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 たくき よしみつの 『ちゃんと見てるよ リターンズ』2013

 (週刊テレビライフ連載 過去のコラムデータベース)

 2013年執筆分


スポーツバラエティ生き残りの条件

2013/01/07

 年末年始に「とりあえず録っておくかぁ」というノリで録画した膨大なバラエティ番組を飛ばしながら見ている。お笑い番組が増えただけでなく、「ガチ対決もの」や「スポーツバラエティ」が増えたなあと感じる。
 この潮流を作ったのは『炎の体育会TV』(TBS)だと思うが、番組が始まった頃の真剣勝負の面白さがどんどん薄れてしまった。ロボキーパーとかミリオンスプーンとかが出てきたあたりから急速につまらなくなり、飛ばし見する時間が増えた。小学生の10輪車にしても、あれはもう違う種類の番組でしょ。
 逆に、『ほこ×たて』(フジテレビ)の「11歳vs55歳」対決シリーズは面白い。子どももおっさんも真剣だからだ。
 現役プロ選手を引っぱり出してくる場合、怪我をさせてはいけないとか、ギャラが高いとか、所属する団体や企業の許可が必要だとか、いろいろな足枷がある。それで、縦横に並べた的にボールを当てて抜いていくみたいな見飽きたゲームでお茶を濁すことになる。この手のもので本当に「すげ~な」と思わせるのはゴルフの石川遼くらいで、プロ野球選手もサッカー選手も遊んでいるとしか見えない。
 お笑い番組でいえば、本芸であるネタをしっかりやらせず、内輪受けのトークやパターン化したリアクションだけで時間稼ぎしようという番組と同じだ。
 対決ものでなければプロアスリートの闘争心に火はつかないのよ。どうしたら面白い対決になるのか、その企画力が勝負。大人と子ども、男と女、プロとアマ、異種競技対決……データを睨みながらどういう組み合わせが面白いのか、練りに練った番組だけが生き残るだろう。

『アテルイ伝』制作実現の意義

2013/01/19

 この小さなコラムで、僕は過去何度か「NHKの大河ドラマでアテルイを登場させよ」と言い続けてきた。それだけにBS時代劇『火怨・北の英雄アテルイ伝』放送開始は感慨深い。
「今の若いもんの中には日本がアメリカと戦争したことさえ知らないバカがいる」と言って嘆く人がいるが、そう言う年輩者たちも、「日本人は単一民族」などという刷り込みをされたまま歳を取った人たちが多い。
 古代の日本列島には多くの異種民族が共存していて、東北には蝦夷と呼ばれる先住民たちが暮らしていた。蝦夷をはじめとする先住民たちは、大陸から渡来した者たちが形成した大和朝廷の武力と「統治能力」(人間の弱みをうまく利用して従わせる能力)によって支配されていった……これが本当の日本史だ。
 しかし、僕たちが学んだ日本史の教科書にはアテルイやモレは登場しなかった。征服者、勝利者である者から見た歴史観が強く反映されていたからだ。
 NHKの大河ドラマも、支配層にいた人物(公家、武将、政治家など)が主役となっていたものが圧倒的に多かった。その意味で『アテルイ伝』は、出来不出来はともかく、ドラマとして実現したことに意義がある。
 東北には征服者軍の総大将であった坂上田村麻呂を神として祀る神社があり、福島では田村郡とか田村市という地名にもなっている。そうした東北人の懐柔のされ方(権力者に従いながらしぶとく生き延びる術)にも、現在の「福島問題」を読み解く鍵があるのだが、それはとてもこのスペースでは語れないし、ドラマでも無理だろう。でも、「考えるきっかけ」にはなる。まずは一歩、と考えたい。

ホールドオンとマネードロップ

2013/02/02

 NHKの『連続クイズホールドオン!』がフランスのクイズ番組からライセンスを買って作られていることはよく知られているが、最近、TBSが同じようにイギリスのクイズ番組のライセンスを買って『2000万円落下クイズ!マネードロップ』をテスト放送?している。この両者、かたや視聴者参加型で賞金らしきものがないほんわか路線、かたや芸能人が高額賞金に目の色を変える(的な演出の)ギラギラ路線と、一見正反対だが、「もやもや感」が残るところが似ている。それは正統派クイズ番組の醍醐味であるドラマ性、意外性が感じられない点だ。
 前にも書いたが『ホールドオン』は出演者選考の基準として「NHKのお昼の番組に登場させたときのさわやかさや親しみやすさ」を最重視している感じがひしひしと伝わってくる。この時点で、「クイズ番組の醍醐味」が薄まっているのだろう。
 夏休み親子大会で、ものすごく強いお父さんが登場して毎回圧勝し続けたが、あれはおそらく制作側としては「選考ミス」だったと考えているのでは?
『ホールドオン』は芸能人ペアがワイワイ騒ぎながらやる形式だが、よくある「あらま、こんな常識も知らないの?」的な視聴者の優越感をくすぐる手法でもないし、問題の「切れ味」が鈍くて、クイズそのものも楽しめない。第1回では千原兄弟が最終問題まで2000万円を持ち続け、最後に全部失うという劇的な幕切れだったが、劇的すぎて「ほんまかいな?」という印象を与えてしまった。演出ではなかったと思うが、演出っぽく見えてしまうところが問題。
 クイズ番組を成功させるのはなかなか難しい。

