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のぼみ~日記2017たくき よしみつの日記2017


2017/09/22

『あそこまで』


生まれて初めてギターを手にしたのは中学2年のときだったと思う。デパートの楽器売り場で、売り場の人(手が震えているおじさんだったが、ギターはちゃんと弾けた)から「初心者は弦高が低くてナイロン弦のほうが……」とアドバイスされ、3500円のガットギターを買った。
あの頃の安物のギターはほんとにひどいのがいっぱいあって、中には弦の間隔が不揃いなんてのもあった。そういうのに比べたら、まあ、使えるギターだったのだと思う。

で、中2の秋の文化祭でオフコースを見て、翌日、クラスでオフコースのコピーバンドを作ろうと言ったら、それまでほとんど会話も交わしたことがなかった野口くんがまっ先に手をあげて「やる! やる!」ってことになり、あと、石井くんと熊坂くんだったかな、最初は。後から河原くんも加わり、最後の頃は石原くんも入って……。

グループ名は「巨蕭(きょしょう)」という。メンバーが最初の頃、ふざけてお互いのことを「さすが巨匠~!」とか言い合っていたのがきっかけ。巨匠ではあんまりだというので、僕が「しょう、は、雨が蕭々と降るの蕭にしよう。大いなるワビサビというか……」とか提案して、押し切った。ひどい名前だね。
最初はオフコースのコピーバンド(当時のオフコースはPeter, Paul & Mary のコピーなどをしていたから、Peter, Paul & Mary の孫コピーバンドみたいな?)だったのだが、僕はすぐにオリジナルをやらなくちゃ意味がないと主張して、初めて作ったのがこの曲。『あそこまで』。

ギターをやり始めたとき、多くの人はFのコードが押さえられなくて挫折する。で、努力をしない僕は、なんとか簡単に押さえられるコードで弾けないかと、Cスケール(基本3和音がC、F7、G)を避けて、Dスケール(D、G7、A)とか、Em Am7 Cmaj7とかで弾ける曲をデタラメに作っていた。

この『あそこまで』は、出だしがPPMの『ア・ソーリン』のアルペジオをゆっくり弾いただけ。で、いきなりAmaj7に行くというハチャメチャな進行。コード理論とか何も知らないド素人だからできた迷曲。

当時、音楽的には学年で一番マセていた布村くん(ドラムとピアノがうまかった)が、「あのAmaj7になるところはギョッとした」というようなことを言っていたのを覚えている。ありえないでしょ、っていう意味だけど、少しは誉めていたのかな?

そんな曲だから、ずっと忘れていたし、掘り返す価値もないと思っていた。

ところが、僕が今になって過去の曲をいくつか録音し直しているのをネットで見ていて、てっちゃんがフェイスブックで「紫はやらないの? 俺はあの曲がきっかけでヨシミツと組もうと思った、ものすごいインパクトのあった曲だった」みたいなことを書いてきて、え? あれが~? うっそ~……となり、ちょっとそのへんから、頭の片隅に引っかかってはいたのだった。

で、今、あれを録音するとしてもなあ~。あの頃のスタイル(何も知らない状態でギター弾いて、身近にあった風鈴をアクセントで鳴らしたり……)でやったらアホみたいだし……というか、できないし……と、うだうだ考えている中で、ある日ふと、大好きなジム・ホールの『アランフェス』と合体させられないかと思いついた。
あのテイクは、大人になってからいちばん好きと言える名録音。20分近い演奏だけど、何度も何度も聴いているうちに、最初のテーマ部分は飛ばして、各自のソロが始まるところから聴きたくなる。つまり、僕は『アランフェス』という曲が好きなのではなく、ジム・ホールの『アランフェス協奏曲』のアルバムに入っている『アランフェス』のアドリブソロ部分が好きなのだ。
いちばん好きなのはポール・デスモンドのソロ。彼が渋いソロをやったので、後に続くチェット・ベイカーやローランド・ハナも、テクニックに走らず、歌心をどれだけ込められるかという勝負をしてきている。
それを聴きながら、最後までしっかりじっくり、渋いリズムを刻むロン・カーターとスティーブ・ガッド。
一流ミュージシャンが揃えばいいセッションができるわけじゃない。あのテイクは、本当に奇跡のようなテイクだ。

何も知らなかった中学生が初めてギターを手にして作った曲と、大人になって、これがいちばん好きだと思える演奏と出会い、何度も何度も聴いたその演奏のエッセンスを合体させるとどんなものができるのか……。
アイデアとしては悪くないかもしれないが、これを1人で全部やるのはとてつもない時間とエネルギーがいる。それを想像すると、なかなか手がつけられずに数か月経った。

で、親父の介護問題や、それにまつわる本の執筆もあったりして、どんどん音楽から離れてしまっていた。
親父はいい施設に落ち着いてくれたし、本の入稿も終わった今、大変そうだけど、やってみるか~、となった。
そういう気分になったとき、ちょうど一五一会が家に来たりもして、出だしに入れられないかなと思いついて、やってみたら、だんだん身体が慣れてきて……。
一五一会も使った↑


作業はやはり大変だった。
実験的な録音だから、思いついたことはなるべくやってみようということで、EWIは内蔵音源と外部音源をミックスしてみたりもしたのだが、これが逆効果で、音に深みが出るどころか、どんどんシンセサイザー臭くなって安っぽい音になる。それで、一旦入れたソロ2本分を全削除してやり直し。
結局、デジタル・ワビサビVol.1で使ったEWI USBの付属音源からのチューバとヴァイオリンに戻った。
一五一会はオリジナルチューニング(G-D-G-D)でジャラ~ンと雰囲気だけ入れている。最初と最後に左から聞こえてくるやつがそう。3度の音がない1度と5度だけのチューニングで弦が4本だけだから、マイナーコードに混ぜてもメジャーコードに混ぜても一瞬「ん?」と感じるような、奇妙な雰囲気が醸し出される。
ギターは松子で、今回はラインを使わず、マイク録りのみでやってみたら、むしろ乾いてパキッとした感じの音になった。ナイロン弦に聞こえないかもしれない。

……とまあ、細かいところでいろいろ苦労していて、まだまだ改善の余地はあるのだけれど、2週間かけてここまでやって、もういいだろ、と、とりあえずバージョン1ということでOKにした。

それにしても、セッション形式をシミュレートして全部1人でやるっていうのは寂しい限りだねえ。
ギターソロは入ってない。とても自信がないので。吉原センセがその気にならないかな……。
ドラムとピアノもあっちゃんにやってもらえば、もっとかっこよくなるんだろうけどね。今は金がない。





↑天下の名盤! CTIレーベル最大のヒット作になったという



↑隠れた名盤? 50年後、100年後に誰かが発掘してくれるだろうか













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