たくき よしみつ シドニー五輪テレビ番組批評

「ちゃんと見てるよ」(「TVライフ」連載)では書ききれない、シドニー五輪テレビ中継批評をリアルタイムで掲載。
 まずは、NHKが「五輪テーマソング」と称する、あまりにもお粗末な曲にもの申す。

 

NHKテーマ曲のあまりに恥ずかしいタイトル

 各局が「シドニー五輪番組テーマソング」というのを流している。民放の馬鹿さに今さら何を言ってもしょうがないだろうが、NHKまでもこうした下品な行動に出ることはないではないか。
 しかも、関連番組から中継にいたるまで、あらゆる番組の冒頭で流しているのだからたまらない。もちろん、それなりに感動的な音楽ならいいんだけれど、怖ろしく手抜きでお粗末な音楽を強制的に流すのは、人間として極限の努力を続けている選手たちにも、それをしっかり見届けようとする視聴者にも失礼だ。

 NHKの五輪テーマソングは、ZARDとかいうグループ(この手のことはまったく知らない。多分グループだと思うのだが……違うのかな?)の「Get U're Dream」という曲なのだそうだが、まずこのタイトルがあまりにもひどい。
 多分、作った人間は、Get Your Dream をかっこよく表記したつもりなのだろう(こう思いこむということ自体があまりにも子供じみていて、無知を露呈している)。だが、you をどうしても U と表記し、かつ your という意味にしたいなら、 U'r あたりだろう……(そういう記述例があるかどうかは知らないが)。U're では you're となり、you are の短縮形ということになる。you are dream は、「君は夢」ってことになるから(そうだとしても dream には何かつけるだろう。冠詞とか所有格とか)、それに Get をつけても、まったく意味不明。英語にもなにもなってない。
 しかも、正しく Get your dream. としても、意味が通じない。恐らく、作者は「夢を掴め」という意味にしたかったのだろうが、だとしたら、普通、こうは言わない。Make your dream come true. や Realize your dream. なら分かるけれど、「実現する」の意味で get は使わない。
 要するに、な~~んにも考えてないし、まともに検証もしてない。間違った英語が頭に浮かんで、それを散りばめているだけ。作詞という行為を愚弄している。
 これだけ滅茶苦茶な英語を歌詞に散りばめ、しかもだめ押しのように恥ずかしい誤記のタイトル。そんな代物をノーチェックで「テーマソング」として流し続けるNHK。いくらなんでもひどすぎる。世界の恥だ。
 局内関係者の一人はそれを指摘され「まずいなあ……でも、小室のでたらめ英語よりはいいか……」と言ったとか。いいわけないだろが。
 なぜそこまで子供の無知、未熟な芸に媚びる必要があるのか? ダメなものはダメなのだ。まったくレベルに達していないものを、平気で「テーマソング」などとしているNHKには、猛省を促したい。レコード会社やタレント事務所とのタイアップなんだからしょうがないのよ……という姿勢は、少なくとも聴取料を取っているNHKには許されないだろう。
(2000/09/15)

あわや人間丸焼けか……の開会式聖火台トラブル

 開会式、すごかったですねえ。
 全体の進行が1時間押してしまうというのもすごいけど(それなのにくだらない謝辞を長々と述べるんじゃない>サラマンチ)、最後の聖火点火でのトラブルは、全世界の人がはらはらしたに違いない。
 あの演出を考えた人はかなりすごい。火と水という、普通の発想ではまったく逆のものを組み合わせた大胆な仕掛け。見事。しかも、最終点火走者がアボリジニの血を引く現役代表選手のキャシー・フリーマン。オーストラリアに最初から住んでいた民族と、今後は自然との融合をめざして共存共栄していきたいというメッセージ。ただのお祭り騒ぎになりがちなオリンピック開会式に、きっちりと一本テーマを織り込んだところも評価できる。
 それだけに、あの聖火点火のフィナーレは、きっちりと見て、感動したかった。
 ところが、聖火台がスロープを登っていくところでトラブル発生。ガタンガタンと揺れたかと思うと、まったく動かなくなってしまった。あー、歯車が外れたのかな、電源が飛んだのかな……。世界中の人がはらはらと見守る中、点火した後のフリーマンもどうしていいか分からず、文字通りの立ち往生。
 スロープを登っていく聖火台を見送るはずなのに、いつまでも聖火は目の前にあるだけ。いつになったら動くのか? このままごまかして終わらせるのか? でも、フリーマンは退場のきっかけを失い、どうしていいか分からんじゃないか。上に届かないまま、燃料が切れて聖火が消えちゃったりしたら最悪だぞ……などなど、見守っていた人たちはいろいろ考えてしまったはずだ。
 思い出したくないけれど、思い出してしまうのはソウルオリンピックの開会式。聖火台の縁にとまって羽を休めていた鳩の群が、聖火台の点火と共に一瞬にして炎に巻き込まれた。飛び立って逃げおおせた鳩もいたが、焼け死んでしまった鳩もいた。平和のシンボルが聖火で丸焼けになるという最悪の事故。
 もし、聖火台の動きが、フリーマンが水の中から抜け出す前に止まってしまっていたら、フリーマンは炎の輪の中に閉じこめられた形になり、それこそ目も当てられなかっただろう。そうならなかっただけ幸運だったのかもしれない。
 しかしまあ、1時間平気でスケジュールがずれる進行といい、いちばんの見せ場でこけてしまう巨大装置といい、おおらかなオーストラリア人の気質をよく表しているとも言えるかな。
 日本なら、関係者の首がぴゅんぴゅん飛んでいるところだが、今回はどうだったのかしら。
 (2000/09/15)