ワルステルダムとDrハインリッヒ

2013/02/15

 テレビでお笑い芸人を見ない日はないが、いわゆる「ネタ番組」は数少ない。そんな中、『日10☆演芸パレード』(TBS系)と『ロケットライブ』(フジテレビ系)は救いだ。
『ロケット~』はまだまだ無駄が多くて改善余地大だが、『日10』はとてもよい。某ネットニュースには井口岳洋プロデューサーの言葉が紹介されていた。
「ENGEIを使い捨てるのではなく、大切にする番組。演者をリスペクトし、演者には番組に出演することを誇りに思ってもらえるような番組……」
 あたりまえのことなのだが、このあたりまえがあまりにも軽視されているのが昨今のバラエティ番組。かつての『エンタの神様』(日テレ系)は制作側の傲慢とも思える「こうやれ!」という姿勢がとても息苦しかったが、『日10』にはそれがない。まさに「演者をリスペクト」する姿勢が感じられる。
 さて、僕が最近注目している芸人を2組あげる。ワルステルダムとDRハインリッヒ。どちらも女性コンビ。女性コンビといえば、ハリセンボンがブレイクした後はニッチェが頑張っているが、ハリセンやニッチェがちからわざでねじ伏せてくるのに対して、ワルステルダムとDRハインリッヒはどちらも知的なネタ作りで攻めてくる。鳥居みゆきのようなタイプ。
 DRハインリッヒは双子なのだが、双子を売りにせず、正統派漫才のスタイルにこだわっているストイシズムが素敵だ。
 僕は売れる前のドランクドラゴンの才能もいち早くこのコラムで紹介している。ドラドラのようにワルステとハインリッヒが売れるかどうか……注目していよう。

3.11から2年──テレビは今

2013/03/02

 福島第一原発が爆発した映像を見て避難したあの日から2年経った。多くの日本人は「あれは福島という遠い場所で起きた不幸な出来事」と思い始めているようだ。テレビも「フクシマ」を伝えなくなった。民放では見るに値する番組はほとんどない。NHKも『ETV特集』(Eテレ)が頑張っている程度。
 2月末、WHO(世界保健機関)が福島原発事故により、最も汚染された地域の住民はわずかに発癌のリスクが上がる可能性があるが、その他にはまず影響がない、という内容の声明を出した。WHOとしては「心配するようなことではない」と言いたかったのだろうが、日本政府は逆に「わずかに上がる」という部分のみを受けて「想定が実際とかけ離れている」と非難。NHKの定時ニュースでもその「想定がひどい」という部分を強調。飯舘村の菅野村長の「なぜ特定の地名まで上げて汚染を印象づけるのか」という怒りのコメントまで流した。
 なんでこうなるのだろう。
 例えば、原発大国フランスのTV5MONDEは、反原発運動グループの代表者をスタジオに呼び、「WHOは放射能問題についてはIAEA(国際原子力機関)に完全に牛耳られていて、放射能被害を研究する専門家は最大でも2人しかいたことがない」といった本質的部分の話を聞き出している。「フクシマ」問題を深く正確に知るには海外メディアをあたったほうがいい、という状況は情けない。
 放射能汚染に関する線量数値や確率論の数値が出るたびに大騒ぎしているだけでは何も変わらない。「フクシマ」を繰り返さないためにはどうすればいいのか。問題の本質はそこだ。

『純と愛』は連ドラ史を変えるか

2013/03/15

 NHK連続テレビ小説『純と愛』がいよいよ終わり。この原稿を書いている時点ではまだあと2週残っているのだが、ようやく着地態勢に入った感じだ。
 それにしても今までの連続テレビ小説の掟を次々に破ってきたものだ。活発な女性の成長記という基本は踏襲したものの、最初の頃はとにかく主人公の純がうるさすぎ、見ていて疲れた。
 相手役の愛が一種超能力者的な設定になっているのも掟破り。武田鉄矢が常識外れの嫌な父親役というのも配役としてはどうなのかと思ったし、話がどうなるのかという興味より、「おいおい、このドラマ大丈夫かよ?」という興味で見続けてしまった。
 終盤になってくると、純は妙に物分かりのいい大人になり、逆に愛は常にイライラしている。性格が完全に入れ替わったような不自然さ。愛が頭痛に苦しむシーンが何度も挿入されていたので、愛の性格が急変したのは脳腫瘍を患っているせいで、入院して手術なのかな、と思って見ていたのだが、残り2週でまだ入院していないからそうでもなさそうだ。
 ドラマの出来はともかく、制作陣には「一度連ドラのパターンを壊したい」という意図があったように思う。スタッフブログの中にも「NHKとしてはぎりぎりの表現で朝ドラの地平を広げていこうとしています。奇をてらっているわけではなく、そこまで行かないと表現できない世界があると信じているからです」という言葉があった。
 多分、次作はまた以前の路線に戻るだろう。その後、また自由なお話が出てきたら、そのときに初めて「『純と愛』から連ドラは変わったね」という形で評価されるのかもしれない。


(追記)
これを書いたときはまだ愛が倒れる前だった。あそこまで最終回が近いタイミングで脳腫瘍になって、しかも最後がああいう終わり方になるとはねえ。さすがに読めなかった……。

武井壮を使わない手はない!

