番外編1・マラソンと五輪代表選考報道の嘘

「ちゃんと見てるよ」では、過去何度も、マラソン中継やオリンピック代表選手選考に関する不満・不信を述べてきた。古いものでは95年の東京国際女子マラソンに関するもの。
 こんな感じのものだった。

東京国際女子マラソンの憤慨

 これを書いている今は、1995年11月19日夕方。さっき、東京国際女子マラソンの中継(テレビ朝日)を見終わったところだ。
 で、僕は今、とても気分が悪い。今回は一視聴者モードになって、中継の憤慨観戦記を書いてしまう。
 レースは稀に見る白熱したものだった。最後の5キロほどのところで、優勝候補のエゴロワの他、吉田直美、浅利純子、原万里子、後藤郁代の4人が集団で競っていた。そのとき、突然浅利が転倒し、巻き添えを食う形で吉田と後藤も転んだ。吉田は靴が脱げて履き直したため、あっと言う間に先頭から100メートル近く遅れてしまった。
 レースはその後、転倒に巻き込まれなかった原とエゴロワの二人が抜け出したが、ゴール直前で追走してきた浅利が逆転して優勝した。
 中継は、「転んだのに勝利への執念で逆転した浅利」への賛辞一色になった。バルセロナオリンピックの代表選考に漏れ、2年近くレースから遠ざかり、一時は故郷の秋田に帰って競技生活を辞めてしまいそうになっていた浅利の「復活」というドラマが、願ってもない形で実現した瞬間だった。
 しかし、ちょっと待ったァ!コールである。あの転倒がどうにも腑に落ちなかった僕は、転倒シーンをすぐにビデオに録画して何度もスロー再生して見た。すると、とんでもないことが分かった。
 浅利は前を行く吉田のかかとを踏んづけて靴を脱がせた挙げ句、一人で勝手に転んでいるのだ。靴を脱がされた吉田は弾みで転倒し、後ろにいた後藤も巻き添えを食って転んだ。
 吉田は遠くへ飛んでいった自分の靴を拾い、履き直して追走。最終的には浅利に10秒差まで迫った。つまり、転倒後からゴールまでの距離をいちばん速く駆け抜けたのは、間違いなく吉田なのだ。単純に考えれば、浅利に靴を脱がされなければ吉田が優勝していた可能性が非常に高い。しかも、後ろからかかとを踏まれた吉田にはまったく非がない。
 それなのに、ゴール後、吉田に同情する声はほとんど聞かれなかった。まるで、あらかじめ用意されていた「浅利復活ドラマ」の完成にケチがついてはいけないので、吉田のことには極力触れまいとしているかのようだった。
 吉田はリクルートの所属だが、同じリクルートの有森は先の北海道マラソンで優勝して「オリンピック当確」のニュアンスがある。「メダリスト有森の復活」ドラマにケチをつけられる雰囲気はみじんもない。同じ会社の吉田はますます「暗黙の邪魔者」にされる可能性が強い。「ドラマ」を望むテレビが世論をリードし、その陰でまた一人の若者が涙を呑む……という図が見えた気がした。
 吉田直美よ、負けるな。名古屋で優勝し、代表になれ!

 しかし、吉田は名古屋には出ず、そのままずるずると現役第一線から退いてしまった。後藤郁代も、その後何度も表舞台への再挑戦をするが、二度とチャンスは巡ってこなかった。
 勝負の世界は厳しい……などと言うが、こういうドラマは、単純に強い弱いではなく、運命とか、大きな組織・大衆を相手にして戦うことの難しさを教えてくれる。
 「吉田のかかとを踏んだ浅利純子」という情報は、今でも抹殺されたままだ。もしかしたら、浅利純子本人も気づいていないのかもしれない。
 
