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 たくき よしみつの 『ちゃんと見てるよ リターンズ』2017

 (週刊テレビライフ連載 過去のコラムデータベース)

 2017年執筆分


今年は豊作!?お笑い新人リスト

2017/01/06

 年末年始にはお笑い特番がズラッと並ぶが、断トツに面白かったのは『ぐるナイ!おもしろ荘 若手にチャンスを頂戴今年も誰か売れてSP』(日テレ系)。
 859組から10組を選んだらしいが、つまらなかったのが1組もない選抜の適確さに感心。
 カミナリはすでにM1決勝にも出て売れ始めているが、他にも注目したい逸材が大豊作。
①ペンギンズ……ヤクザの兄貴と舎弟キャラは珍しくないが、舎弟役のナオのアドリブ力がすごい。高い声が安田大サーカスのクロちゃんにかぶっているといじられていたが、クロちゃんより頭がいい分、番組的には使いづらいのかも?
②LOVE……コンビ名、それでよかったのかと思うが、キャラもの担当・奥村の実力はすでに安定。イケメンだけど超山奥の過疎村出身のたつろうも、生かし方次第で化ける要素ありか。
③ブルゾンちえみwithB……優勝して一気に有名になったが、ちえみは教員をめざして国立島根大学の教育学部に進学したという経歴の才女。顔はゆりやんレトリィバァ風、キャラ作りは平野ノラ風、リズムネタ
や対象キャラ要素を入れるためにイケメン後輩コンビを引き連れるなど、計算し尽くしている感がちょっと白けるが、売れる可能性が最も高いのは確か。
④おとぎばなし……地味キャラを武器にしようとしている戦略は正しいし、十分面白い。
⑤シューマッハ……地道で真面目なネタ作りに好感が持てる。
⑥もりせいじゅ……足元にお手元~♪というネタはPPAP狙いかと思うが、今はこういうのが突然売れたりするからなあ。
 ……以上、僕が好きな順、また見たい順に並べてみた。

アサド大統領インタビューの衝撃

2017/01/20

 昨年末のシリア政府と反体制派の停戦合意発表後世界で初めてシリアのアサド大統領単独インタビューを放送したTBS。1月19日に『ニュース23』で一部を、翌20日にはCSのニュースバードでノーカット放送した。
 このとき初めてアサド大統領の顔を見、声を聞いたという日本人は多いはず。米欧メディアの報道をなぞっているだけの日本では、圧政を続ける暴君アサドと政府軍といったイメージが植えつけられた感があるが、画面に映し出されたアサド大統領は終始紳士的で、発言も知的かつ論理的だった。アサドってこんな人だったのか、と驚いた人も多いのではないだろうか。
「日本も加わった欧米の経済制裁のせいで国民が基本的生活も困難になったことが難民を生んでいる要因の1つ」「日本のメディアは欧米追随の情報だけ流していて現状を分かっていない」「日本は長い間、国際法に立ち、中東問題では公平さを保ってきた。世界の中で日本を際立たせたその立場に戻ってくれることを期待する」……彼の言葉はどれもまともな内容だった。
 実際にはどうか分からない。中東問題、とりわけシリア紛争はあまりにも複雑で、何が本当なのか見極めるのは困難だ。いや、真実は複数あり、視点を変えれば逆のことも真になる。
 ロジャヴァ革命とクルド人問題、「イスラム国」の成り立ちと影の支援者などなど、見えにくいことに目を向けさせるきっかけにもなったインタビューだったが、惜しかったのはインタビュアーの星浩氏。たどたどしい英語で質問を読み上げた後はただ相づちを打つだけ。何かその姿に、今の日本の実力・現状を見た気がしてしまった。
 

「日本が危ない」と言えないテレビ

2017/02/02

 先日某局のニュース番組で「エンゲル係数29年ぶり高水準、その理由は?」と題された報道を見た。エンゲル係数とは「家計に占める食費の割合」のこと。この割合が高いのは「食うのが精一杯」ということで、生活水準を示す指標の一つ、と学校でも学んだ。しかしなぜかそのニュース報道では、楽しげな音楽に乗せて、焼肉だの海鮮丼だののアップとグルメイベントの風景から始まる。夕方の時間帯に放送されるニュースバラエティ番組ではおなじみの映像だ。
 で、「共働き世帯や高齢者の増加で惣菜や弁当などの消費が上がっている」ことがエンゲル係数が上昇している一因だと分析してみせる。これだけでも違和感があったのだが、さらには「上質な食を求める方々が増えているのは事実」などというデパートの販売促進課長のコメントを引きだしてくる。まるで「エンゲル係数上昇といっても、貧困は関係なく、国民が食を楽しむようになっただけですよ」とPRしているかのようだ。
 子供の給食費を払えない家庭が増えているとか、30代で年収300万円以下の人が13%いて、その半数は貯金額がゼロ(金融広報中央委員会調べ)だという話はあまり取り上げられない。
 朴槿恵政権の危機、トランプ米大統領の暴言や極端な排外主義政策ぶり、小池都知事と都議会自民党の対立構図などを派手に報道するのも、日本が抱えている根本的な問題を隠そうとする意図があるのではないかとさえ思えてくる。「日本が危ない」ことをテレビメディアが意図的に知らせない、あるいは無意識のうちにそうしているのだとしたら、それこそいちばん「危ない」ことなのだが。