2013/03/28

 このコラムでも他のコラムでも、僕はたびたび室伏広治の身体能力の凄さについて書いた記憶がある。室伏が『スポーツマンNo1決定戦』(TBS系)でとてつもない能力を見せつけたのは2002年あたり。パワーだけでなく、100メートルを10秒台で走り、跳び箱18段を跳ぶなど、長距離走以外のほとんどの競技で圧倒的な能力を持つ室伏は驚異的な存在だった。
 そんな室伏も、年齢を重ねるごとにハンマー投げに集中し、テレビ番組には出なくなる。つまらないなあ、寂しいなあと思っていたら、ここにきて武井壮という、室伏以上かもしれない逸材が登場してきた。
 武井は元陸上十種競技の日本王者と紹介されるが、彼が陸上日本選手権で優勝したのは1997年、大学生のとき。このときの記録は、100m・10秒67、走幅跳・7m19、砲丸投・11m92、走高跳・7m19、400m・48秒02、110mH・14秒84、円盤投・36m74、棒高跳・4m60、やり投・51m10、1500m・4分28秒89。投てき系が弱い感じだが、走力と跳躍力は素晴らしい。ちなみに女子の日本記録は100m・11秒21、走幅跳6m86、走高跳・1m96、棒高跳・4m40、1500m・4分7秒86。武井が女子日本記録に負けているのは走高跳と1500mだけ(投てき系は投げるものの重さが違うので除外)。
 すでに『炎の体育会TV』(TBS系)などにちょっと出始めているが、もっともっと見たい。携帯向け動画配信番組で「壇蜜とのセクシーVS平常心対決」なんていうアホ企画をやらされているが、そんなのじゃなくて、ガチな対決こそみんなが望んでいる。素直に見せてくれ。


(追記)
その後の売れ方はすさまじく、今は、もっと出番を減らしてトレーニングの時間を確保させたいと切に願っている次第。

日本のテレビ界は明治維新以前

2013/04/13

『龍馬伝』とか『八重の桜』とか、明治維新前後を舞台にしたドラマを見ていると、開国だの攘夷だの外様だのと大騒ぎしているわけだが、鎖国を解くことや欧米の「列強」に対する姿勢を巡って、歴史上の人物たちはみなあんな風に信念や情熱を持ってかっこよく語っていたわけではなかっただろうと思う。
 BSアンテナをつけさえすればBS、CS放送が地上波と同じように受信できるようになった今、グリーンチャンネルとかBS釣りビジョンとか、何人契約しているのだろうと思うようなチャンネルが存在していることにみな気づいている。これらのチャンネルは、NHKのBSアナログ放送終了などに伴ってできた電波の「空き地」分に入居してきた新入りだが、2009年に電波行政を総括する総務省が参加希望放送局を募集したときの競争率は約2倍。そのとき、家庭向けのドキュメンタリーやドラマなど娯楽番組中心の有料チャンネルとして申請していた英国BBCは落とされ、競馬や釣りの専門有料チャンネル(しかもCSにすでに存在するチャンネル)が入った。これで日本のテレビ放送のヨーロッパに対する「開国」はまた遅れた。
 ネットでのテレビ放送もなかなか解禁にならない。テレビの視聴方法が多様化されると困る人たちがいるからだ。最近ではニュース番組の下にしょーもないツイッターの書き込みを流したりしているが、ネットのご意見も紹介していますと言いたげな媚びを感じる。もちろん、流れるのは放送局の「検閲」を通った無難な書き込みのみだ。
 日本の鎖国・開国問題は、現代でもこうした形でしっかり残っているのだなあ。


『あまちゃん』は久々の快作か?

2013/04/23

 NHK連続テレビ小説『あまちゃん』が始まってひと月経つが、前作『純と愛』のあまりにもカタルシスを得られない終わり方にぐったり疲れた日本国民にとって、胃薬のような効果をもたらしているようだ。
 こぎゃんとはれはれどうしたこうした ぴろりーろほ~い ぴろりーろほ~い……とか、なんか歌詞が乗っかりそうなテーマ音楽(中村八大作曲の名作『笑点』のテーマ音楽を思わせる)テーマ)は、テツandトモあたりがネタに使えそうだし、かつてのアングラ劇団ファンや『お笑いスター誕生!!』ファンにとっては豪華なキャスティングが嬉しい。
 なにより、主役の能年玲奈がはまっている。あの猫背が意識した演技なのか地なのかがよく分からないあたりがすごい。
 ……とまあ、今のところ順風満帆に見えるのだが、その順調さが不安でもある。
 それを踏まえて今後の注目点としては……。
  1. 「じぇじぇ!」は今年の流行語大賞を狙っているのが見え見えだが、どこまで流行るか?
  2. 後半の東京編でアキが田舎者出身のアイドルをめざすとかいうのはどうなのか。前半でついたファンが離れていかないか?
  3. 脚本の宮藤官九郎は、このドラマを通じて何かメッセージを発信したいのか、それともただ面白く無難にまとめて逃げ切るのか?