 アトランタオリンピック本番では、有森が3位に入り、2大会連続でメダルを取ったことで喝采を浴びた。浅利は足にまめを作り、惨敗した。
 ちなみに、この大会ではシューズメーカーが「靴下を穿かないで素足で履くように」という指示付きで超軽量マラソンシューズを提供していたが、「素足で履く」と主張する有森を小出監督が制し、事前に素足で試走させて赤剥けを経験させてから、本番では靴下を穿かせたというエピソードもある。
 それにしても有森の3位……大したものだが、僕は少しも面白くなかった。「やっぱり有森を選んで正解だった」という論調が気に入らない。
 オリンピックの代表選考は、「勝てそうな選手」を選ぶのではなく、「出場する権利を勝ち取った選手」を選ぶのが筋だろう。アメリカの選考方法はそうだ。代表選考会でコケれば、全盛期のカール・ルイスでも代表から外される。
 悪しき先例を作ったのは瀬古利彦だった。ソウルオリンピックのマラソン代表を決める際、実質上の代表選考会に指定された福岡国際マラソン直前で怪我をし、走れなくなった。中山竹通の「這ってでも出てこい」発言(事の真偽は分からないが)などでもめにもめたが、瀬古を優遇処置した結果は、瀬古の惨敗。絶対本命の中山も4位。あの騒動で、無理に瀬古と「手打ち」させられた中山は、持ち味の闘争本能を削がれてしまったように思われてならない。

 次のバルセロナ五輪では、松野明美の「私を選んでください」会見が話題になった。
 このとき、1万メートルからマラソンへの転向を図った松野は、陸連から散々転向を邪魔されていたが、最後は「日本最高を出せば、優勝しなくても代表にする」という内約を得ていたという。
 代表選考会となった東京国際女子マラソンで、松野は当時の日本最高記録を出したが、伏兵・小鴨由水がさらに上回る記録で優勝してしまい、選考は大揉めに揉めた。
 記録では松野に大きく劣る有森が選ばれ、その有森が「本番」で2位になったことから、陸連は胸を張ったが、このとき、「それでも松野を出すべきだった」「直接対決で決めなければおかしい」と主張するマスメディアは皆無だった。
 ある意味では、有森がバルセロナとアトランタで連続してメダルを取ったことが、その後の選考不透明をさらに助長したと言ってもよいだろう。

 そして今回、シドニーオリンピック代表選考。
 字数が半減になった「ちゃんと見てるよ」では、このように書いた。

誰も書かないマラソン代表選考疑惑


 この冬、私がもっとも注目するテレビ番組はマラソンの五輪代表選考レースだ。女子は1月の大阪国際と3月の名古屋国際、男子は2月の東京国際と3月のびわ湖毎日。
 すでに昨年11月18日に佐藤信之(旭化成)と市橋有里(住友VISA)の代表「内定」が決まっていて、各マスコミは「残る切符は2枚ずつ!」とはやし立てている。
 しかし、国内3レースずつを残しながら、最初の東京国際女子マラソン直前に代表内定を発表することへの批判はあまり聞かれない。
 佐藤も市橋も、世界陸上で「負けた」選手だ。世界陸上はオープンレースではないから、そもそも「選考レース」には向かない。異常な高温下で行われたため、有力選手が何人も出場を見合わせた「特殊な」レースでもあった。シドニー五輪は季候もいい時期に開催されるので、高速レースになると言われている。それなのに、なぜ?
 特に女子の場合、東京国際でダークホースの山口衛里が圧倒的な強さを見せつけたため、事実上、残る切符は1枚になってしまった。もし、弘山晴美が大阪で、高橋尚子が名古屋で好記録優勝したらどうするのか? 「4代表を決めて、五輪直前に1人を補欠に回す」などという残酷な決定をしそうな気がする。
 過去に何度も同様の不手際を露呈しながら懲りない陸連。その陸連に意見できないテレビ局は、中継権を巡って利権集団と化しているのだと批判されても仕方ない。みんなで代表選考の行方を監視しよう!