『べっぴんさん』…なんかなあ~

2017/02/12

 NHK連続テレビ小説の『べっぴんさん』については、スタートした当初にも「将来に不安を感じたまま、それでも賢明に今を生きている多くの人たちに、どれだけ共感を得られるだろうか」と不安を表明したのだが、見事に的中してしまった。
 神戸の富裕層お嬢様たちの話であり、庶民感覚と大きくズレていることは、設定がそうなのだからしょうがない。耐えられないのは主人公たちの人間性だ。
 例えば、主人公のすみれは、出征して生死が分からない夫を待つ間、自分に思いを寄せ、娘の面倒もみてくれた栄輔を利用するだけ利用してパッと捨てたとしか見えない。その娘・さくらも、一目惚れしたドラマー・二郎と同棲していた五月が妊娠を隠して身をひいたのをいいことに二郎と駆け落ちしようとするという身勝手ぶり。自分勝手で人の気持ちを顧みない性格がそっくり、という意味では整合性のある脚本かもしれないが、あの母子の行動を見て誰が幸せな気分になれるのか。使用人や部下たちが常に主要キャスト(富裕層)に忠誠を尽くす「いい人」なのも、なんかなあ~。
 後半では、誰と誰をくっつけるかというカップル即製ドラマになっていて、なんかなあ~。
 このドラマはモデルとなっているファミリア(ドラマではキアリス)、レナウン(同・オライオン)、VAN(同・AICE)の創業者たちの史実とは大きく変わっているので、こんなことなら最初から完全オリジナル脚本にすればよかった。しかも、史実と変えている部分がことごとく嫌らしさを生んでいるわけで、なんか、なんかなあ~。
 そういえばこの流行狙いの台詞も自然と消えてたねえ。

(追記:『べっぴんさん』は朝ドラ史上最悪、放送事故レベルのひどい作品として名を残すことになったのだった。今後、どれだけ凡作が出てきたとしても、これ以下のひどい朝ドラは出てこないだろう……)

『スポーツ大将』の真面目さが好き

2017/03/04

『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』(TBS)の内容崩壊ぶりがすさまじい。本来の趣旨は「異なるジャンルのプロフェッショナルが珍種目で対決」のはずだが、昨年末から「週末弾丸旅行HIGH&LOWダービー」とかいうだらけたグルメ情報番組みたいなコーナーが出てきて死んだ。一応録画しているが、9割は早送りで飛ばしてしまう。安直タイアップが番組を殺すという典型例だ。
『炎の体育会TV』(TBS)も余計な企画が多くなっている。
 年1回だが『とんねるずのスポーツ王は俺だ!!』(テレ朝)も、一流アスリートを招きながら、対決内容がおちゃらけていて不満が残ることが多い。
 その点、『ビートたけしのスポーツ大将~ナインティナインも参戦SP』(テレ朝)は年を経るごとに内容が真面目になり、見応えが増している。
 この番組、元祖は1985年にスタートした。今も名物キャラになっている「北野暴流闘君」の先代は「カール君」というカール・ルイスをモデルにした人形で、当時テレビライフ誌で「ブレイクアングル」というインタビュー記事を担当していた僕は、初めて「人間以外」の相手にインタビューしたのでよく覚えている。
 今の『スポーツ大将』は一流選手と全国レベルの小中学生が真剣に対決するという企画に絞っているのが成功している。
 今年は卓球で小学生が五輪メダリストの水谷準をガチンコで破ったり、水泳でもメダリストたちが小学生たちに敗れたりといった名対決が光った。真面目に作れば思わぬドラマも生まれる。それこそ勝負の面白さだということを忘れないでね。

「籠池劇場」は吉本以上におもろいが……

2017/03/16

 森友学園…というより「籠池劇場」すごいな。次から次へと強烈なキャラが登場して、映す側が混乱し、制御不能になる始末。籠池一家(森友学園理事長夫妻と長男)が揃って上京した3月15日は特に盛りあがった。
 上京の目的は、それまで目の敵にしていたノンフィクションライターの菅野完氏に会うためだったのに行き違い。「おっさん、僕に会いに来たんやてw 僕、いま、大阪におるのに…」(菅野氏のツイッター)と、いきなりの「出落ち」ズッコケ。
 菅野氏、急遽東京の自宅に戻り、自宅マンション前に押しかけていた大手メディアの人たちを前にガンガン語る。その肝の据わり方、理路整然とした話しっぷりにまず驚いた。
 菅野氏の「籠池理事長は普通の大阪のおっちゃんで私人。本当に悪いことしている公人の家にマイクとカメラ持って押しかけろ」という主張は正論。
 YouTubeに突然出てきた菅野氏による籠池理事長単独インタビューの動画を撮った赤澤竜也氏がYahoo!ニュースに書いている「独占インタビュー顛末記」が超面白い。テレビで切れ切れに放送された画面の間や裏側がこうなっていたのか!とよく分かる。インタビューの合間に、理事長夫人がマドレーヌの袋を開けて「はい、食べ」と促す「マドレーヌ攻撃」のくだりでは「大阪人恐るべし」と吹き出した。籠池一家の実像を活写する力量は見事。テレビの画面だけ見ていても実態は伝わってこないのだとよく分かった。それに比べて、上からの指示待ちに明け暮れ、自分の頭で考え行動できない大手メディアの記者たちの姿は哀れだ。もっと頑張ろう、テレビ。


ブルーシートで何を隠したいのか?

