2011/05/10の2

一時帰宅第一陣「ショー」中継の憂鬱

ジョンの捜索で2日以上、まるまるつぶしてしまった。
日記でも、これを先に書いておこうと思って、順番が逆になってしまったが、10日のお昼前の話に戻る。
郵便局に切手を買いに行った帰り、役場裏の大騒ぎを覗いてみた。
本当は、政府が勝手に決めた警戒区域の線引きや「一時帰宅」の屈辱的なショーにはうんざりしているので、横目で見て通り過ぎたいところだが、不愉快なことであっても、頭に血が上ることがあっても、しっかり見ておかなければ、という物書き根性も多少はあって……。

とにかくものすごい車の数。
役場の周囲の駐車場、体育館の駐車場、隣接した「かわうちの湯」の駐車場が満杯で(そんなことは普段はありえないこと)、溢れた車が路駐していた。
「一時帰宅」の受付、出発、帰着は、村の裏手にある体育館で行われていた。
多分、正式名称は体育館ではない。「総合体育センター」だったかな? 小学校、中学校、高等学校(今年から廃校)にも体育館があるのだが、それとは別に独立した体育館。ちなみに、廃校にした3つの小学校にも当然体育館はあったので、村には一時期4つの小学校(廃校にした3つと新しく作った1つ)、中学校、高校、そしてこの学校施設ではない体育館の合計7つの体育館があった。
第一小学校はつぶしてしまって、立派な体育館も解体されてしまった。だから今は6つだ。
……と、それはまあいいとして、この体育館で受け付けを済ませた家は59家族だという。
当初は、1家族につき代表者がひとりだけという話だったが、それはあんまりだと、村長が特例を連発し、ふたりで入れる家も増やした。
この人たちが、タイベックスーツを着せられて、線量計とトランシーバーをぶら下げられて、70cm×70cmのビニール袋ひとつ持たされて、滞在2時間でそのビニール袋に入るだけの物を持ちだしてもいい……というのが今回の「一時帰宅」の内容。
4月21日までは、事実上自由に立ち入りができていた。
20km圏の境界線付近には警察の検問が置かれていたけれど、警官がひとりか、せいぜいふたりくらい立っているだけで、住民が「家に戻ります」と言えば「お気をつけて」と、通してくれた。
そのやりとりが面倒だと感じる住民は、少し遠回りでも抜け道、裏道を使って帰宅していた。
動物保護団体も、この期間はみな20km圏内につながれたまま飢えている犬などを救出してくれていたし、家畜に餌をやるために毎日のように家に戻っている人もいた。

ところが、まず福島県が3月30日に、「20km圏内を、強制力のない避難指示区域から、法的に罰することができて立ち入り禁止にする『警戒区域』に指定してくれ」と国に要望した。
広く知られていないことだと思うので念を押しておきたいが、国ではなくまず県が「20km圏内を完全に立ち入り禁止にして隔離してくれ」と国に要望したのだ。
その要望から3週間後、ついに国は20km圏を警戒区域にした。
動ける人たちは、すでに自宅から重要な物はおおかた車で持ち出していた。素直に指示に従い続けた人や、車を失った人、避難所に連れて行かれて移動手段を失った老人たちなどが、家から何も持ち出せないまま、やきもきした時間を過ごしていたのだ。

すっかり時間が経っているので、20km圏内といっても、実際には避難場所の郡山市などより放射線量が低い場所もあるし、高くてもせいぜい数μSv/hであり、1日いたからどうなるわけでもないことを、情報を集めていた人たちはちゃんと知っている。タイベックスーツを着せられ、滞在2時間までなどという大袈裟な「一時帰宅ショー」に出演することがいかに屈辱的か、分かっていた。
「放射線防護服」などと言っているので、多くの国民が誤解しているが、あれは別にガンマ線やベータ線の通過を防いでくれる服ではない。汚れをすっぽり脱ぎ捨てるための服であって、普通に汚い場所や縁の下、天井裏などで作業するときにも使われる、使い捨ての「作業着」のようなものだ。放射線を防ぐ効果はない。放射性物質が付着した場合、すっぽり脱ぎ捨てられるので簡単ですよ、というだけのもの。
だから、今日のように暖かな日では、長時間頭まですっぽりタイベックスーツを着ていることによる熱中症的な健康被害のほうがよほど怖い。
実際、戻ってきた人たちの数人が気分が悪くなって手当を受けた。
僕が今、切手を買いに行った郵便局は、警戒区域のほんの少し外側にあるのだが、郵便局内の線量は0.2μSv/hもなかった。
この日の郡山総合庁舎前の線量は1.5μSv/hくらいあったから、、郡山市内より一桁少ないのだ。
それなのに、バスに乗り込む前からタイベックスーツを頭まで被った報道陣の姿は滑稽だった。

警戒区域の境界線少し手間にある郵便局の中。0.19μSv/hしかない


駐車場に入りきれない車が路上に溢れていた


東京ナンバーの高級車やハイヤー、タクシーなども並ぶ


偉いさんを待つ運転手付き高級車の隣は、置いていった車を運ぶトレーラーか


自衛隊は、本日は主にお風呂屋さんとして呼ばれているのだろう


右に見えるのがヘリポート。双葉郡広域消防にとってはここが残された唯一の基地


なぜか裏手で中継中


村民を乗せたバスを送り出した直後の風景


衛星中継用の中継車もこんなに集まった


村民を乗せたバスを追う報道陣のバスが出発


だから、ここからそんなに重装備にしていたら、蒸れてかえって身体を壊すってば


西村審議官で有名になった保安院の制服


保安院に代わって、最近はこの「原子力安全基盤機構」という名のグループがよく出てくる


後で知ったことだが、この日、警戒区域に入るにあたって、住民たちは全員「警戒区域が危険であることを十分認識し自己責任において立ち入ります」という同意書の提出を求められていた。
この同意書は宛先がない。国が求めたものだというが、誰に宛てて提出しているのかさえ明確ではない。
大した汚染状況でもなく、ついこの間まで自由に出入りできていた自宅に2時間入るのに、「同意書」?
「分かっている」住民は、ここまで我慢に我慢を重ねてきたが、これにはついにぶち切れて、「どういうことだ?」「署名しないと入らせないのか?」と詰め寄る光景もあったという。
でも、そういう場面はテレビでは流れなかった。
テレビで流れたのは、あらかじめテレビ局側が用意したドラマ、物語を忠実に再現してくれる人たちの映像がほとんどだった。
避難所で待っているおばあちゃんに頼まれて、津波で行方不明になった娘の写真を探しに入った親族とか、牛を放してきた農家のおじさんとか……。

都合のいい物語に合わせて被災者を演じさせられながらも、柔和な笑顔で受け答えする福島の人たち。
もっと怒ろうよ。俺たちは日本の玩具じゃない。
撮影するなら出演料出せ、くらい言おうよ。
これだけバカにされて、いいように引っかき回されて、それでもニコニコと耐えている必要なんかないよ。




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