 ところが、大阪国際女子マラソンは、弘山が日本歴代3位の好記録ながら、優勝できないというなんとも中途半端な結果になってしまった。
 大阪国際後の「ちゃんと見てるよ」はこうなった。気が抜けているのがありありと分かる文章だ。

辛口コメントで存在感光る増田明美

 1月30日の大阪国際女子マラソンは、なんとも中途半端な結果になってしまった。注目の弘山晴美は、日本歴代3位の好記録ながら、2秒差でリディア・シモンに競り負けた。タイムも東京国際の優勝者・山口衛里より悪い。これで名古屋で高橋尚子が優勝すれば、弘山のシドニー五輪代表は無理だろう。理不尽!
 何度も言うように、なぜ国内選考会が始まる直前に市橋有里を「内定」させなければならなかったのか? ここを突っ込むキャスターこそ魂のあるキャスターだ。
 昨年、奥野史子がテレビ朝日の番組でそう突っ込みかけたが、周囲の冷たいムードで最後まで言い切れなかった。
 30日夜の『サンデースポーツ』(NHK総合)では、ゲストの二宮清純が「レースにドラマはあっても、選考にドラマはいらない」と、暗に陸連を批判するコメントを吐いたが、これが精一杯。同席した増田明美も、弘山の名前のついたカードを勝手に山口衛里の隣に押し上げ、「同じくらい評価されていい」と絶賛。二人とも弘山が置かれた苦しい立場を十分理解しているだけに、なんとか応援したい、でも、真っ向から陸連批判はできない、というジレンマがありありだった。
 しかし、増田明美は頑張っている。レース中継(フジテレビ)のときも、有森裕子の旦那・ガブリエル氏が映し出された後、すかさず、「ガブさん、のんびりお茶飲んでましたね」と皮肉を言うのを忘れなかった。増田のギリギリの好プレーは今後も注目だ。


 この後、しばらくは気が抜けてしまったが、やはり腹の虫が治まらず、名古屋国際女子マラソンの直前には、タヌパックスタジオ本館の日記にこう書いた。

女子マラソン五輪代表選考をめぐる疑惑

 あと数時間で大注目の名古屋国際女子マラソンが始まる。
 結果が出る前に、今までたまりにたまっていた「陸連選考疑惑」について書いておきたい。
 
 陸連はなぜ市橋有里を国内選考3レースの直前に、無理矢理代表に「内定」しなければならなかったのか?
 週刊宝石で、松野明美が陸連を告発するインタビュー記事が載っていた。あの子も、よくよくマスメディアに利用されやすい体質なんだなあと苦笑してしまったけれど、「裏で金が動いていた」というのは聞き捨てならない事件。本当だとしたら大スキャンダル。
 
 今回の陸連の「内定」疑惑も、勘ぐればいくらでも勘ぐれる。
 以下は、すべて「推量」「勘ぐり」であると断った上で、率直に書いてみる。
 
 まずは「身内贔屓」疑惑
 
 男子の内定・佐藤は旭化成、女子の市橋は住友VISA所属。監督はそれぞれ宗茂、浜田安則で、陸連の幹部(二人ともシドニー五輪強化特別委員会副委員長)。早々と内定をもらった選手が「強化特別委員会」幹部の直属選手だというのは偶然としてはおかしいし、むしろ、そうした立場にあるなら、「身内」選手に疑惑の内定を出すべきではない。
 
 次に、世界陸上出場要請にまつわる裏取引疑惑
 
 世界陸上は異常高温の大会になるのが分かっていたため、選手としても必ずしも出たくはなかった。特に、高橋尚子は、その前のバンコクのアジア大会も30度を超すとんでもない状況で、しかも有力選手ゼロというふざけたレースを走らされ、ひどく消耗したので、次は「まともなレース」に出たがっていた。当初は「世界陸上はパスしてシドニーに」という計画だった。しかし、陸連は高橋を出したい。そこで「世界陸上でメダルを取れば即オリンピック代表内定」という餌で釣ったのだろう。
 陸連としては、高橋にメダルを取らせてさっさと内定させ、残り二人を国内選考レースで選ぶ腹づもりだったに違いない。ところが、高橋が直前で故障し、不出場。伏兵の市橋が銀メダルを取ってしまった。一旦釣っておいた条件を撤回するわけにもいかず、市橋を内定とせざるをえなかった。
 しかし、これでは世界陸上に出なかった選手が浮かばれない。
 