2017/03/30

 テレビに事故・事件現場からの中継画面が出るたび、ビニールシートによる過度な遮蔽に違和感を覚える。
 先日起きた那須町のスキー場での雪崩事故。8人が亡くなる惨事となったが、救出される生徒の回りには過剰なまでにブルーシートが被せられていた。生徒を抱えて運ぶ人よりもブルーシートを高く掲げる人のほうがはるかに数が多いのではないかという光景。あんなことをしなければもっとスムースに移動できるだろうに。中の生徒はただでさえショックを受けているのに、まるで犯罪者のようにシートで囲われて、恐怖が倍増したのではないだろうか。
 その数日後、国立市で女の子が井戸に落ちるという事故があった。ここでも井戸の回りをシートで囲んで目隠し。夕方のニュース番組の時間帯とも重なり、各テレビ局はヘリコプターを出して上からの中継映像を撮ろうと必死。シートは全然目隠しになっていないという皮肉。
 一刻を争う救出現場で「まずはシートで囲って目隠し」を実行する神経もおかしいし、そこにヘリで急行して上空から映像を撮ろうとするほうもおかしい。
 バラエティ番組などで観光地ロケでの映像や、過去の映像を流すときも、一緒に映り込んでいる人たちの顔はすべてぼかしが入る。50年も前の寄席で演じる芸人の映像を流すときさえ、一瞬映る客席の人たちにぼかしが入る。その神経が怖い。
 以前はそこまではやらなかった。これも今流行の「忖度」の一種? それってテレビの自殺行為なんじゃないの? 言いようのない閉塞感を覚える。「事なかれ主義」がいきすぎる時代は恐ろしい。


緊張も気迫も感じられぬ報道姿勢

2017/04/12

 東京オリンピックの2年前、1962年に「キューバ危機」というのがあった。ソ連(当時)がキューバと秘密裏に軍事協定を結び、核ミサイルを含む軍備を送り込んだことをアメリカが察知し、一触即発になった。
 当時僕はまだ7歳だったが、「この世の終わりか?」と日々のテレビニュースを見守っていた緊張感を今でも覚えている。
 あれから55年。世界中で戦争は続いたが、幸いにも日本は直接巻き込まれることはなかった。
 世界で起きる戦争の多くは、始まりも終わりもアメリカの大統領が鍵を握っている。2003年のイラク戦争は、アメリカが当時のイラク(サダム・フセイン政権)が「生物・化学兵器等、大量破壊兵器を保有して」いるとして先制攻撃したのが始まり。後に「大量破壊兵器はなかった」と判明した。
 現在のシリア内戦でも、2013年にシリア政府軍が化学兵器を使ったとしてアメリカが空爆をしようとした。これも、化学兵器を使ったのは政府軍ではなく反政府軍ではないかという見方があり、このときは日本のテレビメディア(例えばNHKの『クローズアップ現代』など)では両方の可能性を示した。
 今回のアメリカによるシリア空爆は、あのときと同じ臭いがするが、情報は欧米メディアからの二次情報(シリア政府が使った)ばかりで、シリアやロシア側の言い分はほとんど日本では報じられない。シリア空爆を「布石」として、アメリカが北朝鮮を攻撃すれば、間違いなく日本は戦争に巻き込まれる。
 そんな状況なのに、テレビニュースは2日続けてフィギュアスケート選手の引退を長尺でトップに据える。それでいいのか?

『ひよっこ』上々のスタートか

2017/05/02

 前作の『べっぴんさん』(NHK連続テレビ小説)がひどすぎたので、『ひよっこ』も不安を抱えながら見始めた視聴者が多かったんじゃないだろうか。
 しかし、蓋を開けてみれば、「いいじゃないの~」とみなさんホッとしている。ネットでは「おかえりなさい! 朝ドラ」「ようやく平和な朝が戻ってきた」といった言葉があふれた。
「あらすじを見る限り面白いと思えないが、放映したもん見ると、面白い。見てほっこりする。また続きを見たいと思う。それが朝ドラ」というのはまさにその通り(以上、Yahoo!テレビ「みんなの感想」より)。
 どうしても前作と比較しながら見てしまうので点数が甘くなるのかもしれないが、登場人物の仕草や言葉のひとつひとつを脚本家がちゃんと計算して書き込み、役者たちもそれに応えて演じる。それがプロの仕事のはずだが、前作ではそれが全然できていなかったんだよなあ。
「若者を諭すちゃんとした大人がいるってことがうれしい」という意見もあった。例えばおかっぱ頭の叔父さんが言う「一人で抱えるな。もっと自由になれ」。この叔父さんはきっとこれからも「戦争を生き延びた大人が戦後生まれの世代にさりげなく重要なメッセージを送り続ける」という役割を果たすはずだ。
 戦後の高度経済成長時代を描くなら、当時を知らない世代にリアルな歴史を教えることもまた「国民的ドラマ」の役割だろう。1964年の東京オリンピックを生で見ていた僕としては、細かいところでいろいろ「あの頃はこうじゃなかった」とツッコミどころはあるが、今のところ期待しながらも、楽な気持ちで見ていられるのが嬉しい。

(追記) この予想を超えて『ひよっこ』は朝ドラ史上最高の作品として頑張った。

高視聴率番組ほど人気がない?

