これを書いている10月20日現在も、
テレ東のサイトには、「シカゴマラソンで渋井が記録に挑戦」なんてバナーが出ている。レースが終わって1週間も経っているのにだ。
このシカゴマラソン、皮肉にも、記録を塗り替えたのは渋井陽子ではなく、男子の高岡寿成だった。日本最高の2時間6分16秒の3位(2位とは同タイム)。
ところが、あろうことか中継していたテレビ東京は、30キロ過ぎまで高岡のたの字も言わず、女子の渋井陽子ばかり映していた。30キロ過ぎで、高岡は世界最高を上回るペースで先頭に立っていたのに、画面は相変わらず渋井中心。日本人が世界最高をたたき出そうとしているそのときに、だ。
この時点で、高岡は完全と飛び出し、世界記録保持者のハヌーシらを数十メートル引き離していた。ペースはハヌーシが持つ世界最高記録を大きく上回っており、このまま逃げ切れば人類初の2時間4分台という局面だ。日本人でなくとも、陸上ファンでなくとも鳥肌が立つ瞬間。
それなにに、テレビ東京のカメラは高岡をまともに映し出さない。とっくに2位以下が確定している渋井陽子の画面を切り替えようとしなかった。
シカゴマラソンが始まる前、メディアは渋井のことばかり報じていて、男子の出場選手が誰かということは一言も言わなかった。おかげで、レースが始まるまで、高岡がエントリーしていることも分からないありさま。
まあ、このところの日本男子マラソン陣の不振ぶりを思えば、期待できそうもないというムードは仕方なかったかもしれないが、それにしてもあまりにも失礼な話だ。
失礼の極みは、中継終了直後の『激生!スポーツTODAY』だろう。番組冒頭で、キャスターの定岡正二は、ことの重大さも分からずもごもごするばかり。「渋井選手はどうなったんでしょうね」だと。まったく情けなかった。
テレ東といえば、他局がそっぽを向いていたときにも、ロッテルダム、ロンドン、ボストンなどの海外マラソンを完全中継する気骨を見せていた。それが今や、他局と同様、事前に無理矢理スター誕生の筋書きを用意したり、高岡のような有名選手のこともコメントできない素人集団で番組を進めたりしている。これではフジや日テレと同じではないか。雑草テレ東魂(勝手に命名)はどこへ行ったのか。
一方では『ジカダンパン!責任者でてこい!』みたいな、これからが楽しみな新番組も出てきた。この「テレビで世直し」路線は、『ちゃんと見てるよ』でも前から主張していたものだ。これが成功すれば、他局もいっせいに真似するだろう。
『テレビチャンピオン』で大食いスターたちを発掘し、『出張お宝なんでも鑑定団』で鑑定ブームを作り出したように、『ジカダンパン』は、「テレビで世直し」という新路線を切り開いていくような気がする。
テレ東は民放の星と信じている。初心を忘れず、
愚直にぶつかってほしい。
(2002.10.21)