10/01/19

南伊豆風車(被害)紀行(2)〜承前

幸か不幸か、この日はほとんどの風車が回っていませんでしたが、近隣の人たちの声を聞いたり、変わってしまった風景を見るために、南伊豆町の中を回りました。

海沿いの道に出た途端、こんな光景が車の前に現れます。↑↓

これを「観光資源」と考える人がいるとは……


大瀬漁港から見た風景


きれいに…………


「冗談みたいな景色だよね」と、港にいた人がつぶやいていました


……近い……


山から山へと渡る送電線。これだけでも十分不愉快な景色


この集落は背後に風車群を抱え込む形に


軽自動車がぎりぎり通れるような細い道の両脇に家が建ち並ぶ


風景を見ているだけでなんだかめまいがしてきた


風車を眼前に、「子供たちのことをなぜ考えないのか」と嘆く住民


この集落に住むひとりは、かつて産廃処分場問題で苦労されたそうで、ここに引っ越してきたとき「これだけ道が細ければトラックも通れない。ここなら産廃もゴルフ場も来ないだろう」と考えたそうです。
ところが、山の反対側から風車が……。なんとも悲しい話です。

集落の一番奥に住むかたとお話ができました。
この家からいちばん近い風車までは540m。その風車も含め、家の背後に風車群が迫っています。
ところが、このかたのお話は驚くべきものでした。
試験運転が始まるなり、奥様がたちまち胸の圧迫感や頭痛、吐き気など、典型的な風車病(超低周波振動によると思われる健康被害)の症状に襲われたのですが、それがひどいのは、目の前の近い風車ではなく、北東方向にある1km離れた風車が回っているときだというのです。
試験運転中は、すべての風車を稼働させているわけではなく、何基かは止めて、何基かを動かすということを繰り返しやっています。
止めた風車の羽根(ブレード)は、羽根の付け根を回転させて、風を羽根に受けないようにします。
風が、 ↓↓ こう吹いてくるとすると……、
羽根を風に向かって(つまり風車の正面に対して) / ではなく、| のように傾けて、風をそのまま素通りさせるわけです。
分かりますかね。風車を真上から見たとして、

   ↓↓↓      ……風がこう吹いているとき、
    /       ……ブレードの角度がこうなっていると回るわけですが、

   ↓↓↓      ……風に対して、
    |       ……このように羽根をまっすぐにしてしまえば、

風は通り抜けてしまい、ブレードはほとんど回らない、というわけです。
ですから、止まっている風車は、回転していないだけではなく、正面から見たとき、羽根が細くなっているので分かります。
いちばん近い風車(家から540m)がぶんぶん回っているときは、音はすごいものの、身体が受けるダメージはそれほどでもなく、それが止まっていて、北東方向の1km離れた風車が回っているときのほうがダメージがはるかに大きいというのです。
これは予想もしていなかった話でした。
風車の低周波被害は、単純に近ければ近いほどひどいだろうと思っていましたが、そう単純なものではないということなのです。
問題の1km離れた風車というのは、そのお宅からはある場所に立つと、山と山の間に姿が半分くらい見えてきます。おそらく、そこから家までのびる谷戸が、バックロードホーンのような働きをして、低周波の通り道になり、あるいは増幅させるような効果を持っているのかもしれません。

似たような証言は他の家でもあり、風車が山陰に隠れて見えない、1.5kmくらい離れた家では、その見えない風車からの音は聞こえないのですが、回っているとき、ぴったり連動して住民が吐き気や胸の圧迫感、頭痛、耳鳴りなどに襲われていることが分かったそうです。
そのかたは、当初、見えない風車のことなど気にしていなかったのですが、昨年暮れから急に、そして、あまりに頻繁に気持ちが悪くなるので、体調がおかしくなる時間帯を記録していたところ、それが風車の稼働している時間とぴったり重なったのです。

今、風車の周辺の住民たちの間では、様々な疑心暗鬼が渦巻き始めています。
はっきり聞こえない音で体調がおかしくなることなどあるのだろうか……。しかし、風車が稼働してから、突然、身体がだるくなったり、音もしないのに圧迫感に襲われて眠れなくなったり、吐き気や頭痛に襲われることが多くなった。これはやはり風車のせいではないのか……。しかし、風車が目の前にある××さんの家などと違って、我が家は風車が見えない、少し離れた場所にある。うちでクレームなど言いだしたら、まるで補償目当てのように、変に思われるのではないか。村八分にされるのではないか……。いやいや、△△さんの家は、黙っているけれど、業者とこっそり示談金交渉をしているらしい。うちも黙っていたらバカみたいだ……。