2017/05/20

 前回、NHK連続テレビ小説『ひよっこ』が前作の『べっぴんさん』に比べてどれだけちゃんと作られていて見応えがあるかについて書いたが、視聴率に関しては逆で、『べっぴんさん』が全放送回の平均視聴率が20%を超えていたのに『ひよっこ』は20%に達していないという。  そりゃそうだろう。朝のせわしい時間帯、見る価値のない連ドラは時計代わりにただ流しておくだけだが、しっかり見たいから録画しておくからだ。  その証拠に『ひよっこ』は土曜日の視聴率だけが高い。忙しい平日は録画するが、土曜日は休みの人がなんとなくリアルタイムで見る分増えるのだろう。BSで夜の再放送を見ている人の割合も高いはずだ。  一般に発表されている視聴率というのはリアルタイムで見ている割合の数字で、しかもサンプル数は関東・関西・名古屋地区で各600世帯にすぎない(ビデオリサーチ社)。今は録画率も同時に調べているが、例えば、人気があった『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS)は録画率が(リアルタイム)視聴率を上回っていたのに対して『べっぴんさん』の録画率は視聴率の半分以下だった。  そもそも視聴率というのは番組の人気を示すものではない。民放テレビ局がスポンサーに対して「この番組でCMを流せばこれだけの視聴者に届きますよ」と説得するための材料だ。録画ならCMを飛ばして見られるから録画率は意味がない。広告がないNHKにはリアルタイム視聴率など関係ない。むしろ朝ドラのような「習慣性の高い番組」での「高視聴率」は人気の低さを表しているかもしれないと気づいてほしいね。

ワイドショーの「良識」とは?

2017/06/03

 某ワイドショーで、フランスのマクロン新大統領の夫人が24歳年上という話題にあやかり「日本での歳の差婚事情」なる企画を立てて放送した。この企画自体が安直で、年上妻が夫を子供扱いしてベタベタと接する映像もヤラセ感満載で呆れたが、なにより驚いたのは「52歳で結婚した妻○○さんはもちろん初婚ではない」というナレーション。原稿チェック段階で誰もこれをまずいと思わなかったのか。
 加計学園問題で、前川喜平前文科省事務次官が「行政が歪められた」と告発会見をしたが、ワイドショーでは司会者やコメンテーターたちが前川氏の「出会い系バー」通いについて「引いてしまった」「あれはまずいでしょ」などと人格攻撃ともいえるコメントが目立った。当事者が「前川さんのおかげで今の私がある。感謝している」と証言した後も、まだ下世話な興味に持ち込もうとするしつこさ。
 5月29日、一人の女性が元TBS報道局ワシントン支局長・山口敬之氏にレイプされたと顔と名前を出して告発記者会見を開いた。逮捕状が出て逮捕寸前のところで、菅義偉官房長官の秘書官も務めたことのある当時の警視庁刑事部長(現警察庁組織犯罪対策部長)がストップをかけ、その後不起訴になった経緯も判明している。山口氏といえば、4月までフジテレビ、テレビ朝日のワイドショーにコメンテーターとしてハシゴ出演して政権擁護コメントを連発していた人物だが、記者会見翌日のワイドショーの多くは黙殺した。
「良識に欠けている」とか「説明責任があるはず」などというフレーズが飛び交うワイドショーだが、番組自体の「良識」や「説明責任」も大切だよ。

報道番組以外でもやれること

2017/06/16

 いわゆる「共謀罪」(テロ等準備罪)が「委員会の採決をすっ飛ばして可決成立」された6月15日。その直前に放送された『水曜日のダウンタウン』(TBS)で「適用されたことのない罪名、山ほどある説」という興味深い企画が放送された。罪状として適用されたことが滅多にない「レア犯罪ランキング」というものだが、その1位(0件)に「外患誘致罪」というのがあった。これは刑法81条「外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者は、死刑に処する」という法律。これを知って、「ん? まさに『テロ等準備』じゃないの。しかも今まで適用ゼロじゃん」と気づいた視聴者は「ちゃんと見ている」人だ。
 翌16日放送の『ひよっこ』(NHK)では、すずふり亭のシェフが戦争体験を語った。
「いちばん悲しかったのは、暴力をふるわれたやつが、自分より下のやつに同じようにしたこと。人間って、やられっぱなしでは生きていられない。だから余計悲しい。戦争が終わって、ああ、もうこういうの見なくていいんだと思って嬉しかった」
 主人公・みね子が皿を割る失敗をしてしょげているときに何をトンチンカンな自分語りをしているんだとクレームをつける視聴者もいたが、それは違う。
 あの時代に戻してはいけない。力を握った者による不条理・不正義がまかり通り、力を持たない者は保身に精一杯。そんな中で、がんばらなければいけない報道番組は萎縮していく。ただそれを見ているだけではいけない、自分は何ができるだろうかと必死に考える人たちがいるからこそ、テレビの世界はなんとかもっている。どちらにも「ぐっじょぶ!」と言いたい。

