まず、この工場のセットのことを
⇒ここで紹介していた。
セットのベルトコンベアは大道具が作ったものだが、そのほかの主だった機器は、60年代当時に使われていた本物。秋田県にある、つい最近までトランジスタラジオを実際に製造していた工場から、倉庫に眠っていたものを借りた。パーツ部品も電気街などで売っている本物。セットの中にある部品、機械を使って実際にラジオが作れてしまうという。
そこまで徹底してこだわるのも連続テレビ小説ならでは。というより“使命”、いや“宿命”と言えそうだ。セットを案内してくれた美術スタッフの犬飼伸治さんは「1964年当時、高校3年生だったヒロイン・みね子は、いま70歳。同年代の視聴者もたくさんいらっしゃる。懐かしく感じていただければ」と、思いを語っている。
実際にトランジスタラジオ工場で働いていた視聴者が観ても、当時の思い出が汚されないように。当時を知る人がその景色を見るだけで懐かしがれるように。当時を知らない人が見ても、時代の空気感が伝わって心地良いように。幅広い世代が観ている番組だけに、セット作りにも細心の配慮が必要だ。
(【ひよっこ】セットのトランジスタラジオ工場に潜入 オリコンニュース)
……そうだよねえ。NHKの朝ドラといえば「国民的ドラマ」なのだから、そのくらいの熱意は当然持って作られているはずだが、前作『べっぴんさん』があまりにもひどかったので、今作のていねいさが際立つのだろう。
あたりまえの制作姿勢を完全に破壊し、無視し、サボり続けた前作……しつこいけれど、あれだけドラマ制作という仕事を馬鹿にした「事件」は二度と起こしてほしくない。
で、話を戻すと、この記事の「秋田県にある、つい最近までトランジスタラジオを実際に製造していた工場」というのは、どうやら
「秋田東光株式会社」というところらしい。この会社は今ではもうなくなっているようなのだが、1969年(昭和44年)12月1日発行の県広報誌「あきた(通巻91号)」にこんな紹介記事が出ている。
東京株式第二部上場で、最近めきめき業績をあげている電子部品メーカー、東光株式会社(本社東京都太田区・社長田中大平衡)の直系会社が、県都秋田市に進出している。秋田東光株式会社(社長同)で、県の誘致企業の中でも最大クラスのひとつである。
この会社は、秋田湾地区新産都市の中核として急速に開発が進む臨海工業用地に、四十三年七月、東光の五番目の直系会社として設立されたが、親会社は資本金六億七干五百万円で、年商約六十億円。海外では、香港東光、合湾東光、ニュヨーク東光(エンパイヤステートビル内)国内では東北東光(常城県岩出川町)、サンエス電機(東京都)などに系列会社をもつ一流メーカー。
すぐれた独創的製品はPCLのマークとともに、世界各国での信頼度は高い。特にトランジスターラジオ、テレビ用コイル(IFT)は世界第一の品質と生産量を誇り、電子計算機のメモリ・ブレーンも扱っている。
ソニー、日立、東芝、ナショナル、三菱、早川、三洋など、国内の一流庵機大手に納入しているほか、欧米各国にも輸出されるが、東光のパーツは見えないところで、もっとも重要な部品として活躍しているわけだ。
無限の可能性を秘めたエレクトロニクスの世界にあって、東光はつねに開拓者の道を歩んできた。日本のエレクトロニクスを世界に紹介したトランジスターラジオ、その栄誉の陰で、東光のコイルは黙々と重要な役割りを演じつづける。
(「あきた」91号 1969年発行)
この親会社の東光は今でも存在しているし、おそらく秋田県大館市の
東光コンピュータサービス株式会社というのは秋田東光株式会社の流れを汲むのではないかと思う。
ドラマのセットや工場でのシーンについては、
⇒ここにものすごくオタッキーで面白いコラムを見つけた。
あそこに登場する
タイムレコーダーはアマノ製だとか、
お昼はビン入り牛乳とコッペパン2つ
乙女寮の食堂にはテレビが備え付けられているが
朝ごはんも昼もつけられてはいなかった。
……なんて、ものすごく細かいところまで見ている。
で、ドラマの中の向島電機というのは、大手電機メーカー「アポロン電機」の下請け工場で、アポロン電機はアイルランドに支社を持つという設定なので、
モデルはソニーではないかという話も。
さらには、作っているAR-64というラジオが何度か画面にも出てくるのだが、それはソニーが海外向けに作っていたICF-J40というモデルに手を入れたものだということも分かった。
下の写真はeBayに出品されていたものを借りてきた。これ、95ドルで落札済み。1万円以上で買う人がいるんだなあ。
箱付きで299ドルというのも出ている。
ICF-J40は80年代のモデルなのでドラマの時代よりだいぶ新しいのだが、視聴者の中にはそもそもトランジスタラジオという言葉さえ聞いたことがないという世代もいるので、ここまで頑張って当時の雰囲気を伝えようとしているドラマ制作陣、裏方の大道具さん、小道具さんたちの努力に敬意を表したい。
それにしても、ここまで追っかけたくなるドラマは久々だ。嬉しい限り。このまま最後まで視聴者を惹きつけ続けてほしい。