2011/04/09

川内村の今後を考える

ノルウェー気象局発表の放射性物質拡散予想図
↑ノルウェー気象局発表の放射性物質拡散予想図(2011年4月9日バージョン)
日本の気象庁がなかなか動かない一方で、海外の気象局は毎日、放射性物質拡散予想図を発表している。
上のはノルウェー気象局発表のもの。今日は西風が弱まり、一部は東風。しかも雨が降っているので、相当厳しい図になっている。

放射性物質はまったく大したことがないと言い続ける人、もはや手遅れだおしまいだと嘆く人、いろいろいるが、どう騒いだところで事実は変わらない。
第一原発の現場は高濃度放射能汚染で作業が進まない。1号機~3号機はそれぞれ別の部分に損傷を受けていて(平たく言えば穴が空いたり隙間ができたりしていて)、炉心の放射性物質が外部とツーツーの状態。空気中に放出される量が多いのか水に溶けて土中や海中に流出する量が多いのかという違い。根本的な解決策はない。あっても作業ができない。
これから先も放射性物質は延々と漏れ続ける。
第一段階として、なんとか冷却水を循環させなければならない。今はそれができないので、ポンプで水を注入し続けているだけ。注入した水は循環していない(つまりだだ漏れ状態だ)から、高濃度汚染水として外に出てくる。
もちろん、本来外に出てきてはいけない。出てくるはずのない水だから、受け入れる器もない。あれこれやりくりしているが、受けきれないから海に流したり土に染みこんだりしている。かといって水を入れなければ炉心の空焚き状態が悪化して、空気中に出てくる量が増える。空中に飛散すると、どこに飛んでいくか分からないので、海や土の中に漏れ出すよりもっと困る……。
そういう絶望的な状態が、稼働していたすべての原子炉で起こっているのだから、たまったもんじゃない。

冷却水循環を回復させるだけでも最短で数か月はかかる。
多分、ぐちゃぐちゃになった配管やポンプを現場で修理するよりは、新しい冷却系を外で組み立てて持ち込み、組み付けるほうが早いし確実だと思うが、そういう作戦をしっかり指揮している人がいるのかどうか、大いに疑問だ。

それが1~3号機全部で成功しても、建屋は壊れたままだから、今度は冷却を続けつつ、壊れた建屋の代わりに遮蔽するものを構築しなければいけない。布で被うなどと言っているが、これから颱風や大雨の季節に入るのだ。そんなもので済むとは思えない。
とにかくこれ以上ひどいことにならないようにしながら冷却を数年続けて、ようやく圧力容器に長時間近づけるようになる。

最終的に解体できるまでには数十年かかる。
核燃料は取り出せないかもしれない。そうなるとチェルノブイリのようにコンクリート詰めにする方法になるだろう。すでにものすごい量の汚染を引き起こしてしまったのだから、コンクリート詰めからその後多少漏れても関係ない、という発想だ。

今後、運よく突出した放射性物質拡散がなかったとしても、今、司令部であわあわしている人たちが生きている間には収束しないことは確かなのだ。これから生まれてくる子供たちも含めて、次の世代が後始末をすることになる。

で、阿武隈はどうなるのか?

さて、原発が数十年解決しないまま、周辺地域はどうやって再興していけばいいのか。
具体的に予想してみる。

第一原発周辺は当面(最低でも5年、10年という期間)、立ち入り禁止区域として、居住や農耕を禁止される可能性が高い。
空中の放射線量は確実に減っていき、問題ない量になるが、土壌や地下水の汚染はそう簡単ではない。すでにあれだけの高濃度汚染水を敷地内にまき散らしてしまった以上、周辺の地下水が安全だと宣言できるはずはないからだ。

周辺地域の水源地はどうなっているのかと調べてみた(双葉地方水道企業団)
結果、こうだった↓

●水源の水質状況
 当企業団の水源は、楢葉町・富岡町・大熊町については浅井戸水や深井戸、伏流水などで、近隣に汚染源が殆どないため、安全で安定した水質です。
 広野町大船水源、木戸ダムについては、上流に汚染源もなく、河川水としては安定した水質が保たれています。また、大雨などの濁度上昇時にも適切な浄水処理が迅速に行われています。