みやぞんがつぶされないか心配だ

2017/06/29

 まだ半分が過ぎた段階だが、今年ブレークした芸人ナンバー1は間違いなくANZEN漫才みやぞんだろう。ブルゾンちえみに期待する声も多いが、優等生のブルゾンと野生児みやぞんは正反対。ブルゾンは「頭」で勝負してきたが、みやぞんは本能でここまできた。恵まれすぎたブルゾンは一発屋で終わる可能性があるが、みやぞんはギャグやネタで売れたわけではなく、キャラクターと底知れぬ能力で人を惹きつけているので、当分、テレビ界から重宝され続ける。
 運動能力は武井壮並み。音感は柔軟性の高い「相対音感」(絶対音感ではない)で、メロディを聴くと自分が弾きやすいヘ長調/ニ短調に移調してピアノを弾く。相対音感なので即興能力も高い。そして底抜けの人のよさと純真さ。まさに無敵だ。
 心配なのはあまりにも仕事が入りすぎていることと、番組制作側が「いじられキャラ」的に扱いすぎること。あいつなら無茶なドッキリでもいけるだろうとか、人のよさを逆手に取ったような無茶ぶりを繰り返していると、本人もつぶされるし視聴者も飽きてしまう。このままでは心がすりきれたり、業界の垢に染まってつまらぬ計算を覚えてしまうのではないかと心配だ。「天然キャラ」には愛と余裕を持って接することが大切なのだ。
 それと、相方のあらぽんも可能性を秘めていることを忘れてはいけない。今はみやぞんの陰に隠れて「じゃないほう」的な扱いをされているが、あらぽんもみやぞん以上に性格がよく、真面目で愛されるキャラ。のんびり見る散歩番組とか子供番組に起用するとか、奇をてらわずに育てたい。二人とも息長くこの業界で活躍してほしいね。


街裏ぴんくは第2のタモリか?

2017/07/13

『冗談手帳』(BSフジ。フジテレビ深夜でもたまに)で街裏ぴんくを見た。芋洗坂係長とTKO木下とルシファー吉岡を足して2・5で割ったような風貌。シュールな嘘つき漫談という芸風。これはいけるんじゃないか。
 番組の主・放送作家の鈴木おさむは「第二のタモリ、第二の鶴瓶か」とまで激賞していたが、それはいいすぎよね。タモリは赤塚不二雄らに見出され可愛がられる前にすでに抜群のセンスと教養を身につけていて、その後はむしろ自分の才能を隠したり抑えることでじわじわとテレビの世界に合わせていった。
 一方、街ぴんは数年前の舞台をネットで見ると、ただの悪ふざけネタ。「その他大勢」の芸人を超えていくものが見えない。でも、あの状態から現在のレベルにまで成長したのだから、時間をかけていけば第二の鶴瓶にはなれるかもしれない。
 街ぴんと顔が似ているルシファー吉岡と比べると、今は吉岡のほうが芸風が安定している。「こういうやつがiPhone作るぞ~」みたいなフレーズに吉岡のセンスと工夫が感じられるのだが、街ぴんはまだ模索中で不安定という感じ。だからこそ伸びしろも大きいはずだ。
 街ぴんがさらに成長するかどうかは、交友関係と勉強にかかっていると思う。お笑い芸人という狭い世界にとらわれず、違うジャンルでしっかり生きている人とつき合う。妄想の世界に厚みと深みを加えられるような良質の材料をいっぱい仕込む。
 表現技術では力を抜くところや間の作り方に磨きをかける。全盛期の三遊亭円丈の技術などは参考になるかも。いつか円丈師匠を超えるような「妄想漫談」という芸を確立してほしいな。


「AI頼り」で迷走するNHK?

2017/07/28

『NHKスペシャル AIに聞いてみた どうすんのよ!?ニッポン』(7月22日放送)については、すでに視聴者からだけでなく、放送業界内からも多くの疑問や反論が出ている。指摘の内容もほぼ一致していて、「因果関係と相関関係を完全にはき違えている」というものだ。
 番組では「健康になりたければ病院を減らせ」「少子化を食い止めるには結婚よりも車を買え」「男の人生の鍵は女子中学生のぽっちゃり度」「40代のひとり暮らしが日本を滅ぼす」といったことを「AIが提言した」という一種ショッキングな構成にしていたが、これらはあくまでも過去のビッグデータを解析した結果出てきた「相関関係」にすぎず、「因果関係」(原因と結果)ではない。
 例えば、「少子化を食い止めるには結婚よりも車を買え」は、少子化と車の販売数には相関関係があるというデータ。格差社会が進んだ現代日本では、若者世代や都市部に住む一般世帯には車を買うような経済的余裕はない。金がないから子供を作ろうとも思わないし、そもそも結婚も難しい。それだけの話だ。
 ちょっと考えれば分かることを、敢えてショッキングな結論を導き出すように番組を構成する。これは「演出」を超えた明らかな詐欺行為ではないのか。
 NHKの良心ともいえる看板番組だったNスペが、民放のバラエティ番組レベルになって、ほんと「どうすんのよ!?」だわ。
 司会(には見えなかったが)に起用されたマツコ・デラックスが、隣の有働由美子アナの「睫メイク」をさかんにいじっていたが、マツコにしても、そうでもしないと番組が持たないと困惑していたからに違いない。


『ひよっこ』のリアリティ論争

2017/08/10

 NHK連続テレビ小説『ひよっこ』がいよいよ終盤に入ってきて、ついに父親が戻ってきた。
 話が急展開して毎日目が離せないが、父・実が有名女優と同棲していたという設定については視聴者から「リアリティがない」という批判が噴出した。
 確かに。僕なら、有名女優ではなく、田舎から出てきて苦労しながら水商売をしている独身女性とかにするだろう。それなら、ちょっと常識がない行動や、ズルズルと同棲してしまう経過もありえるな、と思えるから。
 実は脚本家もそうしたかったけれど、NHK側が「それだと朝ドラとしてはあまりにもドロドロしすぎなので……」と止めたのか、な~んて想像しちゃう。
 ただ、女優・世津子が「ちゃんと学校で勉強できなかったから、役をもらうとその役になりきるために勉強する」とか「ギャラをもらったらあの服やあの靴を買おうと思いながら演技する」と言うシーンには、決して順風満帆な女優人生を歩んできたのではないという彼女の背景を滲ませる工夫・伏線はあった。
 特に、実を送り出した後にみね子に書いた手紙が平仮名だらけだったのは見逃せない。
 他にも、元舎監の愛子さんが「(家のある奥茨城に)行ってみるじゃなくて、帰る、って言ったのね?」と確かめる台詞や、茨城の家に実が戻ってきたとき、妻の美代子が夫が持っていたバッグを奪い取るようにして家に入っていったシーンなど、細かいところで人物の心理が描き込まれていて楽しめる。
 そして何よりも役者たちの演技、表情の作り方。それを見逃すまいと、録画して最低2回は見てしまう私。今から「ひよっこロス」が心配だっぺ。


