている間に、一太郎や花子は絶滅危惧種になった。生き残っているのはATOKくらい。
ハード開発だってそうだ。SONYはWalkmanの世界支配をあっさりiPodに引き渡してしまったし、液晶パネルの開発・製造といった純粋なハード技術においてさえ、韓国のSumsungに追い抜かれた。
日本語書籍の表示ができるなら欧文表示などたやすいことなのに、iBOOKなどが出る前に日本製のブックリーダーソフトが世界に打って出られなかったのはなぜなのか。

iPaD(のiBOOK)では、禁則処理が追い出しではなく次の行への送り込みのみ↑
iPaDでの表示が美しいと感動したのは、AdobeのDigital EditionsやFirefoxプラグインでの表示があまりにもひどすぎたからで、単純に比較の問題だった。
例えば↑このように、禁則処理は単純な追い出し処理がされ、追い出し後の行の均等処理も行われないため、行末が凸凹になってみっともない。

↑ルビ振りタグにも完全対応はしていない
ePubの本文ファイルはxhtml形式で記述されたテキストファイルなのだが、ルビ振りタグに完全対応できているブックリーダーはほとんどないようだ。
例えば、ソースの中に、

と記述すると、「卓真」という文字の上に小さく「たくま」とルビが振られるはずなのだが、現状のiBOOKではそうはならない。
一般のWEBブラウザではほとんどがルビ振りタグには対応済みだ。例えば、上記のルビ振りタグを使った記述をしてみると、
卓真
↑このようになる。
みなさんのブラウザではどう見えているだろうか。私のInternet Explorer7では、

↑このように見えている。
Firefox(バージョン3.6.8)でも、

↑こうなる。上のヘアラインとちょっと重なっているが、きちんとルビとして認識し、表示されている。
★表示されない場合は
⇒ここから「xhtmlルビサポート」のアドオンをインストールすると表示されるようになる。
★ちなみに私のFirefoxにはePubリーダーのアドオンも入っている↓

↑ePubリーダーとルビサポートのアドオンは入れておくとよい
ところが、WEBブラウザではとっくに解決しているルビ振り表示機能が、電子ブックリーダーではまだまだ未対応なのだ。
iPaDのiBOOKでは、「卓真(たくま)」と表示されるが、これは、ルビに未対応なブラウザ(この場合はiBOOK)では、ルビ部分を( )の中に入れてルビ振り文字の後に表示させるというもの。

↑この中の、<rp>(</rp>と<rp>)</rp>というタグ部分がそれに相当する。
しかし、これを入れると、()がみっともなく付け加えられるだけというブックリーダーもある。
Firefoxプラグインでは、この()の補助ルビを入れたことにより、ルビ振り表示がこんな風にぐちゃぐちゃに乱れてしまう(赤い矢印で示した部分。ピンクの○で囲んだ部分は禁則処理での追い出しにより、行末が揃わなくなった部分)↓

↑Firefoxプラグインでの表示
行間もベタのため、読みづらい。というか、これでは読む気が失せてしまう。
AdobeのDigital Editionsも同じようなものだ。↓

ルビ振りは( )の補助ルビに対応して( )内表示されるが、行間がベタ。しかもフォントも読みづらい。
さらに困るのは、このソフト、非常に重くて、何かの拍子にハングしてしまう↓

読みづらいだけでなく、よく固まってしまうAdobeのDigital Editions↑
この2つが目下PCでePub形式の電子書籍を読むための二大方法だというのだから、ほとほと嫌になる。
ところで、これらのePubファイルは、Sigilなどのオーサリングソフトが今のところほとんど使いものにならないことが分かったため、Pubooのシステムで作成している。
PubooをWEBアプリとして使ったほうがよほどスムーズな作業ができるからだ。
しかし、PubooのWEB上での閲覧画面と編集画面でも、かなり表示に差異がある。
例えば、上の電子書籍をPubooのサイト内で直接WEBブラウザで読んだ場合はこうなる↓。ルビは文字の上にふられているが、()が余計にくっついて表示されている。

Pubooの試し読み画面では、ルビの補助タグの()がそのまま表示されてしまう↑
しかし、WISIWYGの編集画面では、ルビタグの()は表示されず、きちんとルビだけが表示されている。これでOKと思って公開すると、WEBブラウザで読むと()が出てしまう。
ソースをそのままブラウザで表示すればOKなのに、なぜこんなことになるのかといろいろ調べてみると、PubooでHTMLのルビタグ回りにいっぱいタグを付け足していることが分かった。

これはWISIWYGの編集画面↑

↑これが元のHTML形式のソースファイル

↑Pubooでルビタグ回りが自動変換されたソース
Puboo側としては、いろいろ研究、工夫した結果の処理なのだろうが、こと、ルビに関しては万能な処理というものが難しいようだ。
多分、ルビタグ回りはいじらないでそのまま流し込んだほうが、多くのブックリーダー、ブラウザでまともに表示されるのではないだろうか。
それとも、iBOOKに最適化させるための処理なのだろうか。
いやはや、ルビひとつとってもこれだけ難儀しているのが現状なのだから、日本語書籍を自由に、快適にiPaDなどの道具で読める日は、意外と遠いのかもしれない。
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