2013/02/16

鮫川村の焼却施設問題

上の写真は2011年8月3日のもの。福島県の塙町というところ。
遊歩道の看板が見えるが、ここは地元の人たちが協力して保全に努めている場所。奥に廃校跡地があるが、そこも若い人たちが中心となって、つぶすのではなく、地域文化を伝える拠点として生かそうという運動が始まっていた。

この日、僕は川内村に住む友人に誘われ、塙町に移転先候補地を探すために出かけていった。川内村に暮らしている3家族が車3台で。
ちなみに、この時点で川内村は「緊急時避難準備区域」に指定され、村は全村避難指示を出したままだったが、僕たち3家族(3夫婦)は、4月末くらいまでには避難先から戻ってきて、村の中の自宅での生活を再開していた。うちの他の2夫婦は避難先として借り上げた住宅などと今までの自宅を行ったり来たりしていたが、僕ら夫婦はほぼべたっと村にはりついて、今まで通りの暮らしをしていた。

川内村は汚染は周囲に比べれば薄くて済んだというものの、場所によってはかなり汚染されている。今までのように自由に山野に入り、キノコや野草を採って食べたり、無邪気に土、水と戯れる快適な環境ではなくなってしまった。
そしてなによりも、ここにいる限りは、当分の間、人々の関心事はもっぱら賠償関連の問題で、「下手に動くな」「足並みを揃えて賠償交渉を有利に」といった空気に包まれる。今後しばらくは、いやでも外から入ってくる莫大な金と除染ビジネス、迷惑施設誘致などの騒動に巻き込まれていく。そんな状況では生き甲斐のある仕事を続けられないのではないか……というのが、友人たちの一致した意識だった。

でも、当初、僕は「福島」から出ていくことを躊躇っていた。
移転するとしても「福島」、もっとはっきり言えば阿武隈エリアからなるべく離れたくないという思いがあった。しかし、阿武隈山系のかなりの部分が汚染されてしまっているから、福島の中で移転するとなれば、南のエリア(矢祭町、塙町、石川町、鮫川村、古殿町……などなど)か会津エリアになってくる。

友人たちとは塙町、矢祭町などを見て回った。塙町では町議会議員さんが案内してくださった。矢祭町では町の職員さんが案内してくださった。
しかし、残念ながら「これは!」というものはなかった。あっても高くて手が出ない。
川内村の生活を死ぬまで続けるつもりだった僕たちは、川内村に土地と家を手に入れ、手入れし続けるためにすでに相当なお金(自分たちのささやかな経済力の範囲内での)を注ぎ込んできたわけで、蓄えはほとんどない。だから、移転先を探すと言っても、安く借りるか、買うとしても数百万円が限界で、それ以上はどう頑張っても無理。
塙町はかなり上位候補地で、友人夫婦の一組(誘ってくれた人)はその後候補物件を絞り、何度も足を運んだ末に移転を決める寸前までいっていた。

塙町の那倉という地区だ。
そのすぐ北側、鮫川村の青生野という地区に、国(環境省)が「放射性物質を含む農林業系副産物の焼却実証実験施設」なるものを建設した。
もちろん、移転先候補としてその土地を訪ねていた2011年8月の時点ではそんな話は持ち上がっていなかった。
案内してくださった議員さんに「このへんに風車や産廃を誘致しようとか、そういう計画はないでしょうね?」と念を押したものだ。
川内村で、桧山高原、滝根小白井、黒佛木などのウィンドファーム問題を経験してきた直後で、「自然環境がよく残っている場所ほど迷惑施設に狙われるよね」という認識はしっかりあったので、美しい景色に触れるたびに「ここに迷惑施設を持ってこられる可能性はどのくらいあるだろうか」と考える癖がついていた。

友人夫妻が決めようとしていた場所は結局うまく話がまとまらず、彼らはその後、山形や長野まで足を伸ばして探し回った末に、昨年、ようやく佐渡に新天地を見つけることができた。
僕たちは、老齢の親2人(それぞれに1人ずつ)のいる神奈川県から今まで以上に遠く離れての山暮らしはもう難しいだろうと考えるようになり、首都圏の周囲に物件を探し回った末、これも山梨県、長野県、秩父……など、あちこち回った末に、一旦は矢板市の中古物件に決めかけていた。
そこが契約寸前に売り主さんから「契約を延期してくれ」と言われて流れ、さらにいくつもの偶然が重なって今の日光市の家に住むことになった。

友人夫妻らと一緒に回った塙町周辺は、今、鮫川村の焼却施設建設で揺れている。施設は僕たちが移り住んでいたかもしれない地域のちょうど風上、上流側すぐの場所にある。
迷惑施設建設の常道として、必ず自治体境界線ぎりぎりに建てる。だから、今回の場合も、影響を受けるかもしれない人たちの多くは鮫川村よりも、隣接する塙町やいわき市の住民だ。