『笑×演』と『なみにじ』の差

2017/08/25

『新しい波24』(フジテレビ)に苦言を呈したい。
 正統派漫才の霜降り明星、ゲイコントという隙間ジャンルを開拓中のフレンチぶる、変態コントの中にもスノッビズムを漂わせるペコリーノなどなど、このまま育てば面白くなりそうな逸材はいっぱいいるのに、番組は彼らにちゃんとネタをさせることなく、悪ふざけ演出の連続。不必要にいじり回して、育つ前につぶしているとしか見えない。
 お笑い界の次世代ビッグスターを育てるという名目で若手ディレクターが担当しているようだが、バラエティ番組に出せばその存在だけで視聴率が取れるタマを探そうくらいのイメージなのか。例えば、バッドナイス常田や大自然・里が、みやぞんみたいに化けないかな~と期待しているとか…その程度の意識で番組を作っているとしたら、「プロの仕事」とは何かを完全に誤解している。
 対して、お笑い芸人が書いたネタを役者が演じるという趣向の『笑×演』(テレビ朝日)は、真面目な作りで好感が持てる。
 当初は榎木孝明、寺田農、石丸謙二郎ら、有名どころに演じさせていたが、レギュラー番組になってからは作者(お笑い芸人)側、演者(役者)側ともに中堅や若手が中心となっている。
 しかし、それがかえって適度な緊張感や演者たちの人間性、プロ意識を浮き彫りにさせ、視聴者に満足を与えている。
 芸人は普段自分たちができない世界を作り出せないかと考え、役者は演技の幅を広げられないかと挑戦する。結果、ときに想像以上のものができあがる。
「いじる」のではなく「引き出す」。それがプロの番組作りというものじゃないかな。

「Jアラート」で起こされた朝

2017/09/07

 8月29日の早朝、ケータイからの聞き慣れないアラーム音で起こされた。「政府からの発表。06・02 ミサイル発射。ミサイル発射。北朝鮮からミサイルが発射された模様です。頑丈な建物や地下に避難してください。」
 確認してすぐにまた寝たが、直後にまた起こされた。「ミサイル通過。ミサイル通過……」
 警報は実際にミサイルが上空を通過した北海道だけでなく、南は長野県にまで出たが、東京、神奈川など首都圏は外された。パニックや批判を恐れてのことだろう。まったく腹が立つ。
 北朝鮮が本気で日本にミサイルを撃ち込めば、発射された後に警報を出したところで間に合うはずはない。また、この指示に従い、多くの人が「頑丈な建物や地下」に殺到したとしたら、そのことで怪我人が出る可能性のほうがはるかに高い。
 翌30日、衆院安全保障委員会で民進党の後藤祐一議員は、「この8月中、安倍総理が総理公邸に宿泊したの2回だけだが、その2日のいずれも翌日にミサイルが発射されている。これは分かっていたということではないのか」と問い質した。西村康稔官房副長官が苦笑しながら答えた。「まあ、様々な、あ~、判断の下で、公邸に泊まるという判断をされていると思いますので、え~、そのようなことだというふうに思います」
 これには驚いた。政府は事前に情報を得て「知っていた」ので、その前日だけは総理も官邸に泊まったというのだ。しかし、これをしっかり報じたテレビ番組はほとんどなかった。
 北朝鮮のミサイルそのものよりも、こうした政府やマスメディアの対応ほうがよほど「危ない状況」にあると思うよ。

伊集院光の勇気と知性に乾杯

2017/09/22

 少し古い調査だが「博学だと思う芸能人」の1位は宇治原史規(ロザン)、2位は伊集院光、3位がタモリだったという(2009年 オリコンスタイル)。
 大御所となったタモリは別格として、最近改めて感心しているのは伊集院光の応用力、理解力、柔軟さ、そして「勇気」だ。
 伊集院はEテレの『100分で名著』の司会も務めている。
 ハンナ・アーレント著『全体主義の起原』の回でのこと。ヨーロッパにおける「国民国家」誕生とナチスの「全体主義」の関係。全体主義がホロコーストのようなレベルにまでエスカレートした歴史について説明した解説役の教授が「そこまでエスカレートさせないようにするにはどうしたらいいのか考えてほしい」と語ると、伊集院は「うわ~、今の日本はどの段階にあるんだろう、みたいなこともちょっと考えちゃう」と応じた。
 同じく進行役の島津有理子アナも「そうなんですよね。後から振り返ることはできても、今を理解するということは難しいですよね」とナイスフォロー。
 この1回目放送の最後では、伊集院が「(今の日本の風潮は)やっぱり恐ろしい。この先(自分がそうした流れに)立ち向かうのを気合いを入れて頑張らないと」と「決意表明」までしてみせると、島津アナも「そうですね」と、しっかり応じた。
 伊集院の場をわきまえて対応する柔軟さには定評がある。この番組では、常識的なことも知らない自分が恥ずかしいですが……という謙虚な態度で応じつつ、しっかり話を分かりやすくまとめていく。こうした力量こそが、ただの「クイズ王」タレントには真似できない、本物の知性なんだと思う。

