カエル神社プロジェクト 宣言

カエル神社プロジェクト

●はじめに

 水はすべての命を支えている根源的な環境資源です。
 日本は「資源のない国」などと言われますが、実は、世界でも類を見ないほど水資源に恵まれています。
 しかし、この豊かな水資源も、人間の営みによって汚染され、圧迫され続けています。
 ゴミで埋まりそうな水たまり
 ↑ゴミで埋められようとしている水たまり。きれいな地下水が台なし
 
 自然環境を大切にする心の喪失は、人間以上に、同じ土地に暮らす野生生物たちの命を脅かしています。
 コンクリート護岸工事で沼地や葦原が消失したり、魚や水棲生物が棲みにくくなっている場所が多数あります。特に、水棲生物やカエル、イモリなどの両生類は、1年を通じて安定した環境を保つ池や沼、沢沿いの湿地などがなくなることで、住処を失っています。
 一例として、かつてはどこにでもあたりまえにいたツチガエルは、オタマジャクシのまま冬を越すという生態ゆえに、冬でも水のある場所が激減した現代では、福島県の準絶滅危惧種に指定されるまでに追い込まれました。
 カエルが棲めなくなる土地で、人間だけが繁栄を築けるとは思えません。特にこれからの時代は、残された貴重な自然の恵みを生かしながら、持続性のある文化と幸福感を作りだすことがなによりも大切だと考えます。
 私たちがその心構えを忘れないための第一歩として、名もない小さな湖沼、池を、開発行為やゴミの不法投棄などから守るために「カエル神社プロジェクト」を提案いたします。

●カエル神社プロジェクトとは

 私たちの住む地域にある天然の池、水たまり、沼などが、開発工事や人々の無関心、不注意によってつぶされたり、水が涸れることのないよう、そこを「カエルの住処」として尊重し、積極的に保全することが第一の目的です。
 その小さな水たまりに生まれ、育っていく命に目を向けるきっかけとなるよう、小さな祠などを置き、「カエル神社」に指定します。
 
林道工事で埋め立てられる寸前の貴重な天然池
↑こんな感じの水たまりが「カエル神社」の候補地

 カエル神社の本殿は水たまりであり、ご神体はその水をもたらす背景の山です。
 まずは、普段、あまり人々の目が向かないような、名もない水たまりや沼地を見つけてリストアップし、そこを「カエル神社候補地」として検討することから始めます。
 次に、候補地の地主と相談の上、了解・賛同を得られれば、カエル神社として認定します。その際、必要に応じて、最小限度の整備(水の供給、涸渇の防止、目印として小さな祠や鳥居の設置)を施します。
 カエル神社は少しずつ増やしていき、「蛙神社一番札所 杜蒼(モリアオ)神社」などと命名して整理し、将来はカエル神社札所巡りツアーができるくらいに徐々に増やしていきます。
 地元の小中学生と連携し、自分の家のそばにあるカエル神社の「宮司」を当番制などで担当してもらい、ゴミの不法投棄や水の涸渇などを監視し、カエルの生態日記をつけてもらえれば、プロジェクトの永続性が保証できるでしょう。「カエル神社の宮司」をやった、という子供時代の記憶を大切にして大人になってほしいものです。大人になってから帰ってきたふるさとで、自分の後輩たちが立派に「カエル神社宮司」を引き継いでいる……故郷にそんな未来があれば、どんなに素敵なことでしょうか。
 さらには、個人宅敷地内にある小さな池なども、積極的にカエルの住処として棲みやすくすることで、「個人版(番外)カエル神社」も増やしていけるよう、「カエル教育」を広めます。
 カエル神社プロジェクトは、なによりも「人を育てる」ためのプロジェクトです。

●カエル神社プロジェクト 2010年度予定

2010年3月 プロジェクト宣言(WEBで発表)
2010年3月27日 きのこ里山の会総会にてプロジェクトの提案と了承
2010年3月29日 カエル神社候補地として「もえの里」の湿地を視察
2010年5月23日 川内村体験交流館にてカエルの話を含む「あぶくまの生きものたちにあいに行こう」開催
(10時、いわなの里体験交流館前集合、15時まで。自然観察会、ご飯炊き、カエルレクチャー、ゲームなどのイベント 参加費一人500円。問い合わせはきのこ里山の会 TEL:0240-38-2251)