『純と愛』の最終回があまりにもどよ~んとしてしまっただけに、『あまちゃん』は最後にうまく着地することが至上命令としてあるかのように思える。そのプレッシャーにどう対応するのか? それを見届けるために、最後まで見ちゃうんだろうね。

『謝りたい人がいます』はいいね

2013/05/10

 4月に放送された『謝りたい人がいます』(TBS系)はよかった。芸能人が過去に不義理をしてしまった人に会って、本気で謝るという内容。よくある「あの人に会いたい」的番組の芸能人バージョンということで、あまり期待しないで見ていたのだが、予想の何倍も面白かった。
 1回目(続きがあるのかどうか現時点では不明だが)ではハマカーンの浜谷健司と「百獣の王」こと武井壮が出てきた。
 浜谷は売れない時代、バイトは週一しかせず、そのわずかな金を全部パチンコなどのギャンブルに注ぎ込み、同棲していた彼女に本やCDを売らせてわずかな金を作らせていたというまさに「ゲスの極み」「鬼畜の所業」を地で行っていたことで有名だが、その彼女が実際に登場。
 今は別の男性と結婚して子供もいるという女性がよくテレビに出てきたなあと感心。ようやく売れた浜谷を応援したいという気持ちからだったのだろう。いい映像だった。
 武井はダンロップの資金援助を得てプロゴルファー修行をしていた時代があり、そのときにお世話になった社員に一方的に不満をぶちまけて消えてしまったことを謝りたいと登場。
 お詫びの印にダンロップ製品を使って、「100球でホーインワンを達成する」と宣言。その社員が見ている前で挑戦するのだが、本当にやってしまった。
 武井壮の潜在能力の凄さは以前にも書いたが、まさかゴルフまでできて、しかも本当にホールインワンを達成するとは!
 この番組のよさは変な演出をせず、正直に、ていねいに作ったこと。レギュラー化して質が落ちたら台なしだが、ぜひ続編を見てみたい。

北欧の刑事ドラマを見て思うこと

2013/05/24

 海外ドラマというとアメリカ、せいぜいイギリスのもののごく一部しか日本では見られないのだが、CSのスーパー!ドラマTVなどでは北欧制作のドラマも見られる。
 例えば『THE KILLING/キリング』はデンマーク制作のドラマだが、なんと、ひとつの殺人事件が解決するまでに20回かかる。捜査1日を1話(1時間)として20回だから、20時間見続けないと犯人が誰なのか分からない。序盤ですでに犯人の目星がついて、最後は崖の上とか関係者全員が集められた部屋で主人公や犯人が延々と謎解きをするという日本の刑事ドラマとはまったく異質の文化。
『キリング』はイギリスBBCでも放送されるや大ヒット。アメリカでは英語のリメイク版が作られるほどだが、そのスタッフがスウェーデンの人気脚本家と共同制作した『THE BRIDGE/ブリッジ』もすごい。
『キリング』同様、舞台はスウェーデンとデンマークにまたがっているのだが、いきなりおっぱいやペニス丸出しの映像がなんのためらいもなく流れる(日本ではボカシ入り)わ、死体の映像はリアルだわで、元気なときじゃないと見られない。
 こういった異国の文化に触れることで、日本という国の体質・特異性・長所短所などを再確認するというのも、本当の意味での「グローバル化」だと思うのだが、今さかんに言われている「グローバル化」は異質なものが共存共栄するのではなく、ひとつの価値観、権力のもとに「均一化」させることを意味しているようだ。せめてテレビくらいは「世の中には違うものがあるんだね」と知るための道具であってほしいものだが……。

「どっきり」とヤラセの向こう側

2013/06/07

 平たくいうと、「どっきり」番組はやはり面白い。
 概ね、海外のどっきり番組はシンプルないたずらで一般人を仕掛けるスタイル。ところが日本ではタレントがわんさか出てきたり、ヤラセの影が常につきまとったりで、余計なことを考えながら見ることになる。
 最近では『ニンゲン観察バラエティ モニタリング』(TBS系)が、これぞどっきりの原点みたいな内容で面白いと思っているのだが、すでにネット上ではヤラセ論争がかまびすしい。回転寿司屋で隣の美女から皿を乗っけられて当惑する青年は『ほこ×たて』(フジテレビ系)の「最強のコーティング剤」実験で背中にボンドつけて壁に貼り付けられていた人と同じだとか、子供がカンペ目線で台詞を棒読みしているとしか思えない、とか、かなりにぎやかだ。
 この番組に限らずこの手の疑惑は以前から山のようにあったし、僕も実際に体験している。
 最近では『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)のどっきり企画のように、一人のタレントに同じいたずらをしかけまくり、相手をストレス漬けにさせてサド的に楽しむとか、瞞されるタレントにわざと気づかせて、プロとしてどうヤラセ演技をするかを見る、などという「開き直り手法」さえ出てきた。
 ネットの書き込みにも「ヤラセはある程度しょうがないと思う」的な優しい?ものが結構ある。こうなると番組制作側も、視聴者が常にヤラセを頭に入れながら見ていることを念頭に番組を作らざるをえない。そのうち、番組の冒頭で「ヤラセは一切ありません」などと断り書きを入れなければならなくなるのだろうか。それもなんだかねえ。