『わろてんか』のスタートが不安

2017/10/05

 朝ドラを何十年も見続けている人たちから「朝ドラ史上最高の作品」とまで絶賛された『ひよっこ』が終わった。最後はなんだか80年代のバラエティドラマみたいなノリになり、バタバタと、かつグダグダと展開していたのが少し残念だったが、まあ、こういうご時世だから、力を抜いて終わったほうが見ているほうも気が楽になり、「ひよっこロス」を軽減できたからよかったのかもしれない。
 で、問題は前回大失態をしている大阪制作の番が回ってきての『わろてんか』だ。
 吉本興業の創始者がモデルということで、また女性立志伝か、大丈夫なのか、と思った。案の定、スタートの数回を見ただけで、あれ? これはついこの間見たことがあるような……と思わされるシーンの連続。『あさが来た』の最初と同じじゃん、って思った視聴者は多いはず。
 大阪制作の前作『べっぴんさん』の失敗を繰り返すまいと、最近の大阪制作ではいちばん成功した『あさ来た』を踏襲しているのだろう。しかし、その「守りの姿勢」「安全運転厳守」的な空気に、早くも不安を感じているのは僕だけだろうか。
 初回から「笑いが人を救う」みたいな教条的台詞が何度も出てくるのもうんざりだ。そういうことは視聴者が感じ取るもので、台詞やナレーションで押しつけることではないのだよ。
 子役がなかなかいい演技をして頑張っているのが救いだが、いつまでこのデジャ・ヴュが続くのかと心配してしまう。笑いがテーマのドラマが最初から不安を感じさせるばかりというのは皮肉だ。ぜひ、この不安を裏切る、突き抜けた楽しさを提供してほしいものだ。

『にっぽん縦断こころ旅』の魅力

2017/10/20

 火野正平といえば、芸能史上最強のプレイボーイ、11股記録、握手しただけで妊娠する、濱田岳は隠し子(嘘)などなど、数々の伝説を持つ。最近ドラマや映画への出演が少なくなった分、存在感を示しているのが『にっぽん縦断こころ旅』(NHK BSプレミアム)だ。
 視聴者が「想い出の場所」を手紙に書いて番組に送り、その手紙の場所をスタッフと一緒に自転車隊で訪ねる、というだけの内容で30分(平日朝と晩は15分ずつ前後編の分割)。一般の旅番組にありがちな仕込みや仕掛けは一切ない。手紙は出発地(目的地から数10km離れた駅前や公演などが多い)と目的地で同じものを2回、ゆっくり全文読む。こんなに間延びした構成をしている旅番組は他にない。
 しかし、このゆったりぶり、なんの計算もしないところこそがこの番組最大の魅力だ。自転車搭載のハンディカメラの映像もふんだんに使われているので、視聴者は一緒に走っているような感覚も得られる。途中で見つけた動物や草花などにもすぐに絡んでいき、時間をつぶす。
 この番組を見ていると、事前に仕掛けをいっぱい仕込み、タレントと地元の人たちとの絡みも計算づくという他の旅番組がとても貧相に思える。
 火野は現在68歳。自転車好きとはいえ、体力的にも相当きついはずだが、ブツブツ文句を言い、休みながらも走る。あまりにきつい登り坂では、軽トラの荷台に自転車をのせてちゃっかりヒッチハイクしたりもするけど、やっぱり電動アシストに乗るのだけはプライドが許さないのかな。番組がずっと続いてくれるなら、視聴者としてはそういう「緩さ」も歓迎だけどな。

『陸王』のリアリティと仕掛け

2017/11/01

 日曜劇場(TBS)で放送中の『陸王』。ストーリーが王道なので飽きずに見られるのだが、細部の作り込みが粗くて、リアリティがないのがちょっと残念。
 例えば足袋製造の「こはぜ屋」の社長・宮沢が息子と一緒にマラソン観戦し、目の前でランナー茂木が倒れるのを目撃するシーン。実際はあっという間に通り過ぎるから、あんなに長い時間ランナーを見ていられない。
 茂木が暴れてリタイアを拒否したり、その後の練習でコーチの指示を無視して走り続けるあたりも、演出や演技が極端。
 銀行の融資課とのやりとりや、新素材の特許を狙って倒産企業の元社長に近づいた「米国一のケミカルメーカー」が「やっぱりやめた」と降りる展開も不自然すぎる。最初は好条件を飲むようなふりをして近づいてきた相手が、じわじわと条件を悪くして追い込んでくるので、そのやり方に嫌気がさした元社長が心変わりする、という描き方ならもっと自然なのに、残念。
 ちなみに「こはぜ屋」のモデルは行田市に実在する「きねや足袋」らしい。原作者の池井戸潤氏はここに取材に行っているそうだし、足袋型のランニングシューズ「きねや無敵」という商品も製造している。「きねや無敵」は陸王の影響か、目下在庫切れで製造が追いつかない。
 一方、ドラマと提携して足袋型シューズを作って提供したのは大手メーカーのミズノ。その関係か、きねや足袋のサイトには「『陸王』に登場する足袋シューズは弊社の『きねや無敵』 をモデルとしたものではありません」とわざわざ告知が出るなど、なんだか微妙な空気も? この背景を探るドキュメンタリー番組とかも作れそう?

