10/01/18-19

南伊豆風車(被害)紀行

南伊豆の風車現場を見てきました。
日帰りのつもりだったのですが、風車が目の前に建ち、もはや住めなくなってしまったご夫妻の家に一泊させてもらえることに。
これが泊めていただいた離れの中↑
できたばかり。細部にまでこだわりを感じられるすばらしい家です。驚くことに、これは全部自力で、何年もかけて作ったものなのだとか。
将来、お母様の隠居所として造った離れなので、ベッドはひとつ。トイレ、キッチン、シャワールームがついています。母屋も含め、材木の多くは、近隣の林の間伐などで切り倒した木を自分で製材して使ったのだそうです。
ものすごいエネルギーだなあと、ひたすら感嘆するばかり。
川内村の友人たちも、家は自分の手で作ったというケースが多く、「家は自分で建てるもの」という感覚には慣れてしまっているのですが、母屋も含め、これは、今まで見てきた中でも、特選クラスの「作品」です。

夕方出発したのですが、伊豆半島の付け根から先端までは、どう頑張っても2時間以上かかります。着いたのは夜9時近かったでしょうか。
真っ暗で風車は見えません。山の上に警告灯が点滅していて、ああ、これか……と分かっただけ。
闇の中でも、距離があまりないことだけは感じられました。
数日前まで、ぶんぶん回っていて、家の中にはとてもいられない状態だったそうです。ところが、昨日今日はピタッと風がやみ、嘘のような静けさに。まだ試験運転中ということもあり、風車群(2000kw×15基)の大半は止まっているようです。
ほっとしたような、経験できずに残念なような……。
おかげで、この夜はしっかり安眠できました。

……で、翌朝、窓を開けてビックリ。

カーテンを開けると、いきなり目の前に風車が……


外に出て確認してみる。はああ〜……


直線距離は440m


かなり大型の猛禽類が一羽、のんびりと止まった風車にまとわりつくように飛んでいた


これじゃあ、バードストライクも起きるわけだよね


遊んでいるつもりなのか、偵察のつもりなのか……


風車からの送電線と鉄塔は、ヘリコプターが空中輸送して建設したものです。
ああ、これが……と、見上げながら、昨年(2008年)3月末、ケータイから打たれた11KB(400字詰め原稿用紙20枚以上!)のメールを受け取ったときのことを思い出しました。あまりに悲惨な内容に、思考が停止してしまうほどの衝撃を受けたものです。
一部を抜き出してみます。(転載についてはご本人の承諾を得ています)


私の家は海から1.5km程離れた小さな山合い、風のよく通る谷に位置します。
ホールのように円く山に囲まれた地形なので、鳥のさえずりがそのホール状の谷をサラウンドし、夜には洋上沖を通過する船の音が風に乗って届いてくるところです。
何もない、手つかずの小さな自然の残る地です。

私達夫婦はIターン組、つまり移住者です。

こつこつと自分達の手で何年もかけて建てた家で、住みながらつくりました。
なんだかんだと十数年経ちまして、やっと落ち着いた日々となったところでした。年老いた母もゆっくり住めるようにと、次につくり始めた2棟目ができたばかりのところです。

1年前のある日、どうも山がざわつく、何かおかしい。こちらからは見えないが山の裏で何をやっているンだろう?…と気付き、町に尋ねて初めて、風力発電施設建設位置が自宅から近い事を知りました。
すぐさま事業者を呼びつけ問い正したところ、なんと、石廊崎から大瀬という地域にかけて、小さな山並の尾根を広大に削って風車が17基。それも景観にそぐわないほど巨大な風車(ベスタス・2.000kw・120m高・ブレード直径80m)を建てると言うのです。
その17基のうち6基が我が家の1km圏内にありました。

冬に吹く強い西風をあてこんで建てられる風車群の真東に我が家は位置しているので、全ての風車の風下となります。

そのうちの1基は家の正面目の前、190m高しかない小さな山の頂上を削って建てるとの事、そこから家までの間に遮蔽物は一切ありません。風車からの距離はタワーの中心ポイントから測って、たったの440メートルです。遮蔽物のない小山なので、体感距離はもっと近く感じます。

我が家は全窓西向き、西を正面とするので、全部屋のどの位置からもその巨大な風車1基は、すぐ目の前にそびえ覆い被さる形となります。
その風車のすぐ後ろに自宅から800mの距離でもう1基。正面左手には1kmで2基、正面右手にも1kmで2基と囲まれます。
(中略)
その上、こちらから問わなければ事業者は何も明らかにしないので、しばらくは知りませんでしたが、17基全ての風車が発電した22,000ボルトの電気を送る「高圧線」が、その目の前の山から走るとの事。
風車で満杯になってた頭の中に、追い討ちをかけるように「30m高の送電塔と送電線」までもが、自宅から200mの距離で正面から右手を囲むように数基建てられる事を知った時には本当に打ちのめされました。

私達は目の前に回転する巨大な人工物を建てられ、後ろに5基も控え、その風車群に囲まれた上に22.000ボルトの高圧線と送電塔にまで囲まれるのです!!