『八重の桜』と「東北の視点」

2013/06/21

 大河ドラマ『八重の桜』は、東日本大震災勃発後、東北復興支援の一環として急遽制作が決まったそうだ。「東北ゆかりのドラマで東北を応援する」ということなのだろうが、明治維新の際に苦汁をなめた会津藩が舞台なだけに、単純に元気になるような話にはならない。
「会津の人が『先の戦争』って言うから太平洋戦争のことかと思ったら、戊辰戦争のことだもんなあ」などというジョークを何度か聞いたが、『八重の桜』を見ていると、単純にジョークと片づけられないことが分かる。
 哲学者の内田樹(たつる)氏が灘高校の生徒のインタビューに答えた内容を自身のブログで披露している。東京の電気を作っていた原発が爆発して福島が犠牲になった理由をきかれて「戊辰戦争ですよ! 戊辰戦争で、奥羽越列藩同盟が賊軍になって、それからあと150年間、中央政府によって有形無形の差別を受けてきたからですよ」と答えている。そんな見方もあったのかと、興味深く読んだ。
 大和朝廷の東進以来、福島だけでなく、東北は常に権力者集団に利用され、収奪され続けてきた。内田氏は三代前が会津藩士だったそうだが、僕も福島市生まれで、母方の祖先は白河小峰城最後のお姫様だったから、物語の舞台となっている場所には縁がある。2004年の年末からは福島県川内村に住んでいて、福島第一原発から25kmの自宅で原発被災した。
「東北の視点」から『八重の桜』を見ると、物語の裏に流れている言いようのない無念さ、やりきれなさを感じ取ることができる。それにしても、新島八重はあんなに美人ではないんだよなあ。ま、それはいっか。


『あまちゃん』のリアルと幻

2013/07/05


 連続テレビ小説『あまちゃん』のの舞台・北三陸市は架空の町で、モデルは岩手県久慈市。
 ネットで「北三陸市」を検索すると「北三陸市観光協会ホームページ」がヒットする。http://www1.nhk.or.jp/amachan/kitasanriku/ というURLからも分かるように、NHKのサイト内にあるお遊び兼番組PR用のサイトなのだが、海女カフェの新人海女募集動画が見られたりしてなかなか楽しめる。
 このドラマをいかにマニアックに鑑賞するかという楽しみ方も出てきた。例えばロケ地としてよく使われているJR東日本三陸鉄道(ドラマの「北三陸鉄道」のモデル)久慈駅前の駅前デパートに掲げられたSONYの看板はYが落ちてSONになっているが、あれはNHKだから特定の企業名を出せないからわざとYを取ったのか、いや、実際に行って確かめてみたけれどYは落ちたままだったとか、スナック「梨明日」の壁にある「半人前でもいいじゃん」という色紙は、『仮面ライダーW』(テレビ朝日)第24話でモロ師岡扮する怪人が路上ポエム作家として売っていた色紙だとか、実に楽しい話題が満載だ。
 目下、僕がいちばん興味を持っているのは、これから来る3・11をドラマがどう扱うのかということ。「北限の海女」が実際にいる久慈市小袖海岸の「小袖海女センター」は3・11の津波で全壊しているし、津波による死者も出た。ということはドラマの中でも海女カフェが壊滅したりするのだろうとは想像できるのだが……。誰も想像できなかったような展開に日本中が「じぇじぇ!」となるのか?
 いやはや久々に「国民ドラマ」と呼べるものが出現したなあ。

日本で「政界ドラマ」は作れない?

2013/07/19

『キリング』『ブリッジ』などを放送しているスーパー!ドラマTV(CS)で『コペンハーゲン/首相の決断』が始まった。デンマークが舞台で、野党の小政党女性党首が選挙前のテレビ公開討論会での印象や、現職首相の個人的失敗などが原因で首相になってしまう中で起きていく出来事を描いたドラマ。そう書くと「なんか重そうでつまらなそう」と思う人がほとんどだろう。僕もそうだったが、見てみたら予想以上に面白かった。
 なによりも考えさせられたのは、ヨーロッパの放送文化がいかに成熟しているかということ。
 政治というのはそもそもきれいごとではない、という共通認識が国民にもメディアにもあって、その上でどう動くか、生きるかは一人一人に委ねられているという哲学が根底にある。
 日本では到底こんな作品は作れないし、放送できないだろう。
 最近、WEBで森達也氏(ドキュメンタリー制作者)の「ごめんなさい。原子力安全神話は僕たちが形成した」という文章を読んだ(ダイヤモンドオンライン連載「リアル共同幻想論」2011年11月)。明治大学の特任教授でもある彼が、授業の後に学生から質問を受けてそれに答えるシーンをドラマ風に描いた文章で、非常に秀逸だ。
 僕はこれをそのままショートドラマにしたらいいと思ったのだが、すぐに「いや、今の日本のテレビ界ではNHKでも無理か。せめてEテレかNHKでもBSなら…」と思い直す。
 そんな風に後ろ向きにしか考えられない社会にいつの間にかなってしまっている。「空気に逆らえない。黙っていよう」という社会では、リアルな「政界ドラマ」なんてとても無理だな。

『日本人は何をめざしてきたのか』

2013/07/31

『八重の桜』で、会津をはじめとする東北や北陸諸藩に対する新政府の無慈悲で理不尽な仕打ちに「ひどいわ~」と憤慨している視聴者は多いだろうが、僕はどうしても今の「フクシマ」問題、原発問題と重ね合わせながら見てしまう。いよいよ会津藩は下北半島に追いやられるが、そこに今何があるか。六ヶ所村核燃サイクル施設、東通原発、大間原発(予定地)。国の原子力政策や杜撰な原子力施設管理態勢に疑問を投げかけた佐藤栄佐久前福島知事や、柏崎刈羽原発再稼働の動きを牽制する泉田裕彦新潟県知事の姿は、新政府軍の圧倒的武力の前に立ち向かった奥羽越列藩同盟のリーダーたちの姿がかぶってくる。
「フクシマ」を現場で体験し、その後、福島がどうなっているのかを間近に見てきた人間の話を聴きたいと、僕のところにもときどき講演依頼がある。今年になってからは高知、大阪と、西日本からの依頼が続いた。西の人たちの多くは「フクシマ」は「遠い場所で起きた不幸な出来事」だと思っている。そうではなくて、被害がこの程度で住んだのは奇跡的なことだったのだよ、という現実を示すことから話を始めなければならない。
 しかし、そう話す自分も、例えば沖縄の戦後史や現在も続く基地問題はどこか「人ごと」になってしまう。問題意識を眠らせないでおくことが最低限のマナーだろうと自戒している。
 Eテレで始まっている『日本人は何をめざしてきたのか』というシリーズは、重いが絶対に見ておかなければいけない番組だ。生で見るのは無理に近いだろうから、録画して見る。見た後も消さず、貴重な資料・教科書として保存しておきたい。