『クレイジージャーニー』の行く手

2017/11/16

 世界の秘境や危険地帯に行く紀行番組は昔からあったが、NHK的なドキュメンタリー系とクイズ仕立てやタレントのリアクション芸で売るバラエティ系に二分されていた気がする。
『クレイジージャーニー』(TBS)は、うまくその真ん中を行っている感じで注目している。
 行く場所よりも、行く人、しかもタレントではなく、その筋の専門家やマニアという、テレビ業界的には「一般人」が主役であるという点が成功している。
 例えば恐竜化石ハンターとして最近テレビにもよく出てくる小林快次・北海道大学准教授。
 彼が恐竜の化石を求めて砂漠などを歩き回る絵はかなり地味だが、それを踏まえた上で、スタジオでのトークを聞くとものすごく面白い。理系人間らしくどんな質問にも即答するのもすごいのだが、誇張するでもなく、悪ふざけするでもなく、それでいて凡人が予想する答えとは違う視点での言葉が返ってくる。
 大型のトカゲは恐竜の子孫だと思い込んでいる我々一般人に「爬虫類は恐竜の子孫ではない。鳥が子孫」と淡々と説明する。
 こんな風に、何のてらいもなく話すだけで「え? 何この人」と引き込まれる人物は「本物」なのだろう。本物は面白い。
 だから、『クレイジージャーニー』には、これからもびっくり映像などよりも人物を地味に追いかけてほしい。
 幸い、司会の設楽統と松本人志も、今のところ行きすぎたイジリなどはしていない。小池栄子は出しゃばらないが的を射た質問などをすることで定評があり、正しい人選だ。
 はしゃがない、やりすぎないことこそが、この番組を長続きさせる秘訣と見た。

『わろてんか』唯一の見どころは?

2017/12/15

 NHK連続テレビ小説『わろてんか』は、半分終わったが、当初の心配よりはるかにひどいことになっている。
 最悪なのは、登場人物の人間性、キャラクターが滅茶苦茶なこと。中でも藤吉(松坂桃李)のキャラはまったく定まらず、役者がかわいそう。主人公・てん(葵わかな)の精神構造も理解不能で、「藤吉を好きになったのは松坂桃李だから?」としか思えない。話の展開も不自然だし、大正時代に交換手なしで電話をかけるデタラメさなど、見ていて痛々しいのだが、今まで唯一感心したのが、大御所落語家役を演じた笹野高史だ。
 うますぎて仰天した。本職の落語家でも、笹野より下手でつまらない真打ちはいっぱいいるだろう。これを見て、『ちりとてちん』の草若師匠役を笹野がやっていたら、朝ドラ史上最高作になっていたのではと思った。
 ところで、役者がお笑い芸人に挑戦するというのは『笑×演』(テレビ朝日)のコンセプトだが、『笑×演』はここにきて顔出しできない職業の人を役者が演じる「99%ノンフィクション」などという回が混じり、迷走している。やりたいなら、役者ではなく芸人に演じさせるべきだ。「別れさせ屋」の女を、相楽樹ではなく鳥居みゆきが違和感なく「役者」として演じきれるなら面白いかもしれないが。
 話を『わろてんか』に戻せば、今後、笹野高史レベルの「本物の芸人を凌駕する役者」が現れるかどうかが唯一の楽しみだ。
 しかし、本格漫才の祖と言われるエンタツ・アチャコがキース&アサリなのだとしたら、すでに期待外れだ。笑いは人を救うとかいいながら、お笑いをなめすぎていると思うなぁ。

NHK新人お笑い大賞の見どころ

2017/12/17

『NHK新人お笑い大賞』今年の優勝はアキナだった。10月に行われ、結果も報道されているのに12月に放送するというのも不思議だが、今年は他にも「不思議発見」があって、本来とは違う意味で面白かった。
 まずは貧弱なセットの謎。司会者は全員ぶっといハンドマイク。審査員席はパイプ椅子に会議用長椅子で、マイクは人数分ないケーブルマイクを回しながらのコメント。パーマ大佐はキーボード弾き語りネタだったが、キーボードスタンドがなかったようで、これも会議用長椅子の上に置かれ、しかも音はライン録りではなく、キーボードの内蔵スピーカーから出る貧弱な音をスタンドマイクで拾っていた。町内会のイベントかよ。
 優勝者発表のとき、天井から紙吹雪が盛大に舞ったのだが、いつまで経っても紙吹雪がやまない。あまりのことに、会場からネタのときよりも「純粋な」笑いが起きる。司会のフットボールアワー後藤は「そろそろ積もり始めているんですが」と突っ込んだが、降り止む気配がない。これはスタッフが仕掛けたネタだったのか……謎だわ。
 この賞の前身は「NHK新人演芸大賞」だが、その時代から、なぜかどの演者も他の番組で見るときよりもはるかにつまらないのが不思議だった。その最大の謎が今回ようやく解けた。優勝したアキナが「実は本番前にリハーサルがあるんですけど、ぼくらリハーサルでは過去2連勝しているんですが、なぜか本番ではダメで」と言ったのだ。
 そんな入念なリハーサルをしていたのかあ。それじゃあ本番で面白くないのは不思議じゃない。審査員がコメントで一切ボケない謎も、多分同様だろう。



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