●水源とその種類

広野町 大船水源 浅見川表流水
木戸川 木戸ダム放流水
楢葉町 中川原水源 伏流水・浅井戸
寺下水源 浅井戸
木戸川 木戸ダム放流水
富岡町 富岡第一水源 伏流水
富岡第二水源 浅井戸
富岡第三水源 浅井戸
茂手木水源 深井戸
木戸川 木戸ダム放流水
大熊町 大熊第一水源 浅井戸
大熊第二水源 浅井戸
大熊第三水源 浅井戸
木戸川 木戸ダム放流水
双葉町 木戸川 木戸ダム放流水


これを見て、「ああ、これはもうダメだ」と思わざるをえなかった。浅井戸、伏流水……。それも複数箇所から取水している。
ちなみに、水質検査は2011年1月までしか発表されておらず、水銀、鉛、ヒ素、カドミウムなどは検査していない。今後は当然、検査の重点はヨウ素やセシウム、プルトニウムといった放射性物質の検出に移っていくが、どこまで対応できるのだろうか。

これだけを見ても、ライフライン復旧は極めて困難であり、おそらく最低でも5km圏内は居住や農耕を禁止される「管理区域」に指定されるのではないか。

5km圏内となると、双葉町、大熊町は町の中心部が3km程度しか離れていないので、町がなくなってしまう可能性がある。
海岸沿いが津波でやられている上、第一原発周辺に立ち入れないとなれば、物理的に復旧が無理ということになる。

しかし、福島第一原発は今後数十年、管理を続けるために、今まで以上の作業員が必要だ。電気を一切作りださない原子炉6基の後片づけ、廃炉処理のために、気の遠くなるエネルギーと金と人力を注ぎ込まなければならない。そのための「原発雇用」は今まで以上になるから、作業員たちのベッドタウンが新たに必要となる。
その第一候補地は田村市都路町周辺だろう。国道288号線で第一原発と直結しており、都路町は20km圏のほんの少し外側。ここがダメなら、常葉町まで引っ込む(というか、郡山側に近づく)しかない。

富岡町はどうか。
ここは福島第二原発を抱える町だが、津波で町の中枢部がやられている。常磐線富岡駅は海に面しているため流されてしまった。原発のPRをしていた電力館も、その隣にあった大型スーパー、ヨークベニマルもやられた。
第二原発は正常に停止していることになっているが、作業員の証言では施設は内外ともにガタガタになっており、簡単には再稼働できない。無理にやろうとしても福島県が許可しない。ということは、廃炉も決定できず、このままの状態で稼働させず、何年間も冷却だけし続けることになる。
第一原発の後始末で精一杯で、とても第二原発を立て直す余裕などない。
稼働再開の作業は、当然のことながら広野の火力発電所が最優先になる。
広野が再稼働した後は、新しい火力発電所の建設に全力を投入するだろうから、第二原発を復活させるなどということは体力的、経済的にできない。
しかし、第二原発は発電に使えなくても、補修した上で管理し続けなければならず、第二原発での雇用がなくなるわけではない。建屋の強化、核燃料貯蔵プールの補修と改良、バックアップ電源の増設なども行われるはずで(そうでなければ困る)、ここも原発雇用は今までより増えるだろう。
その人たちのベッドタウンはどこになるのか……。
普通に考えれば、いわき側、広野周辺だ。広野は今も、第一原発、第二原発で作業をしている人たちの宿舎としてJヴィレッジを使っているので、このまま原発後始末基地として再整備されるだろう。
川内村にも原発作業員関連のベッドタウンになれという要請があるかもしれない。
そうなったとき、村は人口減、収入源で存亡の危機に陥るので、そうした申し出を断れないだろう。