世界陸上そろそろ放送も工夫を

2013/08/17

 2年に1度の世界陸上。今年もTBSが独占中継。
 初日、いきなり福士加代子選手が女子マラソンで銅メダル。いいゴールシーンだった。
 彼女は以前から奔放でときには視聴者が「引く」くらいの調子っぱずれコメントを連発してきたが、それは彼女が人一倍シャイで人見知りで気をつかう性格だから。そんな彼女があのゴールシーンのときだけは、本当に心からの笑顔を見せていた。
 見ていて、いい笑顔だなあと感動すると同時に、ああ、今年の世界陸上、日本はこの銅メダルだけで終わるな、という予感がした。あたってしまったなあ。
 ところで、そろそろ中継の方法、演出を考え直す時期ではなかろうか。今回いちばん嫌だったのは、「この後いよいよ注目のボルト登場!」なんて言っていて、実際に出るのは数時間も経ってから、という「チャンネルはそのままで手法」。モスクワとの時差が微妙だったこともあり、イライラさせられた。しかも番組表を見ても詳細な競技の時間割がなかなか見つからない。そんな風に無理矢理引っ張るよりは、割り切ってゴールデンタイムには注目選手のドキュメンタリー番組を組むとかしたほうが楽しめるのではないか。
 一流選手になるまでにはものすごいドラマがある。それを知ることで、勝負を超えて、陸上という純粋度が高いスポーツを何倍も堪能できる。もちろんTBSも工夫してそのへんを紹介しているものの、中継途中に挿入してくるスタイルでは(キャスターのキャラのせいもあるが)落ち着いて見ていられないのだ。もっと中継部分と紹介部分をしっかり分けた構成にすればいいのに。2年後にはぜひ一考を。

向田邦子と熱海五郎一座

2013/08/30

 テニス全米オープンで錦織圭があっけなく初戦敗退した。これは中継しているWOWOWにとっても痛かっただろう。僕の場合、WOWOWでテニス4大大会中継以外に見るのはお笑い系の舞台とジャズ系音楽番組くらいだが、どちらも3チャンネル化されて増えるかと思ったら全然増えない。がっかりだ。
 最近まあまあだったのは、向田邦子の恋愛作品を4作続けたシリーズ『向田邦子イノセント』。 若い人は知らないかもしれないが、向田邦子は一時代を築いた脚本家。1981年8月に旅客機墜落事故で亡くなるまで、ヒット作を書き続けていた。
 一時期、NHKが文芸色の強い作品を制作していたが、ここしばらくは彼女の名前を聞くことはなかった。それが、この「イノセント」というシリーズでは、ほとんど知られていない恋愛を扱った小品を若手の脚本家でドラマ化するという試みが挑戦的で、とても評価できる。
 もう一つ、熱海五郎一座の『天使はなぜ村に行ったのか』も面白かった。出来はいささか雑な印象があった。しかし驚いたのは話の内容。多少ネタバレになるが「国が限界集落を狙って老人世代をひそかに殺そうとする」という話なのだ。何度も「国に殺される」「国が殺す」という台詞が出てくる。地上波、あるいは広告付き放送では絶対にできない。しかし「地上波ではできない」と視聴者である我々が先に判断してしまうのもおかしな話で、それほど今の世の中は管理社会になっているということでもあるのだなあ。
 やっぱりWOWOWは貴重な存在。あとはオリジナル番組の質を高めてくれ、とひたすら応援するばかりだ。


『高校生クイズ』路線変更への賛否

2013/09/13

『高校生クイズ』の急激な路線変更が話題になっている。
 2008年の第28回大会から去年までは「知力の甲子園」と銘打って、視聴者がついていけないレベルの超難問・奇問に受験有名校のクイズ研究会が挑むという路線だった。しかし、1982年12月に始まった当初は、当時の日テレ看板番組『アメリカ横断ウルトラクイズ』の「頭も使う運動会」的な路線を踏襲していた。クイズ番組に体力や運の要素を大きく取り入れることについては、当時も賛否両論があった。
 そういえば、30年以上前、テレビライフ編集部で当時「学生クイズ王」と呼ばれていた道蔦岳史氏のインタビューをしたことがあった。会うなりいきなり「私を知らない? ということは、クイズの世界をまったく知らないということですね」と言われたが、彼もウルトラクイズの「運と体力要素重視」の構成・演出にはシニカルな言葉を投げていたのを思い出す。
 で『高校生クイズ』だが、超難問路線から完全なバラエティになったことは「元に戻った」とも言える。予選ではクイズの問題がなく、単純にクジを引いて勝敗を決めるという「関門」も設けられた。これはもう「クイズ」ではない。問題も「Kis-My-Ft2のSは誰を表している?」なんていうものも出てきて、去年までとは違う意味でついていけない視聴者が…。
 若い人たちは概ねこの路線変更を歓迎しているようだ。でも、視聴率を稼ぐにはどうしたらいいかが最優先され、極端な内容変更が繰り返されるとなると、参加者も視聴者も翻弄され、「伝統的番組」とは言えなくなるのではないかなあ。


