先日、EWI4000Sの後継機SWというやつが、単に側面パネルの色を銀から白に変えただけのしょーもない内容だった。
そもそもAkaiという会社はずいぶん前に倒産していて、今はブランド名だけが残っている。
もともとの赤井電機は2000年に経営破綻。黒字だった(という)楽器部門だけ分離したAKAI professional M.I.も2005年に破綻。
現在は
アメリカのinMusicという会社 が扱うブランドの1つになっていて、日本ではinMusic社の日本支社である
株式会社ニュマークジャパンコーポレーション が担当している。
そんなわけで、現代のIT技術を投入した新製品の登場はほとんど諦めていたのだが、しっかり中身を変更したEWI5000というほんまもんの新製品が発売されると知った。
発表は春にしていた らしいので、気づくのにずいぶん時間がかかった。発売時期は今月末。
知った直後、
アマゾンでポチ した。
外観やタッチセンサーの位置はほとんど同じ。これはEWI4000Sがすでにプロミュージシャンの楽器として定着したことを意味している。
大きく変わったのは中身。
音源がモノラルのアナログモデリングデジタル音源(要するにデジタル音源なのだが、アナログシンセサイザーを模している)からサンプリング音源(PCM)に。EWI-USBのような感じだろうが、音源を制作した会社はGullitanではなく、SONiVOXという会社。この音源の品質や使い勝手がどうなのか、実物が届かないとなんとも判断しがたい。
VIDEO
↑今のところこんな動画しか見あたらない。
こういうオルガン系の音源とか、僕はまったくいらないのだよな。デジタル・ワビサビの追求のためには、極端な話、ベース~ヴァイオリンのサンプリングが並んでいるバーチャル擦弦楽器音源だけでもいい。
あとはEWI-USBについてくるAriaの例で言えば、使いたくなる音はチューバくらいしかなかった。他は全部本物の楽器をチープに真似ただけみたいな音で、EWIで吹く意味を感じられなかった。
サックス系の音も、僕はほとんど使わない。本物のほうがいいから。
EWIでなければ表現できない音とは……。
↑これ
『My Endless Dream』 (Jin Soda)
この演奏↑(多くのブラウザでは自動再生されているはず)はAriaのViolin(TH)だけで吹いている。この音源は本当によくできている。
しかし、EWI5000の音色表を見ると、擦弦楽器系が入っていない。
ショックだ。
50番以降あたりはしょーもなさそうな音源がいっぱいある。EWIでこんな音色吹いたところでなんの意味もないじゃないか。
管楽器の音源だって、アンサンブル系なんていらないんだよ。そういうのは普通にキーボードから打ち込むんだからさ。
そんなの入れるより、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ。あるいは尺八とかでしょ。分かってないなあ。
また、いわゆるT-Squareファン的なEWIユーザーにとっては、EWIの音はギラギラした粘りのある派手なアナログシンセサイザーっぽい音だろうから、妙にすっきりした管楽器音源をPCMサンプリングで収録するより、EWI4000Sに内蔵されていたアナログシンセサイザーを模した音をもっと派手にしてくれたような楽器を望んでいたかもしれない。そのタイプのユーザーにとっては、EWI5000は「おとなしくなった優等生」のように見られるのではなかろうか。
上の動画でデモ演奏している黒人プレイヤーが、管楽器音源ではなく、オルガン音源を選んでいることからも、そんな風に予想できる。
彼はその後、周囲の聴衆から「サックス音源使って」とリクエストされて切り替えるのだが(長い収録バージョンで見られる)、その音はなんだか迫力がない。予想通り、いわゆるシンセサイザーの内蔵音源っぽい薄っぺらさとサラッと感で、EWIの得意としているうねりや強弱による表現力がうまく出せていないようだ。
結局、僕の場合、レコーディングでは今まで通り、Ariaのヴァイオリン音源をもっぱら使うことになるのだと思う。音色一覧を見た段階でそれはもう覚悟した。その使い方であれば、EWIはただのMIDI入力機にすぎないから、4000Sでも5000でも変わらなくなってしまう。USB-MIDIになって、ケーブルが少し細くなるくらいかな。
ただ、ライブでは、編集したいくつかの音色で、今までのEWI4000Sより表現力のある演奏ができるかもしれない。
次に特筆すべきはワイヤレス機能が最初から内蔵されたこと。今まではワイヤレス化するためにわざわざ3万円くらいするエレキギター用のワイヤレスキットを買ってくっつける必要があったが、今度はそれがいらない。
タイムレイテンシー(発音の遅れ)や音質劣化がどの程度なのかが気になるところだが、大して変わらないだろう……と期待している。
あとは軽量化、MIDI端子がUSB兼用になったことによる結線の単純化、電池が単三乾電池から専用リチウムイオンになったことなどなど。
充電は2時間で完了するらしいのだが、USBでいちいちつなぐのであればちょっと面倒かもしれない。デジカメ用の電池で符合するものがあるといいのだが。
そんなわけで、現在、EWI5000の到着を心待ちにしているところ。
EWIを使った新アルバムはほぼ完成している。
7曲入りでタイトルは『Digital Wabi-Sabi ─As Easy As EWI─』 という。
EWI5000の到着を待って、一部差し替えたりするかもしれない。
今回は紙ジャケットのCDを作るつもり。ほとんど「配る」だけ。
今日のオマケ
Akaiブランドを持っているアメリカのinMusic社の社長 Jack O’Donnell という人物は、
1992年に Numark Electronics
2001年に Alesis
2004年に ION Audio
2005年に Akai Professional
2007年に MixMeister
2010年に Alto Professional
2012年に Sonivox、AIR Music Technology、M-Audio
……と、次々に音楽関連メーカーを買収していった。
inMusic社の社歴の中で、Akaiはこう紹介されている。
one of the world’s most influential manufacturers of music production gear and creator of the legendary MPC. Harnessing the power of advancing technology, Akai Professional’s production tools remain staples of modern music both in the studio and on stage.
あの伝説のMPCシリーズをはじめ、世界で最も影響力のある音楽制作ツールの製造元であるAkaiは、さらなる先進技術を得て、スタジオでもステージでも、現代音楽の接着剤的存在として生き残っている。
まさにそうなのだが、この価値を継承してくれているのが日本ではなくアメリカ人とアメリカのベンチャー企業であるというところがなんとも切ない。
上のAkaiに対する評価にしても、EWIではなく時代遅れのMPCを例に出しているあたり、最初に買収したのがDJツール、ヒップホップなどの自動製造機みたいなデジタルツールを作っていたNumark Electronics社であったことを思い浮かべさせる。
EWIのような、使い方次第ではワビサビを表現できる楽器の価値を分かっている人材がいないらしい、というのが悲劇だ。
こういう分野にこそ日本の企業は力を入れ、世界的なブランドとして発展していけそうなものだが、そうはならないところが情けない。
日本では「楽しいことをやりたい」というのが企業理念にない企業だけが生き延びるような政策がとられ、今まで築いてきた技術や文化の価値がどんどん下がってしまっている。
辛うじて生き残っているのは、個人レベルのクラフトマンやフリーランスの表現者くらいだろうか。
EWI5000は、僕にとっては最後のEWIになるかもしれない。今後、デジタル・ワビサビを実現できる楽器としてのEWIが出てくることは望み薄だと思う。でも、とにかく使いやすい形で新製品を出してくれたことに感謝したい。
あとはどう使うか。目的意識、自分なりの美学、美意識を持っている人間が、信念を持って使いこなすだけだ。