契約寸前までいった中古住宅があった栃木県矢板市は、放射性廃棄物最終処分場建設候補地として狙われ、目下、反対運動の渦中にある。

本当に、日本中、どこまで「避難」しても逃げ切れないのだなあと思う。放射能から逃れられたとしても、国の横暴さ、無神経さからは逃げ切れない。逃げても逃げてもストレスの源が追いかけてくる。

広がる里山風景。水が本当にきれいで、こういう場所ならば移り住んでもいいかもしれないとみんなで話していた



塙町の農家。住んでいた老夫婦は「毎晩俺たちの話相手になって面倒みてくれるなら、この家も土地も俺たちが死んだ後にあんたらにただでやるよ」とおっしゃっていた


その農家の裏手に広がる畑と雑木林。住んでいるのは老夫婦。本当にすばらしい場所だった

このへんが「放射性物質を含む農林業系副産物の焼却実証実験施設」のちょうど下流側、風下側にあたる。もしこのへんに移り住んでいたら、今頃また反対運動の渦中にいたことだろう。本当に、もうつくづく疲れたよ。

川内村でウィンドファーム建設反対のための活動を2年間やってヘトヘトになっていたところに原発人災。
追われた先で今度は焼却炉建設……になんかなっていたりしたら、身も心ももたない。
今でも平田村の人たち(巨大風車建設に抗している)の相談を受けたりしているけれど、巨大権力相手の闘いは人生の大半を捧げる消耗戦になっていくから、本当に辛い。
「身を守る」という意味合いであれば、戦うだけ戦ってどうにもならなかったら、それ以上の消耗を避けるために自分で生活環境を移すくらいしかできない。それも金とエネルギーを伴うので大変なことなのだけれど。

さて、この「放射性物質を含む農林業系副産物の焼却実証実験施設」とはなんなのか?
なぜ環境省がこういうものをあちこちに造ろうとしているのか?
分かっていることを少しまとめてみる。

もともと、原子力発電所をはじめとする原子力関連施設以外の場所から放射性物質を相当レベル含んだ廃棄物が出る可能性というものを日本国政府も官僚も考えていなかった。

原子力安全委員会は2009年に放射性廃棄物の放射能のクリアランスレベルを1Bq/g(1000Bq/kg)と決定した。これ以下なら一般の廃棄物として処理していいだろうという数値だ。

しかし、「フクシマ」により事情が一変した。
広域にわたって一般のゴミに相当な放射性物質が付着してしまい、そんなことを言っていたらゴミ処理ができなくなった。
そこで、この数値を8,000Bq/kgに引き上げた。8000Bq/kg以下なら従来通り処分してもかまわない。しかし、8000Bq/kgを超えるものは国が責任を持って処理する、という指針を打ち立てた。管轄は環境省。

それでも8000Bq/kg超のゴミが溜まりに溜まってしまい、各自治体のゴミ処理施設はお手上げ状態になった。
8000Bq以上のゴミは「国が責任を持って処理する」と言ってしまった手前、各市町村で焼却、最終処分処理をすることは認められないことになる。環境省主導で国が行わなければならないが、その施設も施設建設用地もない。
どこかに焼却施設を作らなければ⇒大規模なものは目立つからすぐに反対運動が起きる⇒過疎地に金をつけて押しつけるしかない⇒最初は「実証試験施設」という名目で小規模なものを造ろう⇒それを出発点として、後はなし崩し的に施設を広域に広げていこう……こういうことを考えたようだ。
そのスタート地点として目をつけたのが鮫川村だった、というわけだ。

福島県南部はひどい放射能汚染から奇跡的に免れ、汚染レベルは千葉県、茨城県、群馬県、栃木県のホットスポット密集エリアよりはるかに低い。そのエリアのひとつ、鮫川水系四時川の源流部(いわき市の水道水源の上流域)にあたる福島県鮫川村青生野地区が「放射性物質を含む農林業系副産物の焼却実証実験施設」の建設地として目をつけられ、建設されてしまった。

実施主体である環境省の当初の説明では、8000Bq/kg超の農林業系副産物(稲わら、牛ふん堆肥、牧草、きのこ原木、果樹剪定枝など)を焼却対象物として、小型焼却炉を設置して焼却による減容化の実証試験を行う、ということになっていた。
2013年1月中に実証実験を始め、2014年9月まで、計600トンの焼却を予定。
焼却灰の管理は焼却炉の設置場所または隣接地に「管理型最終処分場での処分」を想定し、保管する方針。

(以上、施設の概要についてはいわき市議会議員 佐藤かずよし氏のブログなどの内容をまとめた)

これに対して、東電の元社員で、福島原発での勤務歴も長い吉川彰浩氏は、いわき市でようやく開かれた説明会に参加し、問題点を指摘した上で、フェイスブックにてこのように言っている。

//本施設は、標高700mの放牧地の分水嶺の西側に建設中で、東側は四時川の源流域です。小型焼却炉ということで環境影響調査もなく、近隣自治体及び住民への説明もなく、工事は着工されましたが、「福島県生活環境保全条例13条1項」では「工事着工の60日前」に「ばい煙指定施設設置届出書」の提出が必要でした。環境省が福島県に届出書を提出したのは10月30日で、11月15日に着工したため、12日4日、福島県が環境省に工事の一時中断を要請しました。//