 さらには、男子の「旭化成独占狙い」との関連疑惑
 
 有力選手が不在で、選手の数だけは揃っている旭化成は、シドニー代表を旭化成選手で独占するという野望を持っていた。世界陸上で佐藤をさっさと内定させ、残り二つも……という作戦。佐藤を内定させるためには、女子のほうも市橋を内定させなければ変だから、男女一人ずつ、「メダルを取ったのだから内定だ」と強行した。
 
 
 で、僕が言いたいのは、
 
 1)そもそもオリンピックといえども、本来はスポーツ選手個人が、世界最高の舞台をめざす競技の世界であり、政治や権力が介入しづらい環境を作ることが大切。「お国のためにメダルを取れる選手」ではなく、「正当に出場する権利を勝ち取った選手」を送り出すのが、先進国のスポーツ哲学であり、スポーツマンシップに乗っ取ったやり方ではないのか? アメリカは、代表選考レースは一つだけで、そこで失敗したら、あるいは怪我で出られなかったら、たとえ全盛期のカール・ルイスでも代表にはなれない。今回のマラソン選考会も、たまたま選考レースが高温になり、1位の選手の記録が五輪標準記録に満たなかった。そのため、アメリカのマラソン代表は一人だけだという。他のレースで標準記録を突破した選手がいても、その選手は「代表選考レース」で勝てなかったのだから出さない。この厳しさを見習いたい。
 
 2)世界陸上でのメダル獲得は国内選考レース3大会の優勝よりポイントが高いなどと陸連は説明するが、オープン参加できないレースを選考会にすること自体がおかしい。しかも、セビリアの世界陸上は異常高温のレースだったため、世界の一線級がごそっと不出場だった。つまり、世界陸上とはいうものの、マラソンレースとしてはB級だった。しかも、佐藤と市橋はそのレースで「負けた」選手である。佐藤はレースを組み立てながら最後は自滅したし、市橋は明らかに実力では格下の北朝鮮選手に競り負けた。優勝を狙ったレース展開に持ち込みながら失敗した。それを単に「メダルを取ったから」という理由でオリンピック代表内定というのはおかしい。
 
 3)それでも、世界陸上を選考対象レースの一つに加えるというなら、なぜ他のレースが終わった後に正式決定をしないのか。なぜ国内レースの直前に決めなければいけないのか? これが最大の疑惑だ。早く内定させたほうが選手もシドニーに向けて調整できるからなどというのは言い訳にもならない。国内大会に命をかけて出場する選手たちに対する侮辱でもある。特に、東京国際女子マラソンの寸前に「内定」を出す必要性など何もなかった。数日待てば、少なくとも東京国際女子マラソンの結果は出ていたのだから。まるで、結果を見る前にさっさと決めてしまいたかったという風にとれる。
 
 4)オリンピックをめざすのはあくまでも選手個人なのであり、どの競技に出場したいかなども、すべて選手の意志によるものであるはず。1万メートルではなく、マラソンで金メダルを狙いたいという弘山晴美に対して、陸連が嫌がらせをするなどもってのほかだ。弘山は所属する資生堂が東京国際女子マラソンの単独スポンサーを降りてしまうなど、周囲の状況も厳しくなっていた。陸連の「1万メートルの代表内定」を蹴ったときから、陸連とも戦わなければならなかった。そんな中で、リディア・シモンに競り負けたとはいえ、あの成績を残せたことは、誉められるべきだ。
 
