『黒い林檎』 (特別限定本)


黒い林檎    書 名:『黒い林檎』
   著 者:たくき よしみつ
   版 型:A5版並製本 特別限定本
   版 元:文藝ネット(01/04)
   価 格:2,000円
   100部限定製本、内、一般通販は50部を予定。


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あとがき

 この作品を書いたのは、一九九八年から九九年にかけてのことです。
 当時の私は、「現代の伝奇ミステリー」とでも呼ぶべき作品群を書いていこうとしていました。『天狗の棲む地』(マガジンハウス刊・現在は絶版)、『カムナの調合』(読売新聞社刊・現在は品切れ絶版)と続いた路線を定着させるべく、『呪禁(じゅごん)』という長編の構想にかかっていました。
 そんな折、「あなたが書いたミステリーなど読みたくない」と言い切る編集者からの「恋愛小説」執筆依頼があり、『呪禁』を後回しにして、音楽と性愛を題材にした作品『アンガジェ』の執筆にかかりました。しかし、書き上げて渡しても連絡がなく、『アンガジェ』は宙に浮いてしまい、結局、厳しい条件下で、依頼された版元とは別のところから出すことになってしまいました。
 そこから歯車がどんどん狂い始めました。
 その後、『呪禁』を書き上げたものの、出版を巡って小さなトラブルがあった『アンガジェ』(読売新聞社刊)が壊滅的に売れなかったせいもあり、私は、新作を出版できなくなってしまいました。『呪禁』は八〇〇枚の長編でしたが、この長さも「原価が高くなりすぎる」という理由で敬遠されました。重厚長大が受けた時流はすでに変わってしまっていたのです。
 そこで、『呪禁』の出版を一旦諦めて、より出版しやすい形での新作を書き下ろすことにしました。それがこの『黒い林檎』です。
 心がけたのは、とにかく「より分かりやすい娯楽小説を書こう」ということです。自分の好みをある程度曲げてでも、娯楽性に徹するという覚悟を持って書いたつもりです。
 書き上げてからは、出版のためにあらゆる手だてを尽くしましたが、やはり出せませんでした。これで長編が二つお蔵入りしてしまったわけです。
 この作品を絶賛してくださる編集者は少なくありません。出せなかったのは、内容のせいではないと今も信じています。
 出版不況が進む中、出版社も作家も、新たな可能性を模索しています。WEBに「最後の荒野」を求めて、「文藝ネット」(発起人・佐伯一麦、鐸木能光、森下一仁〜五十音順)を創設したのも、そうした試みの一つです。
 デジタルによる作品配信は、誰もがその可能性に一度は期待するのですが、実際には非常に難しいことでした。厚い壁に阻まれ、消滅した配信サイトもあります。
 いろいろ悩んだ末に、二〇〇〇年も押し迫ってきた頃、『黒い林檎』全編をWEB上で無料公開することに踏み切りました。二〇〇一年二月現在も、この作品は文藝ネットで自由にダウンロードできます
 でも、ディスプレイ上で長編小説を読むという習慣は、日本ではまだまだ定着していませんし、これから先、受け入れられるのかどうかも分かりません。
 本というパッケージは完全に完成されたものです。本に対しては、多くの人々が特別の感情を持っています。もちろん私も、本の存在を愛しています。デジタル配信は、ゴミが出ないし安価であるなど、利点がたくさんありますが、本の魅力を凌駕するわけではありません。理想は、デジタル配信と本の出版がうまくかみ合い、両立していくことでしょう。
 読者の注文に一冊単位から応えられる「オンデマンド出版」には最も期待しているのですが、これもまだまだ認知度が低く、苦しい状況です。
 そこで、まずは、極少部数限定本の出版を試してみようと思いました。作家が一人で本を作れるのかという実験でもあります。そのために、極力人手や手間をかけずに作りました。
 私がしたのは、原稿であるテキストファイルのPDFへの変換と、カバー版下のデジタルファイルでの制作だけです。テキストファイルからPDFへの出力は簡単ですし、出版社に原稿を渡すときにも使っている方法ですから、今回、普通の入稿作業よりも余計にかかった作業は、カバーデザインのみです。
 
 この限定本は、主に二つの目的を持っています。
 ひとつは、私の作品を本という形で所有することに価値を見いだしていただける読者のかたがたにお届けすることです。購入してくださったかたがたは、この作品のパトロンであり、共同出資者です。感謝いたします。
 もうひとつの目的は、出版に携わる方々に、一人でも多くこの作品を読んでいただくことです。インターネットやパソコンを嫌う文芸編集者は未だに多く、読んでいただくためには、やはり、印刷物の形にしなければなりません。その意味では、この本は、商業出版に向けてのPR用プレリリース、製品見本です。
 メディア関係者の方々には謹呈させていただきましたが、みなさまにとって、謹呈本ほど迷惑なものはないということも承知しています。申しわけありません。わがままついでにお願いできれば、どうか、読んでも読まなくても、ゴミ箱行きではなく、「次のかた」に手渡していただけたら幸いです。よろしくお願いいたします。
 
 本が売れる、売れないというのは、どうも、中身とはあまり関係がないようです。ただ、過去の実績などから、ある程度確実に売れるであろう本というのはありえます。出版不況の今、そうした本ばかりが出版されていくのは、出版文化にとって望ましいことではないでしょう。
 作家は、もちろん作品の質を向上させるために全力を尽くしますが、現代では、作品を書くだけではなく、いかに形として残していくかという努力も要求されているようです。
 この「あとがき」が、本当の意味での「あとがき」にならないことを願いながら、ささやかな数ですが、私の十六冊目の本を送り出したいと思います。

           二〇〇一年二月一六日   たくき よしみつ



こぼれ話
 この本は、QXエディタとAdobe Acrobat4.0 で作られています。
 DTPソフトはおろか、ワープロソフトさえ使わずに本を作れるという証明にもなりました。


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