「金メダル」から離れようよ、選手インタビュー

 もしかしたら金メダルはゼロ……なんて直前予想を出していた週刊誌もあったけれど(週刊現代だったっけ?)、早くもその予想は裏切られましたね。正直なところ、田村亮子選手の優勝は難しいんじゃないかと思っていた。野村選手にしても、2大会連続なんて、そんなにうまくいくわけないと。
 二人ともかなり危なかった。田村は試合終了1秒前の「有効」で辛くも判定勝ちというシーンがあったし、野村は初戦の賈運兵(中国)戦でいきなり投げられるし。
 野村選手、インタビューに終始嬉しそうな顔を見せず「勝てたのはたまたま」というようなことを言っていたけれど、本当にそうだと思う。それが実感なんじゃないだろうか。
 一本になるか技ありになるか。技ありになるか有効になるか。「指導」や「注意」を受けるか受けないか……すべては審判の瞬時の判断。実際、準々決勝だったか、田村に注意が与えられたとき、副審がすかさずクレームを付けて取り消しになるというきわどいシーンもあった。野村の決勝も、相手は明解に背中から落ちたわけではなく、一本になるかどうかは微妙だったように見えた。
 柔道という種目、素人にはやはり分かりにくい。
 
 で、競技の内容は専門家に評論を委ねるとして、気になるのは優勝を決めた後の選手インタビュー。「メダルを見せてください」っていうのは、もうよしましょうよ。あんまりにもワンパターン。もっと「生きた質問」ができないんだろうか。
 野村・田村のアベック優勝インタビューでは、TBS系のインタビューが面白かった。元シンクロ選手の小谷が「ヤワラちゃん、野村選手に視線を送っていたでしょ」「はい」なんていう生きたやりとりがあった。なのに、男性司会者が「金メダルはどこに置いておきますか?」なんていうつまらん質問で、せっかくの流れを遮ってしまった。
 インタビューにシナリオは無用。インタビュアーもプロなんだから、臨機応変に、自分の言葉で、相手が本音を吐けるようなうまい質問をしてほしいなあ。
 (2000/09/17)

尋問口調はやめましょう、水泳担当のインタビュアー

 多分、NHKのアナウンサーだと思うんだけれど、18日くらいまで水泳選手のインタビューを担当していた人、とっても感じが悪いですね。
 思うような泳ぎができなかった選手に「国体シドニー大会のようなつもりで(平常心で)泳ぎますと言っていましたが、そういう気持ちにはなれなかったですか?」とか、むち打つようなことを平気で言う。選手が気を取り直して「次の○○メートルで頑張れるよう、気持ちを切り替えます」などと答えると「もうあまり時間がありませんよ」と突っ込む。そらないだろ~。
 田中雅美選手なんか、明らかにムッとしていた。あれじゃあ、腹が立って、夜眠れなくなって、翌日のレースもまた駄目だわ。
 何様のつもりじゃ、われ~……と思っていたら、19日からインタビュアーが変わっていた。やっぱり、非難囂々だったのかしら。
 中継はNHK、インタビューは民放で分担するといいかもしれません。はい。
 それにしても、日本新を出しても準決勝に進めない男子選手とか、メダルを狙う……という触れ込みだったのが、決勝にも進めない選手が続出するのを見るにつけ、なんで千葉すずを出さないんだよと、悔しい思いが甦る。どのレースを見ても、千葉すずは今頃どこでこれを見ているんだろう……とか思ってしまう。オリンピック観戦を気持ちよくできなくさせたということだけでも、日本水連は責任重大だ。
 さて、今日は注目のサッカーブラジル戦ですね。中田を欠いているし(あのイエローカードは、柔道の審判以上に不可解)、2勝1敗で決勝へ進めず……という結末がちらちら見えているけれど、3戦目まで楽しませてくれるほどに日本チームも成長したということですね。喜ばしい。今日の試合ほど、中村俊輔が注目される試合はなかったでしょうね。ここは単純に、ニッポン、ちゃちゃちゃのノリではらはらどきどきしましょう。  (2000/09/20)


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