ダウンロード可能ダウンロード可能 関連文書など:カエル神社プロジェクト宣言文、趣意書など⇒kaeru100418.zip(10.2KB)
ダウンロード可能ダウンロード可能 阿武隈カエル図鑑(配布用・A3カラー1枚)⇒zukan.pdf(901KB)

●参考:阿武隈のカエル事情

 東北地方には10種類の日本固有種のカエルが生息しています(外来種のウシガエルを入れれば11種)。
 概ね大きい順に並べると、アズマヒキガエル、モリアオガエル、トウキョウダルマガエル、シュレーゲルアオガエル、ニホンアカガエル、ヤマアカガエル、タゴガエル、カジカガエル、ニホンアマガエル、ツチガエル の10種です。
阿武隈カエル図鑑は⇒こちら
 このうち、数が少なくなっていると思われるのが、タゴガエル、カジカガエル、ツチガエル。生息エリアが偏在しているのがトウキョウダルマガエルとモリアオガエル。その他のカエルは大体どこでも見ることができます。
 それぞれのカエルの生態をきちんと把握することが、カエルの生息環境を効率的に保全することにつながります。
 例えば、ツチガエルが激減したのは、冬に水を抜いてしまう水田ばかりになってしまったため、オタマジャクシのまま冬を越すツチガエルが生き延びる場所がなくなったからです。ツチガエルは地味なカエルなので、ほとんど注目を集めませんが、数で言えば、現在はモリアオガエルより少ないのではないかと思われます。
 モリアオガエルは普段は森の中で生活をしていますから、池や沼が森と隣接していて、なおかつ水面上に木の枝が伸びている場所が必要です。そうした場所がほとんどないため、田圃の縁に無理矢理卵を産みつけたり、県道のU字溝の上に伸びた木の枝に卵を産みつけたりして、カエルになれないケースが増えています。
 シュレーゲルアオガエルは田圃の縁に穴を掘ってメレンゲ状の白い卵塊を産みつけますが、オタマジャクシになる前に雨で流れ出した卵塊が、直後に田圃に入って土を掘り起こすトラクターにより粉砕されるケースがかなりあります。
 タゴガエルは伏流水の中に卵を産みつけ、オタマジャクシは伏流水の中で流れに逆らいながら大きくなります。沢の脇をコンクリートで固めてしまうと、当然伏流水も消え、タゴガエルは棲めなくなります。
 カジカガエルは清流に棲むカエルですので、なによりも沢の汚染が命取りとなります。
 アカガエルはどのカエルより早く卵を産みますが(寒い阿武隈の山間部でも、まだ氷の張っている3月に産み始めます)、田んぼにはまだ水が入っていないため、仕方なく、雨でたまたまできた水たまりやU字溝の中に産んだりします。しかし、水たまりはすぐに干上がりますし、U字溝でも水田の準備で一気に水が流れ込むと、卵は孵化する前に流されてしまいます。
 ヒキガエルは変態直後は極めて小さく(1cmに満たず、変態直後のアマガエルより小さい)、体力がありません。また、指先に吸盤がないため、角度のある壁は登れません。そのため、U字溝に落ちると上れずに「溺死」するヒキガエルの子がたくさんいます。用水池なども、変態直後の子がコンクリート壁を登れないため、溺死するケースがたくさんあります。また、地上に出た後も、舗装道路の両側にちょっとした縁がついているだけで横断しきれず、そこで干からびてしまう子カエルや子ヤモリがたくさんいます。
 農作業の機械化や用水路のU字溝化はカエルたちにとっては試練になっていますが、そんなことも頭に入れながらカエル神社プロジェクトに参加していくと、今まで見えてこなかったものがいろいろ見えてくるのではないでしょうか。
シュレーゲルアオガエルに抱きつくタゴガエル
シュレーゲルアオガエルに抱きつくタゴガエル(異種抱接という)
こんな光景が未来もずっと続くように祈りたい……



阿武隈カエル図鑑は⇒こちら

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