 5) 1)で述べたように、メダルを取れる確率で選考するのは間違っているが、百歩譲って、メダルを取れる確率で選ぶとしても、高橋、弘山、山口の順だろう。高橋の驚異的な強さは世界史的なものであり、故障していない限りはまず間違いなく優勝できる。弘山は安定感があり、不調でもそれなりに結果を出してきた選手。山口はこの3人の中ではもっとも不確定要素が強く、アトランタの小鴨由水のようにこける確率も高いが、東京での走りが再現できればメダルに絡んでくることは間違いない。市橋は高速レースになったとき、ついていけるだけの力がまだない。このままでは、世論によるプレッシャーで、市橋本人をもつぶしてしまう可能性が高い。もっとも、有森裕子のように、悪役パワーを自分に取り入れ、さらに強くなってしぶとく銅メダルあたりにひっかかってくる可能性もあるだろうが、それはどっちかというと「人間ドラマ」というか「成り上がりドラマ」を見ているようで、スポーツ本来のドラマではないような気がする(僕は有森の五輪連続メダル獲得は少しも感動しなかった。「感心」はしても……)。
 選考会が終わる前に「内定」を出すという不条理をごり押しする陸連の腐敗構造は、警察不祥事と同じくらい根が深い。選考レースの主催者でもあり、中継権をめぐって陸連とは喧嘩できないマスメディアも、陸連の勘違い、権力惚けを追及できない。なんと不甲斐ないことだろうか。
 僕が陸上競技を愛するのは、他のスポーツに比べて「純粋」だからだ。勝ち負けには一点の濁りもない。「判定勝ち」ということがない。日本では陸上をやっても儲からない。儲けようと思ったら、プロ野球やJリーグを目指すだろう。実際、ヤクルトの飯田とか西武の秋山などは陸上選手としても十分通用しそうだ。
 それでも、陸上を選んだ選手たち。彼らは純粋に自分の身体能力の可能性をかけて競技に打ち込んでいる。その姿勢に感動させられる。しかし、かつて感動を与えてくれた選手が、コーチになり、陸連の幹部になると、馬鹿なお役人と同じようなことを始めてしまう。現役時代、僕は宗兄弟や浜田安則のファンだった。それだけに、とても残念だ。
 スポーツの現場で、こうした醜悪な構図をまざまざと見せつけられるほど嫌なことはない。


 ここにも書いたとおり、松野明美が週刊誌にぶちまけたところによれば、バルセロナ代表選考のときも、裏では金が動いたという。
 弘山晴美にとっては、所属する資生堂が東京国際女子マラソンのスポンサーから降りてしまったことも不運だったろう。「陸上では広告効果がない」と判断してのことらしいが、企業に所属せざるをえない陸上選手の悲劇だ。中山竹通も、ダイエーからは何度も理不尽な仕打ちを受けていたようだし。
 弘山がシモンに勝っていたら……。「たら」「れば」の議論は虚しいが、つくづく悔しい。
 その後、弘山自身、なんとなく大きな力に呑み込まれ、素直に「1万で頑張ります」となってしまったところも、仕方ないとはいえ、とても物足りない。

 シドニーでマラソンを走る弘山晴美を見たかった。その正当な権利と国民の楽しみを奪い、陸上選手たちに「結局はこの世界も政治なのか」と思わせてしまった陸連の責任は大きい。
 
 ところで、この後、さらに腹立たしい事件が起きた。
 水泳の代表選考で、千葉すずが外されるというとんでもない事件だ。
 要するに「あいつは生意気だから気に入らない」という理由で代表に選ばれなかった千葉すず。水連は陸連以上に腐りきっている。なにがフジヤマのトビウオだ。古橋広之進会長は、先日も、某高校の女子水泳部員たちが、水連へのプロフィール提出のとき、部で可愛がっている犬の写真を入れたことに大人げなく激怒したという事件で有名になった。そのあまりの立腹ぶりに学校側がびびってしまい、代表を辞退するという騒ぎになったものだが、あれは今回の「すずいじめ」事件の前兆にすぎなかったらしい。
 戦争のおかげで全盛期にオリンピックに出られなかった悲劇の世界最速スイマーという伝説を、千葉すずいじめでどろどろに汚してしまった古橋会長。こういう歳の取り方だけはしたくない。
 千葉すずが、実際には「嫌なやつ」で、他の選手たちに「悪影響」を与えようが関係ない(そういう意見があるが、まったくお門違い)。強い選手、資格をもぎ取った選手が代表にならなければ、スポーツの世界はヤラセあたりまえのテレビバラエティと同じになってしまう。
 代表選考で優勝し、五輪標準記録Aを所持し、年度内の世界ランキングにも入っている選手を代表にしないというなら、一体誰が代表になる資格があるというのか。
 連盟というのは、選手のしもべであり、ボスではない。権力を握ったと勘違いしている「元選手」たちほど、醜悪なものはない。


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