それはそれとした上で、今度こそ自力で生きていける村にできるのかどうか、そこが問われている。
外から元気な熟年移住者を迎え入れ、「阿武隈発」のビジネスを展開するしか生き残る道はない。原発後始末雇用にぶら下がるだけの生き残りでは、ここで暮らす魅力がないからだ。
ここで暮らすことの魅力を感じられれば、放射能汚染くらいなんでもないよと言って集まってくる元気な熟年世代がいるはずだ。まさにフロンティアスピリッツ。

インフラ再構築

第一原発のすぐ横を国道6号線とJR常磐線が通っている。6号線は現在ここで寸断されていて、事実上、浜通りの大動脈の役割を果たしていない。これをどうするか。
数キロ内陸側に建設中の常磐道の完成を急ぎ、常磐道を新6号線にするという考え方がひとつある。
県道35号線はかなり整備されたまっすぐな道路なので、これを新6号線に格上げすることも考えられる。

JR常磐線も、復旧させるなら路線を内陸側に引き直すことが必要かもしれない。その場合、常磐道に沿って(敷地を共有させるなどして)工事することになるかもしれない。

川内村は、富岡側とのルートが現在遮断されているが、富岡町がすぐに復興する見通しが立たない場合、物流ルートを海側から内陸側(郡山側)にシフトしていく必要があるだろう。
399経由288で田村市~郡山のルート。大滝根の北を抜けて大越に抜けるルート、そして小野町経由のルートの3本を強化する必要がある。小野町とのルートは、現在、工事が止まったままの小野富岡線を再開させれば問題ない。ガソリンなどが海側ルートから入ってこなくなると、若干の物価上昇は免れないが、これは仕方がない。
また、この際いっそ、小野町との合併も視野に入れてもいいかもしれない。富岡側と切り離して、いわきから小川地区をもらって小野町とつなげて「阿武隈市」にでもする。そして、小野町や小川町と一緒に「あぶくまブランド」によるビジネスを展開する。住民が独立心を持つためには悪くない方法だと思う。
合併しないにしても、小野町や小川町と様々な分野で共同戦線を組むことは必要だろう。

ウィンドファームの今後

震災後、滝根小白井ウィンドファームは全機止まっている。
受け入れ側の東電が壊滅状態だから当然ではある。
もしかすると電気が来ていないのかもしれない(ちなみに、巨大ウィンドタービンを回すためには外部からの電気が必要。電気がないと風車の羽は風に対して横向きになってしまう。風に逆らって風上に頭を向けるために、制御モーターを動かす電力が必要なのだ。だから、停電すると止まる)。
東電としては、ベース電力である福島第一、第二原発の発電量が大きいため、その系統に多少の「誤差」範囲で許容できる風力発電からの電気をつないでも、大きな問題はないだろうと判断していたはず。それが土台から崩れたので、おそらく今後も滝根小白井ウィンドファームは止まったままになるだろう。かっこがつかないので、空回しくらいはするかもしれないが。
広野の火力が復活した後も、風力からの乱高下の激しい電力をつないでしまうと広野火力発電所の運転が不安定になるので、つながないのではないか。つまり、川内村の地面の下に敷いた滝根小白井ウィンドファームからの送電線には、当面、電気が流れることはないと思われる。
檜山高原も同様で、もともと東北電力に断られ、東電の送電網につなごうとしていたのだから、東電側の事情が変わった今は、そのままストップではないだろうか。ほとんどできあがっているので、ここも止まったままの風車が並ぶことになりそうだ。

打開策があるとすれば、原発用の揚水発電所が余るはずだから、風力発電をそれに接続して活用するという方法か。ロスは多いけれど、すでに作ってしまったものをいかに利用するかという考え方をしていけば、そうなりそうな気がする。

いずれにせよ、川内村を横切っている高圧送電線には、今、電気が流れていないはず。
この地域の人たちは、当面、電気を作り出さない超汚染施設の後始末のために働き、電気の流れていない高圧電線と鉄塔群、回っていない巨大風車群を見上げて暮らしていくことになるのだろう。
それでも、風景が変わったわけではない。今度こそ、実のある暮らし、生き甲斐ある暮らしを築いていくことができるチャンスでもある……と信じたい。

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