その後、その送電塔を建てる方法がヘリコプター建設である事を知ります。

目の前の山の後方に仮設ヘリポートができ、部材を吊り下げた低空飛行のヘリコプターが半年近くも往来するわけです。
なんと!我が家はヘリルートにすっぽり入っておりました。

(中略)

不安とやって来る苦痛を訴え続け、危惧の大きい号基の取りやめと送電塔の移動を申し入れ続けた1年でした。

いよいよ事業者側の工期が差し迫ると、こちらの要望は軽くはねのけ、「これ以上話をしても協議にならないと判断した。工期として進めないといけない時期に来たので、そろそろ工事に入る事を通告する」と一本の電話をよこしたきり、いきなり翌々日から目の前の山の岩を砕く物凄い音が谷合いをサラウンドし始めたのです。
この3月頭の話です。

現在、風車が来る前にもう既に耳の奥が痛い毎日です。
(後略)



人間、あまりにもひどい話を見たり聞いたりすると、ああ、これ以上知りたくない! と、拒否反応を起こします。あのときの私は、正直そんな感じでした。
ひどい話、悲しい話、やりきれない話は、世界中にいくらでもあります。アフリカの難民が飢え死にしているというようなニュース映像に接するときも、私だけでなく、似たような反応を示す人は多いと思います。
自分には何もできない。たとえ何か小さなことをしたところで、根本の部分が変わらない限り、理不尽な不幸は際限なく再生産される……。
しかしこれは遠い国の話ではありません。同じことが、今、自分の住む村にも起きようとしている。
自分がそうなったときはどうすればいいのか、と想像するのが精一杯でした。

あれからまだ1年経っていません。風車群は完成し、昨年末から試験運転に入りました。
今、目の前に見えているのがそれです。
この日の穏やかすぎる天候と、のんびりした鳥の動きが、悲惨な現実とどこか乖離していて、奇妙な気分になっていました。

母屋の玄関から見る風車


今日は回っていないので、猫ものんびり


リビングの窓から見える風車


移り住んで十数年。住みながらこつこつ自力で建てた家


この朝は風車が止まり、無事、朝食の準備もできたけれど……

このお宅で、今何が起きているのか……。
風車が回り始めると、このLDKにはいられなくなるそうです。
先日いただいたメールにはこうありました。


からだに与えられる風車からの影響は予測以上のもので、勿論…もはや安全・安心・健康なる居住空間ではなくなり、住める状態ではないというのが現実です。 (略) 生活環境だけでなく、生活基盤が根底から覆されています。 冬場の現在、伊豆半島はほぼ西の風となるのですが、我が家は風車全機の東側に位置し、生活時間が一番長い中心スペースであるリビングとキッチンが酷い環境となってしまいました。 私は船に弱いのですが、リビングとキッチンで船酔いです。脳みそから揺らされている感覚で頭の中が一杯になるので、キッチンにいると食事を作る段取りさえ組めなくなるのです。目と胸が圧迫され続ける感覚が、船酔いの上に乗っかる感覚で、吐き気が襲って食事が取れず、まだ症状がそう酷くない主人に頼んで毎回外食をしに連れ出してもらいます。 寝室は、不思議なことにキッチンやリビングほど、ぐるぐると撹拌されている感じや圧迫感は少ないのですが、全窓が風車に向かっている為、これがまた夜中の風切り音で眠れないのです。風切り音が弱くなって眠りにやっと着いたと思ったら、1時間もしないうちに再びジュワッ・ジュワッという刻み音に起こされてしまいます。
音は大きかろうと小さかろうと、同じ箇所で針が飛んで繰り返し戻るレコードor CDを聴かされているようで、自分の意思でOFFにできず毎晩眠らせてもらえないのは拷問だなぁ…と実感しています。
現在の回避策として眠る為には毎晩夜中に車を使って音源から離れる以外にありません。


実は、お宅を訪問する直前、「今から少し家を出ています。到着される頃までには戻りますので……」というメールがあったのですが、後で聞くと、ちょうど風が出てきて風車が回り始め、LDKにいるのが耐え難くなったために一時的に家から離れていたのだというのです。
お二人は、もうこの家を捨てて出て行くことを決断しています。それはそうでしょう。

自らの手で作り上げた家を捨てるというのは、単純にお金で換算できることではないでしょう。
しかし、事業者が補償に応じるのかどうかという基本的な問題すら、今は何も見えてきていません。
60代に入ったご主人は、どこかでまたゼロから始める気持ちは十分あると明るい顔でおっしゃっていました。
すごい人だなあと感嘆するばかりです。僕にはとてもとても、そんな元気はありません。


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ストップ!風力発電 鶴田由紀・著

かつて北欧を旅行したときに見た洋上風車の風景に感動し、環境問題に目覚めて、帰国後、市民風車への献金をしようとした著者が、風力発電の恐ろしさ、馬鹿馬鹿しさに気づき、隠された真実を、今、淡々と報告する。「大変な問題なのに、ほとんどの人はまったく知らない」ことの恐ろしさを訴えるために。
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