静かに仲よく暮らしていた住民たちの間に、こうした、声にならない声が溜まっていっているというのです。
風車はまだ試験運転の段階で、本格稼働はこれからです。一部をこわごわ(?)動かしている今でさえこれだけの被害が出ているのですから、全機が一斉に動き始めたら一体どういうことになるのでしょう。想像を絶する地獄になることは間違いないでしょう。
町はすでに、苦情や相談は事業者との個別交渉へと導き、諸手を挙げて誘致した自分たちの責任から逃げることで精一杯のようです。
隣の下田市は、市長が風車を拒否する姿勢を貫いていて、住民説明もろくにしないまま、早い段階で誘致した南伊豆町とは対照的です。行政の責任者がどれだけまともな感性、判断力を持っているかで、住民の運命はこうも違ってくるのだと、痛感させられます。

お話を伺った住民(70代くらい?男性)は、繰り返し繰り返し言っていました。
「建てられてしまったらおしまいです。何を言っても、何をやってもだめ。とにかく、絶対に建てさせないこと。建てられたらもう遅いんです」

このかたは、ご自分は今のところ目立った体調異変はないそうですが、奥様がたちまち体調を崩し、今は半別居状態になってしまいました。
彼はまた、こうもおっしゃっていました。
「ぼくは今のところ元気だし、ひとりでもここに住んでいこうと思っているけれど、小さいお子さんやお孫さんがいらっしゃるかたたちがしっかり声を上げないのが不思議でしょうがない。孫子の時代のことを真剣に考えていないんじゃないですか。子供たちが住めないような土地にして、どうするんですか」

この町はどうなっていくのでしょうか。ゴーストタウンになるのか。それとも、風車病の町として有名になるのを恐れ、残った住民たちが箝口令を敷き、どんどん閉鎖的になっていくのか……。
町の中を見ていくうちに、見たくないものを見てしまった、知りたくないことを知ってしまったという、何とも言えない重たい気分に襲われていきました。
そう、まさにこの感じ、このどんよりした空気が、今、全国の風車現場で広がっているのです。わが村でもまったく同じです。

目の前のこれらの風車が回っているときより……


右端の山と山の間に見えている遠くの風車が回ったときのほうがダメージが大きいという

山の中に入っていく道を進むと、風車の建設現場の爪痕も見ることができます。
この沈砂池は、工事のとき、大量の泥水が海や住宅地に流れ込んだため、対策として作られたものですが、大雨の後はこれがあふれてしまい、さらにもう一つ作ったそうです。
これも全国の風車建設現場で起きている典型的な公害。滝根小白井ウィンドファームでも、建設中から降雨後の泥水流出がひどく、下流の夏井川では岩魚や山女が産卵できなくなり、夏井川漁協が事業者に補償を求めました。

沈砂池ひとつではとても間に合わなかった泥水流出公害


ここもこんなに近くに……


頑張って声を上げている人たちもいる


「お尻(ナセル)がこっちを向いたときが怖い」と住民は言う。風下になったときという意味だ


強風や落雷で羽根がちぎれ飛んだときは、この道など直撃の可能性もある


風車と風車の間隔が狭すぎて、相互干渉は避けられないだろう
まさに「建ててしまえばなんでもいい」という姿勢が見え見え

間近に風車を見ているうちに、だんだん気持ちが悪くなってきてしまいました。見ているだけで気分が悪くなるのですから、ぶんぶん回っているときはどういうことになるのか……。
車で通過する人は、「下田を過ぎたあたりで気分が回復した」という人もいるとか。なるほど、よく分かります。


一つ前の日記へ一つ前へ    目次へ          次の日記へ次へ




ストップ!風力発電

ストップ!風力発電 鶴田由紀・著

かつて北欧を旅行したときに見た洋上風車の風景に感動し、環境問題に目覚めて、帰国後、市民風車への献金をしようとした著者が、風力発電の恐ろしさ、馬鹿馬鹿しさに気づき、隠された真実を、今、淡々と報告する。「大変な問題なのに、ほとんどの人はまったく知らない」ことの恐ろしさを訴えるために。
全国の「風車ファン」必読の書。もちろん、風力発電懐疑派のかたにとっても最良のガイドブック。
アットワークス刊、1200円+税   注文はこちらから  



★タヌパック音楽館は、こちら   ★阿武隈情報リンクは、こちら



その他、たくき よしみつの本の紹介はこちら

日本に巨大風車はいらない 風力発電事業という詐欺と暴力