//環境省も、いわき市の住民にはなぜ1時間当たり199k未満のゴミ処理能力かの説明を行いませんでした。
1時間あたり200k未満の処理能力の焼却炉は廃棄物処理法、環境アセスメント等が除外され誰の許可もいらず建設できるんです。
つまり住民説明を法的にしなくてよいようにするために行ったのは明白なんです//

//普通放射能廃棄物を燃やす場合、放射能測定器の設置と常時監視が義務付けられているんですけど、特措法のせいで8000Bq未満は一般焼却物扱いなのをいいことに関係ないという始末。それどころか原子力発電所の焼却炉に必ずあるこの設備を、発電所のゴミは高レベルだからついているんでしょとまで環境省がいう始末。//

//震災瓦礫の問題は解決しなければなりません。
焼却炉そのものに私は反対しているのではないのです。
原発事故により放射能を含むことは周知の事実なのですから、それに見合った焼却炉を適切な場所に造ればいいだけなんです。
なんでノウハウのある原子力発電所の焼却炉レベルのものを作らないのでしょう。
同じ福島なら福島第二原子力発電所構内に大規模焼却炉を作ってあげれば済む問題です。
もともと焼却灰の管理についてもノウハウがあるのですから。
それをわざわざ放射能廃棄物を燃やすのに不適切な一般焼却炉を一般の方が住む場所に造る必要性が私には理解できません。
それゆえに反対しています。//

……吉川氏は実際に福島第二原発で放射性廃棄物の焼却炉を管理していた経験を持つ、言わばこの問題に関してはプロ中のプロ。
そういう人が説明会に参加して、住民に解説を始めたのだから、環境省も村もさぞ困ったことだろう。

吉川氏がまとめた鮫川村焼却施設の問題点が⇒ここにあるので、ぜひご覧いただきたい(吉川氏ご本人からの依頼でWEBに公開)。

指摘されている問題点を整理すると、環境省の目論見というか作戦が透けて見えてくる。

1)8000Bq/kg以上のゴミでも、他のゴミと混ぜてしまえば8000Bq/kg以下にできる。そのような「前処理」をして燃やせば、いろいろな規制から逃れられる。

2)焼却施設はチープなものでよい。200kg/時以上の焼却能力を持つ大型焼却炉の場合、様々な規制や義務が生じるので、ぎりぎり200kg未満にしたほうがやりやすい。

3)「実証実験施設」という名目で建設するが、実際には出てきた焼却灰はその土地に永久保存として、最終処分場に移行させる。そういうものをあちこちに分散して造っていけば、面倒な放射性ゴミの処分ができる。

迷惑施設を歓迎する住民はいない。だから、迷惑施設の建設は、補助金やらなんとか交付金やらをつけて貧乏な自治体に持っていく。
なるべく反対運動が起こらないよう、その自治体の境界線ぎりぎり、端っこの、人口密度の低い土地を狙う。自治体境界線を挟んで隣の自治体側にいくら住民が多く住んでいても、建設する場所は隣りの自治体なので、情報が伝わるのが遅れるし、反対運動もやりづらくなるからだ。場所としては、国有地や荒れ果てた放牧地などが狙い目だ。
しかし、そういう場所というのは概して自然がまだあまり破壊されずに残っている土地であり、水源地や保安林を有していたりする。
ここは水源地だから保水能力を保つために森を残し、水が汚染されないようになるべく人工物を造らずにおきましょう、と決めた場所。
こういう「人々の生活を見えないところで守っている自然」を乱開発や汚染から守っていくことこそが環境省の仕事ではないのか?

3.11直後、環境省は「放射能はうちの管轄ではない。文科省か経産省に訊いてくれ」と言って知らん顔していた。
あれから2年経とうとしている今、環境省の役割は国交省や経産省の先兵隊のように見える。
国交省や経産省が続けてきた「貧乏な土地に金をばらまいて迷惑施設を作る」「不必要な公共事業をやらせて地方自治体を補助金漬け体質にさせる」というやり口の先兵になり、国家権力と税金から出る潤沢な資金を持った最強の地上げ屋みたいになっている。
怒りを通り越して、ひたすら悲しい。

吉川氏の言葉をもう一度掲載する。

//震災瓦礫の問題は解決しなければなりません。
焼却炉そのものに私は反対しているのではないのです。
原発事故により放射能を含むことは周知の事実なのですから、それに見合った焼却炉を適切な場所に造ればいいだけなんです。
なんでノウハウのある原子力発電所の焼却炉レベルのものを作らないのでしょう。
同じ福島なら、福島第二原子力発電所構内に大規模焼却炉を作ってあげれば済む問題です。
もともと焼却灰の管理についてもノウハウがあるのですから。
それをわざわざ放射能廃棄物を燃やすのに不適切な一般焼却炉を一般の方が住む場所に造る必要性が私には理解できません
それゆえに反対しています。//


……現場で長年経験を積んできたプロの言葉だ。環境省はこの問いに真摯な態度で答えてほしい。


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