『あまちゃん』が終わって思う (未掲載)

2013/09/28

 連続テレビ小説『あまちゃん』は久々の「国民ドラマ」だと前に書いた。でも、最終回でも泣けなかった。なぜか? 脚本家宮藤官九郎が書きたいように書かせてもらえなかったからだ。
「(ウニを)やっと獲ってもよお、震災の影響で、東北で獲れる海産物はあぶねえんでねえかって。ふ…」「風評被害だ!」(9月9日放送分の1シーン)
 彼が「震災の影響」なんてとぼけた台詞を書くはずがない。要するに「放射能」「原発」という単語を封じ込められたのだ。
 宮藤氏自身が公開しているブログの中で苦悩を綴っている。
「最終話。たった今書き終わりました。(略)自分らしい終わり方と、朝ドラらしい終わり方の、どちらを取るか、実はこの4、5日揺れに揺れていました。結果、俺らしくもなく、たぶん朝ドラらしくもない終わり方になったんじゃないかと思う。仕方ない」(6月17日の日記)
「最終週の本直しに向けての打ち合わせ。我がまま通じなかった。でも仕方ない」(6月23日)
 ネットで「あまちゃん つまらなくなってきた」を検索すると40万件以上ヒットする。その中でいちばん当たっていると思ったのはコラムニスト阪本啓一氏のブログにあるコメントだ。
「クドカンの綿密な脚本に感動し、1日に3回は繰り返し見ていたぼくが、9月に入ってからは1回見るのが苦痛である。雑だし、なんだかクドカンらしくないのである」「クドカンは、『震災を描くドラマじゃない』と言い切っている。しかし、NHKとしては震災を描いて感動物語にしたい」「クドカンらしくない。NHKらしい」
 同感。でも「仕方ない」? 「国民ドラマ」だから…ね。


「7年ごとの成長記録」福島版を

2013/10/30

 イギリスで制作された『7UP』というテレビ番組(さまざまな環境の子供たちが成長していく過程を7年ごとに追いかけたドキュメンタリー。1964年スタート)の日本版をNHKが制作している。本家イギリス版は現在56歳版になっている。日本版は『28歳になりました』として8月にNHK総合で、9月には本家イギリス版や旧ソ連版と一緒にEテレで放送された。
 7歳のときの夢、14歳の多感さ、21歳で社会の壁を味わい、28歳でどう落ち着いたか……といった成長記録は実に興味深い。
 このシリーズとは別に、僕が特に追跡してほしいシリーズがある。『21人の輪~震災のなかの6年生と先生の日々』(Eテレ)だ。福島県相馬市磯部小学校の6年生たちが3・11後をどう生きていたかの記録。
 百子(ももこ)ちゃんはあの日、幼稚園からずっと仲のよかった友達と一緒に下校していた。その友達は津波で命を落とした。
 百子ちゃんの夢はお父さんのレストランを継ぐこと。地震と津波で店は傷み、放射能汚染の影響で食材の確保も難しくなったため、店の再開を諦めかけていたお父さんを励まし、レストランは再開にこぎつけた。
 龍之介くんは農家の長男。田んぼが黄金色に輝くまでの変化を見ているのが好きだと言う。しかし、被曝させることを恐れる父親から、泥に触れる農作業はさせてもらえなくなった。
 あの子たちは今中学2年生。
 7年といわず、3年ごとくらいの追跡記録を制作してほしい。
「フクシマ」がどんどん風化させられ、現実がねじ曲げられていく中で、ありのままの「福島」を伝えていく等身大の記録になるだろう。頑張れスタッフ!

『ファミリーヒストリー』に期待

2013/10/12

『ファミリーヒストリー』(NHK)は有名人の家族ルーツを本人に代わって番組スタッフが徹底取材して解き明かしていくという内容。2008年に始まり、今年3月までに30人の家族ルーツを紹介してきた。半年間途切れていたが、この10月から8人分(今田耕司、藤原紀香、中村獅童、ピース又吉、上地雄輔、桂文枝、真矢みき、天童よしみ)のシリーズが始まった。
 これを「あの人のことをもっとよく知りたい」ファンのためのマニアックな番組などと勘違いしてはいけない。昭和史をリアルに知る「歴史番組」だ。
 昨今、新聞やテレビなどのマスメディアでは現政府の政策や「思想」に反することを言えない風潮がある。そこで、新聞社の心ある記者、編集者たちは、著名人のコラム、インタビュー記事という形で「これはうちの新聞の主張ではなく、あくまでもこの人が言っていることです」という体裁で発信しようとする。
 僕はこの『ファミリーヒストリー』も、柔らかいタッチながら、そうした手法で重要な情報を発信し続けようとしているNHKの良心だと思っている。
 例えば藤原紀香の回では、満州開拓団の一員として中国に渡った祖父から始まり、嫁取りのために一時帰国し、新聞に「大陸夫婦」と紹介される。日本の敗戦で状況が一変し、過酷な引き上げ劇の最中、妻と娘が死ぬ。夫と息子(藤原紀香の父)だけがボロボロになって帰国……。
 有名人のルーツというと普段ドキュメンタリー番組などを見ようとしない人たちも見る。多くの人たちに生の昭和史を知らせるには極めて優れた手法だ。ぜひ、このシリーズ、長く続けていってほしい。

「リアル対決」の醍醐味とは?

2013/10/24

『ほこ×たて』(フジテレビ系)の「スナイパー軍団VSラジコン軍団」が実際とは違う結果に編集されて放送されたことに対して、ラジコンカー操縦者として出演したメーカー広報担当者(ラジコンカーレース界では世界的に有名)がネットで告発するという騒ぎが起きた。これを読んで最初に感じたのは「もったいない!」ということ。
 この番組は、スタート直後には純粋に感動と興奮をもたらす「テレビならでは」の良質娯楽番組だった。優秀番組としていくつもの受賞歴も誇る。それがいつのまにか「しいたけ嫌いのタレントにしいたけを食べさせられるか」といった堕落ネタが混じり始め、さらには仕出しのエキストラがいるといったヤラセ疑惑も出た。あのあたりで、なぜ制作側は「初心に戻ろう」と思わなかったのだろうか。
 今、同じような危機を感じるのが『炎の体育会TV』(TBS)だ。異種競技や男女のガチンコ対決の面白さが売りだが、有名人にスプーンで球を運ばせるゲームをさせるという軟弱企画に金と時間を注ぎ込み始めた頃から心配している。
 この手の番組の面白さは、あくまでもリアルな対決、真剣勝負にある。演出をするなとは言わないが、ルールの工夫や正確さを期すための環境作りといった部分にこそ力を入れるべきだ。こうなると劇的に見えるだろうと都合よく編集したりねじ曲げたりするのは演出ではない。
 こうした制作側の傲慢さ、勘違いぶりは、娯楽番組だけでなく報道番組にも蔓延している。
 テレビ番組ならではの面白さ、存在価値を制作者自身が殺しているという不幸。初心に戻って軌道修正してほしいよね。

(この後、騒ぎが大きくなり、この番組はいったん終了した)

松岡修造と武井壮のマニュアル

2013/11/09

 スポーツ選手が現役を引退した後にテレビタレントとして成功する例は数々あるが、引退後のほうが「本物度」「本気度」が高くなっているのが松岡修造と武井壮だ。
 武井壮が陸上日本選手権の十種競技で優勝したのは今から16年前の1997年。点数7606点は日本歴代10傑には入れない平凡な記録だ。しかし、このときの100mは10秒54で、十種競技としてはずば抜けた記録だった。同大会の100mの決勝レース(1位朝原宣治、2位井上悟)の記録にあてはめると3着(10秒55)より速いのだ。
 彼は今年の世界マスターズ陸上40~44歳の部で100mが4位(11秒15)、200mで3位(向かい風2mの中で22秒64)というすごい力を見せている。彼をテレビの中で使う際は、この驚異的な身体能力をリアルに見せつける方法しかない。ガヤやトークでは絶対にない。
 一方、松岡修造のすごさはテニスプレイヤーとしての能力ではない。過去の栄光も今では錦織圭という現役がとっくに抜き去っている。彼のすごさは「精神力」にある。芸能界の緩さに染まらず、本気であそこまでやれるというのはすごいことだ。
 彼を単に「熱くなるだけの天然色ものタレント」だと思ったら大間違いだ。『炎の体育会TV』(TBS)の「テニス合宿」などで見せる名コーチ、名教師ぶりは並みの人間にはできない。単なる根性見せ番組や熱血演出を超えてしまっている。だから、彼の使い方は、いかに嘘のない「心」の交流、ぶつかり合いを見せられるかにある。
 番組制作者には、ぜひそのへんを勘違いしないようにお願いしたいものだ。


無料で見られるDlifeは要チェック

2013/11/23

 今売られているテレビのほとんどはアンテナさえつなげばBS(衛星放送)が受信できる。BSには31のテレビ放送がある(難視聴対策などを除く)。
 しかし、その多くは四六時中通販番組を流しているか有料チャンネル。民放系の無料放送チャンネルも地上波のお古番組や通販番組で埋まっている。そんな中、無料で海外ドラマなどを大量に放送している貴重なチャンネルがDlifeだ。
 ペテン師5人のチームが毎回あくどい金持ちをやりこめる『華麗なるペテン師たち』、未解決事件をひとつひとつ解決して行く『コールドケース迷宮事件簿』、お茶目な中年女性捜査官が個性の強すぎる部下や上司たちを巧みに操縦しながら難事件を解決して行く『クローザー』などは、うちでは録りだめしておき、見るものがないときにちょこちょこ見ている。
 BSは何度かの再編・拡張を経て今のチャンネル数にまで増えてきた。そのたびに放送会社が「そこに入りたい」と申請する。ちなみにDlifeを運営するBSディズニーは、2009年のときの放送申請では英国のBBCなどと一緒に総務省に拒否され、翌2010年の追加申請のときにようやく認められた。2009年の申請のときに許可が下りた放送局の中には競馬情報中心の有料チャンネル(農林水産省・総務省共管の外郭団体が運営)があるが、そのことを知っている国民はどれだけいるだろうか。電波は貴重な国民の共有財産だが、ほとんど密室で決められているのだ。
 ともあれ、Dlifeが見られるのに知らないで損をしている人はいっぱいいると思うので、まずはチェックしてみるといい。



まだのかた、ぜひお読みください↓



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